意見交換会 議事録(2025年4月4日)
日時
2025年4月4日(金)10:30~13:02
場所
消費者委員会会議室及びテレビ会議
出席者
-
- 【委員】
- (会議室)鹿野委員長、黒木委員長代理、中田委員
- (テレビ会議)大澤委員、柿沼委員、原田委員
- 【説明者】
- ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部 クリストフ・ブッシュ教授
- 龍谷大学法学部 中田邦博教授
- 龍谷大学法学部 カライスコス アントニオス教授
-
- 【事務局】
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- ドイツ消費者問題諮問委員会クリストフ・ブッシュ委員長を迎えての意見交換
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
- 議事次第(PDF形式:164KB)
- 【資料1】 EU消費者法の動向―日独共同研究プロジェクト ブッシュ先生のご紹介もかねて(中田教授提出資料)(PDF形式:378KB)
- 【資料2-1】 電子商取引における安全性と持続可能性―EUにおける最近の市場動向と規制動向の概要(ブッシュ教授提出資料)(PDF形式:1069KB)
- 【資料2-2】 電子商取引における安全性と持続可能性―EUにおける最近の市場動向と規制動向の概要(ブッシュ教授提出資料・翻訳版)(PDF形式:1047KB)
《1. 開会》
○鹿野委員長 本日は、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
ただいまから「意見交換会」を開催いたします。
本日は、黒木委員長代理、中田委員、そして、私、鹿野が会議室にて出席しており、大澤委員、柿沼委員、原田委員がテレビ会議システムにて御出席です。
今村委員、小野委員、山本委員は御欠席と伺っております。
星野委員は、もしかしたら、遅れて御参加かもしれません。
それでは、本日の意見交換会の進め方等について、事務局より御説明をお願いします。
○友行参事官 本日はテレビ会議システムを活用して進行いたします。
配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。もしお手元の資料に不足がございましたら、事務局までお申し出くださいますようお願いいたします。
以上です。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
《2. ドイツ消費者問題諮問委員会クリストフ・ブッシュ委員長を迎えての意見交換》
○鹿野委員長 このたび、オスナブリュック大学教授であり、かつ、ドイツ消費者問題諮問委員会の委員長をお務めになっているクリストフ・ブッシュ先生の御来日に合わせて、こうして意見交換の機会を得ましたことを大変嬉しく思います。
ドイツ消費者問題諮問委員会は、消費者問題に関する専門的な知見や経験を有する有識者で構成され、独立した立場からドイツの消費者政策の形成を支援する重要な役割を担っておられます。
日本の消費者委員会も、また、独立した第三者機関として消費者行政に対して意見表明等を行う役割を有しており、両委員会は、その使命において共通する点があると考えられます。
本日は「電子商取引における安全性と持続可能性-EUにおける最近の市場動向と規制動向の概要-」をテーマに、ブッシュ先生より御講演をいただけると伺っております。
その後、御講演の内容を踏まえて、意見交換を行いたいと考えております。
デジタル化の進展に伴って生ずる諸課題について、考え方や対応策を共有することで、今後の法制度等の在り方を検討する上での示唆が得られることを期待しているところでございます。限られた時間ではございますが、有意義な意見交換となりますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
改めて、御紹介をさせていただきます。
まず、ドイツ消費者問題諮問委員会委員長であり、オスナブリュック大学法学部教授でいらっしゃるクリストフ・ブッシュ先生、それから、龍谷大学法学部教授でいらっしゃる中田邦博先生、それから、龍谷大学法学部教授でいらっしゃるカライスコス アントニオス先生に会議室にて御出席いただいております。お忙しいところありがとうございます。
本日の進め方ですが、最初に中田教授より、ブッシュ教授の御紹介とともに、EUの規制の在り方等について、15分程度で御講演をいただきます。
その後、ブッシュ教授に30分程度で、先ほど申しましたテーマについて御講演をいただきます。
その後、全体としての意見交換を45分程度で行いたいと思います。
また、本日の意見交換会の進め方ですが、本日は日本語で質問等を言っていただき、カライスコス教授に通訳をお願いするという形で進めたいと思います。カライスコス先生には、御苦労をおかけしますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、まず、最初に中田教授、よろしくお願いいたします。
○龍谷大学法学部中田邦博教授 御紹介いただきました、中田でございます。皆様、おはようございます。龍谷大学で民法と消費者法を教えております。
消費者委員会の皆様には、数年前のプラットフォーム取引に関する専門調査会で非常にお世話になりました。
最初に、この意見交換会の経緯について、少しだけお話をさせていただきます。
実は今回の意見交換会の前に、昨年11月に非公式の形でブッシュ先生と消費者委員会の皆様との意見交換会を実施しました。それが双方にとって大変有益であったという評価をいただきましたので、今回来日の機会に合わせて、公式な形で開催させていただくこととなりました。
先ほどからも御紹介があったように、ブッシュ先生は消費者法の第一人者として、EUレベルでも、ドイツ国内でも消費者問題の政策立案をリードされている方です。
本日、先生に消費者法の最新の動きについて御報告いただけるということは、非常に個人的にも喜んでおります。
そして、私にもこのような報告の機会を与えていただきましたこと、また、事務局の皆様の周到な準備についても、鹿野先生をはじめ、皆様に心から感謝いたします。
私の報告では、最初にブッシュ教授の紹介も兼ねて、私たちの共同研究のことを御紹介し、その後にEU法の近時の動向について本当に素描となりますが御紹介したいと思います。
その内容は、EU法の仕組みと、特にデジタル環境の改善に関わるEU法の動向についての説明となります。これは、ブッシュ先生のお話の前提ということになります。
まず、共同研究について、ブッシュ先生と私は大分前から知り合いなのですが、今回のプロジェクトでは、2023年からのもので、昨年1年延長しまして2025年末までの予定で、デジタルプラットフォーム規制についての比較法的な検討を行っています。鹿野菜穂子先生もメンバーの1人であります。
このプロジェクトは、DAADというドイツ学術交流会という国際交流、研究を支援するドイツの公的学術機関のプロジェクトとして採択され、実施されております。私もこのDAADの奨学金を得て留学したことがあります。
この共同プロジェクトによって、私たちは年に数回、相手方の大学を訪れて、セミナーや学生向けの講演を行っております。
こうした人的な交流を通じて、日独のデジタルプラットフォームの規制状態を分析し、また、消費者法の体系化やその現代化の意義について、あるいはその必要性について検討しています。
それでは、レジュメのⅡを御覧ください。ブッシュ先生の御紹介をしたいと思います。
既に鹿野先生が御紹介されたところは省略させていただいて、ブッシュ先生が所長をされているヨーロッパ法研究所についてですが、特にヨーロッパ民法典の草案の研究で有名なクリスチャン・フォン・バール教授が開設されたところです。
オスナブリュックは、お隣のミュンスターとともに、1648年のヴェストファーレン平和条約の締結の地として世界的にも知られています。
ブッシュ先生の公的な職務については、先生は国際的に活躍されていることもあり、重要な公的役割としては3つほどレジュメに挙げさせていただいています。
ただ、ここでは、3つ目のドイツ消費者問題諮問委員会の御紹介をさせていただきます。このあと、ブッシュ先生の作成されたスライドが出てきますが、構成については、プロが撮ったメンバーのとても素敵な写真も添えられていますので、それを見ていただければと思います。
