第84回 紛争下におけるジャーナリストの保護@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2015年4月3日
国際平和協力研究員
みた まさよし
三田 真秀

なぜ攻撃されるのか、なぜ保護されなければならないのか

「紛争地から発信される正確で公平な報道は、基本的な公益に資するといえます。現代の情報社会において、映像ニュースは紛争の結果に決定的な影響を与えることがあります」[1]。ジャーナリスト(広くレポーターやカメラマン、その技術アシスタント等を含むメディア関係者)は、紛争地における活動という特殊性から、しばしば身の危険にさらされ、国際人道法に違反した故意の暴力行為に遭うことがあります。近年のイラクやアフガニスタン、そしてシリアにおける紛争では、ジャーナリストが活動中に負傷、殺害、拘束、もしくは誘拐される事件がますます増えています[2]。このように紛争下では脆弱な状況に置かれるため、国際人道法はジャーナリストを保護するために特別な注意を払っています。

国際人道法におけるジャーナリストの法的地位

そもそもジャーナリストは、敵対行為に直接参加しない限りにおいて、戦闘員と区別されるという基本的原則により、文民として保護されます。この原則は、国際的及び非国際的な紛争の双方において適用される慣習法として確立されています[3]。その上で、国際人道法はジャーナリストを2つのカテゴリーに区分して、その保護について個別に言及しています。すなわち、(1)「従軍記者」(「認可を受けた」ジャーナリスト)と(2)「フリーランス」のジャーナリストです。前者は、「実際には軍隊の構成員でないが軍隊に随伴する者、たとえば、…従軍記者…但し、それらの者がその随伴する軍隊の認可を受けている場合に限る」と規定されています[4]。このようなジャーナリストが敵の権力内に陥った場合は、軍隊との密接な関係を有していることから[5]、ジュネーブ第3条約上の捕虜として扱われ[6]、戦闘員と同様の法的地位を与えられます。一方で後者は、軍隊に随伴せず、またその認可を受けていない「武力紛争の行われている地域において職業上の危険な任務に従事する報道関係者」と規定されています[7]。このようなジャーナリストは、敵の権力内に陥った場合でも、文民としての地位を有する限りにおいて、ジュネーブ第4条約によって一貫して保護されます。結果として、ジャーナリストがどちらのカテゴリーに属するかによって、ジュネーブ第1追加議定書に補完されつつも[8]、国際人道法の適用法規が異なります。ただし、いずれの場合においても、紛争の国際的または非国際的な性質にかかわらず、慣習法上、全ての文民であるジャーナリストは尊重され、保護されなければなりません[9]。もちろん、ジャーナリストが使用する報道設備や施設といった民用物も同様に、軍事目標物と区別され保護されます[10]

保護を強化するために

国際人権法を含めた既存のルールは、ジャーナリストに十分な保護を与えていますが、実際にはそのルールが適切に実施されているとはいえません[11]。不処罰の連鎖を断ち切り、将来における同様の犯罪を防止するためにも、違反行為を捜査、訴追、処罰するのは国家の責任です。ただし、現実には主に政治的理由からそのような措置が取られることは多くありません。言うまでもなく、関連する国際人道法の逸脱は、ジュネーブ諸条約及び第1追加議定書に対する「重大な違反行為」であり[12]、文民を故意に攻撃することは、国際的及び非国際的な紛争を問わず、同様に戦争犯罪を構成します[13]。一方で、現地で活動するジャーナリストも、個人レベルで自分自身を保護するために最善の措置を取ることが期待されます。例えば、国際人道法はジャーナリストが身分証を所持することを認めており、これによって容易に戦闘員と区別され、文民として保護されることになります[14]。さらに、ジャーナリストやその家族、そして報道機関は、赤十字国際委員会(ICRC)が運営する24時間体制の「ホットライン」を通じて、負傷、拘束、または行方不明になった場合にICRCに支援を求めることができます[15]。ただし、ジャーナリストを含めた文民を保護する責任は、やはり第一義的には反乱軍及びその他の組織された武装集団を含む全ての紛争当事者にあることを忘れてはいけません。

 

[1] Interview with Robin Geiss (ICRC legal expert), “How does international humanitarian law protect journalists in armed-conflict situations?”(https://www.icrc.org/eng/resources/documents/interview/protection-journalists-interview-270710.htm) (27 July 2010) (consulted 10 March 2015).

[2] 分析的な統計については、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)のウェブサイト(http://www.cpj.org/)を参照。 (consulted 10 March 2015).

[3] Jean-Marie Henckaerts and Louise Doswald-Beck, Customary International Humanitarian Law, Volume I: Rules (Cambridge University Press, 2005), pp. 3-8.

[4] ジュネーブ第1及び第2条約(1949年)第13条(4)。

[5] 脚注1。

[6] 第4条A(4)。同様に、ハーグ陸戦規則(1907年)第13条を参照。

[7] ジュネーブ諸条約第1追加議定書(1977年)第79条(1)。

[8] 第79条に加えて、第75条も、「基本的な保障」として、「紛争当事者の権力内にある者であって(ジュネーブ)諸条約又はこの議定書に基づく一層有利な待遇を受けないものは…すべての場合において人道的に取り扱われるものとし、…少なくともこの条に規定する保護を受ける。…」と規定しています。

[9] 脚注3、115-118頁。第2追加議定書には、ジャーナリストに関する明示的または個別の規定はありませが、第4条で「基本的な保障」について規定し、ジュネーブ諸条約共通第3条を補完しています。

[10] 同上、25-36頁。

[11] 脚注1。

[12] ジュネーブ第1条約第50条、第2条約第51条、第3条約第130条、第4条約第147条、第1追加議定書第11条及び第85条。第2追加議定書には、「重大な違反行為」に関する規定はありません。

[13] 例えば、国際刑事裁判所に関するローマ規程(1998年)第8条(2)(b)(i)及び(e)(i)。

[14] ジュネーブ第3条約第4条A(4)及び第1追加議定書第79条(3)。そのような身分証の所持は「補足的な予防措置」にすぎず、保護を受けるための絶対条件と見なされてはいけません。Commentary on the GC III(https://www.icrc.org/applic/ihl/ihl.nsf/Comment.xsp?viewComments=LookUpCOMART&articleUNID=2F681B08868538C2C12563CD0051AA8D) (1960) (consulted 10 March 2015); Commentary on the AP I(https://www.icrc.org/applic/ihl/ihl.nsf/Comment.xsp?viewComments=LookUpCOMART&articleUNID=6E95E63184FD05C8C12563CD0051E0FB) (1987), paras. 3272-3278 (consulted 10 March 2015). 日本の例については、外務省のウェブサイト別ウィンドウで開きますを参照。 (consulted 10 March 2015).

[15] ICRCのウェブサイトを参照。(https://www.icrc.org/eng/resources/documents/publication/p0394.htm) (consulted 10 March 2015). 同様に、脚注1と、Interview with Dorothea Krimitsas (ICRC deputy head of public relations), “When journalists’ safety is at stake, the ICRC hotline can help”(https://www.icrc.org/eng/resources/documents/interview/2012/protection-journalists-interview-2012-05-02.htm) (2 May 2012) (consulted 10 March 2015) を参照。