第50回 我が国の国際平和協力と人材育成@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年5月31日
専門官(人材育成担当)
あいはら やすあき
相原 泰章

 「@PKOなう!」では、これまで49回にわたり、国際平和協力研究員が各自の専門分野のトピックについて解説記事を連載してきました。これまでに掲載された記事をご覧になった皆様には、記事の内容や参考文献などを参考にしていただけたと思います。第50回の節目となる今回は、国際平和協力やそれをとりまく我が国の人材育成の課題についてお話ししたいと思います。

 国際平和協力研究員制度は、内閣官房長官主催の「国際協力懇談会」 (座長:明石康元国連事務次長)が平成14年にまとめた報告書に盛り込まれた提言も踏まえ、平成17年4月に当事務局に設立された制度です。設立以来、現在までに合計42名の研究員が着任し、2年間を上限とする任期中に、各自の専門分野の中から選んだテーマを研究して専門性を高めるとともに、当事務局の業務に専門的知見を提供して事務局業務を強化することを2つの活動の柱とし、将来的に国際平和協力の幅広い分野において、海外の現場において、国連・国際機関などで勤務する人材の育成を目的としています。これまでに34名の研究員が研究員を卒業しましたが、そのうちの約4割が国連・国際機関に勤務したほか、政府省庁やNGO、さらに学術機関などに進んだ者もおり、人材育成制度として着実な成果を挙げてきています。

 ではなぜ、研究員制度のようなメカニズムが必要なのでしょうか?これまでの記事の中でも取り上げられましたが、現在の国際社会で発生する紛争は、その多くが複雑な背景と要因をかかえています。国際社会が紛争後の国々に平和を構築するための協力を効果的に行っていくためには、単に軍事・治安面の安定を図るだけでなく、紛争終了後に短期的・長期的に実にさまざまな分野において、インフラの復興や行政制度などの再構築を進めるとともに、国の将来を担う人材を育成していく必要があります。そうした支援を効果的に行っていくためには、協力を行う立場にある日本が、専門性を持つ優れた人材を持っていなければなりません。国際協力分野でのキャリア形成を希望する若い人たちが増えていることは明るい傾向ですが、国際平和協力は、紛争後の国という、やや特殊な環境で活動することが求められるため、通常の国際協力に加え、その国で紛争が再発しないように注意する必要があるほか、協力に携わる人の安全にも特に留意する必要があります。しかし、そのような経験を持っている人材は、日本では必ずしも多くありません。また、国際協力分野一般にそうですが、多くの業務は数年単位の契約に基づくものであり、海外で国際協力を行って帰国した人の経験は、現在の日本において必ずしも適正に評価されているわけではありません。そのため、国内においても、それらの貴重な人材を活用するとともに、より充実させていくための仕組みが必要になっているのです。

 現状で課題は多くあるものの、日本が国際社会の平和と安定のために十分な貢献を行うためには、着実な努力をしていく必要があります。国際平和協力研究員制度は、小規模ではありますが、そのための具体的な取り組みであり、研究員として勤務した人材のより一層の活躍が求められるところです。国際平和協力研究員は、紛争後の国で行われる選挙監視団員に参加している他、当事務局で毎年度開催する「国際平和協力シンポジウム」や、「国際平和協力研究論文集」で各自の活動成果を発信しています。さらに海外のPKO訓練センターで世界各国から参加した研修生への指導や、出前講座として国内の大学や研究機関、自治体で専門分野での講義や講演を行うなどしています。「@PKOなう!」をお読みいただいている皆様からも、引き続き研究員に対する御支援をお願いいたします。