久島局長による開会挨拶

冒頭:コロナ禍を受けた現状

 本日は当事務局主催オンライン・シンポジウムに多くの方に御参加いただきありがとうございます。本シンポジウムのテーマ説明を含め挨拶させていただきます。
 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界の人々の生活に大きな影響を与えるとともに、命・生活・尊厳、すなわち人間の安全保障に対する脅威となっています。日本政府は、SDGsアクションプラン2021において、新型コロナウイルス感染症拡大は人間の安全保障に対する脅威であると表明しています。国際平和協力の文脈では、紛争の影響下にある人々は、コロナ禍で保健、医療、教育といったベーシック・ヒューマン・ニーズへのアクセスが更に困難となることから、国連事務総長や安保理は最も脆弱な人々に対して必要な支援を届けるとの観点から紛争当事者に対して停戦を累次呼びかけてきました。
 こうした停戦の呼びかけは一部の国・地域において一定の成果を挙げる一方、新たに大規模な紛争が見られる地域もあり、2021年に人道支援を必要とする人々の数は昨年より40%も増え得ると指摘されています。
 菅総理は、先の施政方針演説において、ポストコロナの国際秩序づくりに指導力を発揮する決意を表明しました。コロナ禍のために人道・開発・平和が損なわれてはならず、人間の安全保障の理念や「誰一人取り残さない」とのSDGsの考えの下、国際社会による最も脆弱な人々に対する支援が求められています。

コロナ禍のPKO活動への影響

 コロナ禍では、国連PKO等の国際平和協力活動も影響を受けてきました。PKO要員交代の一時停止や要員等の感染といった直接的影響のほか、派遣先国の政治・経済・社会状況の混乱や、和平プロセスの遅延により、ミッションの遂行がより困難になる場合もあります。
 このような状況の中、国連は、昨年4月、コロナ禍におけるPKOの新たな活動目標として感染症拡大防止と平和の維持の両立を掲げ、派遣国の感染拡大抑止に向けた取組を支援するとして、南スーダンのUNMISSやコンゴ民主共和国のMONUSCOなどでは地元住民に対するラジオ等を通じたコロナ感染予防の啓蒙活動を開始するとともに、PKO内においても、PCR検査の実施体制や集中治療室の整備、医療スタッフの増員など医療分野の能力強化に努めています。
 新型コロナウイルス感染症を受け、より困難な状況でのミッション遂行や新たなニーズへの対応など、withコロナ、ポストコロナの国際平和協力の在り方について検討が必要となってきています。

今後の我が国の国際平和協力

 我が国は、明年、PKO法30周年の節目を迎えます。我が国の国際平和協力の今後を考えるに当たり、これまでを振り返ると、2014年の「PKOハイレベル会合」で当時の安倍総理から表明したように、我が国は「人間の安全保障」の考え方に立脚し、国際平和協力分野での確かな貢献を継続してきました。
 「人間の安全保障」の理念に基づき、世界の「国づくり」と「人づくり」に貢献することである旨、我が国の国際協力全般に関する基本的立場を累次表明しています。また、人間中心の視点は、人道・開発・平和の「切れ目の無い支援」、いわゆる「ネクサス」と結びつきます。国連事務総長が「平和の持続」と「持続可能な開発」の両面を重視して改革を進めているのも、同様の視点から来るものと言えるでしょう。
 国際平和協力についてこれを具体的に見ていくと、「国づくり」と「ネクサス」は南スーダンの事例が分かりやすいと思います。
 先日、南スーダン情勢に関する安保理ブリーフィングにおいて、シアラーUNMISS代表は、UNMISS活動は地域住民間の和解の促進にも寄与する道路整備が最も中心的な活動である旨述べました。我が国が派遣したUNMISS施設部隊は、現地地方政府と連携したコミュニティ道路整備を始めとする道路建設・改修等を行いました。道路整備は、人々の医療や教育へのアクセスが向上する効果だけではなく、開発の基礎を為す各種交流を促進し、シアラー代表が言うように、共同体間の理解や融和を促進する「平和の持続」にも繋がります。
 南スーダン和平プロセスにおける治安部門改革(SSR)支援の一環として、昨年、我が国はIGAD(政府間開発機構)を通じ、南スーダン政府・反主流派の要員を一時的に仮宿営させるためのテント等を供与しました。平和の定着に必要なSSRをPKO法で定める物資協力で支援した例です。
 「人づくり」においても、UNMISS司令部で勤務した施設幕僚が「軍事部門司令官表彰」を受けるなど、我が国要員が直接範を示しているのみならず、我が国要員・部隊の高い規律や勤勉さは、国連三角パートナーシップ・プロジェクト(TPP)の下での要員派遣国に対する能力構築支援にも活かされています。TPPは要員派遣国からの要望を踏まえ、工兵、情報通信から医療へ、アフリカからアジアへと分野・地域が拡充されています。
 未曽有のコロナ禍の中での国際平和協力の在り方を検討するに当たっては、「人間の安全保障」に基づき、我が国が積み上げてきた「国づくり」、「人づくり」、「切れ目の無い支援」の実績を中核に据えながら、分野では医療分野の強化や、手法では「ネクサス」の主流化を追求していくことなどが重要な論点となるものと思います。
 本日は、人間の安全保障の第一人者であられる星野大使、UNMISSの中枢で活躍中の石川ユニット長、医療分野で経験豊富な川﨑二佐という本日のテーマに最適な方々のご参加を得られたことに大変感謝します。
 それでは、コロナ禍を受けた国際平和協力の現場の新しいニーズを踏まえつつ、明年のPKO法30周年や更にその先を見据え、国際社会、国連、そして我が国による国際平和協力の在り方につき、皆様と議論できればと考えております。