第117回 国連安保理決議2250号「青年・平和・安全保障」と平和維持活動における取り組みについて

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

  • 2023年1月23日
  • 国際平和協力研究員
  • らじゃい れいら

  • ラジャイ 麗良

はじめに

「青年は、世界の発展と革新の最前線に立つべきです。力を与えられた青年たちは、開発と平和のための重要な担い手となることができます。しかし、もし彼/彼女らが社会の片隅に取り残されるようなことがあれば、私たち全員が貧困に陥ることになるでしょう。すべての青年が、それぞれの社会の一員として十分 に活躍できるよう、あらゆる機会を確保しようではありませんか。」

-コフィ―・アナン氏[1]

世界の青年(18歳~29歳)[2] の人口は約18億人であり[3]、とくに世界の紛争地で青年が占める割合は大きい。彼/彼女らが平和構築で果たすことの出来る役割は大きいものの、これまで青年は「被害者」か「加害者」として取り上げられることが多く、係る役割は広く認識されてこなかった [4]。そのような背景の中、2015年に採択された国連安全保障理事会決議第2250号(以下、国連安保理決議2250)「青年・平和・安全保障(Youth, Peace and Security (YPS))」は、平和と安全保障における青年の役割に焦点を当て、青年が紛争の予防と解決のために果たすことの出来る重要な役割と貢献を認めた初の決議となった[5]。本稿では、国連安保理決議2250と平和維持活動との関連性に関して概説する。

国連安保理決議2250「青年・平和・安全保障」とは:

若い世代は、社会に前向きな変化をもたらす力を備えており、社会の平和と発展において青年の参加は必要不可欠である。 しかし、紛争地で育つ青年は、紛争によってさまざまな影響を受ける。教育や経済的機会を失ったり、難民や国内避難民となったりすることに加え、時には少年兵/少女兵等として紛争に関わることもあり、 紛争下で得た身体的・精神的外傷は簡単に消えるものではない[6]

持続可能な平和を創造するためには、青年のニーズに応え、平和構築に参加できるような環境を整える必要がある。平和構築の分野で活躍する青年はすでに多いものの、意思決定の場には十分に参加できていないことが課題となっている。 「将来の担い手」と言われる青年は、「現在の担い手」でもあるべきであり、青年の有意義な平和構築への参加を促すため、国連安保理決議2250が採択された。 本決議では、「参加、保護、予防、パートナーシップ、引き離しと社会復帰」の5本の柱を元に「青年・平和・安全保障」に関する提案がなされている。 具体的には、加盟国に対し、子ども兵士の徴用を防止し、暴力と搾取から青年を保護するための行動をとるよう求めている。 さらに、加盟国や国連機関に対し、青年に教育や訓練の機会を提供し、あらゆるレベルの意思決定、平和構築の取り組みに青年を参加させるための具体的な措置をとるよう求めている[7]。国連安保理決議2250は、より安定した平和な社会を築くために青年が果たすことの出来る重要な役割を認識し、彼/彼女らの活動を支援し、平和構築への参加を促進するための重要な一歩になっている。

国連安保理決議2250の5つの柱と平和維持活動での事例:

2023年1月現在、12の国連平和維持活動が展開されているが、それらの活動で「青年・平和・安全保障」の5本の柱に関する提案が如何に実施されているのかいくつかの事例を見ていく。

一つ目の柱である「参加」では、平和構築の意思決定や政策決定の過程において、青年の代表を増やすための方法を考慮すること、また、 和平プロセスや紛争解決への青年の有意義な参加のための制度を確立することが提案されている [8]。 平和維持活動における「参加」の事例として国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)が挙げられる。 MONUSCOは、コンゴ民主共和国のカサイ州において、地域の平和協定と紛争解決プラットフォームに青年が参加できるよう支援した。 2020年にカサイ州の5つの地域で行われたコミュニティ協議に「青年地域活動プログラム(Programme d’Aide Communautaire pour la Jeunesse (PAC-J))」の12名 (女性7名、男性5名)が参加し、各地域の青年のニーズを理解した上で彼/彼女らが和平プロセスに参加するよう促した。 その結果、24名の女性を含む40名の青年が各地域の意思決定の場に参加し、41名の男女の青年が、 カサイ州の紛争の予防と解決のために設立された「恒久的・包括的対話のための地域間プラットフォーム(BUPOLE)」のメンバーになった [9]

