第56回 国連PKOと文民の保護@PKOなう!
本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。
2013年8月16日
国際平和協力研究員
まつざわ ともこ
松沢 朝子
現在展開中の国連PKOの多くに付与される任務の一つに、「文民の保護」があります[1]。文民の保護に関しては、国際機関等により異なる定義が存在しますが[2]、今回のコラムでは、国連PKOの文脈における「文民の保護」について明らかにし、さらに文民の保護の任務を付与された国連PKOがどのように同任務を実施することが求められているのかについて紹介します。
文民の保護の3つのアプローチ
国連PKOにおける文民の保護の定義は、「権利ベースのアプローチ」、「危害からの身体的保護」、及び「持続する形態としての安定化と平和構築」の3つの保護に関する解釈及びアプローチにより構成されています[3]。これは、国連PKOにおいて、「文民の保護」の定義が身体的保護のみを意味するのではなく、国際人権・人道法により守られる個人の持つ権利の保護、及び、文民が安全かつ平和的に暮らすことができる環境構築による保護も含むことを意味しています。さらにこれら3つのアプローチは相互に補完するため、同時に適用されるべきであるとされていることから[4]、文民の保護活動を行うに際し、国連PKOミッションの文民・軍部門両方による統合アプローチの必要性も指摘されています。
文民の保護の実施
国連は、文民の保護に関し一義的責任を持つのは当該政府であり、文民の保護の任務を付与された国連PKOは当該政府が自国民を保護するに際し、サポートをすることがその役割であるとの立場を取っています。しかし、もし当該国政府に自国民を保護する意思又は能力がなく、文民に対する差し迫った危害の脅威が特定された場合には、すべての必要な措置を取ることができるとしています[5]。ただ、国連PKOによる文民の保護活動において最も効果的な方法は、予防であるとし、駐留、巡回、及び人権侵害のモニタリング等の予防措置が失敗または十分でない場合には、政治的圧力の強化や、軍事・警察のプレゼンスの強化等の先制措置を取るべきとしています。さらに同措置が失敗又は十分でない場合においてのみ、前述の必要な措置を取るべきとしています[6]。
[1]国連PKOに初めて文民保護の任務が与えられたのは1999年のシエラレオネ・ミッション (UNAMSIL)。詳細は、United Nations Peacekeeping. “Protection of civilians”http://www.un.org/en/peacekeeping/issues/civilian.shtml(参照2013年8月12日)。 なお、同マンデートが発生した経緯や展開の詳細については第14回PKOなう!「武力紛争下における文民の保護」を参照。
[2]国連人道問題調整事務所(OCHA)により作成された人道関係専門用語集”GLOSSARY OF HUMANITARIAN TERMS In relation to the Protection of Civilians in Armed Conflict”http://un-interpreters.org/glossaries/ocha%20glossary.pdfにおける定義や、赤十字国際委員会による「保護」の定義などが紹介されたInternational Review of the Red Cross, “ICRCProtection Policy”,Volume90November871September2008を参考(参照2013年8月12日)。
[3]United Nations Operational Concept on the Protection of Civilians in United Nations Peacekeeping Operationsにおける定義。国連PKO局により作成された文民保護に関する研修教材、及び国連訓練調査研究所(UNITAR)主催「平和活動における文民保護」E-learning教材等でも同定義を適用。
[4]国連PKO局により2011年に作成されたSpecialized Training Material on Protection of Civilians中の “Module1:Overview of the Protection of Civilians”http://peacekeepingresourcehub.unlb.org/PBPS/Library/Module%201%20Overview%20of%20the%20Protection%20of%20Civilians.pdfに明記(参照2013年8月12日)。
[5]Specialized Training Material on Protection of Civilians中の “Module2:International Legal Dimensions of the Protection of Civilians”http://peacekeepingresourcehub.unlb.org/PBPS/Library/Module%202%20International%20Legal%20Dimensions%20of%20the%20Protection%20of%20Civilians.pdfに明記(参照2013年8月12日)。 国連憲章第7章の下で、文民保護を含む任務遂行のために、すべての必要な措置を取る権限が安保理により付与されている場合。
[6]Specialized Training Material on Protection of Civilians中の “Module3:Protection of Civilians in the Context ofUNPeacekeeping Operations”http://peacekeepingresourcehub.unlb.org/PBPS/Library/Module%203%20Protection%20of%20Civilians%20Concept%20in%20the%20context%20of%20UN%20Peacekeeping%20Operations.pdfに明記(参照2013年8月12日)。
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