第64回 子どもと紛争(2)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2014年1月10日
国際平和協力研究員
わだ ようこ
和田 洋子

 @PKOなう!第57回では、国際社会で紛争下の子どもの保護の必要性が認識されるようになった経緯を紹介しました。今回も引き続き、国連における「子どもと紛争」に関する歴史的な流れや取り組みについてご紹介したいと思います。

「武力紛争が子どもに与える影響についての報告書」を受けて

前回でもご紹介したこの報告書は、執筆者のグラサ・マシェル氏への敬意と親しみを込めて、「マシェル報告」と広く専門家の間で呼ばれています。なぜなら、この報告書は、世界で初めて、紛争がもたらす子どもへの影響を明確にリポートし、世界に知らしめただけに止まらず、以後、ここに明記された提言をもとに、紛争下の子どもの保護を強化する、さまざまな世界的枠組みが作られるきっかけとなった文章であるからです。

マシェル報告が提出された1996年に、国連総会において「子どもと紛争に関する事務総長特別代表」(以下、本稿において「特別代表」という。)を設置する決議が採択されました[1]。この特別代表は、国連内外で紛争下の子どもの保護についてのアドボカシー活動(啓発活動、働きかけ)を行い、具体的な行動へと結びつけるという重要な任務を担っています。つまり、国連は、このポストを設置することで、「紛争下の子どもの保護」がいかに深刻な国際問題であるかを認識し、報告発表後も引き続き、この問題に強力に取り組んでいくとの姿勢を表したのです。

国連安保理と「子どもと紛争」

 1999年には、特別代表、国連児童基金、各国政府やNGO関係者などの強い働きかけにより、国連安保理においても「Children and Armed Conflict(子どもと紛争)」に関する決議が採択されるようになります[2]。このテーマにおける記念すべき最初の安保理決議である1261号では、世界のすべての紛争当事者に対して、紛争下で子どもたちを標的にすること、また、子ども兵を徴集・利用することを国際法に則って止めるよう促しました。これを皮切りに、国連安保理では「子どもと紛争」というテーマが確立されるようになりました。今までに多数の決議が採択されていますし[3]、このテーマに関する作業部会も作られ[4]、 年に一度は「子どもと紛争」が安保理の議題として取り上げられています[5]。その中でも特筆すべき安保理決議をいくつかご紹介しましょう。

2001年の安保理決議1379号[6]は、国連事務総長に対して、2000年から安保理に提出されることになった「子どもと紛争に関する年次報告書 」[7]に、子どもたちを徴集・利用している紛争当事者リストを添付するよう要請し、2002年の同報告書から発表されるようになりました。これにより、「どの国の、どの紛争当事者が子どもたちに対し侵害を行っているか」が公然となりました[8]。 その後、2004年の安保理決議1539号では、「子どもと紛争」に関する組織的なモニタリングと報告の必要性が強調され[9]、2005年にはこの分野で大きなターニングポイントとなる2つの進展を含む安保理決議1612号が採択されました[10]

まず、同決議により、安保理の中に「子どもと紛争に関する作業部会」が設置されました[11]。この作業部会は安保理の下部機関であり、15か国の安保理理事国によって構成され、紛争下での子どもに対する侵害行為を抑止するとともに、侵害する者の責任を追及するべく行動をとります。また、このテーマに関して、安保理に対して具体的な行動を助言したりする役割も担っています。続いて、同決議では、子どもたちに対する6つの侵害に関するモニタリングと報告システムも設置されました。6つの侵害とは、(1) 子ども兵の徴集と利用、(2) 子どもに対する殺害及び傷害行為、(3) 子どもに対するレイプ、及びその他の性的暴力、(4) 子どもたちの拉致及び誘拐、(5) 学校や病院に対する攻撃や脅かす行為、(6) 子どもたちに対する人道的アクセスの妨害や拒否、です。

