第59回 人道支援制度の改革@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2013年9月27日
国際平和協力研究員
ふるもと ひでひこ
古本 秀彦

 シリア危機、また南スーダン、ソマリア等、世界各地の人道支援においては、現在クラスター・アプローチの適用が一般的です。今回は、クラスター・アプローチを中心として、調整メカニズムを概観するとともに、2011年12月に発表された「人道支援制度の改革」[1]Transformative Agenda)について紹介します。

2005年の人道支援改革とクラスター・アプローチ

 近年、人道支援においては、明確な主担当機関が存在する分野がある一方、主担当機関が明確でない分野が事実上存在してきました。こうした状況が、場当たり的な支援や、分野毎の支援のギャップを生んできたという認識に基づき、2005年、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)および機関間常設委員会(Inter-Agency Standing Committee:IASC)によって、人道支援改革(Humanitarian Reform)が始められました[2]
 この人道支援改革の主要な点は、人道問題調整官(Humanitarian Coordinator[3]によって指揮される人道カントリーチーム(Humanitarian Country Team:HCT)と、クラスター・アプローチの導入です[4]。「クラスター」とは、食糧、保健、シェルター等、各支援分野ととらえることができます。各クラスターには、世界レベル、国レベル双方で共通のクラスター・リード機関が設定されており、各リード機関は他機関やNGOが参加する担当クラスターの調整に責任を持つとともに、”Provider of last resort”(最終手段としての支援の提供者)として、担当クラスターの支援実施に最終的な責任を持ちます[5]。このようなクラスター・アプローチは、2005年、パキスタン北部地震への支援で初めて適用されたのち、現在は30以上の国・地域の人道支援で運用されています[6]

人道支援制度の改革(Transformative Agenda

 上述のクラスター・アプローチについては、2007年および2010年と、二度の公式な評価が行われてきました[7]。総じて、クラスター・アプローチは年を経るごとに洗練されてきているという評価がある一方、二回目の評価においても、リーダーシップや説明責任の不明確さ、効率的なクラスターの調整等の課題が指摘されています[8]。こうした中、2010年のハイチ地震およびパキスタンの洪水という人道危機は、人道支援枠組みの弱点や非効率性をさらに浮き彫りにしたと認識されたため、IASCは、2011年に行動計画として「人道支援制度の改革」(Transformative Agenda)を採択しました[9]。同アジェンダは、主に「突然、かつ大規模な人道危機」への、事前に合意された人道支援組織総体としての対応(System-wide response)を確立しました[10]。その主要な目的は、リーダーシップの強化、調整機能の円滑化、そして説明責任の明確化にあります[11]
 「人道支援制度の改革」では、「突然、かつ大規模な」人道危機が発生した際、当該国・地域の既存の支援体制を考慮に入れつつ、速やかに人道問題調整官、および新しく設立された機関間即応メカニズム[12]Inter-Agency Rapid Response MechanismIARRM)を通じて、各クラスターの調整を行う専門家を派遣します[13]。その上で、人道問題調整官は、従来の調整メカニズム下で与えられている人道カントリーチームにおける調整責任者の権限を越え、各種の決定・承認権を持ちます[14]。さらに、クラスター間の調整、情報の集約等も、人道問題調整官の下に強化され[15]、支援の成果をより明確に外部に対して示すことが目指されています[16]
 このような人道支援の調整メカニズムの発展が、今後、より迅速かつ効果的な支援につながることが期待されています[17]

[1]Transformative Agenda について、外務省の和訳は「人道支援体制の改革」となっています。これを、「人道支援制度の改革」としたことは、筆者による意訳です。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jindo/jindoushien2_2y.html(2013年9月17日参照)。

[2]Inter Agency Standing Committee, “Guidance Note on Using the Cluster Approach to Strengthen Humanitarian Response”, 2006.p1

[3]人道危機の規模や、既に当該国に存在する国連機関のキャパシティによって、人道問題調整官は、国連常駐調整官(Resident Coordinator)が兼ねる場合もあります。Inter Agency Standing Committee, “Handbook for RCs and HCs on Emergency Preparedness and Response, 2010.p2

[4]国連人道問題調整事務所(神戸事務所)ホームページ。http://www.unocha.org/japan/about-us/about-ocha/international-humanitarian-system

[5]Inter Agency Standing Committee, “Guidance Note on Using the Cluster Approach to Strengthen Humanitarian Response”, 2006.p3-4,p7-8.

[6]Humanitarian Response ホームページ。 https://clusters.humanitarianresponse.info/about-clusters/what-is-the-cluster-approach(2013年9月13日参照)

[7]一回目の評価は、Stoddard et al, “Cluster Approach Evaluation Final Report, UNOCHA, 2007。以下のリンクから参照できます。https://clusters.humanitarianresponse.info/system/files/documents/files/Cluster%20Approach%20Evaluation%201.pdf、また、二回目の評価は、Steets et al, “Cluster Approach Evaluations 2, Synthesis Report, IASC, 2010。以下のリンクから参照できます。
https://clusters.humanitarianresponse.info/system/files/documents/files/Cluster%20Approach%20Evaluation%202.pdf

[8]Steets et al, “Cluster Approach Evaluations 2, Synthesis Report, IASC, 2010.p11-15.

[9]IASC, “Key Messages:The IASC Transformative Agenda”,p1. http://www.humanitarianinfo.org/iasc/downloadDoc.aspx?docID=6229 (2013年9月13日参照)

[10]同上。p2. しかし、Transformative Agendaの大半の内容は、より小規模な人道危機、長期化している人道危機にも適用されます。

[11]同上。p1.

[12]筆者による和訳です。

[13]同上。p2. 当該国に、既に人道問題調整官やクラスター調整官、またはそれら役割を担える人材リソースがある場合には、既存の当該国におけるリソースが活用されます。

[14]IASC, “1.Concept Paper onEmpowered Leadership'”, 2012.p1-2.http://www.humanitarianinfo.org/iasc/downloadDoc.aspx?docID=6458 (2013年9月13日参照)

[15]同上。p2-3.

[16]IASC, “Key Messages: The IASC Transformative Agenda”,p1.

[17]Transformative Agenda、以下のIASCホームページに、各種の文書が掲載されています。http://www.humanitarianinfo.org/iasc/pageloader.aspx?page=content-template-default&bd=87 (2013年9月13日参照)

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