第102回 国連警察 (UNPOL) の概要と国連平和活動における役割

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

  • 2019年10月28日
  • 国際平和協力研究員
  • よしだ ゆうき

  • 吉田 祐樹

 国連平和活動と聞いて、青いヘルメットをかぶった軍事要員を連想する人は多いと思いますが、警察要員を連想する人は少ないのではないでしょうか。国連警察 (UNPOL) は、国連平和活動局 (UN Department of Peace Operations) 内にある警察課 (Police Division) を通して、国連平和活動の現場に警察要員を派遣し、文民保護や現地警察の育成等の重要な任務を担っています。本稿では、平和活動の現場では日に日に必要性が高まっているものの、その活動内容や実態は意外と知られていない国連警察について概説します。

国連警察の歴史

 1948年、トリグブ・リー初代国連事務総長が国連警察の創設に言及し、1960年に初めて国連コンゴ活動 (ONUC) にガーナの警察官30名が警察要員として派遣されました[1]。創設当初は現地治安機関の監視等の比較的単純な任務が主でしたが、1990年代以降の平和活動ミッションにおいては、アンゴラ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カンボジア、エルサルバドル、ハイチ、旧ユーゴスラビア、コソボ、東ティモール等に多数の警察要員が派遣され、現地の治安維持、法執行、現地警察の再編や育成等の複雑な任務が付与されました[2]。本稿執筆時点では、スーダン西部のダルフール、中央アフリカ共和国、南スーダン、マリ、コンゴ民主共和国をはじめ、1万人近くの警察要員が12のミッションで活動しています[3]
 国連本部では、2000年にコフィ・アナン事務総長 (当時) が設置した専門家によるハイレベル・パネルが発表した「ブラヒミ報告」は、国連警察の運用に関して、法の支配体制の強化及び人権保護の促進に更に活用すべきであると提言しました[4]。同年、従来の軍の指揮系統から切り離す形で今日の警察課が創設、2011年に国連警察に関する初の事務総長報告 (A/66/615) が発表、2014年には国連平和活動における国連警察の重要性を明記した初の安保理決議 (S/RES/2185) が全会一致で採択、2017年にも同様の安保理決議 (S/RES/2382) が採択されるなど、平和維持から平和構築及び開発への移行促進における国連警察の役割に注目と期待が高まってきています。

国連警察要員の種別と任務

 国連警察は主に国連加盟国から提供された警察官で構成されており、現場のニーズに合わせて、3つの種別に分かれて様々な任務を実施しています。ここでは各種別とその役割、任務、特徴等について紹介します。

(1)組織警察隊 (Formed Police Unit: FPU)
昨今の国連平和活動では、多くの警察要員がFPUの一員として活動しています。1部隊約140名の警察要員から構成され、公共秩序の維持、国連職員及び国連関連施設の保護、その他警察能力を必要とする事案への対応を行います[5]。FPUの警察要員は、これらの任務に必要とされる催涙ガス弾や自動小銃を携行しています[6]。国内の治安維持支援が主要任務ですので、原則軍事能力を必要とするオペレーションには参加しませんが、危険度の高い地域で文民保護任務を実施することもあります[7]。FPUは1999年に初めてコソボと東ティモールに派遣され、暫定的な法執行や公共秩序に対する脅威への対処を担いました。

(2)個人警察官 (Individual Police Officer: IPO)
IPOは非武装、もしくは自衛に必要な最小限の武器を携行しており、パトロール等を含む地域型警察活動、情報収集・分析、現地警察官の育成、犯罪捜査に係る専門知識の共有、国際組織犯罪対策支援等に従事します[8]。IPOは各警察官の専門性に応じて、主に事務・後方支援、能力強化・開発、警察指揮系統整備、犯罪捜査・公共秩序維持の4分野のいずれかで採用されますが、刑事司法の知識、最低5年の警察官としての活動実績、1年の運転実績、語学力、武器の扱い方に関する知識、コンピュータースキル等は最低限の採用基準とされています[9]

