第60回 アフリカ連合と治安部門改革(SSR):水平的SSR支援@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年10月25日
国際平和協力研究員
わくがわ いづみ
湧川 いづみ

アフリカと紛争

 1998年4月、国連事務総長報告「アフリカにおける紛争の原因と恒久的平和および持続可能な開発の促進」(A/52/871 -S/1998/318)が国連事務総長コフィ・アナン氏(当時)により、国連安全保障理事会の求めに応じる形で発出されました。報告書によると、アフリカにおける紛争の現状は次のように説明されています。「1970年以降、アフリカで発生した戦争は30件を越えているが、そのほとんどは内戦に端を発している。1996年だけを見ても、アフリカ53か国のうち実に14か国が武力紛争の影響を受けており、そこでの戦争関連の死者は世界全体の戦争関連の死者の半分以上を数え、また800万人を超える難民、帰還民および国内避難民が発生した。」[1]
 本報告書の発出からさらに15年経った現在、 アフリカの状況は残念ながら緩和されたとは言い難いものがあるものの、2003年のアフリカ連合(以下、AU)における平和安全保障理事会(以下、PSC)の創設以来、平和に向けての努力が続けられています。[2]

AU政策におけるSSRの位置づけ

 PSCの担う責任の一つに、アフリカに於ける平和、安全保障と安定の促進が挙げられており、これらの責任をAUは政策を通して実現しようと試みています。[3]2004年には、「共通アフリカ防衛・安全保障政策に関する厳粛宣言」が発出され、また2006年には「戦後復興と開発のための政策枠組」(以下、PCRD政策)が採択されました。PCRD政策は、「平和の定着、持続可能な開発の促進や紛争から立ち上がろうとしている国や地域の成長の道標となるような包括的政策・戦略の開発のためのガイダンス」と位置づけられました。[4]
 この、戦略であり且つ規範的枠組みであるPCRD政策は、平和の定着をどのように達成するか詳細に渡って明記しています。本文では、一度もSSRという単語は使用されませんが、安全保障に関する章[5]では、SSRの掲げる基本的価値観が示唆され、その活動内容が紹介されています。マダネ・タデッス(Medhane Tadesse[6]は、SSRPCRD政策の関係について、「AUPCRD政策内にSSRの活動範囲を定義することによって、SSRの課題を提起しようと試みた」と分析しています。[7]要するにPCRD政策の枠組におけるSSRの位置づけは、紛争後の復興と持続可能な開発におけるSSRの重要性を強調しているのです。
 PCRD政策の発出から2年後、AU加盟国は、SSRにおける努力を強化するため、「戦後復興と開発のための政策枠組」(PCRD政策)の文脈に沿った内容で新たに包括的な「アフリカ連合SSR政策枠組」をPSCによって打ち出すことを2008年2月の第10回アフリカ連合総会で決めました。[8]

アフリカ連合と国連による戦略的SSRパートナーシップ

 2007年に国連安保理は「治安部門改革を支援する上での安保理の役割」と題された公開討論を開き、結果として国連安保理議長による初のSSRに関する声明が出されました。[9]それ以来、国連はSSRを「多角的平和維持・平和構築の主要素であり、長期的平和と開発を構築する上で重要である」と認識しています。[10]
 運用レベルに関して言えば、SSRは国連平和維持活動任務の中核に位置づけられ、最近では32ある国連(PKO及び政治)ミッションの内11ミッションにSSR任務が付与されています(本文執筆時点)。これらのミッションは、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コートジボワール、コンゴ(キンシャサ)、ギニアビサウ、リベリア、リビア、マリ、ソマリア、南スーダンなど、全てのミッションがアフリカ大陸に存在します。[11]
 国連ミッションによるSSR支援の増加傾向に見られるように、外部からの支援の裨益者と支援者間の協力関係は促進される一方で、裨益者は外部からの支援が押しつけであるとも感じています。ディラン・ヘンドリックソン(Dylan Hendrickson)[12]が、SSR支援に関する一般的認識は「他国主導で、政治プロセスという色が濃く、治安を担う機関がどのように統治されるべきか、という点が西欧の経験に基づいて実践されているもの」[13]と分析している通り、特に発展途上国のSSRに対する意識はどちらかと言えば否定的です。治安部門は国家統治の中枢となる機関のため、主権国家としては治安部門を改革するべきという外圧に対して大変懐疑的であり、アフリカ諸国においても同様の反応は否めません。更に、ハチフル(Hutchful)とファイェミ(Fayemi)[14]は、経済協力開発機構(OECD)発出のアフリカにおける治安改革調査報告において、「SSRは紛争後の社会復興のプロセスか、財政改革の一部として(又はその両方として)外部から強制(forced)されるケースが多い」と議論しています。[15]
 このような背景の中、ナイジェリアと南アフリカの国連代表部は「SSRに関するアフリカの視点-ハイレベルフォーラム」[16]を2010年5月に共催し、約80名の参加者が55国連代表部と11国連機関から出席しました。結果、このフォーラムにおいて、AUと国連による戦略的SSRパートナーシップが結ばれました。

