国際平和協力リレー・メッセージ

国際平和協力リレー・メッセージ 第5回 中満 泉さんimg

<写真>コンゴにて

 国際環境の変化とともに、国連PKOの任務も、紛争当事者間の停戦監視のみならず、破綻国家の再建支援や平和構築などにも拡大しています。そのような中で、国連平和維持活動はどのような課題に直面し、それに対してどう取り組んでいるのでしょうか。

 国連平和維持活動(PKO活動)は、ハマーショルド第2代国連事務総長が「国連憲章6章半」の活動と呼んだように、国連憲章上明文の規定がないことは良く知られています。このことは、PKO活動が紛争の性質の大きな変化に柔軟に適応することを可能にしたひとつの要因かもしれません。伝統的には停戦の監視などを行うことによって、紛争当事者の政治的な紛争解決を支援してきたPKO活動ですが、ご存知のように冷戦後はその内容が大きく変化しました。紛争そのものが国際紛争から国内紛争に様変わりしたこともありますが、同時に政府の統治機構の崩壊といった脆弱または破綻国家において活動することが多くなりました。国内紛争といっても、多くは紛争当事者がそれぞれ国外から支援を受けていることが多く地域紛争の様相が強く、紛争をめぐる状況が一層複雑になりました。また、PKOミッションの任務そのものも、不安定な状況下で治安を安定化させ、市民を保護し、警察やその他の統治機構の能力向上のための支援を行い、選挙支援をして新しい国づくりのサポートをしていく、といった平和構築支援の大きな一端を担うようになりました。PKO活動が質的に変化したわけです。また、以前のように「この状況には伝統的停戦監視型PKOを」とか、「この状況には統合PKOミッションを」というように特定のPKOミッションのモデルを単純に当てはめていける状況ではなくなったということも近年の安全保障分野における国連とそのPKOをめぐる重要な変化です。リビアでは空爆後は軍事部門のない特別政治ミッションになりましたし、シリアでは短期間ですが非武装の軍事監視員を紛争の真只中に派遣するPKOミッションがありました。ただいずれの状況においても言えることは、国連PKO活動とは単なる軍事活動ではなく、安保理決議による国際社会の政治的な活動を可能にするための軍事・警察・文民要員による活動だということです。
 こういう状況の中、PKO活動をより効果的にするために、私たちは様々な課題に取り組んでいます。前職の政策部長のときは、まさにPKOを21世紀型の、より能力の高いものにするのが仕事でした。具体的には、市民の保護や警察支援など、現場で非常に複雑な課題に取り組むことが求められているPKOの軍事・警察・文民要員のためのガイドライン策定、訓練の強化など。そして要員の数に焦点を当てるのではなく、質の向上を図ること、オペレーションを成功させるためには効果的なプラニングつまり「計画」が不可欠ですが、これを向上させることなどです。そして加盟国に常に申し上げていることは、何よりも安保理が一致してPKO活動の成功のために政治的な支援を行うことが重要だということです。

プロフィール

中満 泉さんimg

中満 泉

国連平和維持活動局アジア・中東部長

 早稲田大学法学部卒業。米国ジョージタウン大学大学院修士課程修了(国際関係論)。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 法務官、人事政策担当官、旧ユーゴ・サラエボ、モスタル事務所長、旧ユーゴスラビア国連事務総長特別代表上級補佐官、UNHCR副高等弁務官特別補佐官、国連本部事務総長室国連改革チームファースト・オフィサー、InternationalIDEA(国際民主化支援機構)官房長、企画調整局長などを経て、2005年から2008年8月まで一橋大学法学部、国際・公共政策大学院教授。同期間に国際協力機構(JICA) 平和構築 客員専門員(シニア・アドバイザー) 、外務省海外交流審議会委員などを兼任。

 その後、国際連合平和維持活動局政策・評価・訓練部長を経て、2012年8月より同局アジア・中東部長。。

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ダルフールに派遣されるインドネシアの警察要員を激励img

ダルフールに派遣されるインドネシアの警察要員を激励

国際平和協力法が制定・施行されてから今年で20年目となり、これまでに日本は27件の国際平和協力業務に要員を派遣しました。2012年8月現在、日本は、南スーダン、東ティモール、ハイチ及びゴラン高原に約600名の隊員を派遣しています。中満部長は、このような日本の国際平和協力業務をどのように見ていらっしゃいますか。
 また、国連PKOの任務の多様化にともない、日本にはどのような役割を期待されていますか。

 日本の自衛隊は派遣先で大変高い評価を受けています。施設部隊など後方支援分野ですが、実はこの後方支援こそ非常に高い能力が求められているからです。施設部隊もそうですが、輸送、ロジ、医療隊、情報収集などの分野は部隊の規模でいえば歩兵部隊より少数になりますが、質の高い活動が求められている特殊分野なのです。国連PKOには先進国からの部隊提供が少なく(現在先進国からの部隊提供は全体の約6%)、先ほども述べたように活動能力の欠如が大きな問題ですが、効果的な軍事部門の活動を可能にするこれら特殊分野への先進国への貢献が求められているわけです。そんな中で、日本はすでに施設分野で定評を確立したといえるでしょう。すでに施設工兵分野はまず日本に頼め、という暗黙の了解がPKO局の中でも確立していますね。仕事の質、隊員の士気・規律の高さではトップです。また日本のODAとも組み合わせてPKOのみならず現地住民のプラスにもなる施設活動ができるのも、日本ならではの強みでしょう。あとは、施設以外にも医療、ヘリ、インテリジェンスなどに得意領域を広げていくことを期待しています。また、参加から20年たったわけですから、司令部要員を増やし、司令官もそろそろ出してもよいのではないでしょうか。そしてPKOに派遣された自衛隊の武器使用権限を国際基準に見合ったものに改正することができれば、現在のように派遣可能なミッションが限られたものでなく、日本も国際の平和と安全のためにPKOを通じてさらなる貢献と責任分担ができるようになると、日本人として期待しています。ここで強調したいことは、国連のPKO活動とは決して戦争のための軍事活動ではなく、長年守られてきた3原則(不偏の原則、紛争当事者の合意、自衛及び安保理に与えられたマンデートを守るため以外には武力を行使しないという原則)に則って行われる平和維持活動であるということです。

