第73回 国際刑事裁判所(1):概要@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2014年5月23日
国際平和協力研究員
ふじい ひろしげ
藤井 広重

はじめに

 国際刑事裁判所(International Criminal Court: 以下ICC)は、「国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下ローマ規程)」[1]に基づき設立され、同規程第1条において、「裁判所は、常設機関とし、この規程に定める国際的な関心事である最も重大な犯罪を行った者に対して管轄権を行使する権限を有し、及び国家の刑事裁判権を補完する」と定められています。2002年7月1日より同規程の効力が発生して以降、ICCはその存在感を日増しに高めており、紛争後の平和構築の場面では、必ずと言っていいほど紛争当事者に対し、ICCが管轄権を行使すべきではないか、といった議論が沸き起こります。ですが、このことに対し、違和感を持つ方もいるのではないでしょうか。例えば、日本の刑法1条1項には「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」と規定されています。つまり、日本国内で法に違反した者は必ず刑法の規定に服さなければならないのに対し、ICCの文脈においてはローマ規定に違反したからといって、必ずしも同規定が適用されるとは限らないのです。そこで、ICCについて以前にも@PKO!なう(第16回「子ども兵士」問題と国際的枠組み(I)第37回「ルバンガ事件」参照)で触れられていましたが、今回から数回にわたり、より包括的にICCの機能と期待されている役割について紹介します。

国連とICC

 ローマ規程に基づきオランダのハーグに設立されたICCは独立した裁判所であり、国連の一部ではありません。しかしながら、ローマ規定締約国会議が承認したり、裁判所長が締結したりする協定によって、ICCは国連とこれまで継続的な協力関係を築いています[2]。事実、2004年10月4日には国連との関係について合意文書(The Negotiated Relationship Agreement between the Court and the UN[3])も作成され、この合意は様々な局面におけるICCと国連との関係に法的根拠を与えています。そして、この合意の6条に則り、ICCは2005年より毎年、国連総会に対し活動報告書を提出しています[4]

 また、ICCはこれまでにPKOから、例えば国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)や国連コートジボワール活動(UNOCI)より支援を得て、捜査対象国においてICCの活動をより効果的に行うために様々な取組みがなされています[5]。そして、これらのサポートを円滑に行うため、ICCはニューヨーク国連本部内に連絡事務所も設置しています。なお、資金面においても、ローマ規程の締約国が支払う分担金の他に、安保理や国連総会の承認の下、国連からも資金の提供を受けることができます[6]

 

日本とICC

 ローマ規程には2014年5月15日現在までに122ヶ国が加盟しており、日本は2007年10月1日に加盟国となりました。ローマ規程の第86条には、同規程の締約国がICCへの協力義務を有することについて定められており、これを受け同88条には、締約国は国内法の手続きを確保しなければならないことが定められています。そこで、日本においても2007年から「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律」[7]が施行され、ICCの捜査、裁判及び刑の執行等に協力できるよう国内における手続きが定められています。

 また、日本はICCに対し非常に大きな貢献を続けています。まずは、人的な面において、現在、ICC裁判官18人のうち1人は2009年より尾﨑久仁子判事、ICC被害者信託基金の理事長は2013年より野口元郎元カンボジア・クメール・ルージュ特別法廷最高審裁判官が務めています。この他、日本は財政面で、2013年には全体(約1億300万ユーロ)の約20%にあたる拠出金を負担し、最大の分担金拠出国です[8]。2014年5月7日にはICC被害者信託基金に対し、日本は約60万ユーロの拠出を表明し、このうち約40万ユーロは性的暴力の被害者保護対策に充てられるとのことです[9]

 

以上、ICCと国連及び日本との関係について確認することで、ICCの概要を見てきました。次回の@PKOなう!ではICCの内部構造と適用法規について、紹介いたします。

 

[1] 外務省「国際刑事裁判所に関するローマ規程」全文 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty166_1.pdf, last visited (15 May 2014).

[2]  国際刑事裁判所に関するローマ規定第2条参照。

[3]  The ICC official website, available at http://www.icc-cpi.int/NR/rdonlyres/916FC6A2-7846-4177-A5EA-5AA9B6D1E96C/0/ICCASP3Res1_English.pdf , last visited (15 May 2014).

[4]  2014年5月15日現在までに9つの報告書が作成され、最新の報告書には2013年7月31日までの活動がまとめられています。See., UN Doc. A/68/314(2013).

[5] Ibid., para102. また、2014年9月15日からの活動を予定した中央アフリカ共和国のPKO(MINUSCA)決議ではICCへの支援と協力が言及されています。UN Doc. S/RES/2149(2014). なお、2009年7月にルバンガ事件の公判にて、国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)の元子ども保護官がICCで証言したこともあります。安保理とICCとの関係については、ICCの管轄権を紹介する際に改めて言及します。

[6]  国際刑事裁判所に関するローマ規定第115条(b)参照。

[7]  外務省「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律」全文 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/icc/law.html, last visited (15 May 2014).

[8]  See., ICC-ASP/12/15 (2013). なお、ICCの2014年予算は1億2165万6千200ユーロです。See., ICC-ASP/12/Res.1 (2013).

[9]  2014年5月7日外務省報道発表 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press22_000048.html, last visited (15 May 2014) . The ICC official website, ICC-TFV-20140507-PR1002, available at http://www.icc-cpi.int/en_menus/icc/press%20and%20media/press%20releases/Pages/pr1002.aspx, last visited (15 May 2014).