第57回 子どもと紛争(1)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年8月30日
国際平和協力研究員
わだ ようこ
和田 洋子

 紛争は、その状況下に生きる子どもの権利を侵害し[1]、子どもたちの生存、発達、及び成長にとても深刻な影響を与えます。そのため「子どもと紛争」は国連においても大変重要視されているテーマです[2]。このなかの問題の一つである「子ども兵士」については、以前にも@PKOなう!で取り上げていますが[3]、今回から数回にわたり、紛争下における子どもの人権侵害と保護の観点から、国連における「子どもと紛争」に関する歴史的な流れや取り組みについて紹介していきたいと思います。

国際法における「子どもと紛争」

 国際社会における「子どもと紛争」に関する議論や取り組みは、子どもの権利をはじめ、その他の国際法の概念に基づいています。子どもの権利が国際的に認知されるようになったのは20世紀に入って、国連の前身である国際連盟のもと、1924年「子どもの権利宣言」が採択されてからです。その後、第二次世界大戦後に国連が設立されると、世界人権宣言を皮切りに、現在の国際人権法の基礎が確立されはじめ[4]、 それと並行する形で、1959年「児童の権利宣言」が採択されました[5]。その後の1979年には、「国際子ども年」にあたり、ポーランド政府が国連総会で、子どもの権利に関する国際条約の必要性を提唱し、10年の作業を経て、1989年「国連 児童の権利に関する条約」が採択されました[6]。 同条約は、18歳未満の者を「子ども」と定義し、「意見表明権」「子どもの最善の利益(best interests of the child)」[7]「休息や遊び・余暇の権利」「発達権」など、未だ発達過程にある子どもたち特有の人権概念を明確にし、およそ万人が持つ権利に加え、これら子ども特有の権利を保障しなければならないことを定めており、子どもの権利を世界的に推進していく枠組みとなりました。特に紛争に関しては、同条約第38条で15歳に達していない子どもの敵対行為への直接参加の禁止、及び紛争下での子どもの保護などを規定しています。2000年には、武力紛争における児童の関与に関する選択議定書が国連総会において採択され、2002年には効力を発しました[8]。この選択議定書は、国連 児童の権利に関する条約に追加される形で、特に紛争下での子どもたちの関与に関する条約部分を強化する目的でつくられました。具体的には、a)締約国に、国軍において18歳未満の者が直接戦闘に参加しないよう、可能な限りの方法を用いること、b)国軍の自発的な徴集(voluntary recruitment)に関しては15歳を最年少とする、c)しかし、18歳未満の者に関しては特別な保護を受ける権利があるので、それらの者を自発的に徴集する場合には、十分な安全策がとられなければならない、d)18歳未満の者を強制的に徴兵することの禁止、e)武装グループが18歳未満の者を紛争に徴集・徴用することに関して、締約国は法的な策を取ることによって禁止しなければならない、としました。

国際人道法においては、1949年、ジュネーヴ諸条約で、戦闘行為に参加していない非戦闘員である子どもたちは保護の対象であること、また具体的にどのような保障がされるのかが明記されています[9]。それに加え、1977年の追加議定書(第一・第二)では、紛争当事者は、15歳未満の子どもたちが敵対行為に参加するのを防ぐべく実行可能なあらゆる手段を用いること、また 子どもたちを自国の軍隊に採用することを差し控え、紛争当事者は、15歳以上18歳未満の者の中から採用するに当たっては、最年長者を優先させるよう努める、としました[10]

