第6回 民軍連携@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年5月11日
国際平和協力研究員
さとう みお
佐藤 美央

民軍連携に関わる主体と「民軍連携」の多義性

1990年代以降、紛争の形態や性質が変わるにつれて、それに対する国際社会の対応も大きく変わってきました。その変化には、国連平和維持活動の変化も含め[1]、援助の方法や、誰がいつどのような援助を行うのか、あるいは、援助を行う者に求められる能力等、様々なものが含まれます。「民軍連携」もそのような状況において議論され始めた考え方です。

国連平和維持活動(PKO)が実施される現場には、受入国の住民や現地政府組織に加えて、国連PKOで派遣される要員の他にも現場で様々な支援活動を行っている組織や団体など、多様な主体が同じ地理的範囲内にいます。「民軍連携」は、大きくは緊急支援の現場における文民と軍事的主体との間の関係性を表す言葉ですが、使う主体の立場によって定義の異なる言葉で、そのことを知らないとかえって混乱を招くことになりかねません。ここでは、国連PKO局、国連人道問題調整部(OCHA[2]、北大西洋条約機構(NATO)によるそれぞれの定義をみてみたいと思います。

「民軍連携」の主な定義

まず、国連PKO局は、「国連民軍連携(UNCivil-Military Coordination,UNCIMIC)」という言葉を使い、「国連ミッションの目的遂行を支援するため、国連統合ミッション内の軍事部門と文民部門との接点を調整したり、軍事部門と同じ地域で活動している人道支援主体や開発支援主体との接触の機会を促進したりする軍事要員の任務」、と定義しています。[3]

一方、同じ国連でも、OCHAは、文民である人道支援主体からみる「国連人道民軍連携(UNHumanitarian Civil-Military Coordination,UNCMCoord)」について、「人道的緊急事態において、人道原則を保護、促進し、競合関係を避け、矛盾した行動を最小限にとどめ、適切な場合には共通の目的を追求するのに必要な文民と軍事主体との間の欠くことのできない対話と相互作用」、と定義し、相互の意思疎通と共通の訓練を通じて可能となる連携は、双方の任務であるとしています。[4]

さらに、国連とは別に、NATOでは、「民軍協力(Civil-Military Cooperation,CIMIC)」という言葉を、「軍事的任務遂行のためのNATO軍司令官と中央・地方政府や国際機関、非政府組織などを含む民間人との間の調整と協力」、と定義しています。[5]

このように、民軍連携の定義はその目的によって異なりますが、国連PKOにおける民軍連携は、単に軍事的意図あるいは人道目的のためだけではなく、より広い意味での和平プロセスを支援するために行われるべきものとされています。[6]

民と軍の関係

人道支援等を行う文民主体と、軍事部門の主体とでは、異なる任務、目的、活動方法を持っており、民軍連携に関する用語やその定義も異なっています。このため、一見、同じように見える活動を行っている場合でも、求める民軍連携の形や必要性の度合いは、それぞれの主体によって異なったものになります。[7]けれども、近年の緊急支援の現場では、多数の民軍双方の主体が同じ地理的範囲内で活動を行う局面が増えており、お互いに意思疎通を図り、調整を行うとともに、相互理解を深め、お互いの任務や能力、あるいは能力の限界について知ることが求められています。[8]

[1]@PKOなう!第4回「拡大する国連平和維持活動」を参照。

[2]自然災害や紛争などの緊急事態に対して一貫性のある対応ができるよう、人道活動主体をまとめる国連事務局内の一部局。

[3]Civil-Military Coordination in UN Integrated Peacekeeping Missions(UN-CIMIC) (2010年1月).

[4]Civil-Military Relationship in Complex Emergencies. An IASC Reference Paper ,IASC2004年6月28日.

[5]AJP9NATOCivil-Military Co-operation(CIMIC)Doctrine. June 2003.p.1-1

[6]Civil-Military Coordination in UN Integrated Peacekeeping Missions(UN-CIMIC) (2010年1月).

[7]例えば、「国連人道民軍連携(UN-CMCoord)」には、民軍連携を行う際に尊重されるべき重要な諸原則や概念として、「人道活動の実施における独立性の確保(Operational Independence of Humanitarian Action)」、「最後の手段としての選択(Option of Last Resort)」、「軍隊への依存の回避(Avoid Reliance on the Military)」等も挙げられています。詳しくは、Civil-Military Relationship in Complex Emergencies.AnIASCReference Paper,IASC2004年6月28日を参照。

[8]内閣府国際平和協力本部事務局では、平成24年1月19日に第3回国際平和協力シンポジウム(PDF形式:6.8KB)別ウインドウで開きますを開催し、第一セッションにおいて「国際協力における民軍連携と人材育成:ハイチの経験から」を取り上げました。国際平和協力隊員、NGO関係者、国際平和協力研究員等、それぞれの視点からハイチでの民軍連携の経験について発表しましたので、ご参照ください。

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