第29回 「子ども兵士」問題と国際的取組み (III)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年10月19日
国際平和協力研究員
しも まさこ
志茂 雅子

前回(第23回)では、国連が「子ども兵士」問題にどのようなイニシアティブを発揮してきたかという観点から「子ども兵士」問題を見てきました。今回は、「子ども兵士」の中でも特に「女児」に焦点をあてて、見ていきたいと思います。

少女兵士

「子ども兵士」と言うと、少年がカラシニコフ銃をもっている、そんなイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、実際には「子ども兵士」には少年だけではなく、少女(18歳未満の女児)たちも含まれている場合が少なくないのです。

少年たちに比べて少女たちの役割は様々です。例えば、ネパールのマオイスト(毛沢東主義者)と呼ばれる武装組織(現在は武器を置いて政党になっています)には、数多くの女児たちが参加していました。マオイストは女性解放運動も同時行っていたので、基本的にこの女児たちは戦闘員としての訓練を受け、男児や男性と同じく前線で戦闘に従事したりしていました。厳しいカースト制の社会の中で、社会的弱者層出身の女児が唯一活躍できる場をみつけた、といった話も聞かれるほどで、実際同組織の三分の一は女児・女性によって占められています[1]

少女兵士の現実

しかし、ネパールのような例は例外と言っていいでしょう。「子ども兵士」問題が他のどの大陸よりも深刻なアフリカにおいては、事態は大きく異なります。そもそも多くの場合、子どもたちは強制的・半強制的に武装集団や一部の政府軍に徴募され、兵士に仕立てあげられ、離脱しようとすると殺害の危機にあうことも稀ではありません。この際、女児も男児と共に銃をとって闘う場合もありますが、多くの場合、幹部兵士にご褒美のように"あてがわられ"、身の周りの世話にとどまらず、性的暴力を受け、性的な奴隷とされ、"妻"となることを強要されたうえに、望まない妊娠・出産に至る女児も少なくありません。武装集団によっては、このような役割を担わせるために、十代前半の女児をわざわざ選んで誘拐してくることさえあります。

少女「兵士」は果たして「兵士」か

このような女児の"役割"を見ると、果たして「兵士」と呼んでいいのか、と疑問に思う向きもあるかもしれません。確かに、実際、国際刑事法では「子ども兵士」の範囲を狭くとり、国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下、ローマ規程)にある通り、"積極的に敵対行為に参加"している15歳未満の者のみを「子ども兵士」としてみなしています。

その一方で、国連文書などに引用される一般的な定義を見てみると、1997年にユニセフ主導で採択された「ケープタウン原則」がその一つとして広く使われており、その定義は以下の通りです。「(この文書における)子ども兵士とは、いかなる種類の正規或いは非正規の武装集団や武装したグループにおいても、また家族以外の者に随伴するコック、ポーター、メッセンジャーの様なグループの者も含むどのような形態であれ(当該武装グループに)参加している18歳未満の者を指す。この定義には性的目的や強制的な結婚の為に徴募された女児も含む。従って、(子ども兵士とは)銃をかついだり、或いは銃をかついだ経験のある子どものことだけを指しているのではない[2](()部分及び太字は筆者による。)

少女兵士とDDRPKOの役割~

このように、「子ども兵士」を狭く捉えるか、或いは広く捉えるかは、単なる論争の具ではなく、現実の社会に大きな影響を与えます。特に和平合意が締結され、DDR(武装解除・動員解除・社会復帰)プロセスが行われる際、注意を払わないと女児が含まれないことになってしまったり、女児特有のニーズを汲み取れず社会復帰が難しくなるという事態になりかねません。というのも、このような女児は銃を持っていない場合も多く、最初からDDRプロセスに含めてもらえない場合や、武装集団の中で生まれた子どもを抱えている女児を出身地に戻そうと思っても、家族やコミュニティから拒否をされ、行くあてがなくなってしまう場合もあるからです。

現在、多くのDDRプロセスは当該政府が主導し、PKO部隊及びPKO内のユニット、そしてUNDPやユニセフ等の国際機関と協力して行っていますが、武装解除の際にPKOがバックアップとして提供する抑止力は、DDRプロセスの円滑な遂行の為にも大きく役立っています。PKOとしてもこのあたりの事情を汲んで、より広い包括的なDDRを支援していく必要があります[3]。また、女児たち自身が、子どもを抱えていることなどを理由にDDRの場に姿を現すことをためらう場合も考えられます。PKOは、パートナーたちと緊密に連携し、その時々の状態に適応しながら、より広い範囲の「子ども兵士」がDDRプロセスの恩恵を受けることができるように努めることが期待されるでしょう。

[1]ネパールのケースに関してはhttp://www.saferworld.org.uk/news-and-views/case-study/17 が詳しい。(英語)

[2]UNICEF,Cape Town Principles and Best Practices-Adopted at the Symposium on the Prevention of Recruitment of Children into the Armed Forces and on Demobilization and Social Reintegration of Child Soldiers in Africa.30April1997.

[3]PKODDR支援は、各PKOのマンデート(安保理決議)に定められています。例えば南スーダンのUNMISSの場合、S/RES/1996(2001)の本文パラグラフ3(c)(ii)に記載されています。 なかでも、女性と子どもに特に注意を払うよう記述されています。