第14回 武力紛争下における文民の保護@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年7月6日
国際平和協力研究員
たなか きわこ
田中 極子

「文民の保護」の経緯

  東西冷戦の終焉により、国内紛争の発生が顕著となるにつれ、国連安全保障体制はいかに文民を保護するかという問題に直面しました。特に、1990年代前半に旧ユーゴスラビアやルワンダに派遣された国連平和維持活動が、紛争の犠牲となっている文民の保護を十分に行えずに「失敗」したと評価されたこともあり[1]、武力紛争下の文民の保護が国連に対する大きな課題として位置付けられることとなりました[2]。この時期は、ちょうど「人間の安全保障」概念が議論されていた時期と重なっており、武力紛争下における文民の保護に関心を抱いていたカナダ政府等の主導により、1999年2月に安全保障理事会(安保理)にて文民の保護が正式な議題として取り上げられ[3]、同年9月には文民の保護に関する安保理決議第1265号が採択されました。

安保理決議第1265号の内容

  安保理決議第1265号は、紛争における最大の被害者が文民であることを初めて認め、特に女性や子ども、難民や国内避難民等の弱者グループが被る被害に対する懸念を示すとともに、文民に対する被害が長期的な平和や復興及び回復に多大な影響を及ぼすことを明記しました。また、長期的な観点から文民の保護に取り組むため、経済成長、貧困削減、持続可能な開発、国民和解、統治、民主化、法の支配及び人権尊重など武力紛争の原因となる問題の解決に向けて包括的に取組む必要性を強調しています。
  そして文民の保護のために、国連平和維持活動(以下「国連PKO」)のマンデートに、元兵士の武装解除(disarmament)、動員解除(demobilization)、社会復帰(reintegration)を含め、特に子ども兵士の動員解除及び社会復帰を重視すべきこと(主文パラ12)、さらに、女性や子どもに対しては特別に保護及び支援を提供することの重要性を表明しています(主文パラ13)。また、そのために、国連PKO要員に対する国際人道法、人権及び難民法、文化的意識及び民軍連携に関する訓練の実施を要請し(主文14)、小火器や対人地雷が文民の安全に大きな影響を及ぼしていること示しました(主文17及び18)。

「文民の保護」のその後の展開

  安保理決議第1265号を受け、2000年10月には「女性、平和、安全」に関する安保理決議第1325号が全会一致で採択されました[4]。これは、紛争予防や紛争解決、平和構築における女性の役割の重要性を確認し、平和と安全の促進及び維持のために女性が平等に参加することの重要性、また、紛争予防及び紛争解決の決定過程における女性の役割拡大の必要性を強調した初めての歴史的な安保理決議として評価されています。
  また、子どもの保護については、安保理決議第1265号に先立ち、1999年8月に安保理決議第1261号が採択され、武力紛争下における子どもへの影響に深い懸念が示され、子どもを兵士として徴用することなどを強く非難しています。2000年以降の武力紛争と子どもに関する安保理決議では、第1261号を強化する形で、文民の保護との関連性を強調しています。また、2000年5月25日には「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約選択議定書」が採択されています。
  国連PKOにおいては、国連シエラレオネ派遣団(UNASMIL)のマンデート(安保理決議第1270号(1999年10月22日))に初めて文民の保護が明記されて以降、文民の保護は、国連PKOにおける重要な任務となっています。我が国からも施設部隊を派遣している国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)についても、文民の保護はそのマンデート(安保理決議第1996号(2011年7月8日))の一部となっています。

[1]アナン元国連事務総長は、1990年代における数々の国際介入の中でも、ルワンダとコソヴォにおける国際介入のケースが、どちらも国際社会が安保理を通して一致した行動をとることに失敗したケースとして指摘している。Kofi A.Annan,We the People:The role of the United Nations in the twenty-first century,A/54/2000 (27March2000)

[2]冷戦後の内戦の様態についてはMary Kaldor,New and Old Wars:Organized Violence in a Global Era,Stanford:Stanford University Press, 1999が新たな視点を提供している。

[3]安全保障理事会議長ステートメント(S/PRST/1999/6 (12February1999))

[4]内閣府男女共同参画局発行『共同参画』に当事務局与那嶺涼子元研究員によるコラムが掲載されていますので、そちらも同時にご参照ください。