第97回 国連PKOとは

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2018年2月15日
国際平和協力研究員
にしむら しょうじろう
西村 正二郎

   前回は国連安保理について書きましたが、今回は国連PKOについて書いてみたいと思います。国連のPKO(平和維持活動)は、1948年にまでその起源をさかのぼる、国連による主要な活動の一つです。にもかかわらず国連憲章に規定がないことは、関係者の間ではよく知られています。安保理同様PKOについての著書等もたくさんありますが、ここでは、現代のPKOの特徴、特別政治ミッションとの違い、そして、少し技術的ですが予算措置といった観点から取り上げてみたいと思います。

 

国連のPKOロゴ

現代の国連PKO:多種多様、いろいろ

  PKOは憲章上に規定がありません。法的に確立した定義もありません。そして現代のPKOは多種多様です。現在国連がPKOとする活動は15ミッションありますが、人数については、コソボ・UNMIKの20人弱からコンゴ民・MONUSCOの1万7千人強まであり、構成については、ゴラン高原・UNDOF等のように軍事要員のみのものもあれば、ハイチ・MINUJUSTHのように警察要員のみのものもあります[1]。予算規模は、印パ・UNMOGIPの年間1千万ドル弱のものから南スーダン・UNMISS等の10億ドル超えのものまであり、マンデート(任務)については、マリ・MINUSMA等のように非常に強力なものから、キプロス・UNFICYP等のようにいわゆる伝統的な監視業務中心のものまであります。実に多種多様、いろいろです。

  実は、これこそが国連PKOの真骨頂です。PKOは基本的に紛争に対処するものですが、全ての紛争にはそれぞれの特徴があり、そのような多様な紛争に対して柔軟に対応できるように国連が発明したのが、PKOです。学術的観点からは、PKOを定義するために共通点等を研究することがあるかもしれませんが、実務的観点からは、PKOを厳密に定義せずに柔軟なツールとしておくことに利益があるので、両者の利害・関心には相容れない面があります。現在展開している15のPKOに共通している点といえば、「安保理の決定に基づいている」ということくらいで[2]、活動や態様の面で全てのPKOに横断的に共通する特徴はないのではないかと思われるくらい、現代のPKOは非常に多様です。

 

駐レバノンPKOのネパール要員
(UNIFIL/Pasqual Gorriz)

  PKO誕生から今年で70年。紆余曲折を経ながら、PKOは進歩と進化を遂げてきました。PKOの変遷を語る際には第何世代という言い方がしばしばなされ、これについては他の書籍等に委ねますが、現代のPKOに特徴的な点としては、上記のとおり非常に多種多様であることと、文民保護を超えた強力なマンデートを有しているものがあることが指摘できます。コンゴ民・MONUSCOの介入旅団やマリ・MINUSMAのテロ対策支援関連任務が、その例と言えます[3]

PKOと特別政治ミッション:似て非なる現地活動

  少し実務的な話をします。PKOは15ミッションですが、これに加えて、国連は特別政治ミッション(SPM)という現地活動も行っています。アフガニスタン・UNAMAとイラク・UNAMIの2つが最大のSPMで、他にコロンビア、ソマリア、リビア、ギニアビサウ等にも展開しています。UNAMAやUNAMIは、数百名規模の国際職員を有し、予算額は年間1億ドルを超え[4]、政治、人権、法の支配といった幅広い分野で活動しているため、一見するとPKOのようにも見えますが、PKOとSPMの間ではいくつかの違いがあります。

 

ハイチでパトロールをするブラジル部隊要員
(MINUSTAH/Jesus Serrano Redondo)

  まず、活動面での違いは、PKOは部隊を含む軍事・警察要員(制服要員)を持つことが多いのに対し、SPMはほとんどが文民職員です。ただしこれは絶対的な違いではなく、軍事・警察要員を持つSPMやほとんどが文民職員のPKOもありますが[5]、傾向としては、PKOは制服要員中心、SPMは文民職員中心と言えます。次に、国連事務局の担当部局は、現在は基本的にPKOはPKO局、SPMは政務局です。ただしこれも、かつてPKO局がSPMを管理していた例もいくつかあるため、厳密な違いではありません[6]。現在も、SPMであっても現地ミッションではないもののうちのいくつかは、政務局以外の部局が担当しています[7]

  このように、PKOとSPMの間では区別が紛らわしい面がありますが、より大きな違いは、実は予算措置にあります。SPMは通常予算、PKOはPKO予算で原則賄われており[8]、これら2つの予算の顕著な違いの1つは、分担率が異なることです。そしてこれは、特に安保理常任理事国(P5)にとって非常に重要なのです。

ちょっとマニアックな、PKOとおカネの話

  安保理は国連において国際の平和と安全の維持に主要な責任を有しています。そしてその意思決定に恒常的に関与できるP5、即ちアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5か国は、その「特別な責任」を理由に、PKOを賄う予算をより高い分担率で負担することになっています[9]。例えば最大拠出国のアメリカの場合、2017年の通常予算分担率は22パーセントちょうどですが、PKO予算分担率は28.47パーセントで、6パーセント以上も高くなります。ちなみに、日本の分担率は通常予算もPKO予算も同じで、2017年はどちらも9.68パーセントです[10]

