第15回 和平プロセス:平和実現への一歩@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年7月13日
国際平和協力研究員
わくがわ いづみ
湧川 いづみ

和平プロセスの定義

  平和実現のため、国際社会はいくつかのツール(手段)を使います。和平プロセスもその一つです。和平プロセスとは、広義には交渉による停戦から国家再建までのプロセス全体のことを指しますが、実際には「平和」の定義と同じくらい「和平プロセス」の定義は多数あります。「政治、外交、人間関係の構築、交渉、仲裁および対話などを含む公式、非公式なプロセス」という定義が、実態に即していると思われます[1]。和平プロセスは更に二つの段階に分類することができます。第一段階は武力紛争の停止、第二段階が平和構築です。第一段階は更に和平交渉と敵対行為の停止、第二段階は移行期(transition)と強化期(consolidation)に分類されます[2]。《表1参照》

《表1:和平交渉により紛争解決を試みる際の和平プロセスの段階と主要目標》[3]
ステージ 1.武力紛争の停止 2.平和構築
段階 (1)和平交渉 (2)敵対行為の停止 (1)移行期 (2)強化期
主要目標 紛争停止のため主要件に合意する 平和条約の署名

停戦の確立

敵対軍の隔離
効率的な統治のための合法な政府の確立

治安確保と政治的組織強化のための改革

社会的、経済的復興への取組

社会的和解の促進
改革の継続

社会・経済復興の継続

社会的和解の促進(の継続)

国連平和維持活動(PKO)の和平プロセスにおける位置づけ

  国連PKOも和平プロセス支援であり、国際社会が国際連合を通して実施する手段の一つです。例えば、現在もっとも注目されている国連PKO活動の一つがシリアにおける国連シリア監視団(以下UNSMIS)の動向です。現在は、シリア国内での情勢悪化のため、活動を一時停止していますが、上記表1での和平プロセス分類の中において、UNSMISの主要マンデートである停戦監視支援は、第一段階の後期「敵対行為の停止」に当たる活動となります[4]

和平プロセスの始まり

  和平プロセスの始まり方には、主に二つあります。一つ目はシリアのように、国際社会の支援または圧力を受けて始まる場合です(受動的)。二つ目はネパールのように、和平プロセスが自発的に、紛争当事者が歩み寄ることによって開始される場合です(能動的)。ネパールの和平プロセスは、2006年11月22日に6主要政党同盟(政府側)とネパール共産党毛沢東主義派(元ゲリラ)の包括的和平合意書署名により、正式に始まりました。ネパール和平プロセスのような例は実は珍しく、このため、ネパール人が自国の和平プロセスを「自家製(Home Grown)」として誇りにしています。

和平プロセスの難しさ

  それでは、和平プロセスの始まり方の違いによって、プロセスの成功度も違うのでしょうか。この点に関する研究は、未だあまりされてないのが現状です。むしろ、和平プロセスが5年経過した時点で膠着状態に陥り、現在崩壊の危機に直面しているネパールの例からも分かるように、和平プロセスの始まり方ではなく、「過程」そのものと過程を遂行するための「政治的意思」が重要であると思われます。和平プロセスの困難さは、壊れていながらも走り続ける列車(脆弱国家)を修理する様子にたとえることができます。壊れているので修理しなければならない、しかし、列車(国家としての機能および存在)を止めるわけにはいきません。そこで、国連・国際機関、支援国政府や専門家などが飛び乗り、列車の修理を手伝おうとします。が、最終的にその和平プロセスの行方(成功)は、列車の運転士である当事国政府および紛争当事者の政治的意思と主導力にかかっています。

次回「和平プロセス(2):和平交渉おぼえがき」(8月31日掲載予定)では、誰が何を交渉するのかを取り上げます。

[1]ハロルド・H・サンダース(Harold H.Saunders)“Prenegotiation and Circum-negotiation:Arenas of the Multilevel Peace ProcessTurbulent Peace.WashingtonDC:US Institute of Peace2001 (pg483)。サンダースは元米国国務次官(中東政策担当)であり、キャンプ・デイビッド(1978)和平協定やエジプト・イスラエル平和条約(1979)調停へ関わる。現在、International Institute for Sustainable Dialogue(持続的対話研究所)所長。著作多数。http://www.sustaineddialogue.org/iisd.htm

[2]ニコール・ボール(Nicole Ball)“The Challenge of Rebuilding War-Torn Societiesin Chester A.Crocker,Fen Osler Hampson,and Pamela Aall,eds.Turbulent Peace.WashingtonDC:US Institute of Peace2001 (pg721-22)。ニコール・ボールはワシントンDCにある国際政策研究所(Center for International Policy)の上級研究員。長年にわたり安全保障と開発問題を専門に研究。ボールの正式略歴はこちらで閲覧可能http://www.ciponline.org/about-us/experts-staff/nicole_ball

[3]ニコール・ボールの文献(同上)を参考に作成。

[4]UNSMISのマンデートに関し、7月6日に潘基文国連事務総長が国連停戦監視団の在り方に関する報告書を安保理に提出し、停戦監視よりも対立勢力間における対話仲介を主任務にするべきだと述べている。シリアの現状は平和実現の難しさを体現したようなケースである。
国連シリア監視団に関する文書:国連安保理決議2042号www.un.org/News/Press/docs/2012/sc10609.doc.htm
決議2042号Annex、アナン特使6項目の提案www.un.org/en/peacekeeping/documents/six_point_proposal.pdf
決議2043号www.un.org/News/Press/docs/2012/sc10618.doc.htm