二つ目の柱である「保護」では、青年を含む文民をあらゆる暴力(性的及びジェンダーに基づく暴力等)から保護するよう求めている [10]。 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の国連警察(UNPOL)は、国連開発計画(UNDP)および 「非暴力のための組織(Organization for Non-Violence and Development) [11]」 、南スーダン国家警察(SSNPS)と連携し、2018年11月にジュバで 「警察地域関係委員会(Police Community Relations Community (PCRC))ネットワーク」を発足させた。 このネットワークは、青年が地域の治安問題と解決策について話し合う場を提供し、警察と地域の関係者と共同で問題解決に取り組むことを可能にした [12]。 このような青年、警察と地域住民のパートナーシップは、南スーダン国家警察(SSNPS)の信頼回復と犯罪撲滅のためにも重要 だと認識されている[13] 。 この事例に関しては、「青年・平和・安全保障」の「保護」に貢献するだけでなく、他の柱である「予防」と「パートナーシップ」にも貢献していることが分かる。

三つ目の柱である「予防」では、暴力予防活動や社会的統合を支援し、質の高い平和教育の提供や異文化・異宗教間の対話を促し、 あらゆる形態の差別への青年の参加を予防する制度を設けることを提案している[14] 。 南スーダンの「警察地域関係委員会」の例の他に、国際連合キプロス平和維軍(UNFICYP)も異なる方法で「予防」に取り組んでいる。 UNFICYPは2022年に3回目の「平和と環境のためのユース・チャンピオン」を開催し、18~29歳の30名以上の青年を対象に地域が直面している環境問題と平和に関するトレーニングを実施した [15]。 環境問題に携わっているNGO、市民社会組織、国連環境計画(UNEP)等から専門家を招き、 パネルディスカッションやワークショップを通して各地域からの参加者の交流と議論を促した。 このトレーニングでは、地域の環境問題と平和に取り組むための知識や能力構築の他に、異なる民族の参加者が同じ課題に協力し合い取り組むことによって、 互いの理解を深めることが目的となっている。

四つ目の柱である「パートナーシップ」では、青年の平和構築参加や活動のサポートを国際社会、各国、国際機関、その他アクターが協力し合い、促すことが求められている [16]。 平和に取り組む組織の中には、青年によって運営されている組織も多い。 南スーダンの「警察地域関係委員会」も、キプロスの「平和と環境のためのユース・チャンピオン」も青年団体を含めた様々な組織と共同で行っている活動である [17]。 2023年1月現在、「United Network of Young Peacebuilders [18] 」というネットワークには、69カ国における132の青年団体が登録されている。 そのような青年が運営する組織とのパートナーシップはより長期的な青年の平和構築の参加を可能にすると考えられる。

前述のとおり、紛争下で育つ子どもや青年たちは少年兵や少女兵として紛争に参加することがある。 彼/彼女らにとって社会に復帰する上で重要なステップとなるのが「武装解除・動員解除・社会復帰」である。 国連安保理決議2250の五つ目の柱となる「引き離しと社会復帰」では、武装解除、動員解除及び社会復帰において、紛争によって影響を受けた青年の疎外化を防止し、 教育や雇用において支援することが提案されている [19]。 例えば、中央アフリカ共和国では、国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)の武装解除・動員解除・社会復帰部門 (Disarmament, Demobilization and Reintegration Section(DDRS))が、地域型暴力削減(Community Violence Reduction(CVR))プログラムが行われる各対象地で現地委員会の設立を支援した。 現地委員会は、自治体、女性・青年組合、宗教指導者、慣行長(Customary chief)、および武装グループの代表者で構成されており、 青年を含む委員会は、プログラムの受益者の選定、実行可能なプロジェクトの特定、プロジェクトの実施とモニタリングにおいて重要な役割を担った[20]。 現地委員会に異なる組織や世代の代表者が含まれることによって、より多様なコミュニティの人々がプログラムの受益者として選出された。 このように青年は、プログラムの受益者としてだけでなく、実行する側にも含まれることに意義がある。

このように各平和維持活動において様々な方法によって「青年・平和・安全保障」の提案が実施されているが、未だに多くの課題があるのも事実である。

「青年・平和・安全保障」における今後の課題:

2015年に国連安保理決議2250が採択されてから、様々な平和構築に携わるアクターが青年の役割に注目し始めたものの、これらの多くの活動が一時的なものであり、 あらゆるレベル、セクションにおける継続的な青年の平和構築参加の促進が欠けていることが指摘されている [21] 。青年の平和構築への継続的な参加は、 どのように実現可能だろうか。ここで国連平和維持活動として実施可能な案を二つ挙げる。

