第43回 国連平和維持活動と国際人道法・国際人権法@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年3月15日
国際平和協力研究員
まつざわ ともこ
松沢 朝子

PKOと国際人道法・国際人権法の関係

日本を含め多くの国では、国連平和維持活動(PKO)要員を派遣する前に、国連により作成された派遣前研修必修資料を使用した派遣前研修を行います[1]。派遣前研修必修資料は、全てのPKO要員に求められる不可欠な知識[2]で構成されていますが、その中にはPKOに関係する国際法として、国際人道法と国際人権法が含まれます。

なぜ、PKO要員は国際人道法と国際人権法について学ぶことが求められているのでしょうか。

国連の活動の根拠である国連憲章には、国連の活動の主目的の一つとして、人権及び基本的自由の尊重[3]が含まれています。それゆえ、国連はPKO要員自らがロールモデルとして、その行動において最も高い水準を赴任地において示し、如何なる場合においても人権侵害や国際人道法違反を行うことは許されないとしています。さらに、現在活動するほぼすべてのPKOミッションには人権に関するマンデート(任務)が与えられています[4]

以上のことから、PKO要員は、国連職員としても、PKO要員としても、人権の尊重と保護をする責任があることを意味しており、こうした責任を果たしていくために、国際人道法と国際人権法に関する理解と知識を持つことが、PKO要員にとって求められています。

国際人道法と国際人権法

国際人権法については、概念、主要な国際人権法、及び国連で人権を担当する機関等について既に取り上げましたが[5]、国際人権法と同様に派遣前研修で習得が求められる国際人道法は、国際人権法と比較しどこが異なるのでしょうか。

まず、国際人権法と国際人道法が決定的に異なるのは適用される状況です。国際人権法は、人権が存在する状況、すなわち平時及び戦時両方において適用されるのに対し、国際人道法[6]は、武力紛争における人道的な取り扱いを定めているため、戦時に適用されます。

また、国際人道法の歴史は第2次世界大戦後に生まれた国際人権法よりも古く、19世紀半ばに最初の条約ができました[7]。国際人道法成立において中心的な役割を果たし、現在に至るまで国際人道法の守護者的役割を果たしてきたのは、国連が設立される前から活動をしてきた赤十字国際委員会です[8]

そこで、次回は、紛争地で活動する国連PKO要員にとり最も身近な国際法の一つである国際人道法の制定と実施を行い、且つ紛争地において活動する人道分野の国際機関の代表的な機関でもある赤十字国際委員会の基本理念及び活動内容について取り上げます。

[1]国連は、国連平和維持活動(PKO)要員を派遣する国連加盟国に対し、PKO要員を派遣する前の派遣前研修を行う責任があるとしている。詳細は、第9回PKOなう!「PKO要員の派遣前研修と国連CPTMを参照。

[2]"Introduction to the Core Pre-Deployment Training Materials".United Nations.CPTM http://www.cecopac.cl/documentacion/PDF/cptm/CPTM%20Preface%20-%20May%202009.pdf(参照2013年2月26日).

[3]国連憲章第1条に明記。"国連憲章全文"、国際連合広報センター、http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=2232&vm=04&re=01(参照2013年2月26日).

[4]現在、6つの平和維持活動と9つの政治ミッションに人権担当官が配置されている。詳細は、 "Human Rights".United Nations Peacekeeping. http://www.un.org/en/peacekeeping/issues/humanrights.shtml (参照 2013年2月26日).

[5]詳細は、第10回「人権とPKO、及び第19回「国連PKOの人権分野の任務の発展(前編)」を参照。

[6]「国際人道法」は、同名称の条約が存在するのではなく、ジュネーブ4条約及びその追加議定書を中心とする、様々な条約と慣習法の総称。詳細は、"国際人道法とは", 日本赤十字社、http://www.jrc.or.jp/about/humanity/index.html. (参照2013年2月26日).

[7]"国際人道法のあゆみ", 日本赤十字社、http://www.jrc.or.jp/about/humanity/history/index.html.(参照2013年2月26日).

[8]これに対し、第2次世界大戦後に生まれた国際人権法の制定及び発展において中心的に関わってきたのは国連。1993年に国連人権高等弁務官事務所が設立されてからは、同事務所が中心となり活動している。