第48回 PKOの運用に関する国連の意思決定機関(1):安全保障理事会(前編)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年5月24日
国際平和協力研究員
つづき まさやす
都築 正泰

はじめに

 国連平和維持活動(PKO)の運用に関する意思決定が、国連の中で、どの機関によってどのように行われていて、そしてそこにはどのような加盟国間の政治力学[1]が作用しているのでしょうか。国連PKOの運用に関し意思決定を行うのは、安全保障理事会(安保理)、総会、及び事務局の3機関です。今回と次回は、安保理を取り上げます。以下では、まず国連PKO各ミッションの運用に関し安保理では何が決められているのか、また、そこにはどのような課題があるのかについて述べたいと思います。

安保理による決定事項

 国連PKOミッションの設立は、多くの場合、安保理決議によって決定されます[2]。実際、現在展開中の15の国連PKOミッションの全てが安保理決議によって設立されています。なお、各PKOミッションの設立を決定する安保理決議では、活動期間、活動範囲、任務(マンデート)、兵力水準等が規定されています[3]。各PKOミッション設立後、安保理は事務総長から定期的に活動報告を受け、その都度、各ミッションの今後の活動の方向性につき議論を行います[4]。活動期限を迎えるミッションについて、安保理は事務総長からの報告・勧告を踏まえ活動を継続するべきか否かを検討し、活動を継続する場合には新たに活動期間の延長の決定を含む決議を採択します。

国連PKOの拡大の中で安保理が負う「制約」

 このように、安保理は、国連PKO各ミッションの設立あるいは活動の継続、さらにマンデート等の重要事項を決定する機関です。つまり安保理は、国連PKOの運用に関し中心的な意思決定機関として位置づけられます。この点を国連憲章との関連でみると、次のとおり整理できます。国際の平和と安全の維持を主要任務とする安保理15理事国(常任5、非常任10)は、全加盟国(193カ国)を代表して国連PKO各ミッションの運用に関する意思決定を行い(第24条1項[5])、また、その決定は全加盟国によって受諾され、かつ履行されることになります(第25条[6])。しかし実際は、国連全193加盟国の約8%に過ぎない安保理15理事国が決定した事項が、全加盟国によって履行されるようにするにはどうするべきかという政治的課題があります。

 現在、国連は15のPKOミッションを展開していますが、これらは全加盟国から提供される資源を総動員して展開されています。財政面でみれば、国連PKO予算は、全加盟国が義務的に支払う分担金によって賄われています[7]。近年、国連PKO予算[8]は膨張傾向にあります。たとえば、2002-2003年のPKO予算は約27億米ドル[9]でしたが、2012-2013年PKO予算は2002-2003年予算の二倍以上の約73億米ドル[10]です。2008年以降、PKO予算は70億米ドル以上となっています[11]。また各PKOミッションにおいて停戦監視や治安維持等の根幹的なマンデートを担う軍事・警察要員を派遣する加盟国は116カ国(2013年4月現在)あり、全193加盟国の約60%にあたります[12]

 このように、国連PKOが全加盟国の資源を総動員する活動として拡大する中で、各ミッションの運用にかかる重要事項の意思決定が安保理15理事国のみで行われているという政治課題がここで明らかになります。すなわち、国連PKOの運用上安保理は、意思決定機関であってもその意思決定の実施主体ではないという「制約」を抱えていることになります[13]。国連PKOが拡大する中でこの安保理が持つ「制約」はより増幅する傾向にあるといえます。

 この点に注目した上で、次回は、各国連PKOミッションの運用における安保理の意思決定がどのように行われているか、特に安保理は非安保理メンバー国との関係においてどのような点に配慮しているかについて考察し、国連PKOの運用という観点からみた安保理改革の必要性について論じたいと思います。

[1]北岡伸一『国連の政治力学:日本はどこにいるのか』中公新書、2007年、iv頁。本稿で用いる「政治力学」の語は同書から示唆を受けたものである。

[2]United Nations Peacekeeping, “Role of the Security Council,”accessed 17 May 2013,https://www.un.org/en/peacekeeping/operations/rolesc.shtml.

[3]Ibid.

[4]北岡、前掲書、137-139頁。都築正泰「国連安保理による作業方法改善の動向―安保理議長ノート507(S/2006/507)改定を題材に―」、『外務省調査月報』2011/No.4、46-47頁及び52-54頁。

[5]国連憲章第24条1項「国際連合の迅速かつ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるものとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果たすに当って加盟国に代って行動することに同意する。」

[6]国連憲章第25条「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する。」

[7]国連予算を大別すると次の2点に分類できる。第1は、各加盟国がその負担能力に応じて総会が決定する分担率に従って義務的に支払う分担金(憲章第17条2項)であり、第2は、各加盟国が自発的に支払う拠出金である。前者(分担金化される国連予算)に含まれるのは、通常予算(国連本部事務局及び世界各地の現地事務所等の経費)、国連PKO予算等である。なお、通常予算の分担率は各国の支払い能力に基づき決定され(総会手続規則160)、近年は3年毎に総会で分担率の算定方式が決定される。PKO予算の分担率は、通常予算の分担率を基礎に途上国に対し割引調整を行い、その分が安保理常任5理事国(Permanent Five,P5)に割増される。我が国を含むP5以外の先進国は、PKO予算の分担率では通常予算の分担率が適用される。現行(2013-2015年)の我が国の通常予算・国連PKO予算の分担率は10.833%(2010-2012年の我が国の分担率は12.530%)。

[8]国連PKO予算は、7月から翌年6月末までの1か年予算(総会決議49/233、1994年12月23日採択)。なお国連PKO予算には、国連休戦監視機構(UNTSO)及び国連インド・パキスタン軍事監視機構(UNMOGIP)各予算は含まれない。両ミッション設立時、PKO予算制度が存在せず、UNTSO及びUNMOGIPは現在でも通常予算から支出されている。

[9]UN Document,A/C.5/66/18, “Approved resources for peacekeeping operations for the period from 1 July 2012 to 30 June 2013,”p.3, 27 June 2012.

[10]UN Document,A/C.5/57/22, “Approved resources for peacekeeping operations for the period form 1 July 2002 to 30 June 2003,”p.2, 13 November 2002.

[11]Global Policy Forum, “Peacekeeping Operations Expenditures: 1947-2005,”accessed 17 May 2013,http://www.globalpolicy.org/component/content/article/133-tables-and-charts/27448-peacekeeping-operations-expenditures.html.

[12]UN Department of Peacekeeping Operations, “Ranking of Military and Police Contributions to UN Operations(16 April 2013),”accessed 17 May 2013,http://www.un.org/en/peacekeeping/contributors/2013/apr13_2.pdf.

[13]松浦博司『国連安全保障理事会:その限界と可能性』、東信堂、2009年、33-36頁。