第23回 「子ども兵士」問題と国際的取組み (II)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年9月7日
国際平和協力研究員
しも まさこ
志茂 雅子

前回(第16回)では、「子ども兵士」問題に取り組む法的枠組みについて見てきました。今回は、国連が「子ども兵士」問題にどのようなイニシアティブを発揮してきたか、その足跡を見ていきたいと思います。

国連総会での取組み

 国連では、1990年に開催された「子ども特別総会」以降、紛争に巻き込まれる子どもたちの悲惨な状況を国際社会に強く訴えてきました。その流れを受けて、国連事務総長は1996年にグラサ・マシェル元モザンビーク教育大臣に調査を委託し、「子どもと紛争」に関する報告書を作成しました。[1]続いて1997年、国連総会の「子どもの権利」に関する決議(A/RES/51/77)が採択され、その中で同報告書をもとに「子どもと紛争」が大きく取り上げられるまでになりました。特筆すべきは同決議の中で「子どもと紛争に関する事務総長特別代表」を任命することが決まったことです。この特別代表については下段で改めて見ていきたいと思います。

国連総会での取組み

 一方で、国連総会だけでなく、安保理でも「子どもと紛争」が議題として取り上げられるようになりました。まず、1998年及び99年に安保理の議論を反映させた議長声明が出されると、1999年8月30日に「子どもと紛争」に関する安保理決議1261(S/RES/1261)が採択されます。以後、この「子どもと紛争」に関する決議はほぼ毎年採択されていますが、その中でも2001年の決議1379(S/RES/1379)では、PKODDR(武装解除・動員解除・社会復帰)について「子どもと紛争」及び「子ども兵士」の文脈で言及されています。また、2005年に採択された決議1612(S/RES/1612)には、「子どもと紛争」の中でも「子ども兵士」についての多くの言及がなされ、「子ども兵士」の調査・監視メカニズムを構築するよう安保理が国連事務総長に対し要請しています。また、前述の決議1379と同様PKOミッションにも言及し、安保理が(PKO派遣の決議作成の際には)子ども保護の機能を織り込むよう安保理自体に対し勧告しています。
 このように「子ども兵士」に関する記述が増え、より具体的な対策に安保理が言及するようになったのは、2000年代前半まで続いたシエラレオネやリベリアの子ども兵士が衝撃とともに国際社会の注目を集めたことと無関係ではないでしょう。

子どもと紛争に関する事務総長特別代表

 国連は決議に基づいて、重要と考えられる分野に事務総長特別代表を任命することがあります。「子どもと紛争に関する事務総長特別代表」(以下、特別代表)は上記で見たとおり総会決議に基づき設置されており、任期は3年、著名な人権活動家や法曹界から選出されています。[2]それでは、この特別代表の役割は何でしょうか。
 同決議には、以下のような内容(要約)が記されています。

  1. 紛争下の子どもたちの保護を強化するため、成果やその妨げの要因を評価・分析すること。
  2. 紛争の影響を受けている子どもたちの情報を集め広く世間に知らしめること。
  3. 子どもの権利委員会や他の関連国連機関、NGO等と緊密に連携をとること。
  4. 紛争下における子どもの権利に関し、各国政府や国連機関、地域機関やNGO等の間の調整役を務め、紛争下における子どもの権利を保証するための国際的な協力を促進すること。

 実際の活動を見てみましょう。特別代表事務所は、フィールド・オフィスは持たず、アドボカシー(啓発活動、働きかけ)が中心の活動となっています。しかし、それを補うがごとく、特別代表は「子どもと紛争」、特に「子ども兵士」が問題になっている国々へ精力的な訪問を行っています。第2代に当たる現特別代表は、スリランカの人権擁護活動家、ラディカ・クマラスワミ氏が2期計6年間務めていますが、任期満了間近の現段階(2012年8月)[3]までに、アジア・中東・アフリカ諸国を計26回訪れ、紛争下の子ども、特に「子ども兵士」の問題に各国政府が真剣に取り組むよう説得を続けています。[4]
 また、毎年問題となっている各国の状況を記した「子どもと紛争」の報告書を総会と安保理に提出し、ホームページ上でも子どもの権利を侵害する武装勢力(一部政府軍も含む)のリストを掲げ、安保理での制裁を促すべく働きかけを行うなど、多様な活動を展開しています。[5]

 以上、簡単に「子ども兵士」に関する国連の取り組みを見てきましたが、第3回目は「子ども兵士」の中でも女児に焦点をあてつつ国連PKOとの関わり(DDR等)を取り上げます。

[1]United Nations. "Children and Armed Conflict."http://childrenandarmedconflict.un.org/about-us/ (Accessed2012年8月15日)United Nations.

[2]1997年より2006年まで、ウガンダの法律家、外交官、社会活動家であるオララ・オトゥヌ氏が2期特別代表を務め、現代表に引き継いでいる.

[3]次期代表にはアルジェリアの元裁判官、レイラ・ゼロウグイ氏が内定している。United Nations. "Children and Armed Conflict."http://childrenandarmedconflict.un.org/(Accessed2012-08-16)United Nations.

[4]United Nations. "Children and Armed Conflict."http://childrenandarmedconflict.un.org/our-work/field-visits/ (Accessed2012年8月16日)United Nations.

[5]United Nations. "Children and Armed Conflict."http://childrenandarmedconflict.un.org/our-work/persistent-violators-and-sanctions/ (Accessed2012年8月16日)United Nations.