ブッシュ先生は、同委員会の委員長として御活躍されています。この委員会は、ドイツの消費者政策に関する諮問を受けて、専門的な見地から、独立して調査を行って、政策立案や立法プロセスに対して提言をする組織だとお聞きしています。
ドイツは、今年の2月に選挙がありましたので、今、連立政権が構築されつつあります。その連立政権の合意のために、同委員会は、政策プログラムあるいは立法課題をどのように扱うかというところで、助言をされているとのことです。
ブッシュ先生は、2022年12月に、消費者法の世界的権威であるハンス・ミクリッツ教授の後任として指名されて、任期は4年です。2024年6月より、同委員会の委員長に就任されています。先生は、同委員会の言わば舵取り役として、またメディアでも御活躍であります。余談ですけれども、この間の経験で、かなり政治的な言い回しを学ばれたと聞いております。
ブッシュ先生の研究分野と業績については、レジュメのほうを御覧ください。
それでは、レジュメのⅢに入ります。
以下では簡単に、EUでの立法形式についてですが、まず、立法による消費者法の平準化という点について御説明したいと思います。
実体法的側面ということで、EUでは、人、物、サービス及び資本が国境を越えて自由に移動できる、そういう域内市場の確立が必要だということで、それが最優先の事項として設定されています。
EUの基本的自由と呼ばれている理念であって、その目的は、国境を越えて市場を拡大することにあります。近時は、それに反するような動きもあるわけですが、EUは、そういった自由の理念のもとに動いているというわけです。
これを可能とする法的枠組みの1つが、EU消費者法であると考えられます。EU全領域において共通化された市場ルールを形成するための法的根拠がそこにあります。
このルールによって、域内市場が確立され、そこでは事業者や消費者が、その所在する加盟国に関わらず、同等の法的条件のもとで取引ができるということになります。
消費者は、EU域内のどこでも高水準の消費者保護を受ける、つまり、それで安全な取引を行うことができるというわけです。
1980年代からのEU消費者法の平準化作業は、こうした枠組みを前提として推進されてきました。
平準化は、EU加盟国の国内法を互いに接近させ、共通性のある部分をつくり出すことで、域内市場の確立に貢献してきました。
平準化に寄与する法的枠組みが、EU規則やEU指令といった法形式です。この区別は重要です。
EU規則は、加盟国による処置を要することなく、全ての加盟国において、その内容を変えることなく、その条文のまま当然に妥当するものとなります。つまり、その規定内容のまま、国内法の一部に組み込まれるという立法形式です。
この場合には、EUの権限のある範囲においてですが、EUが各加盟国の法律内容を定めて、それを自ら執行する権限を持つと見ることができます。言わば直接的な立法です。
これに対して、EU指令による形式では、達成されるべき目的が定められるにとどまります。その規制内容を具体化するという立法過程とその執行権限が加盟国に残されており、加盟国は、指令を国内法化するための措置を、国内法体系に最も合致する形で講じることとなります。言わば、国内法化というワンクッションが入った間接的な立法形式と言えます。
このように指令によっても、EU域内での規制の基準の平準化ができるのですが、各国の法体系に左右されることから、各国での規制や対応のばらつきを生み出しかねないというデメリットが生じています。
例えば、EU消費者法に関する指令の規定は、フランスでは消費者法典として集約され、ドイツでは一般法である民法、BGBや、不正競争防止法、UWGに規定されています。
オーストリアなどの立法形式は、その中間的なもので、消費者法の主要な部分のみ消費者法典に集めています。
しかし、それでは、他の加盟国の法律家からすると、当該の指令がどのような法律において、どのように国内法化されたかを知ることが難しくなるといった指摘がなされています。
さらに、後でも述べますが、指令の場合の法執行の権限は、当該の加盟国にのみあることから、加盟国によってその運用が異なったり、不十分となったりする可能性も残ります。
また、越境型の取引であると、国内法化された当該の国の規制を他国に及ぼすことができないというジレンマも生じています。
次に、執行体制について説明します。
EU消費者法の手続的な側面の強化も、市場のルールの平準化において重要な課題とされてきました。
法の執行が滞ると、消費者の権利は絵に描いた餅にすぎないことになるというだけでなく、それによって実現される公正な市場ルールも遵守されない、害されるということになります。
このため、EUレベルでは、消費者個人の権利の明確化や、それらを集団的に実現するための手段が用意されています。そのため、消費者団体等による差止請求権や被害回復請求権が認められています。
それでも現在は、まだ、消費者の権利実現が十分でないとして、その強化が強い関心事となっています。この間、EU法の改正作業が続いたのは、そういった理由もあります。
ドイツでは近時のEU法の改正を受けて、UWG上の消費者個人の損害賠償請求権(同9条2項)が認められています。
消費者法が消費者の保護だけでなく、公正な市場ルールによる競争環境を維持する手段としても位置付けられていることを示しています。
この意味で、EUでは、消費者個人の権利実現は、公正な市場の実現と一体のものとして把握されていると見ることができます。もっとも、消費者法の執行の体制については、基本的に加盟国に委ねられており、その違いが生じています。
例えば、ドイツとフランスではその執行体制についてはかなり大きな違いが見られます。フランスでは刑事罰が重視されています。これに対して、ドイツでは消費者の私的な法執行に重点が置かれています。ドイツでは、行政機関による規制は、国内法の執行にとって効率的でないと見られており、消費者法の部局は、環境省に置かれてはいるものの、消費者法を内国において包括的に管轄して法執行するための権限を有する独立の行政機関が置かれていないという状況にあります。
それに代わる役割を果たすのは、ドイツでは、政府から財政的な援助を受けている消費者団体や、全ての事業者が加盟する事業者団体、商工会議所です。これらの団体は、UWGに基づく裁判所の差止請求権や、被害回復手続を行うことで、法を私的に執行するという体制となっています。
それと相まって、権利保護保険が支援する消費者個人によって提起される民事訴訟や、事業者団体や消費者団体の裁判外で行う警告手続や違約罰付きの確約手続が消費者法の執行のシステムとして重要な役割を果たしています。
この警告手続は、UWG上の紛争を8割から9割ほど裁判外で解決しているとされています。
ドイツのUWGというのは、消費者保護法として機能していますので、日本で言う不正競争防止法とは違う機能を果たしています。
UWGには刑事罰の規定もありますが、そうしたルールが適用されるケースは、実際にはほとんどないと言われています。
ドイツのこのシステムは、司法的な法執行のモデルとして、EUの中で非常に珍しいやり方なのですけれども、EUでも高い評価を受けています。
実は、この3月の下旬に日弁連の弁護士の先生方と御一緒させていただいて、ドイツの現地調査を行ってきました。ブッシュ先生にもコーディネートをお願いしてお世話になったことについてこの場でもお礼申し上げます。
次に、最近の動きということで、デジタル取引環境の改正のための、EUでの近時の2つの提言について簡単に取り上げておきたいと思います。
1つは、デジタルフェアネス・フィットネスチェックで、長期的な観点からのものです。
もう一つは、電子商取引における安全と持続性に関する文書で、現実の問題への対処という短期的な観点からのものです。
前者は、実はブッシュ先生が以前の意見交換会で取り上げられたものです。
後者は、本日のブッシュ先生が取り上げるテーマですので、私のほうからは、少しだけ説明することにします。
デジタルフィットネスチェック報告書ですが、まず、前提となるフィットネスチェックとは何かということで、一般的なお話をしていきたいと思います。
EUでは、EU法が十分に目的を達成しているか、より良い規制の方法はないのかという観点からの検証が継続的に行われています。これが、フィットネスチェックと言われている適合性審査です。
欧州委員会が行う包括的な政策評価のことを指しています。特定の政策分野における規制枠組みが適切かどうかを評価し、それを改善に結びつけるというものです。
