第96回 国連安全保障理事会とは

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2018年1月11日
国際平和協力研究員
にしむら しょうじろう
西村 正二郎

  国連安全保障理事会(以下、安保理)は、国連の主要6機関の1つで、国際の平和と安全の維持に主たる責任を負っています。安保理についての著書等は数多くありますが、自分はこれまで外務省や国連で実際に勤務した経験があることから、今後、安保理やPKOについて、実務的観点も交え、様々なトピックについて執筆してみたいと思っています。今回は自分にとって最初の寄稿となるため、基本となる安保理そのものについて取り上げたいと思います。

安保理本会議場
(UN Photo/Milton Grant)

安保理の特別性:主権不平等

  安保理[1]は、国連の中で非常に大きな権限を有しています。国連は、その目的として国際の平和と安全の維持をまず初めに規定しており[2]、そして安保理はこの目的について主たる責任を負うとされています[3]。つまり安保理は、国連が第一に掲げる目的について最大の責任を負う機関であり、これに伴い大きな権限を有しているのです。

  では、何が特別なのでしょうか。まず、加盟国の主権平等をその第一の原則とする国連において[4]、安保理では現実に不平等が存在します。具体的には、常任理事国5か国(P5)と非常任理事国10か国(E10)の間に大きな隔たりがあります。安保理に常に席を置き、決議案を自国の判断のみで否決することができるP5は、膨大な知見と絶大な権限を有しています。このP5の特別な地位は憲章上の規定に基づいており[5]、そして加盟国は国連に入る際に憲章の規定を受け入れるので、この不平等な制度に同意した上で国連に加盟してはいるのですが、その違いは実務の場でも非常に大きなものです。安保理における交渉は、まずP5から始めてその後E10を含む全体で、というプロセスを経ることはしばしばあります。また、国連事務局も、安保理を説得するにはまずP5から、と考えることもあるようです。

  安保理ではこのように、P5が最優先でE10は二の次、といった対応が現実です。それでもE10は、まだ安保理の中にいるのでその議論や意思決定プロセスに参画できるのですが、これが安保理に入っていないその他の178か国になると、安保理の議論を追うこと、ましてやその意思決定に関与することは、とんでもなく難しくなります。例えば、非安保理理事国の担当官は、安保理が非公開の協議を行っている場合、会合が終わるくらいのタイミングで会議場の横の待合室に出向いて待機し、協議を終えて会合から出てきた関係者から議論の内容について聞き取りを行うといった地道な業務を行っています。ちなみにこの待合室はクワイエット・ルーム(静かな部屋)と呼ばれていますが、実際には関係者が様々な情報交換や協議を行うとても賑やかな場所です。各国の忙しい外交官がそこまでしてその議論の内容を必死に把握しようとするくらい、安保理に対する関心や利害は大きいものなのです。

クワイエット・ルーム(改装前)
(UN Photo/Andrea Brizzi)

安保理の特別性:法的拘束力と武力行使の許可

  次に、安保理は加盟国に法的な義務を負わせる権限を有していることもその特徴の一つです。国連総会決議に法的拘束力はありませんが、安保理については、全加盟国はその決定を受け入れ実施することに同意しています[6]。したがって、安保理が制裁を発動した際は加盟国にその履行が義務付けられますし(実際に履行されるかは別の話ですが)、PKOを設立した際の活動資金は加盟国に支払う義務があります(支払わなければ総会での投票権を停止されます[7])。上記のように非安保理理事国が安保理での議論を努めて把握しようとする背景の一つには、その意思決定プロセスに直接関与できないにもかかわらず自国の行動を拘束されることもあるのです。

  さらに、国際関係において一般に禁止されている武力の行使に関し[8]、安保理はこれを許可することがあります。実際の決議では、しばしば憲章第7章を引用しつつ、限定的な目的に対して「あらゆる必要な措置を用いることを授権する」という言い回しとなることが多く、武力の行使と明示的に言うことはありませんが、意味するところは同じです。実際にそのような措置が取られるかはまた別の話ですが、そのような措置を取る許可を与える権限を有していることが、安保理の特徴の一つになります。

終わりに

  その他にも安保理独自の特徴は数多くありますが、やはり、国際の平和と安全の維持への主たる責任、絶対的存在のP5、法的拘束力の保持、武力行使の許可といった点が、安保理を非常に特別にしている側面になります。このような大きな責任や強い権限を有しているにもかかわらず、たった15か国でしか構成されていないことが、安保理改革の議論の背景の一つでもあります[9]。次回は「国連PKOとは」をテーマに取り上げ、その後は安保理やPKOに関するより具体的な活動や制度等について取り上げていきたいと思います。

 

[1] 安保理のウェブサイトは以下のとおり。https://www.un.org/en/sc/

[2] 国連憲章第1条1項。

[3] 同第24条1項。

[4] 同第2条1項。

[5] 同第23条1項及び第27条3項。

[6] 同第25条。

[7] 同第19条。

[8] 同第2条4項。

[9] 例えば外務省は、「なぜ安保理改革が必要か」と題する資料で、「1945年の国連創設時に51か国であった国連加盟国は現在では193か国となり、4倍近くに増えましたが、安保理については、1965年に非常任理事国の議席数が4か国増え現在の10か国となったことにとどまり、常任理事国の構成などは、基本的に1945年当時のまま変わっていません。1945年に国連が発足して以降、現在に至るまでに、各国を取り巻く政治・経済状況は大きく変化しました。安保理の構成にも、このような変化を適切に反映させるべきではないでしょうか。」と述べています。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_kaikaku/j_rijikoku/kaikaku.html)