第22回 和平プロセス(2):和平交渉~南北スーダンのケース@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年8月31日
国際平和協力研究員
わくがわ いづみ
湧川 いづみ

和平交渉

 和平交渉という言葉がテレビや新聞紙面に頻繁に出てきます。日本で良く耳にする和平交渉としては、中東和平交渉やスリランカ和平交渉などではないでしょうか。前回の@PKOなう!(第15回)で述べたように、和平交渉は紛争の停止実現への第一段階に位置付けられます。紛争の終焉は二つの形で訪れます。一つは一方的な勝利による終戦。二つ目が和平交渉を通しての紛争の政治的解決です[1]
 現在我が国は、自衛官が国連平和維持活動(PKO)の4つのミッションに自衛隊員を派遣しています。(日本の国際平和協力に関しては、@PKOなう!第1回「日本の国際平和協力」栃林,2012)を参照。)その中の一つ、国連南スーダン共和国ミッションUNMISS)への貢献は2011年12月20日の閣議決定を経て、2012年1月から自衛隊の施設部隊等の派遣が実現しました[2]。20年近くにおよぶ南北スーダン内戦の終結を受け南スーダン独立が実現し、現在UNMISSが平和定着の支援[3]に取り組んでいますが、現在に至るまでには数度に及ぶ和平交渉が行われました。今回の@PKOなう!では、仲裁や調停などの第三者が入っての和平交渉手段ではなく、当事者間における和平交渉(negotiation)に着目します。

国連平和維持活動(PKO)の和平プロセスにおける位置づけ

  国連PKOも和平プロセス支援であり、国際社会が国際連合を通して実施する手段の一つです。例えば、現在もっとも注目されている国連PKO活動の一つがシリアにおける国連シリア監視団(以下UNSMIS)の動向です。現在は、シリア国内での情勢悪化のため、活動を一時停止していますが、上記表1での和平プロセス分類の中において、UNSMISの主要マンデートである停戦監視支援は、第一段階の後期「敵対行為の停止」に当たる活動となります[4]

交渉相手

 和平交渉とは誰と誰の間で行われるのでしょうか。南北スーダンの場合、1983年にスーダン人民解放軍(SPLA)がスーダン国軍を攻撃したことで第二次内戦が勃発し、その後も敵対する勢力に変化はありませんでした[4]。その為、スーダンにおける和平交渉は交渉相手がはっきりとしていました。これは、長期的視点からは、和平交渉を通して信頼醸成が出来るという意味で大変有利なことです。交渉する相手が頻繁に変わると、交渉内容も頻繁に変わります。また、交渉相手に最終合意ができるだけの権限が委託されているのかどうかも大切な事項です。権限のない相手と交渉しても時間だけが無駄に過ぎてしまうということになります。往々にして和平交渉は、この最初の部分から躓く(つまず)ことが多いのです。

交渉結果

 和平交渉の目的が先ほど述べたとおり、紛争の政治的解決であるので、交渉の場で紛争の根源を明確にしなければなりません。また和平交渉が、和平プロセスのどの部分で実施されているかにより、交渉内容も変わります。もし和平プロセス初期段階においての交渉なら、停戦合意が交渉されます。交渉が進み、最終的に和平が合意され、和平合意書が調印されます。
 南北スーダン第二次内戦も1983年勃発から1995年の一時停戦、紛争再発および和平交渉再開などの紆余曲折を経て、2005年1月9日に北部スーダンを代表する国民議会党(NCP)とスーダン人民解放運動/軍(SPLM/A)の包括的和平合意(CPA)調印に至りました。その後6年かけて和平合意を履行し、2011年1月に南部スーダン独立を問う住民投票を実施、同年7月に南スーダン共和国が独立し、現在に至っています。合意書による和平交渉終結は、決して和平プロセスの完結ではありません。交渉の帰結である和平合意は「解決策」ではなく、「ロードマップ」であり、その合意書を実施するという重責が当事者には未だ残されています。

次回「和平プロセス(3):和平合意書 ~ネパールのケース」(10月12日掲載予定)では、合意書の具体的な内容と実施の難しさに着目します。

[1] 国家間の戦争ではなく、内戦という形で紛争が頻発しているため、紛争解決も和平交渉という形が増加しています。国連機関の中では、紛争の政治的解決は、国連事務局政治部(United Nations Secretariat,Department of Political Affairs, 略UNDPA)が主に担っています。UNDPAは国連平和維持活動局(United Nations Department of Peacekeeping Operations, 略UNDPKO)と共に国際平和維持活動の政治ミッションの部分を主導しています。詳細はUNDPAの公式サイト(英語)を参照。

[2] 日本の南スーダンに於ける国連平和維持活動については、内閣府国際平和協力本部事務局ウェブサイトを参照。

[3] 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の任務は日本国外務省ウェブサイト別ウインドウで開きますを参照。

[4] 敵対勢力の主な構図に変化はありませんでしたが、スーダン政府側は1989年にマフディ政権からオマール・アル=バシール政権に交代しました。