近時、欧州委員会は、こうしたチェックの1つとして、2024年10月にデジタルフェアネス・フィットネスチェック報告書を公表しました。それは、消費者がオンラインで直面する特定の有害な取引方法など、言わば、立法の前提となるような事実、被害状況を特定し、そうした問題により適合した規則の必要性を検討するものです。場合によっては、包括的な立法としてのデジタル公正法を導くような可能性もあります。
報告書では評価の対象として、主要なEU消費者保護法である3つの指令、不公正取引方法指令、消費者権利指令、不公正契約条項指令が取り上げられていました。
この報告書の中で非常に重要な点が、EUのプレスリリースで発表されていました。それは、デジタル時代の不公正取引方法を抑止することで得られる経済的なメリットについての説明でした。
それによると、オンライン上の様々な有害な取引方法により、EUの消費者は少なくとも年間79億ユーロ、今は少しユーロが安くなっているので、レートが違い、少し変わっているかもしれませんが、日本円でおおよそ1兆2,800億円ということです。その損害を消費者が被っているというのです。
これに対して、企業がEUの消費者法に準拠するためのコストははるかに低く、年間7億3,700万ユーロ、約1,200億円を超えることはないというものです。
要は、適切な規制をすれば、被害の10分の1以下のコストで被害を防止できるというわけです。
ここでは、規制をしなければ生じる経済コストの発生が、規制の根拠として提示されています。適切な規制によって消費者の被害を防止できれば、市場に残された資金が、市場に投入されることになり、悪質な事業者ではなく、誠実な事業者が、更に取引機会を獲得して、シェアを伸ばすということになります。市場の法的規制の重要性がここに示されているように思われます。
EUの近時の立法というのは、様々な形で展開しています。特徴的なものとして修理権指令を取り上げたいと思います。
それは、生産プロセスの持続的な経済活動への転換というものを支えるものです。例えば、携帯電話のバッテリー交換を容易にしたり、あるいは白物家電の部品の供給や修理を支えるという体制を構築するものです。
これについては、レジュメの文献リスト①の古谷先生の文献を御覧ください。
また、EU製造物責任指令の改正も日程に上がっています。
これらは、デジタル時代を反映して行われた改正として重要なものです。とりわけ、製品の安全性について、プラットフォーム事業者の責任が導入されるという、そういった側面もあります。
これについてもレジュメの文献②の若林先生の御論文を御参照ください。
2つ目が、電子商取引における安全性と持続性に関する文書です。大分時間が過ぎていますので、ブッシュ先生の御報告に全て委ねたいと思いますが、これは、特定の取引プラットフォーム事業者が生じさせている個別問題への対処のための具体的な提案ということになります。
最後に、大きな問題ですが、消費者被害を抑止して、健全な市場を形成するにはどうしたらよいのか、また、そのための具体的な規制内容としてどのようなことが考えられるのか、こういう問題が提起されていると思います。
簡単には答えが出ないということは、重々承知しているわけですが、地道な改善のための努力が必要だということになります。
EU法での取組として、ここでは、長期的な観点からの既存の法の見直しというアプローチと、短期的な視点から個別的な現実の問題ないし被害への対応もしっかりと行うということが行われているのは、非常に重要ではないかと思います。
その中でも、オンラインプラットフォームの規制の在り方は、消費者のデジタル環境の改善の鍵になるように思われます。
日本でも、電子商取引における、通信販売における、消費者被害の拡大が指摘されており、特商法で、例えば、定期購入についての欺瞞的な取引を規制するための一定の改正が行われましたが、消費者被害を防止するのに十分ではないという指摘もあります。
近時のデジタル経済において、電子商取引の重要性は増すばかりです。しかしながら、既存の特商法の枠組みでは、現在のプラットフォーム事業者の役割や、その問題点を捉え切れていないように思われます。日本では、電子商取引の新たな規制枠組みの形成が急務ではないかと思います。この点については、参考文献の③に、に少し書いてあります。
それは、日本の消費者法の今後の在り方にも直結する課題です。私たちがデジタル時代に対応する消費者法を形成するには、長期的な視点からの対応と、現に生じている問題に対する迅速な対処というものが必要となります。個人的には、こうした問題を包括的に捉えようとするEU法の動向は、私たちに大きな視点とアイデアを与えてくれるのではないかと思われます。
これから、皆様との実りの多い意見交換ができるということについて、大変楽しみにしております。
以上で私の報告を終わらせていただき、ブッシュ先生にフロアを譲りたいと思います。
御清聴ありがとうございました。
○鹿野委員長 中田先生、ありがとうございました。
続きまして、ブッシュ先生に御報告をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授(カライスコス教授による通訳内容を記載。以下ブッシュ教授の発言について同様とする。) 鹿野先生、消費者委員会の構成員の皆様、そして、その他、本日御視聴いただいている皆様、まずは、本日はEUにおける消費者政策の最近の動向について再びここで御紹介する機会をいただき、厚くお礼を申し上げたいと思います。
昨年の11月に、私はここで報告をする機会をいただきました。その際には、デジタルフェアネス・フィットネスチェック、適合性審査について御報告をいたしましたが、そのときの議論をここで継続できることを非常に光栄に、そして、嬉しく思っております。
先週、私はドイツのベルリンで、日本弁護士連合会の代表団をベルリンにあるドイツの消費者庁にお迎えする機会をいただきました。
このように、ドイツ消費者問題諮問委員会と日本の消費者庁等が意見交換をし、協力をするということは、特に今日のように地政学的な状況が非常に困難なものとなっており、また、国際取引、そして、さらには消費者政策が圧力のもとにさらされていることを考えますと、非常に重要であると思っております。
本日は、まずは、EUにおける電子商取引の領域での市場動向、そして、規制動向について簡単に御紹介をしたいと思います。
当初は、まずは、ドイツ消費者問題諮問委員会について簡単に御紹介することを計画しておりましたが、鹿野先生、そして、中田先生のほうから、既にドイツ消費者問題諮問委員会の構成、そして役割について御紹介があったと伺いましたので、最初の2つのスライドを飛ばしまして、直接本日のトピックに移りたいと思います。
今、4枚目のスライドについてお話をされました。
基本的に、スライドに記載のとおりのところですので、同じところは省略いたしますが、追加で2つおっしゃっておられまして、1つ目が、2点目の「EUにおける既存の規制枠組み」というのが、安全性と持続可能性を確保するためのものだということです。
また、2つ目、追加でおっしゃられたのが、3つ目の点について、欧州委員会が2月5日に、すなわちつい最近に公表した電子商取引に関する政策文書があるということで、その中で、追加的な措置が欧州委員会によって提案されているので、それについても、お話をされるということでした。
今度は5枚目のスライドについて、同じく基本的に記載のとおりの話をされましたが、追加されたのが、若干の事実、そして、数字を御紹介したいと思いますという点と、最初の項目で話をされている商品というのが、特に繊維製品、そして、電子機器であるということです。
また、2つ目の項目について、この150ユーロというのが、最近のレートだと2万4,000円前後だということでした。
さらには、昨年について申し上げると、EUに輸入された低価格の商品が46億以上であったということです。それを1日ごとの数字で見ると、1日当たり1,200万の送付物に該当するということでした。
また、最後の項目のところで追加されたのが、TemuとSheinというオンラインマーケットプレイス、ショッピングアプリでもあるということですが、これらは、EU市場ではつい最近利用可能になったということでした。