(3)特殊警察チーム (Specialized Police Team: SPT)
SPTは現地の特殊な支援ニーズに基づいて、専門知識や能力を活かして治安維持や文民保護に貢献しています。具体的には、組織犯罪、性的暴力、地域型警察活動等の専門知識を持った警察官を派遣し、各課題に取り組みます[10]。例えば、ハイチには性的暴力対策専門のチームを派遣し、性的暴力被害専門の窓口を設置しました。マリでは、現地警察に対してテロ行為や国際組織犯罪対策のための能力向上支援を実施しました。

 また、国連警察を語る上で欠かせない点は、国連常設警察キャパシティ (Standing Police Capacity: SPC) を保有していることです[11]。2006年に国連総会でSPC設立が承認され、2010年には拠点をニューヨークからイタリアのブリンディジに移設。常時約40名の職員が待機しており、新規平和活動ミッション警察部門の立ち上げ支援や現行ミッションに対する助言等を行っています。その貢献は2011年の事務総長報告で取り上げられたほか、2016年に公表された国連警察部門の機能や能力評価を行った外部レビューでは、現場のニーズに即応するためにSPCの更なる規模拡大の必要性が指摘されました[12]

国連加盟国による貢献

 上述の通り、国連警察は国連加盟国から派遣された警察官で構成されています。安保理が新設した平和活動ミッションに警察活動に関する任務が付与されていた場合、警察課は各国政府に空席公募案内を発出し、各国は派遣候補者を選抜します[13]。その後、候補者は国連の各種基準に基づいた適性診断や面接を受験し、採用合否が決まります。国連警察の一員になると、FPUは約1年、IPO及びSPTは6か月~2年の任期で現地に派遣されます[14]
 主要な警察要員派遣国にはセネガル、ルワンダ、エジプト、バングラデシュ、ヨルダン、ネパール等の途上国が多数を占めており、平和活動の最前線で重要な任務を担っています[15]。国連内において財政的貢献を通して影響力を維持してきた先進国に対し、途上国はこうした人的貢献を通してプレゼンスを高めてきています。

国連警察が直面している課題

 現場での必要性が高まっている国連警察ですが、いくつかの課題も抱えています。第1に警察要員の不足です[16]。どの国でも警察は基本的に国内治安維持のための組織であり、警察官を外国に派遣する余裕がある国は限られているため、毎回の平和活動のために警察要員を確保することは非常に困難です。また、現場では国連職員や国連関連施設の保護のために多くの警察要員が投入される場合が多く、地域住民や難民等が暮らす地域のパトロールが後回しにされることがあります。
 第2に各国警察官の能力差です。基礎的な警察知識や経験に差があると、国連警察として一丸となって効果的及び効率的に任務を遂行することは難しくなります。警察要員の語学力不足も、保護対象である地域住民とのコミュニケーションを大幅に制限しています。
 第3に法執行能力の欠如です。国連警察による第三国における法執行は同国主権の侵害と批判されることもあり、近年、安保理は国連警察に対して法執行任務を付与していません[17]。ただし、法執行能力がなければ容疑者を逮捕することはできませんので、犯罪抑止や秩序の維持に限界があるのも事実です。
 第4に警察要員と軍事要員間の役割分担の不明確さです[18]。FPUは一定の治安維持任務を行うことは可能である一方で、戦闘規模が拡大し、警察能力で対処できない事態に発展した場合は、軍が警察に代わって状況の鎮静化にあたります。理論上はこのように整理されますが、絶えず変化する状況下での警察⇔軍の切替のタイミング、共同オペレーションの実施等の現場判断に関しては、依然として両者の連携不足が指摘されています。

警察分野における日本の貢献

 日本も国際平和協力の一環で、国連平和活動に警察要員を派遣してきました。1992年に国連カンボジア暫定機構 (UNTAC) に75名の文民警察要員を派遣し、現地警察による活動の監視、捜査方法等の指導・助言を実施しました[19]。日本の警察要員は現地の治安維持に大きく貢献した一方で、任務中に武装集団の襲撃を受け、髙田晴行警視 (当時警部補) が殉職したことは痛恨でした[20]。 その後、1999年に3名の文民警察要員を東ティモールに派遣し、インドネシア警察の行政事務に対する助言等、2007年にも4名を同国に派遣し、国連東ティモール統合ミッション (UNMIT) 警察部門長に対する助言等の側面支援を実施しました。それ以来、日本は警察要員を派遣していませんが、警察庁等は国際協力機構 (JICA) を通じて、途上国に対して各分野の専門家として警察官を派遣し、現地警察の能力強化に継続的に貢献しています[21]

