第83回 国連ミッションにおける統合化の流れと人道支援調整@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2015年3月13日
国際平和協力研究員
ひらい れいこ
平井 礼子

「第78回 安保理決議第2175号と人道支援従事者が直面する脅威」では、人道支援コミュニティと国連ミッション[1]間に緊張関係が存在することに触れました。この緊張関係は、政治的・軍事的な目的を持つ国連ミッションが、「統合化(integration)」という流れの中で、人道支援の調整に関わるようになったことによって人道支援の原則(人道性・中立性・公平性・独立性)が損なわれるという懸念があることから生じています。今回の@PKOなう!では、この背景にある国連ミッションの統合化の動きを見ていきたいと思います。

国連ミッションにおける統合化とは

初期の国連平和維持活動(PKO)は国家間の武力紛争の停戦合意後に停戦監視や軍隊の撤退の監視を中心とした活動を行っていました。一般的に「伝統的」または「従来型」PKOと言われる形態です。しかし、冷戦終結後の紛争の多くは二国間の武力紛争ではなく、国内紛争や国内紛争に域外からの介入などが絡む地域紛争となりました。このような紛争の後に、国際社会が和平合意の履行と平和の定着を支援するために、安全保障理事会がPKOに付与する任務も多様化してきました。現在のPKOミッションの多くは「複合的(multi-dimensional)」ミッションとして、軍事・警察・文民部門が選挙監視・支援から元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、難民・避難民の帰還支援、治安部門改革(SSR)、法の支配確立、人権モニタリング、政治的プロセスの支援、国家権威の拡大支援等に至るまで多岐にわたる任務に取り組んでいます。

国連ミッションの任務多様化が進むのと同時に、これら国連ミッションと国連システム全体の人道支援や復興・開発支援に取り組む国連システムの諸機関[2]の活動との整合性をとる必要性が認識されるようになりました。1997年にアナン事務総長が国連総会に提出した報告「国連の再生:改革に向けたプログラム[3]」 は、活動現場における「統合的アプローチ(integrated approach)」の重要性を強調し、複合的な任務を持つPKOが展開する国では、事務総長特別代表(SRSG: Special Representative of the Secretary General)が軍部門司令官、文民警察長官、常駐調整官(RC: Resident Coordinator)、人道調整官(HC: Humanitarian Coordinator)に対する権限を有し(“has authority over” [4])、国連システム全体の相互補完的活動を推進すべきとしています[5]。しかしながら、この「統合的アプローチ」をどう具体化すべきかまでは明確にしておらず、国連はその後、大きく分類すると、「統合」を二つの側面から模索していきました。一つは、国連ミッション設立準備時の計画策定プロセスに関連諸機関を取り組む「統合的アプローチ(integrated approach)」です。もう一つは人道支援や開発支援の調整機能を国連ミッションに取り込む「組織的統合(structural integration)」です。

ミッション計画策定における統合的アプローチと組織的な統合化

2000年のブラヒミ報告は、PKOの戦略的な統合化を図るため、国連事務局に「統合ミッション・タスク・フォース」(IMTF: Integrated Mission Task Force)を設置し、関連部局、機関、基金または計画からの出向者で構成されるIMTFがミッション計画策定と支援に取り組むことを提唱しています[6]。これを具体化すべく、2006年に「統合ミッション立案過程に関するガイドライン」[7](IMPP: Integrated Missions Planning Process)で新規統合ミッション設立に向けたこの一連の計画プロセスを定義しています。国連がミッション設置の可能性を検討し始める最も初期の段階から、政治局(DPA)または平和構築支援事務局(PBSO)の主導の下、IMTFを設置し、関連部局や国連諸機関も参画し、ミッション設立に向けた計画策定が行われます。2013年には、またIMPPに代わる新たなガイドライン「統合的評価と計画に関する指針」[8](IAP: Integrated Assessment and Planning)が出されています。

