第9回 PKO要員の派遣前研修と国連CPTM@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年6月1日
国際平和協力研究員
さとう みお
佐藤 美央

国連平和維持活動(PKO)要員の派遣前研修

 2012年4月30日現在、国連PKOは16か所に展開していますが、これらのミッションに派遣されている11万人を超える要員(軍事要員、警察要員、文民要員)は、国連加盟国から提供されています[1]。異なる国籍、文化、職業的経験、専門性など、多様な背景を持ったPKO要員が、国連システムや最近のPKOの特徴について、PKO要員に任命される前から必ずしもよく知っているとは限りません。
 複雑で、絶えず変化する困難な状況での活動を求められることが多くなっている最近のPKOにおいて、PKOミッションで活動する全ての要員が、国連のやり方についてある一定のレベルの知識や理解を持つようにするために、要員の研修は重要な要素だと考えられています[2]。平和維持活動の将来の方向性に関する非公式文書として2009年に提示された「新パートナーシップ基本方針:国連平和維持活動の新たな展望」(いわゆる、「ニュー・ホライズン」)においても、「新しい要員には、ミッションで任務を遂行するための知識やスキルを獲得するために、派遣される前の研修が必要である」と指摘されています[3]

「国連派遣前研修必修資料」(Core Pre-Deployment Training Materials,CPTM

 研修は、要員を派遣する国連加盟国と国連PKO局及びフィールド支援局、そしてPKOミッションの共同責任ですが、軍事・警察要員の派遣前研修は、基本的に国連加盟国の責任です[4][5]。そのため国連加盟国は、「ニュー・ホライズン」等の議論を通して、各国が適切なレベルの軍事・警察能力を整備して、派遣できるようにするために、派遣前研修の明確な水準設定の必要性を強調してきました[6]。その結果、それまでの「標準一般研修モジュール」に代わって、2009年に、「国連派遣前研修必修資料」(Core Pre-Deployment Training Materials,CPTM)が出されました。
 CPTMには、軍事、警察、文民、全てのPKO要員に求められる不可欠な知識[7]が含まれており、派遣前研修の時間的な制約を考慮して、一週間でCPTM研修を行えるように簡潔にまとめられています[8]CPTMでは、各トピックの目的や習得すべき事柄が明確にされていて、研修を受ける教官や研修機関の違いにかかわらず、参加者が同じ水準の知識やスキルを獲得できるように工夫されており、それぞれの状況などに応じて柔軟に対応できるようになっています[9]

[1]2012年4月30日現在の平和維持ファクト・シート(Peacekeeping Fact Sheet)を参照。軍事・警察要員を提供している国は、117か国。(http://www.un.org/en/peacekeeping/resources/statistics/factsheet.shtml

[2]Report on the progress of training in peacekeeping,Report of the Secretary-General,UNDoc.A/63/680 (2009年1月14日),p.4.

[3]Department of Peacekeeping Operations and Department of Field Support, "A New Partnership Agenda:Charting a New Horizon for UN Peacekeeping"New York,July2009,p.31.

[4]Report on the progress of training in peacekeeping,Report of the Secretary-General,UNDoc.A/65/644 (2010年12月21日),p.2.

[5]我が国では、国際平和協力法(PDF形式:234KB)PDFを別ウィンドウで開きますに基づき、派遣前研修が実施されています。

[6]Report on the progress of training in peacekeeping,Report of the Secretary-General,UNDoc.A/65/644 (2010年12月21日),p.7.

[7]例えば、国連の平和と安全に関する活動の基本的な定義とその理論的根拠や、PKOの種類、PKOの基本原則、PKOのマンデートや運用体制、PKOの機能などから、効果的なマンデート遂行にあたって重要な横断的課題として、PKOに関連する国際法や人権、特に女性や子どもの保護、ミッションパートナーとの協働なども含まれています。また、個々のPKO要員に関わる政策や手続きとして、行動と規律の問題、多様性の尊重、安全の確保なども取り上げられています。

[8]UNPeacekeepingPDTStandards,Core Pre-Deployment Training Materials, 1st edition(2009).p.1-3. CPTMのファイルは、次のウェブサイトよりダウンロード可能。(http://peacekeepingresourcehub.unlb.org/PBPS/Pages/Public/library.aspx?ot=2&scat=393&menukey=_4_5_2)

[9]Report on the progress of training in peacekeeping,Report of the Secretary-General,UNDoc.A/65/644 (2010年12月21日),p.7.

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