第75回 第二世代DDRの射程:ハイチの事例を中心に@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2014年6月27日
国際平和協力研究員
ふるもと ひでひこ
古本 秀彦

はじめに

 DDR(Disarmament, Demobilization and Reintegration: 兵士の武装解除・動員解除・社会復帰)は、紛争後における復興・開発を促進するための環境を整えることを目的とした活動として注目されてきました。@PKOなうでも、過去、三回にわたりDDRについての記事が掲載されています。しかし、DDRは2000年代後半から、より広い文脈を捉えたものへと変化してきました。現在、Second Generation DDR(第二世代DDR)と呼ばれるものがそれに当たります。今回は、ハイチの例を参考として「第二世代DDR」に焦点を当てていきます。なお、本稿では、国連PKO局の作成した文書[1]に倣い、従来のDDRを「Traditional DDR」、和訳で「伝統的DDR」と表現します。 

第二世代DDRとは

 「伝統的DDR」と「第二世代DDR」の違いですが、「伝統的DDR」には基本的に実施にあたって幾つかの前提条件がありました。DDR実施の法的枠組み(Legal Framework)を提供する和平合意、当事者の和平プロセスに対するコミットメント、紛争当事者のDDRプロセス参加への同意、DDR実施のための最低限の治安状況といったものが挙げられます[2]。何よりも、「伝統的DDR」における主要な対象者は、紛争に関わった当事者軍事組織の戦闘員でした[3]

 しかしながら、昨今、和平合意が存在しない状況、統制されていない武装グループや犯罪組織、ギャングの存在など、前提条件が整っていない状況、前提に含まれてこなかった環境が頻繁に認められるようになってきました。この為、国連は不安定な状況下で、和平プロセスへの信頼と信用を得るための努力、既知の紛争当事者以外の多様な武装集団への考慮等を含めたDDR戦略の形成と見直しが求められるようになってきました[4]。2008年に公表されたキャップストーン・ドクトリンにおいても、紛争当事者の和平プロセスへのコミットメントが認められない場合、国連PKO活動は、部隊の増員や調停活動の強化に加え、従来の活動を超えて多様な平和創造のための活動を行っていく必要が指摘されています[5]。こうした認識を受けて、様々なアクターに焦点を当て、和平プロセスへの寄与、長期的な平和構築へ向けた環境構築を考慮し、多様なアプローチを組み合わせ適用する「第二世代DDR」の概念が発展してきました[6]。その活動は、大別すると紛争後の安定化(Stabilization)、民兵や青少年等多様な集団への焦点、武装解除における代替活動、に分けられます[7]

ハイチにおけるDDRとCVR(Community Violence Reduction)アプローチ

 国連PKO局の出版した「第二世代DDR」に関する文書では、ハイチのDDRは、アフガニスタン、コートジボワール、リベリアと共に、「第二世代DDR」のケーススタディの一つとして取り上げられています[8]。特にハイチは、和平合意無き国連PKOの展開、「伝統的DDR」の対象となりえる紛争当事者の不在、そして武器・麻薬の密輸と青少年を多く含むギャングによる組織犯罪の蔓延という点で、上述した「第二世代DDR」が射程に含める多くの要素が参考とされています[9]

 以下に、国連の安保理決議および事務総長報告書を中心に、ハイチにおけるDDRの変遷を見ていきます。

 和平合意なく開始されたハイチの国連PKOミッションMINUSTAHですが、2004年当初からDDRがマンデートとして掲げられ、これは安保理決議1568号(2006年)まで続いています[10]。事務総長報告書を見てみると、ここにおけるDDRの対象は武装集団(Armed Group)と表現されています[11]。しかし、DDRプログラム策定や国家DDR委員会の形成は、遅々として進まない状況が各種文書から読み取れます。