変化する力学:アフリカ連合SSR政策枠組の採択

 上述2010年のハイレベルフォーラムの開会式では、主催者代表として挨拶したナイジェリアから「アフリカ諸国はSSR支援の裨益者であると同時に、支援者としての活躍も顕著になってきている」との発言がありました。[17]その言葉どおり、現場、特にアフリカ大陸におけるSSR支援の力学は変化しています。
 その変化を体現している文書が、2008年の第10回AU総会で提起・決定され、2013年1月の第20回AU総会において採択された「アフリカ連合SSR政策枠組」です。
 この政策文書は、国連の定める国際的規範枠組に則ったものであり、AU加盟国、アフリカ地域経済共同体(RECs)やアフリカのSSR実施に関わるパートナーにとってガイダンスを提供するものです。[18]本文書は、「この政策枠組は、近年のSSRアプローチに対するアフリカによるオーナーシップの欠如への対処の第一歩である。AUは、アフリカにおける紛争予防、平和維持、紛争後復興や平和構築という枠の中で、アフリカ主導によってSSRプロセスを進める責任がある」と明記しています。[19]

水平的SSR支援に向けて

 SSR政策枠組発出が示唆することの一つに、アフリカの国々による、治安部門改革に対するオーナーシップへの固い決意が挙げられると思います。AUがアフリカの諸問題について指導的役割を担う事はAUが組織された時点からのリーダーシップをみれば、何ら驚くべきことではありませんが、SSRAU政策や戦略へ組み込まれたという事実は、その決意の現れといえるでしょう。
 今後の課題は、このSSR政策枠組の履行です。政策枠組はガイダンスであり、アフリカ諸国の「ナショナルオーナーシップ、国家が果たすべき責任とSSR活動の実施へのコミットメント」を尊重するとあります。[20]本文書は、AU加盟国に対して、SSR支援におけるアフリカ国家間の恊働を促す内容となっています。
 アフリカ連合SSR政策枠組は、世界初の地域機構によって発出された包括的SSRの指針です。この政策枠組の実現と成功は、SSRに携わる者にとって刺激となり、アフリカ諸国の結束とパートナーシップ強化へと繋がることが期待されます。

[1]国連安全保障理事会に対する事務総長報告(1998年)「アフリカにおける紛争の原因と恒久的平和および持続可能な開発の促進」(A/52/871-S/1998/318)pg3.Par.4。国連広報センターによる非公式訳。

[2]アフリカ連合平和安全保障理事会創設議定書は2003年12月26日に施行された。アフリカ連合公式HPhttp://www.au.int/en/

[3]アフリカ連合公式HPより。"Functions of the PSC" (2013年10月4日アクセス) http://www.au.int/en/organs/psc

[4]アフリカ連合 (2006年)"The Policy on Post-Conflict Reconstruction and Development (PCRD)" Section I (Introduction), Para. 1

[5][4]と同。Para. 23 - 26

[6]マダネ・タデッス(Medhane Tadesse)(歴史)博士はキングス・カレッジ・ロンドンのConflict, Security & Development Group (CSDG)に属し、アフリカにおける平和と安全保障の専門家である。アフリカ連合のSSRアドバイザーも務める。

[7]Tadesse, Medhane. 2010.The African Union and Security Sector Reform - A review of the Post-Conflict Reconstruction & Development (PCRD) Policy.Addis Ababa: Friedrich-Ebert-Stiftung(本文中の引用は筆者による訳。)

[8]SSR政策枠組の発出に関する決断は、SSRの重要性を説く既存の文書により影響を受けました。 (1) 国連安保理議長声明 (S/PRST/2007/3) (2) 国連事務総長報告書 (A/62/659-S/2008/39) (3) 国連事務総長報告書 (A/63/881-S/2009/304) (4) 国連安保理声明 (S/PRST/2010/14)。

[9]国連安保理議長声明(21February2007),"Statement on Maintenance of International Peace and Security: Role of the Security Council in supporting security sector reform"(S/PRST/2007/3)

[10]国連PKO局発出。The United Nations SSR Perspective(2012年)

[11]国連政務局発出。Mandates for peacekeeping operations and field-based political missions(2013年)。ミッション数のデータは、筆者による統計。本文書発出当時(2013年2月)は、国連マリ多角的統合安定化ミッション(MINUSMA)は存在しないため、執筆時に筆者によって加えられた。また、セネガルに西アフリカ事務総長特別代表事務所(UNOWA)が設置されている。

[12]ディラン・ヘンドリックソン(Dylan Hendrickson)教授はアフリカにおけるSSRの専門家で、キングス・カレッジ・ロンドンの研究員である。

[13]Hendrickson, Dylan. 2006. "Overview of Regional Survey Findings and Policy Implications for Donors." In Security System Reform and Governance. OECD Publishing, 56.(本文中の引用は筆者による訳。)[http://dx.doi.org/10.1787/9789264007888-3-en]

[14]エボエ・ハチフル(Eboe Hutchful)博士はガーナに位置するAfrican Security Dialogue and Research (ASDR)の所長である。カヨデ・ファイェミ(Kayode Fayemi)博士はラゴスとロンドンに位置するCentre for Democracy and Development (CDD)の所長。

[15]Hutchful, Eboe and J. Kayode Fayemi. 2006. "Security System Reform in Africa (Annex 4.A1)." In Overview of Regional Survey Findings and Policy Implications for Donors, edited by Dylan Hendrickson. In Security System Reform and Governance. OECD Publishing, 71. (本文中の引用は筆者による訳。)

[16]このフォーラムは、オランダ政府の出資および国連PKO局のSSRユニットの技術支援により開催。

[17]国連PKOSSRユニットAfrican Perspectives on Security Sector Reform Final Report 2011年(本文中の引用は筆者による訳。)

[18]アフリカ連合African Union Policy Framework on Security Sector Reform 2013年

[19][18]と同。Section A2. Rational and Scope, item 10.(本文中の引用は筆者による訳。)

[20][19]と同。Section B16(c).“National ownership, national responsibility and national commitment”(本文中の引用は筆者による訳。)