一方で、「組織的統合」とは、国連事務総長副特別代表(DSRSG)[9]を通じて、国連ミッションが開発や人道支援活動の調整活動に携わることを指します。例えば、2000年3月、国連事務総長は国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)のDSRSGに任命し、常駐調整官(RC: Resident Coordinator)と人道調整官(HC: Humanitarian Coordinator)を兼務させることを発表しています[10]。RCは、各国で国連諸機関が実施する開発活動の調整を主導し、HCは各国で人道支援に取り組む国連諸機関やNGOによる人道支援の調整を主導しています。国連ミッションのナンバー2であるDSRSGがRCとHCを兼任するという「triple-hatted(3つの帽子)」[11]アプローチを通じて、国連ミッションが開発や人道支援活動の調整に間接的に携わることとなり、国連システムとしてより整合性のとれた活動を試みています。2000年11月に出された「国連事務総長代表と常駐調整官・人道調整官との関係に関する事務総長手引書」[12]では、暫定行政ミッション、国連PKO、特別政治ミッション等、複合的国連ミッションを設立する場合、常駐調整官(RC)・人道調整官(HC)は可能な限り事務総長特別副代表(DSRSG)を兼務するという指針を打ち出しています[13]。また、この組織的な統合を更に一歩進めた形態が、国連ミッションが人道支援調整をその任務として直接取り組むというものです。従来、人道支援に携わる国連諸機関やNGOからなる人道カントリーチーム(HCT: Humanitarian Country Team)を先導し、人道支援の調整を行うのは国連人道問題調整事務所(OCHA)です。組織的な統合の流れを汲み、OCHA事務所を設立せずに(もしくは閉鎖し)国連ミッションに人道支援調整を担わせる、という試みが行われたのです。2001年に設立された国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)や2003年に設立された国連リベリア・ミッション(UNMIL)はその事例で、国連ミッションがOCHAの機能を吸収し、ミッションが人道支援調整を直接担う体制をとっています。国連ミッションにおいてDSRSGがRC/HCを兼務するという組織的な統合化の流れに対し、多くの人道支援組織が懸念を示しています。特に国連ミッション自体がOCHAの人道支援調整機能を握ることに対しては大きな批判が起こりました[14]。人道支援組織の懸念に対する配慮をしながら、効果的・効率的な支援の調整を行っていくことが国連ミッションにとって今後も課題となるでしょう。

 

[1]ここでは、「国連ミッション」は国連の平和維持活動(PKO)と政治・平和構築ミッションを指します。

[2]ここでは、「国連諸機関」は国連事務局の事務所(例:OCHA)、計画と基金(例:UNDP、UNHCR、UNICEF)、専門機関(例:WHO、FAO)等を指します。

[3]United Nations, General Assembly, “Reforming the United Nations: A Program for Reform, A/51/950.” (1997).

[4] Ibid, paragraphs 119.

[5] Ibid, paragraphs 119.

[6]United Nations, Letters from the Secretary-General to the President of the General Assembly and the President of the Security Council, "Report of the Panel on United Nations Peace Operations," (A/55/305-S/2000/809) (21 August 2000), paragraphs 198-217.

[7]United Nations, “Integrated Missions Planning Process (IMPP): Guidelines Endorsed by the Secretary General on 13 June 2006.” (13 June 2006).

[8]United Nations, “Policy on Integrated Assessment and Planning.” (09 April 2013).

[9]特別政治ミッションなどでは国連事務総長執行代表(DERSG)や国連事務総長副代表(DRSG)。

[10]United Nations, “Ninth Report of the Secretary General on the United Nations Mission in Sierra Leone, S/2001/228” (14 March 2001), paragraphs 68. DSRSGがRC/HCを兼任するという初の事例は1994年のUNMIHであったが、「国連の再生:改革に向けたプログラム」で統合的アプローチが導入されて初の”triple-hatted” DSRSGの事例はUNAMSILである。

[11]常駐調整官(RC)は国連開発計画(UNDP)のトップである常駐代表(Resident Representative)を兼ねるため、「quadruple-hatted (4つの帽子)」のポストと呼ばれることもある。

[12]United Nations, "Note of guidance on relations between Representative of the Secretary-General, Resident Coordinators and Humanitarian Coordinators.” (11 December 2000).

[13]Ibid, paragraph 11.

[14]例えば、OCHAの人道支援調整機能をUNAMAが設立時に吸収したために、2002年にOCHA事務所が閉鎖されました。これに対して、NGO等の人道支援団体からの根強い批判が続き、2009年1月にOCHA事務所を再開し、人道支援調整機能をUNAMAから切り離しています。