第20回 紛争期における教育支援@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年8月17日
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子

緊急・人道支援における教育支援

 紛争や自然災害時に行われる緊急・人道支援は、住居、食料と水、及び保健医療などの分野が主な活動でしたが、近年新たな分野として「教育」の重要性が認識され始めています。[1]なぜなら紛争の被害に遭った人々や災害で被災した人々にとって、生活の再建は最重要課題ですが、その後の生活設計や国家再建のために、教育で得られる知識や技能は不可欠だからです。[2]とくに紛争時には不安要因が多く重なりますが、この時期に教育へのアクセスがあることが、児童や文民の肉体的・心理的・認知的保護[3]につながり、さらに適切に保護されることによって、安全な場所が確保され、食糧や生活必需品分配の場となり、さらに危機から身を守り平和な生活を送るためのスキルなどが習得できるようになります。[4][5]このように、紛争や災害直後において、早期から教育再建のための支援に取り組むことの重要性が認識されてきています。

紛争期の教育支援の概要

 紛争期[6]の経緯は主に、武力紛争前、紛争に向かう社会的に不安定な移行期、武力紛争、紛争終結への移行期、武力紛争後の5段階に分けられ、時期によって紛争予防のための教育、紛争時教育、そして社会復興期の教育など、[7]適切な教育支援が施されることが重要となります。紛争が発生すると人々の生活やコミュニティは大きなダメージを受けるのと同じく、教育システムも大きく傷つきます。そのため、既存の教育を再建するだけでなく、支援対象となる人々も、難民、国内避難民(IDP)、帰還民、被災したが移住しなかった人々、など様々な人々が混在している場合が多いため、被災者、子どもたち、そしてコミュニティなど各ニーズに合った支援をすることが求められています。[8]

紛争状態と教育への取り組み

図:紛争の状態と教育への取り組み [9]

紛争後の教育支援

 紛争後は、おもに破壊された教育の再建と、社会・市民復興、そして紛争の再発予防が主な目的となります。[10]教育制度は暴力的紛争につながるような状況を悪化させる手段にも修復する手段にもなりえるため、特に人々やコミュニティが、平和構築に向かい、紛争の被害を食い止め、さらなる暴力的紛争を予防し、さらに社会の復元力を築けるような開発的展望を持った教育再建及び教育支援を、注意深く行っていくことが重要となります。[11]さらに学校という場は、食糧配布や給食による栄養確保の場になり得るだけでなく、ジェンダー格差軽減、コミュニティ再構築、地域の開発などの拠点になることもあり、教育は人々の生命を守り、さらに生命を維持する場所にもなり得ます。[12]このような理由から、紛争後の早期復興のための教育への投資・支援は不可欠であり、多くの国連機関や国際NGOは当事国の政府と協力しながら、紛争直後から様々な形で紛争国の教育再建、及び教育を通じた社会復興を支援しています。

 

[1]Sinclair,Magaret. (2002).Planning Education in and after Emergencies.UNESCO IIEP,Paris.

[2]内海成治・中村安秀・勝間靖編「国際緊急人道支援」ナカニシヤ出版 2008年.

[3]教育へのアクセスは子どもを保護するために欠かせない手段であり、教育とそれに関わる成人たちが、子どもたちを肉体的・心理的・認知的に保護するとされています。適切に安全が確保されている教育環境では、子どもたちは成人の監督・指導と安全な学び場を与えられることで「肉体的に保護」されます。また、自己表現の機会や社会ネットワークの拡大及び規則的な日常を得ることで「心理的に保護」され、さらに学習者として位置づけられることで目的意識や自己価値が与えられます。さらに紛争によりもたらされた特殊な生活状況の影響を受けた子どもたちを「認知的に保護」することで、子どもたちの分析力を強化し、健全な市民として平和な生活の中で成長するための手段を与えます。(IIEP, 2006).

[4]International Institute for Educational Planning(IIEP). (2006).Guidebook for Planning Education in Emergency and Reconstruction.IIEP funded by UNESCO.

[5]The Sphere Project. (2011)The Sphere Project:Humanitarian Charter and Minimum Standards in Humanitarian Response.The Sphere project.

[6]本原稿において「紛争期」は武力紛争前・中・後の、紛争前から後の時期を含めた一連の時間の期間を示し「紛争時」は武力紛争時のみを示す.

[7]Tawil,S.and Harley,A. (2004).Education,Conflict and Social Cohesion,UNESCO and International Bureau of Education,Geneva.

[8][4]に同じ.

[9]International Bureau of Education. (2003).Curriculum Change and Social Cohesion in Conflict Affected Societies Colloquium Report,IBE(UNESCO)Colloquium,Geneva, 3-4April2003.

[10][6]に同じ.

[11]The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank. (2005).Reshaping the Future:Education and Postconflict Reconstruction.The World Bank.

[12]Nicolai,S. &Triplehorn,C. (2003).The role of education in protecting children in conflict(Humanitarian Practice Network Paper42).London:Overseas Development Institute.