一つ目の案は、各平和維持活動において青年に関する課題を担当するポストをつくることである。 例えば、国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)は、長期的な平和の取り組みにおける青年の重要な役割を認識し、 2016年5月に初のユース・フォーカルポイントを任命した。ユース・フォーカルポイントは、国際機関、政府および非政府組織と協力し、 青年の直面している課題や状況の認識を高め、青年の平和構築の取り組みを支援し、あらゆるレベルの意思決定に青年の参加を促す役割を担う。 コソボはヨーロッパで最も若い人口を抱えており、人口の55.9%が25歳以下であると言われている [22]。 プリシュティナとミトロヴィツァの2つの地域にいるユース・フォーカルポイントは、UNMIKのすべてのセクションと密接に協力しながら、 コソボ全土の多様なコミュニティから青年を集め、共通する課題において共に取り組む活動を展開している [23] 。常に青年のニーズを把握し、継続的に青年と共に活動し、支援する上でユース・フォーカルポイントの存在は有効的であろう。

また、二つ目の提案として挙げられるのが、国連平和維持活動の派遣前研修(UN Core Pre-Deployment Training) [24] に「青年・平和・安全保障」に関する内容を含めることである。 各国の派遣要員は、派遣前に国連が定めた研修を受けるが、その中に国連安保理決議2250や青年に関する記載はない。国連安保理決議1325号の「女性・平和・安全保障 (Women, Peace and Security (WPS))」に関しての内容は含まれているため、派遣要員の「女性・平和・安全保障」に対する認識はだいぶ広まっているものの、 「青年・平和・安全保障」に関してはあまり知られていない。認識を広めるためにも、派遣前研修の内容に盛り込むことを提案する。

平和を築く上で、立場、価値観、ニーズが異なる人々が意思決定の場に参加することは、それだけの人々の声が政策に反映されることにつながり、結果として平和の実現・持続に貢献し得る。 かかる観点から、女性及び青年の平和構築活動への参加についての重要性を改めて認識し、活動を支援することが肝要である。


[1] UN News. 2001. In Youth Day message, Annan urges efforts to fight AIDS, cut unemployment.https://news.un.org/en/story/2001/08/9152. Accessed 10 Dec 2022.

[2]青年の定義は組織によって異なるが、国連安保理決議2250では18~29歳の男女と定義されている。

[3]United Nations. 2018. EU’s Youth, Peace and Security event to focus on youth in promoting peace & security.https://www.un.org/peacebuilding/es/news/eus-youth-peace-and-security-event-focus-youth-promoting-peace-security. Accessed 10 Dec 2022.

[4]Youth4Peace. About the Youth, Peace & Security Agenda. https://youth4peace.info/About_YPS_Agenda. Accessed 10 Dec 2022.

[5]国連安保理決議2250に続いて、「青年・平和・安全保障」に関する国連安保理決議は、2018年に2419号、2020年に2535号が採択された。

[6]UNSCR 2250. 2015. https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N15/413/06/PDF/N1541306.pdf?OpenElement. Accessed 10 Dec 2022. (日本語訳:https://www.unic.or.jp/files/s_res_2250.pdf)

[7]Ibid.

[8]UNSCR 2250. Ibid.

[9]United Nations Peacekeeping. Promoting Youth, Peace and Security. https://peacekeeping.un.org/en/promoting-youth-peace-and-security. Accessed 10 Dec 2022.

[10]UNSCR 2250. Ibid.

[11]「非暴力のための組織」は、1994年に元々国内避難民となった南スーダンの学生によって設立された組織であり、今では18歳以上の誰もが参加できる組織となっている。Organization for Nonviolence and Development. https://www.onadev.org/.>https://www.onadev.org/. Accessed 10 Dec 2022.

[12]United Nations Peacekeeping. Ibid.

[13]United Nations Development Programme South Sudan. Police Community Relations Committees Help Build Trust and Improve Security in Aweil. https://www.undp.org/south-sudan/police-community-relations-committees-help-build-trust-and-improve-security-aweil. Accessed 10 Dec 2022.

[14]UNSCR 2250. Ibid.

[15]UNFICYP. 2022. Youth people in Cyprus join the 3rd education of the UN Youth Champions for Environment and Peace. https://unficyp.unmissions.org/young-people-cyprus-join-3rd-edition-un-youth-champions-environment-and-peace. Accessed 10 Dec 2022.

[16]UNSCR 2250. Ibid.

[17]Ibid.

[18]United Network of Young Peacebuilders. https://unoy.org/network/. Accessed 10 Dec 2022.

[19]UNSCR 2250. Ibid.

[20]United Nations Peacekeeping. Ibid.

[21]Landry Guillaume. 2017. United Nations Peacekeeping Engagement with Youth: MONUSCO Case Study. https://youth4peace.info/system/files/2018-04/19.%20CFR_DRC_MONUSCO%20Case%20Study_0.pdf. Accessed 10 Dec 2022.

[22]UNMIK. Working with young people. https://unmik.unmissions.org/working-young-people. Accessed 10 Dec 2022.

[23]Ibid.

[24]United Nations Peacekeeping Resource Hub. https://research.un.org/revisedcptm2017/Introduction. Accessed 10 Dec 2022.