国連における「子どもと紛争」に関する議論

1993年「児童の権利に関する委員会」と国連総会は共同で[11]、紛争が子どもたちに与える影響についての報告書の提出を国連事務総長に求めました[12]。 これを受け、元モザンビーク教育大臣のグラサ・マシェル氏が専門家として指名され、1996年同氏による「武力紛争が子どもに与える影響についての報告書」が国連総会に提出されました[13]。その中で、マシェル氏は、a)現代の紛争の形態が国際紛争から国内紛争へと様相を変えてきており、戦闘は村など身近な場所で起こっている、b)以前と比べて、今は、紛争被害者のほとんどが文民であり、少なくともその半数以上が子どもたちである、 c)値段の安さから、小型武器が世界中で入手し易くなっており、また、子どもでも容易に使用できるような作りになったため、子どもたちを兵士として意図的に戦闘に巻き込むことが容易になってきていることなどを分析・指摘しました。そして、改めて、紛争は、すべての子どもの権利(生存権、自分の家族と一緒に暮らす権利、医療サービスを受ける権利、自己の人格を成長させる権利、養育される権利、保護される権利など)を侵害することを強調しました。さらに、紛争による、物理的、感情的、道徳的、認知的、及び社会的発達を支える社会ネットワークや基本的な人間関係の破壊が、子どもたちに物理的、心理的影響を与えることを指摘した上で[14]、紛争下における子どもの権利侵害に関して、国連に対し、以下の提言を行いました[15]

  • 子どもと女性が必要とする保護や権利促進のための活動は、国連安保理、国連総会及び国連人権高等弁務官の紛争解決と和平合意遂行のための行動の核心的要素であらねばならない。国連平和維持要員(PKO要員)も、子どもの権利の推進に必要不可欠な役割を担うものである。
  • 紛争下にいる子どもたちの状況監視は、特有なものとして、国連の現場職員や他の組織の職員の行うモニタリングと報告活動において、最重要課題とみなされなければならない。
  • 本報告の進捗状況をモニタリングするため、また、子どもと紛争に関する課題を、国連における国際人権、平和、安全保障、及び開発をめぐる議論の俎上に常にのせるようにすべく、このテーマに関する国連事務総長特別代表を指名すべきである。

 次回の@PKOなう!では、この提言を受けての国連の取り組みについて、引き続き、紹介いたします。

[1]日本政府が「児童の権利に関する条約」を批准時に、英語で18歳未満の者であるchildを「児童」と訳していますが、その後、文部省(当時)が「子ども」を適宜使用することも考えられると通達していること、また「子ども」の方が一般的に使われていることもあり、本記事では条約自体に言及するもの、およびそれに関連する機関に関しては「児童」を使用するものの、それ以外は「子ども」を使用します。 http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/jidou/main4_a9.htm#label1 (last visited 26 July 2013)

[2]子どもと紛争に関する安保理決議リスト http://www.un.org/en/peacekeeping/issues/children/ (last visited 22 August 2013)

[3]志茂雅子研究員 @PKOなう!「子ども兵士」と国際的な取り組み(1)-(3) http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/category.html#2-6 (last visited 26 July 2013)

[4]松沢朝子研究員 @PKOなう!「人権とPKO」を参照のこと。 http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article010.html (last visited 26 July 2013)

[5]児童の権利宣言 http://www.un.org/cyberschoolbus/humanrights/resources/child.asp (last visited 26 July 2013)

[6]外務省「児童の権利に関する条約」全文http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html (last visited 26 July 2013) この原稿の執筆現在、ソマリア、米国、南スーダンを除くすべての国がこの条約を締約しています。参照: http://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=TREATY&mtdsg_no=IV-11&chapter=4&lang=en (last visited 26 July 2013)

[7]同3条(1) 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。

[8]外務省 「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H1617-008.pdf (last visited 26 July 2013)

[9]ジュネーヴ諸条約 http://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/index.html (last visited 26 July 2013)

[10]ジュネーヴ諸条約追加議定書(1977年採択) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/k_jindo/giteisho.html (last visited 26 July 2013)

[11]「国連 児童の権利に関する条約」締結において負う義務の履行と達成における締約国による進捗状況を審査するために同43条によって設置されています。参照http://www2.ohchr.org/english/bodies/crc/ (last visited 16 July 2013)

[12]U.N.General Assembly. 48th Session.Agenda Item172. Protection of Children Affected by Armed Conflicts. (A/RES/48/157) Official record. 7 March 1994

[13]U.N.General Assembly. 51st Session. Item108 of the Provisional Agenda. Promotion and Protection of the Rights of Children : Impact of Armed Conflict on Children. Note by the Secretary General. (A/51/306) Official Record. 26 August. 1996

[14]同パラ30

[15]Ten recommendations http://www.unicef.org/graca/10rex.htm (last visited 16 July 2013)

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