第7回 中国のPKOの展開~概観~@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年5月18日
国際平和協力研究員
しも まさこ
志茂 雅子

中国のPKO派遣状況

現在中国は世界各地にPKO部隊を派遣しています。国連のランキング[1]によると、中国は2012年4月末現在2,006名の要員を各地に派遣しており、PKO要員を派遣している116ヶ国中で16位となっています。(ちなみに、日本は同月末現在499名で38位に位置しています。)これは、国連安全保障理事会の常任理事国5か国の中で、最も多い派遣人数となっています。

中国のPKO派遣の歴史

もっとも、中国のPKO参加の歴史は決して長くありません。軍事要員派遣以前に、文民派遣も行っているので数え方にもよりますが、いずれにせよその歴史は20年前後[2]で、本年PKO派遣20周年となる日本とあまり変わりがありません。また、派遣要員が増えたのもここ10年以内のことであり、1990年代はどちらかというと派遣に慎重な姿勢を示してきました[3]

それでは、なぜ慎重派だった中国がPKO積極派に大きく変わったのでしょうか。もともと、中国はPKO派遣の原則として、いわゆる国連の三原則(当事者の同意、不偏性、自衛及び任務防衛以外での武器使用の禁止)以外に、国家主権の尊重及び内政不干渉の原則を繰り返し強調してきました[4]。その中国が2000年代に入ってから積極的にPKOを推進するようになった理由の一つとして、中国が常任理事国として影響を行使できる国連主導のPKOが、NATOなどの多国籍軍による紛争解決方法に取って替わられる可能性に危機感を抱いたとの意見も挙げられています[5]。いずれにせよ、目覚ましい経済成長を遂げている中国が、“大国”としての責任を果たすことにより、より国際社会での地位を確固たるものにする意図があるようです。

中国のPKO派遣の特徴

さて、中国のPKO派遣の特徴として、日本と同様に後方支援の工兵部隊(日本の施設部隊に相当)が派遣部隊の主力となっていることが挙げられます。ニューヨークの国連本部には日本の自衛隊と同様中国人民解放軍の将校が出向しているほか、2007年には国連西サハラ住民投票監視団(MINURSO)において、中国人民解放軍の少将が中国人として初めて司令官に任命されており[6]、PKO活動において着々と地歩を固めているという印象をうけます[6]

また、中国のPKO派遣で顕著なのが、アフリカ重視の姿勢です。これは、中国の国連大使の演説[7]や、その他高官から繰り返し明言されています。現在世界では16件のPKOが展開中ですが、そのうち7件までがアフリカ諸国で行われています。中国は全体で13件に軍事要員を派遣していますが、6件がアフリカ諸国です。中国は同時にアフリカの地域機構との協力も提唱しており、スーダンのダルフール地方ではアフリカ連合と国連共同のPKO、ダルフールAU国連合同ミッション(UNAMID)の成立に尽力し[8]、主導的な役割を果たしています。

国連PKOの多くは軍事要員だけでなく文民も参加して成り立っていますが、その中でも文民警察は治安部門改革などに必須として、多くのミッションで重視されています。中国は2000年、東ティモールへの派遣を皮切り[9]に文民警察を各地に派遣しており、現在でもUNMIT(東ティモール)の他に、UNMISS(南スーダン)、UNMIL(リベリア)、MINUSTAH(ハイチ)に人員を派遣しており、11年4月現在で、累計1666名の文民警察官を7件のミッションに派遣した実績を誇ります[10]。2000年には、軍に先駆けて文民用のPKOセンターを北京郊外の河北省廊坊市に設立し、全国から選抜された候補者の研修を行っています。

[1]United Nations. “Ranking of Military and Police Contributions to UN Operations.Month of Report: 30-Apr-12.”United Nations.http://www.un.org/en/peacekeeping/contributors/2012/apr12_2.pdf, (参照 2012年5月21日).を参照。

[2]解放軍. “中国参加的聯合国維持和平行動.” 解放軍報社.http://www.chinamil.com.cn/item/peace/txt/17.htm, (参照2012年3月9日).

[3]増田雅之. 中国の国連PKO政策と兵員・部隊派遣をめぐる文脈変遷―国際貢献・責任論の萌芽と政策展開. 防衛研究所紀要. 2011,Vol.13(2),p.1-24.p.1.

[4]解放軍. “中国関于維和行動的原則.” 解放軍報社.http://www.chinamil.com.cn/item/peace/txt/28.htm, (参照2012年3月9日)

[5]増田. 前掲書.p.7-8.

[6]Huang,Chin-Hao.Principles and Praxis of China's Peacekeeping.International Peacekeeping. 2011,vol.18(3),p.257-270.p. 263.

[7]解放軍. “中国関于維和行動的原則.” 解放軍報社.http://www.chinamil.com.cn/item/peace/txt/28.htm, (参照2012年3月9日).

[8]増田. 前掲書.p.21.

[9]公安部. “為世界和平貢献“中国力量”―中国警察維和十年記.” 中国維和警察. 2010年2月7日.http://www.mps.gov.cn/n16/n983040/n1372264/n1372546/2330980.html, (参照2012年3月9日).

[10]鄭欣. “公安部已向聯合国派遣維和警察1666人次.” 中国維和警察. 2011年4月22日.http://www.mps.gov.cn/n16/n983040/n1372264/n1372421/2760264.html, (参照2012年3月9日).