第68回 人道法と武装集団@PKOなう!

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2014年3月28日
国際平和協力研究員
ながみね よしのぶ
長嶺 義宣

人道法と武装集団

人道法は本来、国同士の紛争を想定したルールですが、最近は、国同士ではなく国内において「国」対「武装集団」、あるいは、「武装集団同士」が対立する形態の紛争が大半を占めています。前回では、国内紛争で適用される人道法を紹介しましたが、そもそも武装集団に人道法を守らせることは可能なのでしょうか?今回は、人道法と武装集団の関係を考察し、次いで武装集団にとっての人道法を守るメリットを挙げ、最後に人道法を守らせる国際社会の取り組みを紹介します。

人道法の武装集団への適用性

第二次世界大戦後、ジュネーブ条約が起草される段階で、同条約に武装集団といった非国家主体も適用対象に含めるのか、盛んに議論が行われました[1]。結局、ジュネーブ諸条約の共通三条のみ、広範に定義付けられた「各紛争当事者」に適用することにし、彼らに課す義務項目を必要最小限に抑えることで収束しました[2]。課される義務として、敵対行為に直接参加しない人の殺害、傷害、虐待、人質や個人の尊厳に対する侵害の禁止等が規定されました[3]。1977年に発効した第二追加議定書ではさらに、国軍を除く紛争当事者が「反乱軍」と「その他の組織された武装集団」に絞られました[4]

昨今、国際紛争ではなく、国内紛争が増える中、武装集団への人道法の適用が喫緊の課題になっており、多くの学会や会議でも取り上げられるようになりました[5]。人道法が非国家主体に適用される根拠として、人道法に関わる条約が起草される過程において、交渉にあたった政府代表にその意向があったこと[6]、また、条約は全国民を代表する政府によって批准されたのであるから、非国家主体も同様に適用対象に含まれること等が挙げられています[7]。最近、安全保障理事会でも非国家主体を含む「全当事者」に人道法の遵守を促す決議が見られ[8]、武装集団も国家と同様、人道法を守るべきだという一般的な見解が裏付けられています。

武装集団にとっての人道法を守るメリット

それでは、武装集団にとって人道法を守るどのようなメリットがあるのでしょうか。民族解放や政権奪取を目的とした武装集団であれば、彼らが人道法を守ることによって、その政治的正当性を向上させることが考えられます。仮に集団が権力闘争の過程で人道法を著しく侵害していれば、政権を奪取したとしても、住民の信頼を欠くことになります[9]。また、民間人(文民)に対する略奪、迫害や性暴力などは、武装集団の規律を乱し、軍事的戦略に寄与しないどころか、むしろ妨害することもあり、作戦の観点からも人道法を守るほうが有利だといえます。一方、意図的に民間人を対象にしたテロ行為や、特定の民族を標的にしたジェノサイドを侵す集団に対し、人道法遵守に向けた説得を行うことについては、限界があるようにも思われます。

武装集団に人道法を守らせる取り組み

非国家主体に対する国際法の適用を巡る議論については、彼らに対し国際法を適用することは、何らかの政治的地位を認めてしまうことになるのではないか、という懸念があります[10]。前述のジュネーブ条約には、「紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない」[11]、といった事項が追加されましたが、現実問題として、被拘束員の交換や人道支援といった人道法の履行にあたり、武装集団との直接のやりとりが必要になることがあります[12]。それでは武装集団に人道法を守らせるためには、どのような方法が考えられるでしょうか。

武装集団が人道法を破る原因として、規則の無知、遵守する手段の欠如、不完全な指揮命令系統など考えられます[13]。その対策として、当事国が武装集団と直接人道法に関する協定を結ぶこと[14]、武装集団の行動規範に人道法の項目を設けること[15]、第三者機関を通じて啓蒙活動を行うこと、また武装集団が理解できるレベルに人道法を要約すること等[16]、様々な工夫が講じられ、最近では具体的な事例研究等もあります[17]。また人道支援に関わる機関を対象にした、武装集団と接するためのマニュアルも作成されています[18]

最後に、最近一目おかれている事例を紹介しましょう。Geneva CallというNGOが非武装集団による対人地雷禁止条約の遵守に向けて、武装集団の代表をジュネーブに招待し、ジュネーブ市庁で同条約の履行を宣言させる枠組みを提供しています[19]。また、武装集団による履行状況の報告やGeneva Callの調査団による現地訪問などといった活動も行っています。現時点では42の武装集団が対人地雷の撤廃を宣言しています[20]。これは、武装集団に国際規範を遵守させる必要性、武装集団が政治的にアピールしたい要求、そして武装集団と接する際、何らかの正当性を付与し兼ねない国際社会の懸念をうまく汲み取ったアプローチと評価できるでしょう。これは、国や国際機関ではなくNGOだからこそとれるアプローチかもしれません。

政治色の強い国連が、直接武装集団に接することには無理がありますが、このようにNGOと連携して、役割分担を明確にし、パートナーシップを築くことが、大変有益ではないかと考えます。

 

[1]Pictet, Jean, Commentary on the Geneva Conventions of 12 August 1949, Volume II, Geneva: International Committee of the Red Cross, 1960. on “Article 3”; Moir, Lindsay, The Law of Internal Armed Conflict, Cambridge: Cambridge University Press, 2002, p.4; Lauterpacht, Hersch, Recognition in International Law, Cambridge: Cambridge University Press, 1947, pp.270-1; Kalshoven, Frits, "Chapter 5 - The First Session of the Diplomatic Conference on Reaffirmation and Development of International Humanitarian Law Applicable in Armed Conflicts, Geneva, 20 February - 29 March 1974," in Reflections on the Law of War, ed. Kalshoven, Frits, Leiden, Boston: Martinus Nijhoff Publishers, 2007, pp.105-6.