次が、6枚目のスライドですが、先ほど申し上げた2つのオンラインマーケットプレイスについて、近い将来においては、3つ目の存在がこれらに加わるということで、つい今週の月曜日ですが、TikTokがフランス、ドイツ、そして、イタリアで新たなショッピング機能であるTikTokショップというものを提供し始めたということでした。このTikTokショップは、日本の市場にも入る予定だと理解しています。アメリカでこれがどのように展開されるのかについては、まだ予測不能なところがありますが、間違いないのは、TikTokショップというもの、TikTokが、いわゆるソーシャルコマースの領域において、非常に重要なプレーヤーになるだろうということでした。
ソーシャルコマースというのは、ソーシャルメディア、電子商取引を融合させるもので、その中でオンラインインフルエンサーなども活躍することになるであろうということでした。
次が7枚目のスライドです。
こちらを御覧いただくと、先ほど申し上げたような中国からの低価格の直接輸入が増えたということが、政策の観点から、どのような問題を生じさせているのかについてですが、まさにこのスライドで御紹介している、3つの政策分野の交差を生じさせているということです。
あとは、スライドに記載のとおりですが、追加されたのが持続可能性の点については、小さい送付物が何億という単位で輸入されていることによって、多数の廃棄物が生じていて、そのため、持続可能性の視点から非常に疑問視されているということでした。
次が8枚目のスライドです。
こちらにつきましては、まず、最初に追加でおっしゃられたのが、EUレベルで、先ほどのスライドで取り上げた消費者保護、公正な競争、そして持続可能性、いずれもの電子商取引におけるものということですが、これらを確保するために、既に複数の規制上のツールが存在しているということでした。
まず、1点目のデジタルサービス法について追加でおっしゃられたのが、この下にある例のところのビジネス顧客を知るという原則が、デジタルサービス法の30条に規定されているということでした。
この規定のもとでは、オンラインマーケットプレイスは、自己のプラットフォームを通じて、物品とかサービスを提供している第三者である事業者の身元を確認するための最善の努力をしなければならないということが定められています。これによって、通常であれば、不正な事業者は排除できるだろうということでした。
また、同じく例のところにリスクの評価と軽減というのが書いてありますが、これは、いわゆる巨大オンラインプラットフォームに関するより広範な義務として規定されているということでした。
デジタルサービス法は、その下にある3つの指令を補完するものとなっています。
1つ目の公正取引方法指令については、中田先生からも御紹介があったのではないのかと思います。
その次が、その下の項目の製品安全法というところですが、これも電子商取引におけるEUでの規制枠組みとして非常に重要な柱だということをおっしゃられました。
この項目の中にある責任主体となるものというところについて補足をされたのが、製造業者がEU域外に位置している場合には、責任主体となるものというのは、例えば、輸入業者が想定されるであろうということでした。
そして、いわゆるドロップシッピング、つまり製品が消費者によって、EU域外から直接輸入されるという場合には、製造業者がEU域内に指定代理人を置かなければならないということでした。
最後の4つ目の項目について補足をされたのが、デジタル製品パスポートに関する情報でして、デジタル製品パスポートというのは、製品のためのデジタル身分証のようなものだということです。
つまり、デジタルファイルであって、そのデジタルファイルには、例えばQRコードなどを用いて、電子的な方法でアクセスをすることのできる一連の製品に関連するデータを含んでいるということでした。
デジタル製品パスポートというのは、2026年から2030年までの間に、幾つかのカテゴリーの製品について、義務的なものになるということでした。
また、その中には追加をされた情報として、修理とか、あるいはリサイクルに関するガイドラインも含まれるということでした。
9枚目のスライドについては、基本的にスライドに記載のとおりでしたが、冒頭で追加されたのが、欧州委員会の見解によれば、先ほど御紹介した既存の手段というものが、そして、その内容においても、また執行の仕方においても、デジタル消費者市場における安全性、そして持続可能性を確保するために十分ではないと考えているということでした。そのために、こちらに記載のツールボックスというものが準備されたということでした。
次が10枚目のスライドですが、こちらで追加をされたのが、関税の改正が行われているということですが、これが1つ目の項目に挙がっている150ユーロに満たない低価格の商品の直接輸入に関する免除の廃止だということでした。
この免除の廃止によって影響を受ける送付物の数ですが、2024年で申し上げると、EUに向けて46億の送付物が発送されたので、大量の送付物が影響を受けるということでした。
また、3つ目の項目のみなし輸入業者というところで追加をされたのが、これは、どういうことかというと、言い換えれば、オンラインマーケットプレイスがEUに向けて物品を物理的に持ち込んだわけではない場合であっても、その取引における中心的な役割を果たしているということで、あたかも輸入業者であるかのように取り扱われるということでした。
そして、3つ目の項目の最後に、関税を徴収するということが書いてありますが、徴収をした上で、これを税関当局のほうに移転させるということでした。
また、4つ目の最後の項目の取扱手数料については、現在検討中だということでして、これらの改正によって、EUの税関当局に、これまで申し上げてきた大量の送付物を取り扱うための経済的な資源が提供されるであろうということと、これらの提案を通じて、TemuとSheinのようなオンラインマーケットプレイスがEUにおける関税の政策の焦点を浴びることになるだうということでした。
次は11枚目のスライドですが、オンラインマーケットプレイスは、これまで申し上げてきたような実体法上の規制に服するというだけではなくて、デジタルサービス法その他のEU消費者法のもとにおける執行行為の対象にもなっているということでした。
1つ目の欧州委員会によるDSA違反の調査について追加されたのが、現在、ペンディング、まだ継続中の調査だということでした。
また、2つ目のCPCネットワークによる共同調査について追加されたのが、これが3つの加盟国の消費者当局によって行われたものだということで、その当局がベルギー、アイルランド、そして、ドイツでだったということです。同じく、これもまだ継続中のものだということでした。
あと、追加されたのが、このように1つ目の調査が欧州委員会によって行われ、2つ目の調査が幾つかの加盟国によって行われたということですが、なぜそうなったのかということの理由について申し上げたいと思います。
その理由が、欧州委員会が、現在、EU消費者法に対する違反行為に対して調査を行うという権限を有していないからだということでした。
したがって、DSA違反以外の場合、その他のEU消費者法に対する違反行為の場合には、執行権限は加盟国が有しているということなのですが、これは近いうちに変わるかもしれないということでした。やはり消費者法について、欧州委員会も権限を有することを希望しているということで、もしかしたら、その方向性で改正がされるかもしれないということでした。
12枚目のスライドですが、時間的な制約がありますので、このパッケージで採択されている措置のその他の要素については、御紹介を省略いたします。ただし、措置のパッケージには含まれていないのだけれども、重要だと思われる2つの点について、強調したいと思います。
これらは、私の見解では、電子商取引における消費者保護を強化するために必要なものです。
この2つの項目というのがスライドに挙がっている2つですが、追加されたのが、1つ目の違反商品がないのかという点については、危険商品のデータベースを見るという義務だということでして、現状では、それが許可した後なのですが、やはりこれを事前のものにすることが必要だろうと、事後では遅過ぎるということをおっしゃっておられました。
事前に、ランダムにその商品について確認をする義務を課したほうが、より効果的だろうということでした。
また、2つ目の項目について追加されたのが、これが新たに昨年採択された指令の改正版だということで、その内容として、オンラインプラットフォームの製造物責任について初めて規定をしているということでした。
