第42回 紛争後の教育政策:策定・実行におけるポイント@PKOなう!
本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。
2013年3月1日
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子
多くの国連文書や宣言で、「全ての人が教育を受ける権利」[1][2][3]が約束されておりますが、緊急時においては特に、これらの権利を守ることが重要になります。紛争後は、まず政府が教育を受ける権利をサポートし、かつ国民のニーズに対応できる教育を目指す必要があります。さらに、緊急時に対応するための短期的目標と、開発・復興期を考慮した長期的目標を掲げそれに至るまでの計画を示さなければなりません。そこで今回は、第33回でご紹介した「緊急時の教育のための最低基準」のうち、特に「教育政策」に焦点を当て、紛争後の教育政策を策定・実行する際の、重要な留意点をご説明します。[4]
政策の策定
紛争後の国の教育を担当する省庁は、政策の策定にあたって、まず無償化及び包括的な教育へのアクセスを含む、教育の質の回復とその継続性を優先する必要があります。指標としては、まず、教育を受ける権利及び継続する権利を保障し、加えて教育施設や設備が安全な環境にあることを保障する必要があります。また、法律や政策は、参加型かつ包括的なプロセスを通じた状況分析に基づいて制定・策定されるべきで、加えて緊急事態への対応を素早く行うことのできる法的・予算的枠組みによって支持されることも重要です。さらに、法律や政策が、難民のための学校が出身国または出身地域のカリキュラムを利用することを妨げないことが大切であり、必要であればNGOや国際機関、及び国連関係機関による緊急時の教育計画策定のための援助を得ることができる政策が望ましいとされています。[5]
政策の実行
紛争後の教育活動は、教育に関する国内および国際的政策基準、及び被災者の学習ニーズを考慮して進められることが重要となります。公教育及びノンフォーマル教育は、国家及び国際的な法的枠組みと政策を反映し、教育活動の計画と実行は、他の緊急対応セクターと意見交換しつつ統合しながら進めることも重要となります。また教育を担当する省庁は、現在と将来の緊急時に対する国や地域における教育プログラムを策定かつ実行し、それと同時に、効果的な教育計画とその実行に十分な、経済的、技術的、人的資源が必要です。
「人は自分の将来をどう見るかが、現在における生き方に密接に影響される」[6]ものだと言われています。ですから、紛争後早期にその後の教育そして教育支援の枠組みを作成するためのニーズアセスメントを行い、教育担当省庁や関連省庁、さらに教育関係者や地域住民、そして必要であれば国連機関や教育クラスターやNGOなどと連携し、教育を推進していくことが重要となります。[7]
[1]世界人権宣言 第26条
[2]経済的・社会的・及び文化的権利に関する国際規約(A規約)第13条
[3]児童の権利規約 第28条
[4]INEE(Inter-Agency Network for Education in Emergency). (2010).INEECoordinator for Minimum Standards and Network Tools.New York,USA.
[5]前掲[4].
[6]神谷美恵子(1981)「神谷美恵子著作集第四巻」みすず書房
[7]内海成治・中村安秀・勝間靖編 (2008)「国際緊急人道支援」ナカニシヤ出版
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