「コロナ禍を受けた国際平和協力の現状と今後の在り方」に関するオンライン・シンポジウムの開催(結果概要及び議論の概略)について

1 結果概要

 令和3年3月15日(月)、内閣府国際平和協力本部事務局は、「コロナ禍を受けた国際平和協力の現状と今後の在り方-人間の安全保障の理念に基づく持続可能な国際社会の構築に向けて-」をテーマとしたシンポジウムをオンラインで開催し、外国在住者を含め約170名が参加しました。
 冒頭、久島直人国際平和協力本部事務局長より、今次シンポジウムのテーマに関する問題意識を開会挨拶としてご紹介した後に、星野俊也大阪大学教授・前国連大使より、人間の安全保障や国連を通じた国際平和協力に関する研究及び実務双方での深い知見を踏まえた基調講演を頂きました。また、石川直己国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)戦略計画ユニット及び教訓ユニット長や川﨑真知子国連事務局オペレーション支援局メディカル・トレーニング・オフィサー(二等陸佐)より、それぞれPKOや国連三角パートナーシップ・プロジェクト(TPP)の現場での経験を踏まえたプレゼンテーションを頂きました。
 その後、参加者からも熱心な質問が飛び交い、盛会裏に終了しました。

2 議論の概略

  • (1)冒頭挨拶(久島事務局長による開会挨拶全文はこちら)
  •  冒頭、久島内閣府国際平和協力本部事務局長から、新型コロナウイルス感染症の拡大は、命・生活・尊厳、すなわち人間の安全保障に対する脅威であり、コロナ禍のために人道・開発・平和が損なわれてはならず、人間の安全保障の理念や「誰一人取り残さない」との持続可能な開発目標(SDGs)の考えの下、国際社会による最も脆弱な人々に対する支援が求められている、また、コロナ禍では、国連PKO等の国際平和協力活動もPKO要員交代の一時停止や要員等の感染といった直接的影響のほか、派遣先国の政治・経済・社会状況の混乱や、和平プロセスの遅延により、ミッションの遂行がより困難になる場合もあり、医療分野の能力強化等の新たな課題への対応も含め、withコロナ、ポストコロナの国際平和協力の在り方について検討が必要となってきているとの問題提起がなされました。
  •  その上で、これまでに累次表明されてきた我が国の国際協力全般に関する基本的立場は「人間の安全保障」の理念に基づき、世界の「国づくり」と「人づくり」に貢献することであり、国際平和協力における「国づくり」と「切れ目の無い支援(ネクサス)」の具体例として南スーダンの事例(我が国が派遣したUNMISS施設部隊による道路整備、及び南スーダン和平プロセスにおける治安部門改革(SSR)支援の一環としてのPKO法に基づくテント等の物資協力)を紹介しつつ、明年にPKO法30周年の節目を迎える我が国の国際平和協力の今後を考えるに当たっては、「人間の安全保障」に基づき我が国が積み上げてきた「国づくり」、「人づくり」、「切れ目の無い支援」の実績を中核に据えながら、分野では医療分野の強化や、手法では「ネクサス」の主流化を追求していくことなどが重要である旨強調しました。
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  • (2)基調講演
  • 次に、星野大阪大学教授・前国連大使は、PKO法制定から約30年を経て、日本の国際平和協力の協力先や関係国からの歓迎や国民からの支持は日本の国際平和協力の実績が広く認識されている証とした上で、日本の国際平和協力隊の強みであるロジスティクス支援や社会インフラ提供の実例を示しつつ、人間の安全保障の理念を中核とし、SDGsを重視した日本の国際平和協力の取組は、平和憲法を基礎とした日本政府の多国間主義及び国際協調の一貫した姿勢、現地政府や人々のオーナーシップを尊重した「国づくり」「人づくり」、現地へのインパクトを重視しつつ自ら模範も示す「クオリティ重視」の姿勢に体現されている旨述べました。また、新型コロナの国際協力への影響に関し、SDGs達成の遅れ、ドナー国の財政圧迫、大国間の合意形成の遅延といった負の影響があるとしつつも、国連PKOに関しては、業務の集約やデジタル化などイノベーションを進める好機でもあると述べました。さらに、コロナ禍ではワクチンナショナリズムとは裏腹に誰もが安全でない限り安全ではないことが明白になったことで、地球規模での「共生」と「持続可能性」実現の必要性が認識された旨述べました。その上で、菅総理の国連一般討論演説における人間の安全保障アプローチ及びその再活性化への言及や、近年の国連における人間の安全保障の論議を紹介した上で、新型コロナを人間の安全保障に対する危機と捉え直すことにより、現場の人々の多様なニーズを踏まえ、分野を横断して保護と能力強化のメニューの提供を可能とする包括的なアプローチが可能となると強調しました。また、今後の日本の国際平和協力の在り方に関し、星野教授が作成した人間の安全保障から見る国際平和協力の模式図等を示した上で、日本が重視する人間の安全保障の理念に基づいた「国づくり」「人づくり」のための国際平和協力活動を検討していくことが、「平和の持続」と「持続可能な開発」にも資する重要な取組となると述べたほか、デジタル化やAIなどの科学技術イノベーション分野や女性・平和・安全(WPS)や若者・平和・安全(YPS)の視点も盛り込んでいく必要がある旨述べました。最後に、ポストコロナにおける世界の新秩序形成に向けて、日本は人間の安全保障やSDGsを重視した国際平和協力、ユニバーサル・ヘルス・カバレージ(UHC)、より良い復興など日本らしい取組を通じて指導力・存在感を発揮する好機にある旨強調しました。
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  • (3)専門家によるプレゼンテーション
  • ア また、石川国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)戦略計画ユニット及び教訓ユニット長は、UNMISSの概要、南スーダンにおける新型コロナの状況、UNMISSによるコロナ対策などの概略を説明した上で、新型コロナの影響による南スーダンの和平プロセスの遅延や人道・開発ニーズに対する限定的な支援への懸念が示されたほか、ポストコロナに向け今回の教訓を活かしたUNMISSの活動の見直しが必要であり、和平プロセスの進捗状況と本年3月に国連安保理で採択された新たなマンデートを踏まえ、人道・開発機関との連携や民生・法の支配分野の支援の重要性が高まってきている旨述べました。
  • イ さらに、川﨑国連事務局オペレーション支援局メディカル・トレーニング・オフィサーは、国連によるPKO要員に対する能力構築事業である三角パートナーシップ(TPP)の概略を説明した上で、今後、TPPでは、新型コロナ感染拡大の影響も踏まえ、ITを駆使した遠隔医療、オンライン訓練の実施、新型コロナへの対応能力向上にも寄与できる外傷医療の能力強化が検討されている旨述べました。
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  • (4)質疑応答
  •  最後に、参加者より、国連PKOにおけるジェンダーへの対応、南スーダンにおけるCOVIDの状況と対応、PKO分野における我が国の活動の国際社会に対するアピールの方法などに関する質問があったのに対し、星野教授、石川ユニット長、川﨑オフィサーよりご回答いただきました。

星野前国連大使

久島内閣府国際平和協力本部事務局長

石川UNMISSユニット長

川﨑国連オペレーション支援局オフィサー