おわりに

 今日の国連平和活動を見ると、依然として軍事要員は数的にも装備的にも警察要員を上回っており、国際社会の軍事部門に対する関心や貢献度が比較的高いのは事実です[22]。しかし、国連警察は軍事部門にはない強みを多く持っています。国連警察は、現地警察をはじめとする治安機関の育成を通して法の支配体制を強化し、国内治安の安定に貢献してきました。現地の治安の安定化は、その後の平和構築や開発の円滑化には必要不可欠です。今後現場のニーズに応えて活動規模を更に拡大するためには、現在抱える問題の解決に継続的に取り組むとともに、活動地域における平和と安定への貢献の実績を着実に積み上げ、それらを戦略的に発信していくことが肝要です。

 

[1]  United Nations. 2011. "Report of the Secretary-General on United Nations Police" (A/66/615). New York: UN General Assembly.

[2]  UN Police. 2013. "United Nations Police on Duty for Peace: 2008-2012." New York: UNPOL.

[3]  UN Police. 2019. Police Contributors (https://police.un.org/en/police-contributors). Accessed 3 Sep 2019.

[4]  United Nations. 2000. "Report of the Panel on United Nations Peace Operations" (A/55/305-S/2000/809). New York: UN.

[5]  UN Police. 2019. Formed Police Units (FPUs) (https://police.un.org/en/formed-police-units-fpus). Accessed 3 Sep 2019.

[6]  Sebastian, Sofia. 2015. “The Role of Police in UN Peace Operations: Filling the Gap in the Protection of Civilians from Physical Violence.” Stimson Center, 11.

[7]  Osland, Kari M. 2019. "UN Policing: The Security-Trust Challenge." In United Nations Peace Operations in a Changing Global Order, ed. Cedric de Coning and Mateja Peter, 191-209. Palgrave Macmillan.

[8]  UN Police. 2019. Individual Police Officers (IPOs) (https://police.un.org/en/individual-police-officers). Accessed 3 Sep 2019.

[9]  Sebastian, 11.

[10]  UN Police. 2019. Specialized Police Teams (https://police.un.org/en/specialized-police-teams). Accessed 3 Sep 2019.

[11]  UN Police. 2019. Standing Police Capacity Timeline (https://police.un.org/en/standing-police-capacity-timeline). Accessed 3 Sep 2019.

[12]  United Nations. 2016. "External Review of the Functions, Structure and Capacity of the UN Police Division." New York: UN.

[13]  UN Police. 2019. UN Police Selection and Recruitment at a Glance (https://police.un.org/en/un-police-selection-and-recruitment-glance). Accessed 3 Sep 2019.

[14]  UN Police. 2013. "United Nations Police on Duty for Peace: 2008-2012."

[15]  UN Police. 2019. Police Contributors (https://police.un.org/en/police-contributors). Accessed 3 Sep 2019.

[16]  Sebastian, 14.

[17]  Ibid, 21. 国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション (MINUSCA)では、同国政府による承認の下、一時的な緊急事態時のみ法執行を行える取り決めとなっています。

[18]  Ibid, 26.

[19]  内閣府国際平和協力本部事務局 (2019) 活動を振り返るPKO25年 (https://www.cao.go.jp/pko/pko_j/info/other/other_data_pko25th.html)

[20]  1993年5月4日、オランダ海兵隊とともにカンボジア北西部アンピル地区を移動中、武装集団から一斉射撃を受け、日本の文民警察官4名が重軽傷を負い、岡山県警から参加していた髙田晴行警視(当時警部補)が死亡しました。これは、日本政府が派遣した国連PKOミッションにおける初めての犠牲者となり、国内でも大きく報道されました。

[21]  警視庁 (2019) 知識・技術の移転:JICAと協力したODA事業 (https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/about_mpd/shokai/kokusai/oda.html)

[22]  Durch, William J. 2010. “United Nations Police Evolution, Present Capacity and Future Tasks.” GRIPS Policy Research Center.