第12回 日本の国際平和協力と緊急・人道支援@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年6月22日
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子

緊急・人道支援とは

「緊急・人道支援」とは、紛争や自然災害の被災者の生命や尊厳、そして安全を確保するために、物資やサービス等を提供する活動のことで、緊急事態後の対応だけでなく、災害予防・救援、復旧・復興支援等も活動に含まれます。国連では、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が「緊急時」を、「即座に適切な行動を取らなければ難民の生命や福利が脅かされ、なおかつ特別な対応と措置が要求される状況」[1]と定義し、人道的な緊急支援の活動の原則として、「人道性」「不偏性」「中立性」[2]そして「独立性」[3]を掲げています。そしてこれまで、各国の軍隊や医療支援チーム、緊急支援部隊、また国連人道問題調整事務所(OCHA)、国連児童基金(UNICEF)、UNHCR、世界食糧計画(WFP)などの国連機関、国際機関、及び国際・国内NGOなどの様々な主体が、その活動を支えてきました[4]。支援活動の内容は被災地のニーズに応じ様々なものがありますが、主に物資、食糧、水源確保及び給水、環境衛生、保健医療、難民の自主帰還などがあります[5]。緊急の現場では、上記の様々な主体がお互いのリソースや強みを生かし協力しながら、支援を行っています。

日本の国際平和協力活動

こうした緊急・人道支援のうち紛争に関係するものについて日本では、湾岸戦争をきっかけに国連PKOに参加していくために1992年に制定された「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)に規定されています[6]。同法における日本の国際平和協力活動は、「国連平和維持活動」、「人道的な国際救援活動」及び「国際的な選挙監視活動」に対する協力活動の3つに大別されます。これらの協力活動は、人的協力である「国際平和協力業務」と物的協力である「物資協力」により実施されていますが、「人道的な国際救援活動」に対する協力活動としては、以下のものが行われています。

(1)国際平和協力業務(人的協力)[7]

  • 紛争によって被害を受けた人の救出、帰還などの援助
  • 紛争によって被害を受けた人に対する食糧、衣料、医薬品などの配布や医療活動
  • 紛争によって被害を受けた施設や自然環境の復旧   など

(2)物資協力(物的協力)

  • 国連や国際機関等に対する、人道的な国際救援活動に必要な物品の譲渡

PKO法における「人道的な国際救援活動」に対する協力

このPKO法に基づき、日本はこれまで5回の国際平和協力業務と15回の物資協力を行ってきました[8]
最初に行った協力活動は、1994年のルワンダ難民救援国際平和協力業務ルワンダ難民救援活動に協力するための物資協力です。日本はUNHCRの要請を受け、陸上自衛隊及び航空自衛隊の部隊を派遣し、医療活動[9][10]、防疫活動、給水活動、輸送活動などの人的協力を行うとともに、大型テント、毛布、簡易水槽、医薬品等の難民救援用の物資を提供しました。
その後も、人的協力として、東ティモール避難民救援(1999~2000年)、アフガニスタン難民救援(2001年)、イラク難民救援イラク被災民救援(2003年)の各国際平和協力業務により、救援物資の輸送業務を行っています。
また、物資協力では、UNHCRをはじめとする国連機関等によるコソボ難民東ティモール避難民アフガニスタン被災民イラク被災民スーダン難民スリランカ被災民パレスチナ被災民等の救援活動に協力するため、テント、毛布、給水容器、ビニールシート、スリーピングマット等の救援物資を提供してきています。

今後に向けて

国際社会における相互依存関係が深まる中、紛争の形態は、国家間紛争から一国内における内戦や、それに近隣諸国が関与するような複合的な紛争など多様化してきており、国連PKOの活動領域、そしてその中の緊急・人道支援の内容も、社会経済の復興・開発の域まで拡大しつつあります。そのような変化に合わせて、施設整備、医療、輸送など日本のこれまでの経験を生かし、国際社会において積極的な役割を、より即応的・効果的に果たしていくことが重要です[11]

[1]United Nations High Commissioner for Refugees. “Handbook for EmergencySecond Edition p.4 (http://www.the-ecentre.net/resources/e_library/doc/han_Em.pdf)

[2]78th Plenary Meeting(A/RES/46/182)(PDF形式:460KB)PDFを別ウィンドウで開きます(1991年12月19日)

[3]“Strengthening of the coordination of emergency humanitarian assistance of the United Nations(A/RES/ 58/114)(PDF形式:34KB)PDFを別ウィンドウで開きます(2004年2月5日)

[4]内海成治・中村安秀・勝間靖編「国際緊急人道支援」ナカニシヤ出版 2008年

[5]United Nations High Commissioner for Refugees. “Handbook for EmergencySecond Edition p.93

[6]なお、このPKO法とは別に、我が国では、海外での自然災害・人為的災害に係る人道支援に関して、1987年に制定された「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」(JDR法)があります。

[7]国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PDF形式:234KB)PDFを別ウィンドウで開きます

[8]本稿では取り扱っていませんが、PKO法に規定されている「人道的な国際救援活動」の他にも、同法の「国連平和維持活動」の枠組みにて派遣される国連PKOミッションの活動として、実質的に緊急・人道支援に資する活動が含まれるケースがあることにも留意する必要があります(ハイチのMINUSTAHなど)。

[9]当時、医官として活躍され、現在自衛隊中央病院長を務める小林秀紀院長のインタビュー記事がこちら(国際平和協力リレー・メッセージ)でご覧頂けます。

[10]神本光伸著「ルワンダ難民救援隊ザイール・ゴマの80日[我が国最初の人道的国際援助活動]」内外出版 2007年

[11]PKOの在り方に関する懇談会」(PDF形式:322KB)PDFを別ウィンドウで開きます中間取りまとめ 2011年7月