また、その下の矢印のところで追加されたのが、これが1つの解決策として提案できるだろうということで、ここに書いてある、みなし輸入業者という概念が、先ほど申し上げた関税の改正のところからの考え方を、オンラインマーケットプレイス、オンラインプラットフォームが、第三者である事業者が販売している商品について責任を負うという形で使うものだということでした。
私の報告の最後の部分に入りたいと思いますということで、13枚目のスライドですが、最後のほうに、現在、ドイツ消費者問題諮問委員会のほうで作業を行っているトピックについて御紹介したいと思います。
このトピックというのは、近いうちに、オンライン、小売の領域における消費者政策に基本的な挑戦をもたらすだろうということでした。
具体的には、どのようなことなのかと申し上げると、13枚目のスライドのタイトルにあるように、生成AI、そして、さらには電子商取引におけるAI駆動型のエージェントの活用だということでした。
ほかに追加をされたのが、2024年の11月に、このスライドの左側の部分ですが、AI駆動型の検索エンジンであるPerplexityが、サブスク契約をしているユーザーに対して、AI検索エンジンであるPerplexityから離れることなく、一度のクリックで商品を購入するという機能を新たに提供し始めたということです。
こうして見ると、PerplexityまたはChatGPTというAIツールが、近いうちに電子商取引のための新たなアクセスポイントになるかもしれないということです。
すなわち、近い未来には、消費者、顧客のカスタマージャーニーというのが、現在のようにグーグルとかアマゾンとか、あるいはブッキングドットコムから始まるのではなくて、自分が使っているAIアシスタントに、自分はどの商品を買ったらいいのだろうかということを聞くところから始まるのではないのかということでした。
その後、2つ目の項目について補完されたのが、AIアシスタントが新たなデジタルマーケットにおけるゲートキーパーになるかもしれないということでした。
それ以外は、スライドに記載のとおりです。
14枚目のスライドですが、AI駆動型の電子商取引の、また次のレベルというものも存在し得るであろうということでして、2025年の1月にChatGPTを運用している会社であるオープンAIが、オペレーターというAIエージェントのプレビューバージョンを公表したということです。
このオペレーターというAIエージェントは、ウェブをブラウズして、ユーザーのために様々なタスクを行うことができるものとなっています。
すなわち、オペレーターというのは、ウェブサイトと相互採用して、例えば、オンラインでの物品の購入とか、電車のチケットの予約とか、さらには、レストランの予約といった行為、一連の行為、複数の多様な行為を自動化することができるものです。
言い換えれば、消費者は近いうちに、購入上の決定というものをAIエージェントに委託することができるということになります。
すなわち、このスライドの右側にあるように、もし私のこの予測が正しいものであれば、将来のオンライン、小売がこのような構図になるであろうということです。オープンAIのような会社が消費者に対してAIエージェントを提供して、そして、これらのAIエージェントが更に消費者のために、オンライン、小売を行っているものと相互作用するということです。
15枚目のスライドについては、基本的にスライドのとおり話をされましたが、追加されたのが、1つ目の項目について、消費者が自己の購入上の決定をAIエージェントに委託するような場合には、この前提が崩れるだろうということでした。
また、最後に補足されたのが、このスライドに記載のとおり、多くの質問、疑問が生じているわけですが、本日は、これにお答えをする時間が、少なくとも報告の段階ではございませんので、もし御関心がございましたら、16枚目のスライドにある、近いうちに公表される予定の私の論文、さらには、ドイツ消費者問題諮問委員会の報告書を御覧いただければ幸いだということです。
この論文については、和訳も準備されていると伺っています。また、最後に、通訳をしてくださった、カライスコス氏にもお礼を申し上げたいと思います。
皆様、御清聴いただき、誠にありがとうございました。
また、和訳をしてくださった古谷先生にもお礼を申し上げたいと思います。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
最近の新しい動向も踏まえて、非常に貴重な御報告をいただきました。
これより、全体を通しての意見交換を行いたいと思います。少し時間が押しているのですが、当初、12時までと予定しておりましたけれども、お時間の許す範囲で意見交換をさせていただきたいと思います。
なお、冒頭でも申しましたが、語学が達者な委員もいらっしゃるとは思いますけれども、委員の皆様からの御質問も日本語でお願いいたします。いかがでしょうか。
原田委員、お願いします。
○原田委員 本日は大変貴重な御講演をいただきまして、ありがとうございました。
私のほうからは、直接お話になったこととは若干ずれるかもしれないのですけれども、1点だけお伺いしたいと思います。
お話の中で、eコマースの特にプラットフォーマーの責任のところで、事後チェックでは不十分で、事前のチェックでなければいけない危険な商品のランダムチェックについておっしゃっていたことと関係することなのですが、プラットフォーマーだけではなくて、行政機関にとっても事前にチェックする、事前に監督するということが重要であると、一般的に消費者法の領域では考えられています。
他方で、行政資源、行政リソースには限界がありますので、事前チェックをするということになりますと、どのように、そのための人的なリソースあるいは情報を獲得するかということが大きな問題になりまして、日本でも、例えば特定商取引法という法律は、事前のチェックというのはほぼ行われておらず、基本的には事後的な監督にとどまっております。
それで、私のイメージといいますか、私の知る限りにおいて、EU、特にドイツでは、そのような資源の不足に対して市民を動員する、あるいは団体訴訟のような民間の力を使うということで対応しようとしているように見えるのですが、そのような方法が十分に機能しているとお考えでしょうか、あるいは、もし十分には機能していないということでしたら、ほかにどのような政策的なオプションがあるかということにつきましても、お伺いできると幸いです。よろしくお願いいたします。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 原田先生、重要な御質問をいただき、ありがとうございます。
御指摘をいただいた資源が欠如しているという問題、その監督当局においてですが、この問題はヨーロッパでも同じです。報告の中で、毎年46億の送付物という数字を申し上げましたが、このような大量の送付物に対応するための資源が不足しているということです。
そのために、いわゆる私的な、私的執行というものが重要となっていまして、私的執行が消費者の権利の執行、さらには消費者保護のための執行において特に重要となっています。
私的エンフォースメント、私的執行の詳細というのは、加盟国によって異なっています。なぜかというと、一般的にはエンフォースメント、執行については、平準化がされていなくて、各加盟国の伝統に即した形で、それぞれの加盟国で行われているからです。この点が、実体法の平準化とは異なるということでした。
私が一番よく知っているドイツについてお話すると、ドイツにおいても私的執行は重要で、中心的な役割を果たしています。
その中で特に重要となるのが、差止命令というもので、これは、競争事業者が求めることができますが、その前の段階として、警告手続というものが設けられています。
これは、つまり、競争事業者に対して、警告を行って、合意の上での差止めを求めるということで、これがかなり効率的に機能しています。つまり、通常の事業者であれば、このように他の競争事業者から警告を受けた場合には、不正な行為、侵害行為を停止する、それを遵守するからです。
警告手続というものは、一種の競争事業者、つまり事業者間における自主規制としても位置付けることができるだろうということです。
また、これは競争事業者だけが行うことができるわけではなくて、消費者団体も行うことができます。消費者団体も、もちろん、行政当局ではなくて、私的な主体です。
ドイツにおいては、国のどこかの当局が消費者法について執行権限を有しているということはございませんので、まさにこのような形で、その不足を補完しているということになります。
