第51回 難民と国内避難民@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年6月14日
国際平和協力研究員
ふるもと ひでひこ
古本 秀彦

 難民とは、どのような人々でしょうか?また、それは国内避難民(Internally Displaced Persons:IDP)とどのように違うのでしょうか?国内避難民も含めて、すべて「難民」という言葉で呼んでいる方は、実は結構多いのではないかと思います。今回は、難民と国内避難民の違い、それに伴う支援の性質の違いについて考えてみたいと思います。

難民とは?国内避難民(IDP)とは?

 どのような人々が難民と呼ばれるか、これには条約による明確な定義が存在し、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定められています[1]。 「難民条約」によって、難民が享受できる基本的な権利と、難民受け入れ国の義務も明確にされています[2]

 一方、国内避難民(IDP)はどのような人々でしょうか?国内避難民には、明確な法的定義が存在しません。状態を表す定義(descriptive definition)として、紛争や政治的な迫害、そして災害等によって『非自発的な移動を強いられている』人々で、『自国の中に居る人』が、国内避難民と呼ばれます[3]

 簡単な見方をすれば、国境を越えたか、越えていないかが難民と国内避難民の大きな違いになります。

難民支援と国内避難民支援

 難民支援においても、国内避難民支援においても、人々への支援の責任はまずは難民を受け入れた、または国内避難民が発生した当該国政府にあります。しかし、その「責任」は何に依拠したものであるかが、難民支援と国内避難民支援で異なります。難民支援では、難民条約という国際法の下、難民受入国が難民の基本的人権を守り、基本的なレベルの生活ができるような支援を行うことは難民受入国の「義務」とされます。さらに最も重要な点として、難民条約にはノン・ルフールマン(non-refoulement)の原則があり、難民は迫害の危機に直面する国へ送還・追放されてはならないと定められています[4]。 そうした保護と支援を行うために、難民条約に基づいて設置された国連機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、当該受入国と共に難民を支援する任務(マンデート)を与えられています。支援の場において、UNHCRは、そのマンデートに基づき、難民の身体的、法的保護、基本的なサービスの提供、そして難民個々人の恒久的解決(Durable Solutions)のための支援、全てを担当することとなります。

 一方、国内避難民は避難先でも同じ国の国民であり続けます。そのため、支援の責任は根本的に、主権国家である当該国政府にあります。国際社会の役割は、あくまで当該国政府の国内避難民支援を補強する形で行うのが原則です[5]。 しかしながら、国内避難民が発生する状況とは、紛争や災害等、往々にして当該国政府に国内の人々を保護する能力が著しく低下した状態であると言えます。また、当該国政府自体が、国内避難民を生み出す行動をしている、または国内避難民への支援をしようとしないというケースもあります。こうした場合、国際人権法、国際人道法が、国内避難民を保護・支援するための根拠となりますが、当該国がこれら国際法を尊重しない場合もあります。国連をはじめとした援助機関・組織は、こうした国内避難民の支援において、近年、一定の基準が満たされる人道危機の場合、クラスター・アプローチという支援枠組みを用い、常駐調整官(Resident Coordinator)または人道調整官(Humanitarian Coordinator)の下、各クラスター(支援分野)で主担当となる組織を定めた支援を行っています[6][7]

 いずれにしても、国内避難民支援は、難民支援と異なり、まず当該国政府の問題とみなされること、そして中・長期的には当該国政府が「国内避難民」という自国民への支援の責任を確実に果たしていくことが求められます。

 従来、国内避難民支援においては、「国内強制移動に関する指導原則」が存在し、世界各国が国内避難民に関する法整備を行う、または支援を行う際の指針となってきました[8]。 昨年(2012年)12月、ウガンダにて、アフリカの国内避難民の保護と支援条約(カンパラ条約)が施行されました[9]。 カンパラ条約は、難民条約と似た性質を持っていると言え、批准国が国内避難民の保護と支援を行う義務と責任に法的拘束力を持たせたという意味で画期的な条約と言えるでしょう[10]

[1]国連難民高等弁務官事務所日本事務所ホームページ。http://www.unhcr.or.jp/protect/treaty/index.html(2013年5月16日参照)

[2]1951年、「難民の地位に関する条約」が採択され、また1967年には「難民の地位に関する議定書」が採択されました。 通常、これら二つを合わせて「難民条約」と呼びます。 国連難民高等弁務官事務所日本事務所ホームページ。http://www.unhcr.or.jp/protect/treaty/index.html(参照2013年5月16日)。 原文を読まれたい方は、右リンクをご参照ください。http://www.unhcr.org/3b66c2aa10.html(参照2013年5月16日)

[3]Handbook for the Protection of Internally Displaced Persons,Global Protection Cluster,June2010.pp8.

[4]国連難民高等弁務官事務所日本事務所ホームページ。http://www.unhcr.or.jp/html/right_and_duty.html(2013年6月3日参照)

[5]Handbook for the Protection of Internally Displaced Persons,Global Protection Cluster,June2010.pp9.

[6]クラスター・アプローチを開始する基準は (1)新たな大規模な人道危機の発生、または現行の人道支援における著しい状況の変化および悪化、 (2)当該国の人道支援における調整能力の不足、または当該国の人道危機への対応能力の不足、 (3)マルチ・セクターにおけるニーズ、および現行の調整メカニズムの人道危機対応へのギャップの存在、 (4)人道支援関係アクターの数および各セクターにおける調整機能の必要性、の4つがあげられます。http://clusters.humanitarianresponse.info/activate-and-deactive-clusters(2013年5月29日参照)

[7]クラスター・アプローチにおいては、「難民支援」もクラスターの一部になり、その場合UNHCRがクラスター・リード機関となります。しかし、これは複雑な人道危機の状況下に難民も含まれる場合のことであって、難民支援のみの場合には、クラスター・アプローチは適用されません。

[8]UNOCHA, "Guiding Principles on Internal Displacement", 1998.https://ochanet.unocha.org/p/Documents/GuidingPrinciplesDispl.pdf(2013年5月29日参照)。 日本語版は、http://www.brookings.edu/~/media/Projects/idp/GP_Japanese.pdf(2013年5月29日参照)

[9]カンパラ条約は、現在アフリカで31の国が署名、15の国が批准しています。条約の原文は以下のリンクをご参照ください。http://www.peaceau.org/uploads/african-union-convention-for-the-protection-and-assistance-of-internally-displaced-persons-in-africa-en.pdf

[10]世界の国内避難民人口の4割がアフリカに存在するという点からも、カンパラ条約は重要な意味を持ちます。http://www.internal-displacement.org/kampala-convention(2013年5月29日参照)

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