これにより、上記の「6つの侵害に関するモニタリングと報告」がされ始めましたが、また合わせて、そのような侵害にかかわっている紛争当事者リスト(通称 恥のリスト)の公表も行われることになりました。この時点では、2001年の安保理決議1379号の採択以降公表されていた「こども兵の徴集・利用」のみが引き続き公表されることとなりました[12]。しかし、2009年になると安保理決議1882号[13]で、「子どもたちの殺害と傷害」、およびに「子どもたちに対するレイプ、及びその他の性的暴力」に関与しているグループのリストが、さらに2011年の安保理決議1998号[14]を受けて、「学校や病院を攻撃・脅迫している紛争当事者」のリストも事務総長報告書に添付公表されるようになり、徐々にその範囲が広げられてきています[15]。なお、一度リストに載せられたグループであっても、国連の勧告に従い、子どもに対する侵害を止めて、行動計画に基づいた活動を遂行すれば、リストから削除されることが出来ます[16]。つまり、このリストの公表は、子どもたちを侵害から保護する重要なツールの一つとなっているのです。さらに、この報告からの情報に基づき、子どもたちに対して繰り返し、深刻な侵害を犯しているものに対して個人制裁(旅行禁止や資産凍結など)を科する仕組みが安保理によって作られました。残念ながら、現在のところ、子どもたちに対する深刻な侵害を繰り返している、すべての人に適用されるものではありませんが、(1)すでに制裁の仕組みが設置されている事案である、また (2)「子どもたちに対する深刻な侵害」を繰り返し犯している、という要件を満たしている場合において、制裁を科すことが出来ます。今までにコートジボワール2名、コンゴ民主共和国14名の個人が紛争下で子どもたちに対する深刻な侵害を犯したとして制裁を受けています[17]

 

[1]UN General Assembly, A/RES/51/77 詳しい詳細については 志茂研究員 第23回 「子ども兵士」問題と国際的取組み (II)を参照のこと https://www.cao.go.jp/pko/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article023.html (last visited 12 December 2013) 

[2]いまではこの頭文字をとってCAACと呼ばれることもあります。

[3]「子どもと紛争」と題された安保理決議は9つありますが、Security Council Reportによると、子ども紛争に関連のある決議も含めると(子どもの保護をミッション主要任務に含む国連平和維持ミッションの設立文書など)この原稿の執筆時までに23あります。UN Security Council, http://www.un.org/en/sc/documents/resolutions/ (last visited 12 December 2013). Security Council Report, http://www.securitycouncilreport.org/un-documents/children-and-armed-conflict/ (last visited 12 December 2013)

[4]UN Document, S/RES/1612 (2005)

[5]UN Security Council, http://www.un.org/en/sc/meetings/ (last visited 12 December 2013)

[6]UN Document, S/RES/1379 (2001)

[7]UN Document, S/2000/712 (2000)

[8]UN Document, S/2002/1299 (2002)

[9]UN Document, S/RES/1539 (2004)

[10]UN Document, S/RES/1612 (2005)

[11]The Security Council Working Group on Children and Armed Conflict, http://www.un.org/sc/committees/WGCAAC/ (last visited 12 December 2013)

[12]10と同。当初から安保理では、恥のリストにのる侵害を段階的に増やしていく予定でいましたが、6つの侵害のうち「子どもの徴集・利用」のみを公表対象として状態が数年続いていることについて、この時点でNGOなどから、すでに懸念が示されていました。子ども兵問題以外にも深刻な子どもへの侵害があるにもかかわらず、リストが公表されないために、その他の侵害との間に対処の差が出来てしまったこと、また子ども兵の問題のみに世界の注目がいってしまったことが理由として挙げられます。The Security Council Working Group on Children and Armed Conflict, http://www.un.org/sc/committees/WGCAAC/ (last visited 12 December 2013)

[13]UN Document, S/RES/1882 (2009)

[14]UN Document, S/RES/1998 (2011)

[15]現在では、6つの侵害のうち、4つの侵害を犯しているグループが公表されています。

[16]UN Document, S/RES/1379 (2001). Office for Special Representative of the Secretary-General for Children and Armed Conflictも参照のことhttp://childrenandarmedconflict.un.org/our-work/naming-and-shaming/ (last visited 12 December 2013)

[17]Office for Special Representative of the Secretary-General for Children and Armed Conflict, http://childrenandarmedconflict.un.org/our-work/sanctions/ (last visited 12 December 2013)

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