○鹿野委員長 原田委員、よろしいですか。
○原田委員 どうもありがとうございます。
特に事業者の役割について、日本と随分違うところがあって、自主規制の捉え方についても、日本とは随分違うところがあるなと思って、興味深くお話を伺いました。ありがとうございました。
カライスコス先生も、通訳ありがとうございました。
○鹿野委員長 ありがとうございます。
それでは、柿沼委員、お願いします。
○柿沼委員 柿沼です。よろしくお願いいたします。
プレゼンテーションをありがとうございました。大変興味深く、また、勉強になりました。私からは3点質問をさせてください。
まず、1つなのですけれども、EU全体かもしれませんが、エシカル消費としては先進的であり、環境や人権に配慮した商品を選択するという形で、私としては、EUというのはすごいなと思っているのですね。
また、ドイツでは商品テストの財団みたいなものもあり、製品の環境負荷や労働条件を調査して消費者に提供できる、そういう環境もあるように思っております。
しかしながら、低価格で粗悪品で環境に配慮していない、児童労働などの人権にも配慮していない製品を選択してしまうのはなぜなのでしょうか、価格と倫理観の中で葛藤をした上で、低価格な商品を買っているのかそれとも、ダークパターンなどの広告による操作により、購入させられているのか、そこの部分について少し疑問を感じました。デジタル広告についての審査体制についても、どのような取組が行われているか分かったら教えていただきたいと思います。そちらが1点です。
2つ目です。日本では、子供が店舗で安い商品を買いそれが粗悪品だったような時には、『安売り買いの銭失い』などと言って、親から子供に購入や商品の選択について、手ほどきをしていたということがありました。
しかし、ネットで商品を購入するような場合に、だんだんそれが難しくなっているように思います。日本では、消費者教育も充実しているとは言えない状況であり、学校の教育者も消費者教育については、苦手意識を持っています。
消費生活相談員が講師として消費者教育を行うのが有効と思っているのですけれども、なかなか現状は限定的であるという状況です。
ドイツにおいては、デジタルについての商取引について、消費者教育がどのように行われているのか、また、担い手は誰なのかについて、教えていただければと思います。
それから3点目です。日本では動画共有サイトの報告を見て商品を購入したが、代引きで届いた商品を開けたところ粗悪品だった、そのような相談が消費生活センターにも多く寄せられています。
輸入元を探そうと通販サイトを探したけれども見つからずに、宅配伝票の記載されていた代行返品交換センターに問い合わせをしたところ、そのセンターというのが、海外サイトから荷物を引き受ける代行業者だということがよくあります。
そのような代行業者についての対策については、スライド10のような考え方、これが日本でも有効かなと思うのですけれども、何かそちらについてアドバイスをいただければと思います。
以上、3点です。よろしくお願いいたします。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 御質問いただき、誠にありがとうございます。
まず、1つ目の御質問についてですが、なぜ消費者が倫理的ではない消費をまだ行うのか、すなわち、環境基準とか、あるいは労働基準を遵守していないような低価格の商品を購入しているのかということについては、非常に難しい御質問で、どちらかというと、より実証的な社会学的な視点からの分析が必要であろうかと思います。
私は、法の研究者ですのであまり確かなことは申し上げられませんが、私の考えを申し上げると、1つ目の要素としては、現在の物価の上昇が1つの理由として挙げられるのではないのかということです。
すなわち、コロナ禍の後、特にヨーロッパではインフレーションが見られて、それによって消費者としては、より容易に購入できるような低価格の商品をオンラインマーケットプレイスで購入するということが増えましたが、そのような商品が、まさに御指摘をいただいた倫理的な基準を遵守していないものだということが増えています。
また、もう1つの理由として考えられるのが、まさに御指摘をいただいたダークパターンの利用です。例えば、ゲーミフィケーションというゲーム化をすることで、より多くの購入、低価格の商品の購入を促すような手法が見られて、その一例として、スーパーファストファッションというものを挙げることができます。
ドイツ消費者問題諮問委員会の構成員の中には、社会科学の専門家でいらっしゃるベルリンの教授がいらっしゃいますので、機会があったら、その方のほうがより適切な回答をしていただけるのではないのかと思っております。
2つ目の消費者教育に関する御質問ですが、ドイツではどのように行っているのかと申し上げますと、基本的に主体としては、消費者団体がそれを担っていて、その中でも、ドイツ消費者センター総連盟という団体があって、各州などにある消費者センターを統括している第2層の機関なのですが、これらが消費者教育を担っています。
消費者教育のための資金は、ドイツの消費者庁から、これらの消費者団体に資金が提供されるという形が取られています。
3つ目の御質問は、消費者の救済に関するものでしたが、御指摘のとおり、プラットフォームを経由して商品を提供するような第三者である事業者に対して救済を求めることが非常に困難です。
デジタルサービス法は、この点については、明確な明示規定を置いていて、オンラインプラットフォームが第三者である事業者、その商品を提供している事業者の名称、さらには身元、連絡先などについて表示しなければならないという義務を課せられていますが、この表示義務が、その事業者がEU域外に所在している場合には、なかなか機能しないという問題があります。
そのような場合には、まさに御提案いただいたような形で、オンラインマーケットプレイスに責任を負わせるという手法が、かなり効果的なのではないのかと、私も同じく考えております。
この点については、EUの立法者は、今のところ、まだ、何か明確に定めるということはしていませんが、ヨーロッパ法協会、ELIという団体があって、アメリカ法協会と同じような構成や仕組みで機能しているのですが、つい最近、ヨーロッパ法協会が公表した提案の中では、まさに御指摘いただいたような形で、オンラインプラットフォームに責任を負わせるということが提案されています。
○鹿野委員長 柿沼委員、よろしいですか。
○柿沼委員 ありがとうございました。
カライスコス先生におかれましても、通訳、ありがとうございました。
○鹿野委員長 中田委員、お願いします。
○中田委員 中田教授、ブッシュ教授、カライスコス教授、日本においても対策が急務である電子商取引に起因する消費者保護に関して、EUとドイツにおける先進的な取組の御紹介をいただき、ありがとうございました。
電子商取引には利害関係者も多く、そのプレーヤーには国境を越える者も多く、姿が見えにくく、とても複雑な案件であるだけに、監督規制のアプローチについて私自身も考えあぐねておりましたので、大変勉強になりました。
その上で、監視と規制の執行と実効性に関して、2点質問をさせてください。
先ほどドイツの商取引の監視方法について、ブッシュ教授より具体的に御紹介いただきましたが、EUのデジタルサービス法の違反、具体的には、違法商品の排除であるとか、ダークパターン、広告やレコメンドシステムの透明性、事業者本人確認義務など、厳格に取り締まるというお話でしたが、これらは、まさに日本でも頻発している問題であります。
テレビ媒体や紙媒体のコンテンツは、差し替えの頻度が比較的少ない媒体なので、モニターも可能であると思いますが、オンライン上では、簡単にコンテンツの差し替えが可能で、これらをタイムリーにモニタリングして、実態を正しく把握していくことは、なかなか困難なことではないかと感じております。
その対策として、EUでは、CPCネットワークが調査を行うというお話や、デジタルフィットネスチェックによる検証のお話がありましたが、CPCネットワークというのは、どのような組織で、どのような体制で日々モニタリングと監視をしていることになられているのかということを、御教示いただきたいと思います。
また、AIによる監視、Webクローラーを活用されているというお話もありましたが、デジタルツールの監視機能がどれくらい効果を発揮されるとお考えであるかということも、御教示いただければと思います。
