第27回 アフリカの地域機構:IGAD(政府間開発機構)@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2012年10月5日
国際平和協力研究員
おかだ えつこ
岡田 悦子

はじめに

 前回は、AU(アフリカ連合)[1]及びECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)[2]について触れましたが、今回は東アフリカ地域の準地域機構であるIGADInter-Governmental Authority on Development:政府間開発機構)[3]についてです。同機構の本部はジブチにあり、加盟国7か国[4]と他の準地域機構[5]に比べ小規模の機構です。加盟国の中には、アフリカの角地域を中心として、ソマリアやスーダンなど紛争が絶えない不安定な国が多く存在します。同機構が扱う事項は、域内の環境や農業の分野に加え、経済協力や各分野の政策の調和、平和と安定の促進及び紛争の予防・管理・解決メカニズムの設置など広範な範囲に及びます[6]

平和・安全保障分野におけるIGADの組織

 IGADの組織は、1996年のIGAD設立合意文書[7]によれば、主に首脳会合、閣僚会議、そして事務局に分けられます。首脳会合は、加盟国の首脳により構成される最高意思決定機関であり、最低年一回召集され、政策の形成や紛争解決等に関する指針を与えたりします。閣僚会議は、各加盟国の外務大臣や他の大臣により構成され、首脳会合に対し、域内の平和と安全保障の促進のために勧告を行います。上記2つの機関による決定は、コンセンサス方式です。事務局には、事務局長[8]がおり、その下に平和・安全保障局(Peace and Security Division)が設置されています。また、IGADは、2002年にCEWARNConflict Early Warning and Response Mechanism:紛争早期警戒・対応メカニズム)[9]の設置に合意しました。なお、IGADを支援する組織として、IGAD設立の翌年である1997年に、先進国や国際機関を中心とするIGADパートナーフォーラム(IPF)が発足し、IGAD及び加盟国への支援に関する協議を行っています[10]

ソマリアにおけるIGADの活動

 アフリカのPKOミッションでは、AU及びECOWASが中心的役割を果たしておりますが、IGADもソマリア及びスーダンの和平のために、積極的に活動に取り組んでいます。特にソマリアでは、IGADの和平プロセスに対する努力もあり、2つの暫定政権[11]が発足しました。IGADは、2004年に発足したTFG(暫定連邦「政府」)を支援するため、2005年の首脳会合において、警察や軍隊のトレーニングを含めたIGASOMIGADソマリア平和維持ミッション:IGADPeacekeeping Mission in Somalia[12]の派遣を計画したが[13]、結局、諸要因により派遣が実現しませんでした[14]。国際社会がソマリアに対して関心を向けなくなった時でも、IGADが和平プロセスの支援を継続していた意義は大きいものの、IGADの組織的脆弱性、ナイジェリアや南アフリカのような大国が存在しない点、加盟国間の政治的価値観の相違や共通目標の希薄さなど乗り越えなければならない課題も多く存在します[15]

[1]@PKOなう!第13回「アフリカ連合と国連PKOを参照。

[2]@PKOなう!第21回「ECOWASと国連PKOを参照。

[3]IGADの前身は、1986年に創設されたIGADD(干ばつ開発政府間機構)であり、同地域で1970年代半ばから生じた干ばつと飢餓の問題に対応することを目的としていた。1996年に現在のIGADに名称変更し、同年ナイロビで設立合意文書が採択された。詳細は、IGADWebサイトを参照(http://www.igad.int/index)。

[4]ジブチ、エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、ウガンダ、エリトリアの7か国。

[5]アフリカには、5つの準地域機構があり、IGADの他に西アフリカ地域のECOWAS、南アフリカ地域のSADCSouthern African Development Community:南部アフリカ開発共同体)、中央アフリカ地域のECCASEconomic Community of Central African States:中部アフリカ諸国経済共同体)、北アフリカ地域のAMUArab Maghreb Union:アラブ・マグレブ連合)がある。なお、国連憲章上は、地域機構及び準地域機構の間に序列を設定していないものの、AUは、実質上、準地域機構と国連の間の調整を行うことがある。

[6]“Agreement establishing the inter-governmental authority on development”, 1996.第7条及び第13条A参照。

[7]同上

[8]事務局長は、閣僚会議の勧告に基づいて首脳会合によって任命される。任期は4年。

[9]本部はエチオピアのアジスアベバにあり、情報収集及び分析を行い、域内での紛争の危険性を事前に把握し、抑止する役割を担う。「アフリカのサブ地域協力機構」小田英郎他監修『新版 アフリカを知る事典』平凡社、2010年、34p.

[10]組織的に脆弱なIGADに対する財政的支援も行っている。詳細は、IGADWebsiteAbout us”を参照。(http://igad.int/index.php?option=com_content&view=article&id=93&Itemid=124&limitstart=5)。ちなみに、日本もメンバーとなっている。

[11]ソマリアでは、2000年にTNG(暫定国民「政府」)がジブチのアルタ・プロセスを経て成立し(しかし、実権は有さず2003年に崩壊)、2005年にケニア主導によりTFG(暫定連邦「政府」)が発足(2012年8月に暫定憲法が採択され、暫定統治期間が終了)。外務省HP(地域情勢:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/somali/data.html)。阪本拓人「「混沌圏」の秩序~IGADとアフリカの角~」『国際政治』第159号、2010年、p.81.

[12]IGASOMやソマリアの和平調停の詳細に関しては、栗本英世「第三章IGADによる平和調停~外観と分析~」、平成15年度 外務省委託研究『サブサハラ・アフリカにおける地域間協力の可能性と動向』2004年、pp.45-55.やKidist MULUGETA, “The Role of Regional and International Organizations in Resolving the Somali Conflict:The Case ofIGAD”,Friedrich Ebert-Stiftung,December2009.に詳しい。

[13]その後、AU平和安保理によりIGADの派遣計画がエンドースされ、翌年の国連安保理決議第1725号(2006)によっても、ソマリアにおけるトレーニング及び保護ミッションの設置が承認された。

[14]派遣が実現しなかった理由として、財政的問題やIGAD加盟国間でも見解の相違があった点、同派遣計画にはソマリアの隣接国による部隊派遣が拒まれていた点等が挙げられる。同掲書【12】MULUGETA, 31p.及び同掲書【11】阪本拓人、p.81.その後、エチオピア部隊の独自展開及び2007年にAMISOMAUソマリアミッション)が設置された。(http://amisom-au.org/about/amisom-background/)

[15]John SIEBERT,Chapter6 “R2P and theIGADsub-region:IGAD's contribution to Africa's emerging R2P-oriented security culture”,inCrafting an African Security Architecture,Ashgate, 2010,p.95.