第16回 「子ども兵士」問題と国際的取組み(I)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年7月20日
国際平和協力研究員
しも まさこ
志茂 雅子

はじめに

冷戦の終結後、各地で勃発した内戦は、多くの一般市民(いわゆる文民[1])を巻き込み、多大な犠牲者を出してきました。子どもたちもまた例外ではなく、市街戦に巻き込まれたり、住むところを追われ難民や国内避難民になったり、また孤児となってストリート・チルドレンになる子どもたちも多く出てきました。その中でも近年注目を集めているのは「子ども兵士」の存在です。戦火の中でも一般の子どもたちは「文民」かつ「子ども」であることで、国際条約[2]により数多くの保護を受けることができますが、子ども兵士は「子ども」でありながらも「兵士」であるため、ほとんどそれらの保護の対象とはなりません[3]。中には、誘拐や脅迫をされて強制的に兵士にさせられる子どもたちや、戦火の中行き場を失い唯一食べていく方法として兵士となった子どもなども少なくなく、子ども兵士の徴募・利用という悪弊を少しでも早く断ち切ることが肝要です。本稿は、国際社会がいかに子ども兵士を禁止すべく努力をしてきたか、というテーマで3回にわけて連載します。第1回目は法的なアプローチ、第2回目は国連によるイニシアティブ、第3回目は女児に焦点をあてて国連PKOとの関わり(DDR等)を取り上げる予定です。(なお、第2回目は、「@PKOなう」第23回(9月7日)に掲載予定。第3回目は追って予告します。)

法的枠組

紛争から子どもたちを守る一つの試みは、国際人権法・人道法の発展の中に見出すことができます。「1949年ジュネーヴ条約の第一、第二追加議定書」(1978年発効)には、国家及び国内の武装勢力による子ども兵士の徴募や戦闘参加の年齢制限が定められ、基本的に15歳未満の子ども兵士の徴募・利用は禁止とされています[4]。 1990年に発効した「児童の権利条約」(子どもの権利条約とも呼ばれる)[5]は、紛争時のみならず広範に子どもの権利を規定した条約であり、人権条約としては一番締約国が多い条約としても有名です(注:なお、批准をしていないのは、米、ソマリア、南スーダンの3ヶ国のみです)。この条約でも子ども兵士禁止の年齢は原則15歳未満[6]となっており、子どもを18歳未満のすべての者と定義した同条約の第一条との整合性が図られるには、2002年発効の同条約追加選択議定書[7]である武力紛争議定書 まで待たねばなりませんでした。

国際的な刑事裁判所

このように、国際人道法・人権法で子ども兵士の禁止を打ち出しているものの、依然として国あるいは国内外の武装勢力による子どもたちの徴募・利用は止みません。その一方で、子ども兵士の徴募・利用に関する行為を犯罪化する動きが、国際的な刑事裁判所で活発になってきました。シエラレオネ特別裁判所や国際刑事裁判所(以下、ICC)の規定の中には子ども兵士の徴募・戦闘参加が戦争犯罪として規定されています[8]。実際に子ども兵士を徴募・利用した個人の責任が問われ、それぞれシエラレオネの政府高官、コンゴ民主共和国の軍閥の首領[9]に対し戦争犯罪として有罪の判決が出ています[10]。このような動きが国や武装勢力に対しどれだけの抑止効果を発揮するのか、今後注視していく必要がありますが、ICCは上記の案件に加え、同じコンゴ事態(situation)の別事件(case[11]でも子ども兵士の徴募・利用を罪状に含んだ逮捕状をとり、引き続き子ども兵士の問題を追及していく構えです。

[1]「文民」は、一般的には「軍人でない人」(広辞苑第五版)をさすが、国際法上の詳しい定義については、「千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約(以下、『1949年ジュネーヴ諸条約』)の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)(以下、『第一追加議定書 』)」第五十条1を参照されたい。

[2]1949年ジュネーヴ諸条約及び第一・第二追加議定書

[3]山下恭弘「武力紛争における子どもの保護-子どもの権利条約選択議定書の成立-」 福岡大學法學論叢. 2000,Vol.45(2),p.87-127.

[4]1949年ジュネーヴ条約第一追加議定書第77条及び第二追加議定書第4条3項c.

[5]児童の権利に関する条約(以下、児童の権利条約)

[6]児童の権利条約第38条

[7]武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書(以下、武力紛争議定書)

[8]国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下、ローマ規程)第8条2項b(xxvi),同e(vii)

[9]コンゴ事態(situation)のルバンガ事件(case)の被告人、トマス・ルバンガ・ディロ(Thomas Lubanga Dyilo)のこと。なお、「事態」「事件」という言葉の使い方については、下記注11を参照願いたい。

[10]なお、シエラレオネ特別法廷では、同法廷規則成立前に子ども兵士の徴募が犯罪化されていなかったとの被告人の抗弁があり管轄権が争われたが、裁判所は慣習法が成立していたとして被告人の意見を退けた。(詳しい経緯は、稲角光恵.子ども兵士に関する戦争犯罪-ノーマン事件管轄権判決(シエラレオネ特別裁判所.).金沢法学.2005, 48(1):A77-A-107. を参照のこと)

[11]ICCでは付託等で管轄権の及ぶ領域(国或いは地域)を事態(situation)と呼び、その中の一つ一つの事案を事件(case)と呼んでいる。