  では、実際の負担額ではどのくらいの違いになるでしょうか。最大のSPMであるアフガニスタン・UNAMAとアメリカの例で見てみます。UNAMAの年間予算は約1億8千万ドルですが、このミッションはSPMなので通常予算で賄われるため、アメリカの分担率は22パーセント、金額にして年間約4千万ドルになります。しかしながら、仮にUNAMAがPKOだったとすると、PKO予算の分担率が適用され、アメリカの場合は28パーセント強、金額にして年間約5千1百万ドルになります。つまり、どちらの予算で賄われるかという違いだけで、1年間の負担額として、差額である約1千1百万ドル、今の為替レートで約12億円も多く支払うことになるのです。アフガニスタンだけでこれだけ額が違うのですから、これにイラクやソマリアなどの他のSPMも加わったら、それはそれは大きな額の違いになります。したがって、純粋に予算の観点のみからすれば、P5にとっては、似たような現地ミッションであるならば、それがPKOであるよりもSPMである方が財政負担がより小さくなるので、より望ましいということになるのです。

  実際、2003年に設立されコートジボワールに展開したMINUCIは、設立決議でPKOであるかSPMであるかが明記されず、国連事務局はPKOとの前提で予算を組んだものの、後に安保理が同ミッションはそもそもSPMとして設立したと通知し、マンデート更新の際にその旨を決議に明記したという混乱がありました[11]。この教訓も踏まえ、安保理は、ある現地ミッションがPKOであるかSPMであるかを設立決議で明記することがあります。例えば、現在最も新しいPKOであるハイチのMINUJUSTHは、設立決議でPKOであると明記されています[12]

 

住民との交流行事で綱引きをするPKO要員
(UN Photo/Logan Abassi)

  また、あまり技術的すぎる話は避けますが、この分担率の違いに加えて、通常予算は2年毎に作成される一方でPKO予算は1年毎に作成されたり、SPMは全体で1つの予算パイを分け合うのに対しPKOは個別ミッション毎に予算アカウントが設けられていたりといった違いもあります。あまり知られてはいないかもしれませんが、これらの違いはPKOに関する実務においてはとても重要なものです。

終わりに

  PKOの変遷や個別のPKOについての書籍等は多くありますが、2000年のブラヒミ報告以降PKOはますます多様化し、「これがPKOだ」と断言することは難しくなっています。しかし上述のとおり、それこそがPKOの強みであり価値なのです。2008年のキャップストーン・ドクトリンにあるような指針や原則に従いつつ、PKOは今後も進化を遂げていくでしょう。次回の寄稿では、2017年の安保理とPKOについて概観的に振り返ってみたいと思います。

 

[1] 人数及び構成とも、文民職員を除く軍事・警察要員に関してのもの。

[2] ただし過去のPKOには総会により設立されたものもあります(中東のUNEF Iと西ニューギニア(西イリアン)のUNSF)。

[3] 直近のマンデートの詳細は、コンゴ民・MONUSCOはS/RES/2348(特に主文26、同33及び同34 (i)(d))、マリ・MINUSMAはS/RES/2364(特に主文15、同18、同19、同20 (c)(ii)・(d)・(f)(i)、同34及び同37)参照。

[4] 直近の予算要求書はA/72/371/Add.4(UNAMA)及びA/72/371/Add.15(UNAMI)。

[5] 例えば、SPMであるアフガニスタン・UNAMAには軍事顧問・警察顧問が合わせて十数人程度、同じくSPMのイラク・UNAMIには2百数十人の防護部隊要員が含まれています(要求予算ベース(A/72/371/Add.4及びA/72/371/Add.15))。一方で、コソボ・UNMIKはPKOですが、軍事・警察要員は十数人程度しかいないのに対し、国際文民職員は1百人以上います(要求予算ベース(A/71/759))。

[6] 東ティモールのUNOTILやブルンジのBINUB等。

[7] 軍縮部が管理する不拡散に関する安保理1540委員会等。A/72/371 Annex II参照。

[8] ただし、最古の2ミッション(中東・UNTSOと印パ・UNMOGIP)は、PKO予算ではなく通常予算で賄われています。同2ミッションの直近の予算要求書はA/72/6 (Sect. 5)。

[9] 1963年6月のPKO予算の原則に関する総会決議1874 (S-IV)及び1973年12月のUNEF Iの財政負担に関する総会決議3101 (XXVIII)参照。

[10] 各国の分担率一覧はA/70/331/Add.1参照。

[11] 本件経緯については、S/RES/1479(MINUCI設立決議)、A/C.5/58/SR.20(総会第5委会合議事録要旨)、A/58/535(事務総長発総会議長宛書簡)及びS/RES/1514(マンデート延長決議)等の関連文書並びにYearbook of the United Nations 2003等参照。

[12] S/RES/2350。ただし、最近の現地ミッションの設立決議において必ずPKOかSPMかが明記されるわけではありません。例えばPKOについては、ハイチ・MINUJUSTHの1つ前に設立された中央アフリカ・MINUSCAではPKOと明記されましたが(S/RES/2149)、その前のマリ・MINUSMAとシリア・UNSMISは、文脈上PKOであることは明白であったため、設立決議でこれは明記されていません(それぞれS/RES/2100及びS/RES/2043)。SPMについては、最新のコロンビアの検証ミッションは設立決議で政治ミッションと明記されました(S/RES/2366)。