 こうした状況を受けて、安保理決議1702号(2006年)では、「ハイチにおけるDDRでは、伝統的にDDRの対象とされてきた武装集団が存在しない」との認識が明らかにされました。その後、事務総長報告書では、DDRプログラムの方向性がCommunity Violence Reduction(CVR)に変更され、従来、武装集団と標記されてきた集団を「ギャング」という言葉に置き換え、小型武器対策・管理(SALW[12])、コミュニティにおける治安向上、Cash for Work(労働による対価の提供)、青少年への雇用創出プログラム、職業訓練等を目的としたアプローチへの変化が述べられました[13]。また、2007年以降、MINUSTAH内で従来DDRセクションとされてきた部署が、CVRセクションに変更され、活動としての「DDR」の名称がDisarmament, Dismantlement and Reinsertion(武装解除、解散、社会への再挿入)と呼ばれるようになっています[14]。CVRアプローチは、その後2010年の事務総長報告書からはより社会的弱者への支援、地震等災害からの復興の文脈で、生計向上、社会的安定を目的として報告されるようになり、対象としてのギャングへの言及もなくなり現在に至ります[15]。ハイチにおけるCVRアプローチは、従来のトップダウンのDDRではなく、広くコミュニティに多様な手段で働きかけて安定した状況を生み出すものと言えます。

 このようなハイチにおける「伝統的DDR」からCVRアプローチへの変遷ですが、国連文書によるとこれらの活動こそが第二世代DDRの一部と位置づけられます[16]。DDRという言葉についても、従来、各国の文脈に応じて、例えばDDRR(Disarmament, Demobilization, Reinsertion and Reintegration)と、Reinsertion(社会への再挿入)を付けるなど言葉が変化してきましたが、ハイチではDDRの二つ目のD(Dismantlement:解散)とR(Reinsertion:社会への再挿入)が従来のDDRとは異なります。

「第二世代DDR」の包括性

 以上のように、第二世代DDRの一例としてハイチを取り上げました。ここから言えることは、「小型武器対策:SALW」等、従来はDDRとは別に整理されてきた活動が、「第二世代DDR」ではDDR活動として整理されるようになってきたということです。例えば、2006年に出版された「IDDRS:Integrated Disarmament, Demobilization and Reintegration Standards」においては、DDRとSALWは共通の文脈を持ち、連携しながらも別の活動であるとされていました[17]。「IDDRS」はDDRとSALWを比較し、DDRは紛争後に行われる活動で、特に和平プロセスを後押しするもの、対象者は武装集団等とされ、一方SALWはどのようなタイミングでも実施の可能性があり、治安セクター改革や開発へ繋がる活動、そして裨益者は個人や市民・コミュニティ等多様なアクターを含むとされています。また、雇用創出プログラムやCash for Workは、国連やNGO等の人道支援機関で、速やかに社会の安定化を図るためにも行われてきた活動です。このように、「第二世代DDR」は、変化する現場に適応して発展してきた概念といえますが、同時に、「DDR」活動として何を位置づけ、何を位置づけないか、境界線が曖昧になってきたとも言えます。国連をはじめとして、DDRに取り組む組織は、どこまでをDDRの任務とするか、より柔軟に現地の状況に応じた対応をしていくことが求められてくるようになったと言えるでしょう。

 

[1] Disarmament, Demobilization and Reintegration Section, Office of Rule of Law and Security Institutions, UNDPKO, “Second Generation Disarmament, Demobilization and Reintegration (DDR) Practices in Peace Operations”, 2010. ttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty166_1.pdf, last visited (5 June 2014). 同第34条参照。

[2]  同上、p8.

[3]  同上、p3。しかし、2006年に出版されたIDDRS(United Nations Interagency Working Group on DDR, “Integrated Disarmament, Demobilization and Reintegration Standards, 2006)においても、ギャング等多様な集団を考慮に入れたDDRの実施は指摘されている。

[4]  前掲注1、p12.

[5] United Nations,Department of Peacekeeping Operations/Department of Filed Support,United Nations Peacekeeping Operations Principles and Guidelines, 18 January 2008 (Capstone Doctrine), p49-50.

[6]  前掲注1.p3.

[7]  紙幅の都合上、本稿ではこれら活動を個別に紹介することは目的としません。各活動については、前掲注1、21ページから29ページ参照。

[8] 前掲注1.

[9] 前掲注1、p10、11、15等。

[10] MINUSTAHに関する国連安保理決議1542号(2004年)から安保理決議1568号(2006年)まで参照。

[11] 例えば、S/2004/300号、698号、908号など。

[12] Small Arms and Light Weapons Controlの略

[13] S/2006/1003号およびMINUSTAH予算書、A/61/869

[14] 事務総長報告書S/2007/503、また、特にMINUSTAH予算書A/62/720, p22, paragraph 19参照。

[15] S/2010/200

[16] 前掲注1.p23-24.

[17] IDDRS(United Nations Interagency Working Group on DDR, “Integrated Disarmament, Demobilization and Reintegration Standards, 2006), Level 4. Chapter11.