2点目は、今回のEUツールボックスの活用をはじめとするEUの現行法においては、事業者及びオンラインマーケットプレイスに対する罰則規定あるいは模範的なプラクティスをしている事業者を表彰するような制度は規定されているのでしょうか。
もし、罰則規定や、良いプラクティスをしている企業のインセンティブがない場合でも、努力義務の規定や規制で効果は十分発揮されるとお考えでしょうか。
以上、2点、御質問をよろしくお願いいたします。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 御質問ありがとうございました。また、コメントもいただき、ありがとうございました。
まず、CPCネットワークに関する御質問ですが、CPCネットワークというのは、加盟国における監督当局間の連携のための枠組みとして機能しています。どういうことかといいますと、加盟国の監督当局の権限が国境によって制限されているため、例えば、フランスの当局がイタリアに所在している事業者に対してエンフォースメント、執行をかけるということはできないのです。したがって、フランスの当局が外国にいる事業者に対してリスティングから特定の商品を除外するということを命令することはできません。
そこで、越境的なエンフォースメントがどのように行われるのかというと、例えば、イタリアの当局がフランスとかドイツの当局に対して連絡をして、特定の事業者に対する執行を求めるということになります。その際に難しいのが、どの当局にコンタクトをとったらいいのかというところで、CPCネットワークについてはCPC規則という立法がありますが、そこで定められているのが、各加盟国がシングルリエゾンオフィスという単一のリエゾンオフィスを設けなければならないということです。
これによって、各加盟国に、その執行のための窓口となる単独の機関、すなわち当局が存在するということになっていて、ドイツの場合には、連邦消費者庁がその役割を担っています。
これがよく機能しているのかについては、いろいろと複雑なところがございまして、それもあって、欧州委員会が自らに執行権限を付与してほしいということを、今、希望しているようです。
複数の加盟国にまたがるような違反行為があった場合には、欧州委員会が直接執行をかけることができるということを求めています。
デジタルツールに関する御質問については、欧州委員会が、共同研究センターを通じてWebクローラーを開発していて、それによって、リスティングにおける違法な製品を特定しているようですが、機能しているのかということについては私も把握はできていないところです。
ただ、それはさておき、このようなツールは必要だと考えています。その理由としては、報告の中でも申し上げたような膨大な数のリスティングが行われているわけですので、欠かせないツールだと考えています。
また、将来的には、立法を行う段階でも、立法者もそのような自動化された執行を念頭に置く必要があると考えております。
最後が制裁に関する御質問でしたが、デジタルサービス法では非常に強力な制裁が定められていて、欧州委員会は、該当する違反行為を行った事業者の年間総売上高の4パーセント以下の制裁金を科すことができると定められています。
年間総売上高というのは、該当する事業者だけではなくて、その事業者が帰属しているグループ全体の総売上高です。
ただし、デジタルサービス法が昨年の初めに施行されたばかりですので、まだ具体的に制裁が科せられたという事件は存在していません。幾つか、今、ペンディング、継続中の事件があって、近いうちにその帰結を見ることができるだろうということです。
この執行について少し補足をしたいのですが、デジタルサービス法の執行という問題が、最近ではかなり政治化されているところがあります。なぜかというと、対象となる大規模なオンラインプラットフォームの多くが、アメリカに拠点を置くもので、アメリカの御承知の新たな政治体制の影響もあってそのような制裁をアメリカに拠点を置くオンラインプラットフォームに科すということが、かなりセンシティブな政治上の問題にもなっているからです。
したがって、今後、この領域における政治の影響が強まっていくのではないのかということでした。
○中田委員 丁寧な御説明をありがとうございます。
今後、日本で規制を議論していく上で大変参考になる情報をいただきました。ありがとうございます。
同時に、ドイツやEUの規制が強化されると、規制が遅れている日本や、ほかの国に事業者がシフトしてくるのではないかと、少し恐怖を感じましたので、日本も規制強化が急務であると改めて感じました。ありがとうございます。
○鹿野委員長 ありがとうございます。
黒木委員長代理、お願いします。
○黒木委員長代理 大変ありがとうございました。
我々、内閣府消費者委員会も、急速な技術の進展に伴う消費者問題についてずっと検討しておりまして、本日のブッシュ教授のお話は、我々の今後の審議に大変役立つものが多々あったと思います。
その観点でお尋ねしたいことが2点あります。
1点目は、プレゼンテーション資料の6ページあるいは11ページについてです。TikTokのインフルエンサーに関すること、あるいはダークパターンに関するところについて、いろいろ規制を考えていらっしゃるという説明をいただき、大変印象深かったです。
日本では、2023年の10月1日からステルスマーケティングに関して景品表示法5条3号の告示の対象として規制をしております。しかし、景品表示法の規制だけでは、なかなか消費者被害を防ぐことができていません。
その関係で、今我々が考えているのは、デジタルプラットフォーマーの運用連動型広告制度、ペイパークリックとでも訳すのか、プログラミング・アドバタイズメントと言うべきなのか分かりませんが、運用連動型の広告の手法をどうするかということを考えています。これは、要するにお金をより多く支払うことで、検索順位の上位に広告が上がってくることについて、分析をしていきたいと考えています。その上で、違法あるいは問題のある広告主が広告の上位になることについて、デジタルプラットフォーマーの広告のやり方をどのように考えていったらいいだろうかということを検討しております。
その意味で、先ほど少し言われたダークパターンを排除する、あるいはTikTokのインフルエンサーを排除していかなくてはならないということについて、今、EUではどのようにお考えなのかをお聞きしたいです。クッキーを利用して、パーソナライズド・アドバタイズメント、すなわち、その人に合わせて、しかも運用連動型で、より刺激的な広告が上位に来るというビジネスモデルをどうするかということです。これによって消費者の行動がゆがめられているという問題について、プラットフォームビジネスは広告ビジネスによって成り立っていますが、その辺りのところについて、どうお考えなのかが第1点です。
第2点目は、13ページあるいは15ページに関するところでして、生成AIを利用することによっての消費者法に関する影響、消費者行動に関する影響について、説明いただいて大変興味深く拝聴しました。
まず、内閣府の消費者委員会は、2024年12月に、消費者をエンパワーメントするデジタル技術に関する専門調査会を行いまして、そこでパーソナルAIを社会実装する可能性を打ち出しました。このパーソナルAIは、日本語的に言いますと、大変有名な漫画である『ドラえもん』、のび太をアシストするドラえもんというキャラクターがありまして、これがパーソナルAIなのだと専門調査会の座長がおっしゃっていました。我々にとっては、大変分かりやすかったのですが、これは、多分、ブッシュ教授の話ではアシスタントAIのレベルなのだろうと思っています。
そうすると、ブッシュ教授がおっしゃっているように、技術の進歩によりAIエージェントという概念が入ってくるとすると、今、内閣府消費者委員会で、消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会というのをこちらでもやっているのですが、ここで検討している論点の一つとして、一般的、平均的、合理的消費者というものはいるのかと、それは単に裁判官が裁判官室で考えている架空の人間であって、行動経済学的に考えると本当のリアルな人間の実態ではないと考えています。そのような人間像による消費者法制を考えるというのがパラダイムシフトの専門調査会の論点の一つだと思っております。
