第49回 「法の支配」と国連PKO@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年5月31日
国際平和協力研究員
わだ ようこ
和田 洋子

 「法の支配」という言葉は、法律を学ぶときによく聞かれる用語ですが、国連の活動においてもよく聞かれます。しかし一体何のことなのでしょうか? 今回の@PKOなう!では、国連における「法の支配」、特にそれとPKOミッションのかかわりを見ていきたいと思います。

「法の支配」

 私たちの社会に秩序をもたらす規範が「法」です。「法の支配」とは、法の統治、法の優位、 法の下の平等などの「法の原則」を推し進めつつ、個人の恣意的な権力の行使(人の支配)を抑止するべく、発展してきた概念です[1]。 開発、民主主義や平和を達成するためには、社会を不安定にさせる問題や紛争を解消するべく、その原因となりうる、政治的、法的制度の不備を解消し、社会を安定させる制度が必要だとし、これらの問題を解決するため、非常に大きな部分を担うのが「法の支配」とされています[2]

国連における「法の支配」

 「法の支配」の理念は、国連憲章、また国際法に掲げられており、国連の活動の重要な柱として推進されてきました[3]。 なぜならば、平和、安全保障、開発、人権、法の支配と民主主義には相互、相乗関係があり、それらすべてを可能にしていくことが、最終的には、国連の目的である「国際の平和及び安全の維持」につながっていくとされているからです[4]。 このことから、国連における法の支配推進活動は、一部の特定の状況下だけではなく、危機的状況(crisis)、危機的状況後(post-crisis)、紛争防止、紛争下、紛争後、そして開発のすべての状況下で行われるものだとされています[5]。 例えば、紛争下や紛争後に関しては、2003年に、国連安保理の閣僚級会合で「正義と法の支配:国連の役割」というテーマで話し合いがもたれ[6]、この結果をもとに、2004年には、「紛争と紛争後における法の支配と移行期正義に関する国連事務総長報告」[7]が発表され、紛争後の安定化をおびやかす犯罪や不正取引(illicit trafficking)、また紛争の原因の除去のために、法の支配を進めるよう、さらなる努力が必要だと述べています[8]

 同じくこの文書では、国連の「法の支配」の定義も明確にされました。それによると「法の支配」は、a)国連の使命の核心的要素であること b)統治の原則であること c)国家を含むすべての公私の人・機関・団体が、法に対して責を負うこととされ、この場合、「法」とは、a)公的に制定されていること b)平等に執行されること c)独立した裁判が行われること d)国際人権規範・基準に一致していることが求められるとされています。さらには、これに伴って、法の優位、法の下の平等、法に対する説明責任、法執行上の公平性、権力分立、意思決定への参加、法的明確性、恣意性の回避、手続及び法的透明性を順守し確保するための措置がとられることが必要だとされています[9]

 その後、2008年には同じく国連事務総長が「国連の法の支配支援のアプローチ」という文書を公表し、国連組織全体に共通の「法の支配」に関する支援の枠組みを打ち出しました[10]。それによると、法の支配支援の分野は、a)憲法やそれと同等な法 b)法的枠組みとその履行 c)選挙システム d)司法機関、統治(governance)機関、治安機関と人権機関 e)移行期正義のプロセスとその仕組み f)法の支配の強化に貢献し、並びに公職者及び公的機関に責任を問う公共的市民社会のカテゴリーに分かれており、国連機関が法の支配に関する援助をする際の指針となっています。

「法の支配」と国連PKOミッション

 @PKOなう! 第4回「拡大する平和維持活動」でも取り上げられましたが、近年、新しく展開された国連PKOミッションは、「統合・複合型」になり、いままでの「伝統型」から進化しています[11]。この枠組みでは、PKOミッション展開時から、すでに撤収、またその後の開発への移行までを見据えて、維持可能な平和を目的に、戦略的に軍事部門、警察部門、及び文民部門が協力し合って任務を遂行するようになっています。これに伴い、平和構築に必要となるいろいろな分野がミッションの主要任務(core business)として含まれるようになりました[12]。「法の支配」も、そのうちの一つに挙げられ、2013年5月1日現在、国連安保理決議に基づき、現在展開している14のPKOミッションのうち、4つのミッションに「法の支配の推進」に関するマンデートが含まれています[13]

[1]篠田英朗. 平和構築と法の支配. 創文社. 2004.pp. 30.

[2]国連総会 A/RES/61/39 (松尾弘 和訳).「法の支配」をめぐる国際的動向と「法の支配ユビキタス世界」への展望―国連総会およびNGOの動きを中心にー. 慶應法学第12号(2009:1).pp.246.

[3]主なものは、国連憲章、国際人権宣言、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)など。 ‘国連憲章'. 国連広報センター.http://unic.or.jp/information/UN_charter_japanese/, (参照2013年5月1日). ‘世界人権宣言(仮訳文)'. 外務省.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html, (参照2013年5月1日). ‘国際人権規約 自由権規約'. 外務省.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html, (参照2013年5月1日).

[4]United Nations Security Council,Report of the Secretary-General on the Rule of Law and Transitional Justice in Conflict and Post-conflict Societies(S/2004/616).http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N04/395/29/PDF/N0439529.pdf?OpenElement(参照 2013年5月1日).

[5]United Nations,Guidance Note of the Secretary-General:UN Approach to Rule of Law Assistance(2008),p.2.http://www.unrol.org/files/RoL%20Guidance%20Note%20UN%20Approach%20FINAL.pdf(参照 2013年5月1日).

[6]United Nations Security Council, 4833rd meeting-Justice and the Rule of Law:the United Nations role,S/PV.4833(2003), 4835th meeting-Justice and the Rule of Law:the United Nations role,S/PV.4835(2003).

[7]United Nations Security Council,The rule of law and transitional justice in conflict and post-conflict societies-Report of the Secretary General.S/2004/616.

[8]同 パラ4.

[9]同 パラ6.

[10]このカテゴリーの和訳は、筆者によって行われたものであり、公式なものではありません。4と同pp.4-7.

[11]United Nations,United Nations Peacekeeping Operations:Principles and Guidelines(2008).pp.21-22.

[12]同pp.27.  

[13]‘ 現行国連PKO・政治ミッションマンデート表' http://www.un.org/sc/inc/pages/pdf/pow/2013/mandate.xls(参照 2013年5月1日).

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