第70回 性差:ジェンダーとセックスの違い

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

本コラムは、与那嶺元国際平和協力研究員が2011年に執筆しました。一部編集の上で、@PKOなうに掲載します

国際平和協力研究員
よなみね りょうこ
与那嶺 涼子

性差:ジェンダーとセックスの違い

小学生の頃、男と女、どっちがえらい? なんて学級会で話し合ったことはありませんでしたか? 男女は平等との教育を受けているのに、日本社会で責任ある立場の圧倒的多数は男性です。女性が結婚すると「寿退社」といまだにいわれ、いったんやめると再就職は難しい。
 一方で、育児をする男性は「イクメン」と呼ばれ、「草食系男子」が出現し、以前は女性の仕事とされていた保育士や介護師に就く男性も増えきました。
 このような社会現象を読み解くカギは「ジェンダー」にあります。それでは、「ジェンダー」とは何でしょうか?

生物学的な性差はセックスという

 「ジェンダー」を理解するのにあたって、引き合いに出されるのは生物学的な性差―セックス(sex)です。人間は生まれ持っての性別(sex)があり、大半は男性か女性に生まれます。1
 皆さんがお母さんのお腹の中から「おぎゃー」と生まれてから、1週間以内に親御さんは役場に出生証明書を提出しますね。その時に書くのは赤ちゃんの性別・・・男か女か、つまり、生物学的な性差(セックス)です。この生まれもった性差は、生涯にわたって一生変更はありません。具体的には、生殖機能の違いです。つまり、妊娠出産や授乳が出来るのは女性だけで、男性にはその機能はありません。また、男性ホルモン・女性ホルモンの量の差で体毛や筋肉の量の違いにより、外見にも違いが表れます。それらも含めた生物(動物)としての性差をセックスと言います。

ジェンダーとは社会的・文化的な性差

ジェンダー(gender)はもともと英語。一般的にジェンダーは生物学的な性差(セックス)に付加された社会的・文化的性差を指します。
 では、社会的・文化的性差とはどういうことでしょうか・・・?

 ジェンダーは、「男性だから・女性だから」、と枕詞がついて「こうあるべき」姿として、それぞれが所属する社会や文化から規定され、表現され、体現されます。それは、服装や髪形などのファッションから、言葉遣い、職業選択、家庭や職場での役割や責任の分担にも及び、更に、人々の心の在り方や、意識、考え方、コミュニケーションの仕方にまで反映されます。

まだちょっとわかりにくいですか?それでは事例を見てみましょう。
 日本では、男性=外で仕事、女性=家庭といった性別役割分担意識は、内閣府の平成19年度の世論調査で賛成が48%、反対が52%と、約半々の割合で指示されています。実はこの数値、他の国と比べて日本はだいぶ高いほうです。2
 私が以前、大学で「ジェンダー学」を教えていたころ、学生たちがよく言っていたのは、「先生、男は古代は狩りをしていて、女が留守の家(洞穴?)を守ったんだよ」、だから「男=外で仕事、女=家庭は自然なんだ」、でした。昔テレビでみたマンモスを追いかける石器時代アニメを思い出しました。

 つまり、「生物学的な特徴ゆえに、男性は女性に比べて頑強で、原始時代には外に出て狩りをしていたので、現代においても外の仕事や力仕事に向いている。一方、女性は生物学上の特徴ゆえ、男性よりも体が弱いから家庭内の仕事が向いており、更に妊娠出産機能があるから母性があるし、家事・育児・介護など人のお世話に向いている」、という考え方です。よく考えると、古代の男性の力仕事の内容と、現代の多くの日本人男性が携わる会社での仕事とでは、同じ議論をするのにとても無理があるような気がしますが・・・。

 果たして生物学的な特性がその人の社会的な役割や職業の向き・不向きまで「自然」のことだと正当化、あるいは、一般化できるものなのでしょうか?

生物学的性差 (sex) = 文化的社会的性差 (gender) ⇒ 自然な役割??

確かに、日本の職業人口を性別で見てみると、体力を必要とされる職業、例えば自衛隊や警察では男性の比率がそれぞれ94%以上3で、それ以外の体力を必要とする農業や漁業といった第一次産業では男性の比率は63%4です。しかしながら、自衛隊・警察と第一次産業を合わせても就業者全体のわずか5%程度5です。
 一方で、女性が向いていると言われる育児や介護は体力が必要な仕事です。家庭での育児は24時間体制。子どもが小さい時は睡眠時間も関係なく対応をしなくてはならず、かなりの体力勝負です。高齢者介護は、食事等だけでなく、入浴のお世話や寝たきりの方の体を持ち上げて着替えをさせるなど、力の要る作業が含まれます。また、保育士は子どもたちを抱えたり、遊んであげることで体をたくさん使います。保育士も介護師も人を持ち上げたり支えたりするので、腰痛で悩まされるのも特徴です。男性よりも筋肉が少なく、体が弱いとされている女性たちにとっては大変きつい仕事ではないでしょうか。
 こうしてみると、生物学的性差=ジェンダー (社会的文化性差) =自然な役割、と必ずしも言えない現実がありますね。
 また、日本での性別役割分担や、職業選択の傾向性が、必ずしも、他の国で一致するものでも、国の文化や民族、時間を超えて普遍的なことでもありません。そこが「ジェンダー」で社会・世界を見ていく面白さでもあり、正確にその社会や人々を知る上で重要な視点でもあるのです。

1ただし、性同一性障害の方や、両性具有の第三の性別の方や、トランスジェンダーの方たちもいます。しかし、このコラムでは主に、男性と女性を中心に話を進めていくことをご了承ください。

2内閣府男女共同参画局、男女共同参画社会の形成の状況より「固定的性別役割分担意識の国際比較」

3女性自衛官は平成21年度で11,814人(自衛官全体の5.2%)(防衛省ウェブサイト)2011年8月15日アクセス, 出典:「警察白書 平成21年度」(http://www.npa.go.jp/hakusyo/h21/honbun/pdf/21p05000.pdf)警察庁 警察職員は29万640人 女性警察官は1万4200人(警官全体の5.5%) 2011年8月15日アクセス

4出典:「労働力調査年報平成21年度」総務省 2011年8月15日アクセス

5就業者数6,282万人 警察官(一般職含まない)257,105人、 自衛官229,357人(いずれの数字も平成21年度)