第55回 人道憲章と人道対応に関する最低基準(スフィア基準)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年8月9日
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子

人道憲章と人道対応に関する最低基準[1]

 人道憲章と人道対応に関する最低基準(通称:スフィア基準)は、1997年にNGOグループと国際赤十字・赤新月運動が開始したスフィアプロジェクト[2]にて、策定されました。これは1990年代における人道機関による国際的な活動の増加、さらに1994年の大湖地方の難民危機を受けて、「多くの人道援助機関及びNGOが共通して使用する人道対応に関する基準が必要である」という認識の高まりを受けたもので[3]、紛争や災害の被害者が尊厳のある生活を送ることを目的に定められた基準です。

スフィアプロジェクト

 スフィアプロジェクトとは、人道支援活動を行う国際機関やNGO等によるボランタリーな活動で、「災害や紛争の被災者には尊厳ある生活を営む権利があり、援助を受ける権利がある」こと、「災害や紛争による苦痛を軽減するために実行可能なあらゆる手段が尽くされるべきである」という2つの権利及び理念に基づいて活動しています。ここで紹介されている「人道憲章」は、国際人権法、国際人道法、難民法及び人道活動に関連した国際的な法的文書[4]を土台として作成されており、この「人道憲章」をもとに「人道対応に関する最低基準」が定められています。

スフィア基準の概要

 スフィア基準では、「人道憲章」、「権利保護の原則」、「コア基準」(全てのスフィア基準に共有される必須のプロジェクト基準)とともに、「人間の存続のために必要不可欠な4つの要素:(1)給水、衛生、衛生促進、(2)食糧の確保と栄養及び、(3)シェルター、居留地、ノン・フードアイテム(非食糧物資)、及び(4)保健活動」の分野における最低基準が定められています。特に「人間の存続のために必要不可欠な4つの要素」に関する章では、人間が生命を維持するために必要最小限な水の供給量、食糧の栄養価、居留地内のトイレの設置基準や数、また避難所の一人あたりの最小面積や保健サービスの概要などが具体的に紹介されています。これらの基準は比較的高い水準で定められており、そうすることで、紛争や災害時などの緊急時において、支援を必要とする人々が高い水準の援助を受けられるようにすることを目的としています。同じような基準は、UNHCR緊急対応ハンドブック[5]でも紹介されており、多くの国連機関、国際機関及びNGOは、これらの基準を参考にしながら緊急人道援助活動を行っています。

スフィア基準の重要性

 人道対応に関する最低基準を定めておくことは、支援者及び支援対象者にとって、重要となります。まず支援者においては、援助の説明責任や品質維持のために活用することができます。さらに支援対象者にとっては、特に脆弱な立場にいる者への支援が優先されることで、支援対象者が平等且つ公平な支援を受けられるよう配慮されています。同時にスフィア基準はあくまでも一般的な基準であり、紛争国や被災地の文化や食糧事情、また風土などにより、支援を受ける人々のニーズに対応した臨機応変な援助を行うことが重要となります。このように、スフィア基準は、紛争や災害などの緊急時において、支援を受ける人々の苦痛を軽減するために実行可能なあらゆる手段が尽くされ、人間としての尊厳をもって生活を送るために役立っています。

[1]人道憲章と人道対応に関する最低基準(2011年版)
(日本語)http://www.refugee.or.jp/sphere/The_Sphere_Project_Handbook_2011_J.pdf
(英語)http://www.ifrc.org/PageFiles/95530/The-Sphere-Project-Handbook-20111.pdf

[2]スフィアプロジェクト http://www.sphereproject.org/

[3]Margie Buchanan-Smith(2003).How the Sphere Project Came into Being:A Case Study of Policy-Making in the Humanitarian Aid Sector and the Relative Influence of Research,Overseas Development Institute.

[4]人道憲章と人道対応に関する最低基準(2011年版)p.338
人道憲章を支える主要文書には、世界人権宣言(UDHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR, 自由権規約)、自由権規約第二選択議定書(死刑廃止を目的としたもの)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR, 社会権規約)、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(ICERD, 人種差別撤廃条約)、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW, 女性差別撤廃条約)、児童の権利に関する条約(CRC, 子どもの権利条約)、武力紛争における児童の関与に関する児童の権利条約選択議定書、児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書、障害者の権利に関する条約(CPRD, 障害者権利条約)などの、災害や紛争の状況における人道行動に最も関連性が高い国際的な法的文書が参照されています。

[5]UNHCR緊急対応ハンドブック
(英語)http://www.unhcr.org/publ/PUBL/3bb2fa26b.pdf