第10回 人権とPKO@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年6月8日
国際平和協力研究員
まつざわ ともこ
松沢 朝子

人権の概念

 人権とは、国籍、性別、人種、皮膚の色、宗教を超えて万人が生まれながらにして持つ権利[1]です。人権の概念はもともと西欧で生まれ、18世紀後半にはフランスの人権宣言[2]等で明文化されていましたが、第2次世界大戦の反省から人権問題が国際的な関心事項となり、1945年に発効した国連憲章の第1条では、人権及び基本的自由の尊重[3]を国連の目的の一つとして掲げています。

主要な国際人権法

 1948年に国連総会で、「すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。」(第1条)と定めた世界人権宣言[4]が採択され、人権について具体的な国際基準が成立しました。その後、世界人権宣言の精神を実現するために拘束力を持つ条約として「国際人権規約」が採択されました。この国際人権規約には社会権を定めたA規約[5]と自由権を定めたB規約[6]の2種類があり、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものです[7]。他にもより具体的で特定の分野の人権を保護するための条約として、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、児童の権利条約、拷問等禁止条約等が採択されてきました。[8][9]

人権とPKO

 現在すべての国連加盟国が少なくとも1つの国際人権条約を批准し、国連加盟国の8割が主な人権条約のうち4つかそれ以上を批准していますが[10]、人権侵害はいまだに多くの国で存在しています。例えば、紛争や紛争後の状況において最も頻繁に侵されやすい人権に、生存権(生きる権利)、拷問および他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱いの禁止、恣意的逮捕および拘禁、並びに公平な裁判への権利等があります。
 国連の平和維持活動は、冷戦後の国際環境の変化に伴い任務も多様化し[11]、当事者間の停戦合意を支える平和維持のみならず平和構築も重要視されるようになりました。国連PKOの多面的平和維持活動の多くにはミッションの中に人権部門が存在し、現在7つの平和維持活動、及び9つの特別政治ミッションに人権担当官が任命されており、文民保護や紛争に関連した性的暴力及び児童に対する暴力への対処等の分野で、平和維持活動要員と緊密な協力・連携をしています。[12][13]

[1]Office of the High Commissioner for Human Rights. “What are Human Rights?”Office of the High Commissioner for Human Rights.http://www.ohchr.org/EN/Issues/Pages/WhatareHumanRights.aspx, (参照 2012年4月18日).

[2]1789年に採択されたフランス人権宣言の第1条は「人は自由かつ権利において平等なものとして出生し、かつ生存する。」と明記。国際人権概念の生成と展開については、国際法学会. 人権. 三省堂、2001等を参照。

[3]“国連憲章”. 国連広報センター.http://unic.or.jp/information/UN_charter_japanese/#entry01, (参照2012年4月18日).

[4]“世界人権宣言”. 外務省.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html, (参照2012年4月18日).

[5]「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」

[6]「市民的および政治的権利に関する国際規約」

[7]“国際人権規約”. 外務省.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html, (参照2012年4月18日).

[8]条約の作成、採択経緯及び条約の全文は、“人権外交”. 外務省.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken.html,(参照2012年4月18日)、国際人権概念の形成と展開についての説明は、横田洋三(編). 国際法. 有斐閣、1996を参照。

[9]他にも、難民の取り扱いに関する人道的基準を設定した難民条約、及び武力紛争において負傷したり病気になった兵士、捕虜、そして武器を持たない一般市民の人道的な取扱いを定めた国際人道法が存在する。国際人権法、国際人道法、及び難民条約は、人間の生命、健康、そして尊厳を守るという共通の目的を補完する法律であるが、この3種類の法律がどのように相互作用するかについての詳細な説明は、International Committee of the Red Cross. “Humanitarian Law,Human Rights and Refugee Law-Three Pillars.”International Committee of the Red Cross.http://www.icrc.org/eng/resources/documents/misc/6t7g86.htm, (参照2012年5月9日) を参照。

[10][1]に同じ。

[11]冷戦後に提唱された「平和構築」の概念には、武装解除、難民・避難民帰還、地雷除去、選挙支援、人権保護などの分野における活動が含まれる。拡大するPKOの形態についての説明は、@PKOなう!第4回「拡大する国連平和維持活動」を参照。

[12]MONUSCO(コンゴ民主共和国),UNAMID(ダルフール) ,UNMISS(南スーダン),UNMIL(リベリア),UNMIT(東ティモール) ,UNOCI(コートジボワール),MINUSTAH(ハイチ)、UNAMA(アフガニスタン)等に展開中。詳細は、United Nations Peacekeeping. “Human Rights”.United Nations Peacekeeping.http://www.un.org/en/peacekeeping/issues/humanrights.shtml, (参照2012-05-07).

[13]国連PKO以外にも、難民、児童、女性等の特定分野に取り組む数多くの国連機関(国連難民高等弁務官事務所、国連児童基金等)が現場で活動している。