[2]1949年のジュネーブ諸条約の共通三条を参照。(防衛省による邦訳:http://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/index.html)

[3]同上、1(a)項を参照。

[4]また、第二追加議定書1(1)項は「持続的にかつ協同して軍事行動を行うこと及びこの議定書を実施することができるような支配を責任のある指揮の下で当該領域の一部に対して行うもの」と条件付けているため、適用の敷居は共通三条より比較的に高い。

[5]例えば International Institute of Humanitarian Law, IIHL, "Non-State Actors and International Humanitarian Law. Organized Armed Groups: A Challenge for the 21st Century," in XXXII Round Table, Sanremo Italy, 2009. ICRC, "International Humanitarian Law and the Challenges of Contemporary Armed Conflicts, (document prepared for the 30th International Conference of the Red Cross and Red Crescent)," Geneva, Switzerland, 2007.

[6]Cassese, Antonio, "The Status of Rebels Under the 1977 Geneva Protocol on Non-international Armed Conflicts," International and Comparative Law Quarterly, 30, (1981), pp.423-9; Sassoli, Marco, "Taking Armed Groups Seriously: Ways to Improve their Compliance with International Humanitarian Law," International Humanitarian Legal Studies, 1 (2010), pp.13-4.

[7]Zegveld, Liesbeth, The Accountability of Armed Opposition Groups in International Law, Cambridge: Cambridge University Press, 2002, p.15; Ryngaert, Cedric, "Non-State Actors and International Humanitarian Law," Working Paper, Katholieke Universiteit Leuven Faculty of Law: Leiden, 2008.

[8]国連安全保障理事会決議1674(2006)「武力紛争と文民に関する決議」を参照:「関連するあらゆる勢力に対し、国際法で課せられている義務、特に1899年・1907年ハーグ条約 (...) 並びに1949年ジュネーブ諸条約及び1977年同選択議定書 (...) に含まれている義務、安全保障理事会の決定を厳密に遵守することを要請する(6条)」。安保理決議1882 (2009) の前文も類似した表現を活用:「武力紛争の全ての当事者が(..)のジュネーブ諸条約およびその1977年追加議定書を含む武力紛争における子どもの保護に関し適用される国際法の義務を厳格に履行することを要請(する)」。またConstantinides, A., "Human Rights Obligations and Accountability of Armed Opposition Groups: the Practice of the UN Security Council," Human Rights and International Legal Discource, 1, (2010) を参照。

[9]注6, Sassoliを参照。

[10]Moir, The Law of Internal Armed Conflict.p.23-9; また注1を参照。

[11]1949年のジュネーブ条約3条3(4)

[12]Schmitt, Michael, "The Status of Opposition Fighters in a Non-International Armed Conflict," in Non-International Armed Conflict in the Twenty-first Century, ed. Watkin, Kenneth and Norris, Andrew J., Newport, Rhode Island: Naval War College, 2012, p.122. Dudouetはこれを “engagement dilemma”と呼ぶ。Dudouet, Veronique, "From War to Politics - Resistance/ Liberation Movements in Transition," Berghof-Report, Berlin, 2009, p.8.

[13]ICRC, "International Humanitarian Law and the Challenges of Contemporary Armed Conflicts, (document prepared for the 30th International Conference of the Red Cross and Red Crescent)," pp.47-8.

[14]Ibid., pp.51-3.

[15]Ibid., pp.56-7.

[16]注6、Sassoliを参照。

[17]注5、Annex IIIを参照。Geneva Academy, Rules of Engagement - Protecting Civilians through Dialogue with Armed Non-State Actors, Geneva: Geneva Academy, October 2011.

[18]Mancini-Griffoli, "Humanitarian Negotiation, A Handbook for Securing Access, Assistance and Protection for Civilians in Armed Conflicts," Center for Humanitarian Dialogue: Geneva, 2004; UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs (OCHA), Humanitarian Negotiations with Armed Groups. A Manual for Practitioners, 2006.

[19]Herr, Stefanie, "Binding Non-State Armed Groups to International Humanitarian Law - Geneva Call and the Ban of Anti-personnel mines: Lessons from Sudan," PRIF-Report No.95, Peace Research Institute Frankfurt (PRIF): Frankfurt, 2010; DCAF & Geneva Call, "Armed Non-State Actors: Current Trends & Future Challenges," DCAF Horizon 2015 Working Paper, Geneva, 2011.

[20]Geneva Call のウェブサイトを参照(http://www.genevacall.org 3月26日付)。宣言は一切法的拘束力を持つものではないことを留意。