第61回 紛争下における教育への攻撃: Education under Attack@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年11月22日
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子

 学校などの教育機関は、本来子どもたちが保護された平穏な環境のもとでのびのび成長する場所です。しかしながら紛争時においては、教育機関が攻撃の対象になる場合もあり、紛争後の支援活動において特に注意が必要な場合があります。そこで今回は、教育機関への攻撃の定義と、攻撃の動機、さらにその違法性について述べたいと思います。

教育機関への攻撃とは

 「教育機関への攻撃: Attack on Education」[1]は、「児童・生徒・教師などの教育関係者及び教育援助者、もしくは学校などの教育施設、教育機関及び教育のための資源に対する、政治的、軍事的、観念的、派閥的、民族的、宗教的もしくは犯罪的な理由によるあらゆる形態の意図的な脅威・妨害・武力行使」[2][3]と定義されており、これらの脅威に対処する責任は、国家の治安部隊や法の執行機関及び準軍事的組織にあります。これまで記録されている攻撃には、学校や教育施設の破壊だけでなく、教育機関内で起きる殺害、失踪、拉致、強制的な国外追放、収監、暴行、性的暴力及び子ども兵士の採用などがあります[4]。  紛争によってこれらの攻撃の形態は違いますし、その被害も、攻撃の意図、規模、及び烈度によって違ってきます。さらに、小学校や中学校などの公教育機関で軍事教育が行われることは、現行の国際人道法では禁止されていませんが、軍事関係者が校内にいることが攻撃される原因になる場合もあります。

攻撃の動機

 2013年の22か国の紛争国を対象とした国連事務総長による報告によれば、現在17か国及び地域[5]で、3643件の教育機関に対する攻撃事故の報告[6]、及び90件の軍事使用、及び11か国で学校占拠の報告を受けています[7]。  これらの攻撃の理由としては、教科内容、教育が新旧政府体制や特定の政治思想を支持しているように認知されてしまうこと挙げられます。他の例としては、ある特定のグループの子ども、特に女子の教育的、社会的、及び経済的な成長を止める手段として教育が攻撃される場合もあります。さらに、武力集団に協力的でないコミュニティに破壊をもたらすために攻撃される場合もあります。また学校への攻撃が、軍事的行為の付随的被害(Collateral Damage)として誤報告されたり、教育の生産的な成果を弱体化するための戦略として行われたケースもあります。

教育機関への攻撃の違法性

まず第一に、教育機関への攻撃は、人権法での特に「教育に関する権利」への直接的な侵害行為となります[8]。さらに多くの攻撃は、慣習国際人道法の主要な規定に対する直接的な違反行為となっています。 これらの権利及び法は、紛争時においても文民及び教育を保護することを規定しています。さらに国際刑事裁判所(ICC)のローマ規定の第八条[9]が、特定の教育機関に対する意図的な攻撃を「戦犯」だと識別しています。ICCでの最初の戦犯となったトーマス・ルバンガ・ディロ(Thomas Lubanga Dyilo)の判決においても、彼が最長刑に処された理由の一つとして、何千人もの子どもたちを自身の軍隊に入隊させることで、彼らの教育を受ける権利を侵害したことが挙げられています。
このように、教育機関への攻撃及び教育を受ける権利の侵害は、子どもたちの生命を危機にさらすだけでなく、その生活やその人生の質を、大きく低下させる重大な戦争犯罪として規定されています。

 

[1]UNESCO. (2010). “Global Coalition to Protect Education from Attack”, p 23-28.

[2]UNESCO. (2010). “Education under Attack”, p17.

[3]Save the Children. (2013). “Attacks on Education: The impact of conflict and grave violations on children’s futures.

[4]UNESCO. (2010). “Global Coalition to Protect Education from Attack”, note 24.

[5]報告のあった17か国・地域:アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ(民)、イラク、リビア、マリ、パレスチナ自治区/イスラエル、ソマリア、南スーダン、シリア、イエメン、コロンビア、インド、フィリピン、タイ、中央アフリカ地域における神の抵抗軍。

[6]国連事務総長の報告には、学校の爆破・砲撃・破壊、児童及び教育関係者への傷害や拉致、殺害など教育に関連する違反などが挙げられている。同報告にはレバノンやコートジボアールなどのケースも含まれているが詳細については触れられていない

[7]軍事使用および占領については、アフガニスタン、コートジボワール、コンゴ(民)、パレスチナ自治区/イスラエル、ソマリア、南スーダン、コロンビア、インド、フィリピン、スリランカからの報告。

[8]British Institute of International and Comparative Law. (2012). Protecting Education in Insecurity and Armed Conflict, An International Law Handbook.

[9]ICC Statute. International conflict : Article 8, 2, b) ix Non-international conflict: Article 8, 2, e) iv