PKO要員(インド軍の隊員)から説明を受ける中満部長img

PKO要員(インド軍の隊員)から説明を受ける中満部長

国連平和維持活動局(PKO局)は、国連の中でどのような役割を担っているのですか。また、中満部長はどのような業務を担当されているのですか。

 PKO局は平たく言えば国連事務局のなかで安全保障を担当している部局です。先ほども申しましたように、国連の現場での対応は複雑化しており、実はアフガニスタンのUNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)は特別政治ミッションですがPKO局が担当しています。政務局が小規模な政治ミッションを、PKO局がPKO・特別政治ミッションにかかわらず複雑な大規模なオペレーションを主管しているといえるわけです。ですから、軍事部門や警察部門もPKO局の一部です。

アフガニスタンの町を徒歩で移動する中満部長img

アフガニスタンの町を徒歩で移動する中満部長

 PKO局のなかで、私が部長をしているアジア・中東部は、西は西サハラから東は東ティモールまでを管轄しています。その中でも特に時間を取られるのは、アフガニスタンと中東ですね。アフガニスタンは2014年のISAF(国際治安支援部隊)撤退後の国連の役割を定め、政治的な和解により大きく貢献するためにいろいろと画策している段階です。中東は、シリアでのブラヒミ特使の調停努力と連携してPKOが展開する場合に備えての計画作業、またレバノンのUNIFIL(国連レバノン暫定隊)活動などが主たる内容になります。私自身は、それぞれのチームを率いて大まかな方針を立てていくこと、安保理の主要メンバーや部隊提供国との折衝や、国連内部での事務総長室・政務局・UNDP(国連開発計画)・OCHA(国連人道問題調整部)といったパートナーとの調整というのが主な仕事の内容です。

アフガニスタン政府関係者との会議img

アフガニスタン政府関係者との会議

 過去に携わった国連平和維持活動について、印象に残っているエピソード等ありましたらお聞かせください。

 私の原点は現場にあります。1992年にボスニアに派遣されていたとき、ある年老いた避難民の女性が、「国連という組織が、私たちを助けるためにあなたのような人を遠く日本から派遣してくれているなら、私たちの将来は今よりきっと良いものになるという希望を持てる」と言ってくれました。その女性は父親が第1次大戦で、夫が第2次大戦で、そして息子と孫が当時のボスニア内戦で戦っているという、家族の中から4世代の男性たちを戦争に送らなければならなかった女性でした。国連PKOは安保理の政治取引に基づいた活動だ、とシニカルに見る人もいますが、私はそうではなく、こういった紛争の被害者を真に守り支援するための活動でなければならないと思っています。また、それを可能にするために仕事をしています。PKOは国際社会にとってハードコアの安全保障のツールでもあり、また、人間の安全保障を確保するためのソフトウェアでもあると思っています。国連職員としては言ってはならないことかもしれませんが、日本でのPKO参加に関する議論や武器使用権限の議論などを見ていると、あまりにも世界の現実からかけ離れ、自分たちだけが平和であればそれでよいという風潮がある気がして、日本人として悲しく思うことがあります。

 最後に、国際平和協力分野で活躍することを目指している若者や学生に対して、メッセージやアドバイスをお願いします。

 治安が不安定な紛争地で活動するわけですから、厳しい仕事ですが、とてもやりがいのある仕事だと思います。熱い情熱を持ち、クールな頭脳でその情熱や信条を冷静に計算しながら実現していく力を持たなくてはなりません。そのためには、学生時代にはみっちり安全保障の理論を学び、若くして現場での実務経験を積み、包括的なコミュニケーション能力を磨く必要があります。よく「日本人は自己主張をしないので国際社会では損だ」と言われますが、これは全くのでたらめです。勤勉でバランス感覚に優れた日本人は、コミュニケーション能力と現場でのしっかりした経験さえあれば、大変重宝されると思います。日本から多くのグローバル人材が、国際平和協力の分野で増えてくれるのを期待しています。

アフガニスタンの地元メディアによるインタビューimg

アフガニスタンの地元メディアによるインタビュー

2012年10月、Eメールによるインタビュー
写真: 中満部長提供

バックナンバー:

第1回 明石 康さん第2回 小林 秀紀さん第3回 世取山 茂さん第4回 生田目 徹さん第6回 菅野 隆さん第7回 伊東 香織さん特別編 ルー大柴さん

「国際平和協力リレー・メッセージ」では、国際平和協力法制定20周年を記念し、国際平和協力に関係のある著名人や元国際平和協力隊員の方々からのメッセージを掲載しています。