そうなってくると、このAIエージェントという形で、人間ではなくてアルゴリズムがいろいろな意思決定をするということまで考えていくと、確かに非常に合理的な意思決定をするのかもしれないなと思う反面、もしもAIがハルシネーションを起こしたときには誰が責任を負うのかといった問題とか、どこまでの個人情報をAIエージェントに渡したらいいのかといった非常に難しい問題が同時にあるのではないかと思います。その辺りについて、AIエージェントというところが、もしもEUで実装されることになった場合に、どのようにお考えなのかという点についても、お知らせいただければ大変ありがたいと思います。
すみません、質問の前提が長くて申し訳ないのですが、以上です。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 非常に重要な御質問をいただき、ありがとうございます。
いずれの御質問も何時間でもお話しできるものなのですが、短くまとめたいと思います。
1つ目の御質問は、個別化、個人化されたパーソナライズド広告とか、インフルエンサーの影響に関するものでしたが、デジタルサービス法では、未成年者に対してパーソナライズド広告、ターゲティング広告を行うということが禁止されています。これは非常に重要な一歩だと考えています。
欧州議会は、当初より広範なターゲティング広告、パーソナライズド広告の禁止を考えていたようですが、それが、結局、未成年者だけに絞られました。仮に欧州議会が想定していたような広範な禁止が実現していたら、これが、御指摘いただいたようなプラットフォームのビジネスモデルに大きく影響を与えていただろうかと思います。
インフルエンサーについては、ドイツとかフランスで、国内法で調整がされている部分はありますが、EUレベルでは、まだ平準化がされていないというのが現状です。
したがって、EUレベルでは、インフルエンサーの定義も存在しませんし、また、数十万人のフォロワーを持つようなインフルエンサーが行うポスティングが、私的なポスティングである場合も存在するのか、それともいかなる場合においてもマーケティングのポスティング、投稿なのかということについても議論がいろいろされているところです。
この問題については、フィットネスチェックの中でも取り扱われていて、2026年に提案が行われる予定となっています。
2つ目の御質問は、電子商取引におけるAIアシスタントに関するものでしたが、こちらも非常に興味深い、かつ複雑な問題となっています。
一方で、AIエージェントというのは、消費者に対してエンパワーメントを行うことができる存在です。どのようにエンパワーメントを行うのかというと、検索のコストを削減したり、あるいは情報の過剰な提供とか、選択肢の過剰な提供に対して支援をすることができるということです。これらが光の部分だと言うこともできますが、影の部分もあって、それがAIエージェントの利用に伴うリスクの部分なのですが、AIエージェント、AIアシスタントに過度に依拠して信頼をしてしまうと、逆に操作をされてしまうという場合があります。
なぜなのかといいますと、AIエージェント、AIアシスタントを供給している主体は、やはり事業者で、時としてアマゾンのように自ら商品を供給したりしている主体が、AIエージェントも供給しているということがあります。
そうすると、AIエージェントを通じて、提供している主体が自らの商品を優先させるように働きかけたり、あるいは自らと連携、何かしら協力しているような事業者の商品を優先して取り扱うという形で操作を行うことが考えられて、これらの問題に消費者法が必ず何かしら対応しなければならないと考えております。
最後の平均的消費者についての御見解ですが、御指摘のとおり、フィクションだということがヨーロッパでも言われていて、批判がされてきたところです。
昨年、欧州連合司法裁判所が言い渡した判決、コンパスバンカ(Compass Banca)と呼ばれている判決で、必要でしたら後ほどリンクをお送りいたしますが、欧州連合司法裁判所の判断では、平均的消費者という概念は、合理的経済人、ホモ・エコノミクスを意味するのではなく、かなり柔軟な概念であって、その中には行動経済学の知見も含むことができるということを明確にされました。
このことによって、より柔軟な平均的消費者像の理解が可能になったわけですが、欧州連合司法裁判所のこの判決が、実務上どのような影響を及ぼすのかということが、現時点ではまだ不明確で、今後それを見ていく必要があります。少なくとも、これまでされてきた批判に対して対応はしているということになります。
次に問題となるのが、平均的消費者という概念を、AIエージェントにどのように適用していくのかということで、言い換えれば、平均的なAIエージェントというものが存在するのか、そして、平均的なAIエージェントが、平均的な消費者と異なるのか、異ならないのかということです。一方では、御指摘いただいたように、AIエージェントのほうがより合理的に機能するだろうということも言われていますが、他方で、これに対して疑問を投げかける見解もあって、そのような中で、台頭してきているのがマシンサイコロジー、AI心理学というような分野です。つまり、AIによる決定のプロセスがどのように行われているのかということを解明しようという領域が、今、発展しているということです。
その領域で何が分析されるのかというと、ChatGPTとか、オペレーターといったAIが、人間と同じようなバイアスを繰り返すのか、繰り返さないのかということで、現時点まで行われてきた調査の結果で判明しているのは、AIエージェントが人間よりも合理的に機能する場合もある、そういう領域もあるのだけれども、他の領域では、その行動上のバイアスを繰り返していることです。もしかしたら、このようなバイアスが繰り返されていることの背景には、トレーニングのために提供されたデータに理由があるのではないのかということです。
○黒木委員長代理 ありがとうございました。
大変興味深いお話をいただきまして、もう時間が余りありません。本当は、これからまだもっと議論をしたいのですけれども、時間がないので、ここで終わらせていただきます。大変残念です。
○鹿野委員長 よろしいでしょうか。
時間が大幅に超過してしまいましたが、とても貴重な意見交換ができたと思います。これ以上時間を延ばすということは、司会をしている身として慎むべきことかとは思うのですが、黒木委員の御質問の1つ目に若干関わることについて、少しだけ確認をさせていただければと思います。
ブッシュ先生は、例えば、スライドの11ページのところで、オンラインマーケットプレイスであるTemuについて、DSA違反の疑いで調査がなされているということのお話をされました。
これは、欺瞞的な割引とか、ダークパターンとか、偽のレビューなどに関係しているというお話があったのですが、オンラインマーケットプレイスのように、そこで取引をやることが予定されているプラットフォームではなくて、それ以外のプラットフォーム、例えば検索エンジンなどを提供しているプラットフォームなどがたくさんあります。
そこで消費者がキーワードを入れて検索すると、広告料をたくさん出している詐欺的な事業者の情報が上位に上がってきて、そこに消費者が連絡を取って、特に製品というよりサービスが多いのかもしれませんが、サービスの提供を依頼するということで、結局、詐欺的な商法に引っかかって被害を受けるというトラブルが、日本では問題となっています。そういう検索エンジン等による広告の問題性について、ヨーロッパでどのような状況なのでしょうか。もちろん広告主の責任については、規律としてはあるのですが、なかなかそれだけでは対応できないところもあって、そのときに、プラットフォーム、それもオンラインマーケットプレイスではなく、そういう検索エンジンを提供しているようなプラットフォームの義務と責任の在り方、ないし役割について、どのように捉えればよいのかということを考えているところなのですが、それについて、御意見等をいただければと思います。よろしくお願いします。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 御質問を再度明確化していただき、ありがとうございます。
正直に申し上げると非常に難しい課題で、基本的に、検索エンジンというものは、仲介者にすぎないというのが原則かと思います。
そうすると、原則的には、事業者に対して消費者法が課す義務の直接の名宛て人ではないというのが、基本なのではないのかと思います。
そして、当然ながら検索エンジン側としても、自分たちがファシリテーターとして機能しているにすぎないのでということを反論として持ち出すでしょうから、責任を負わせるのが難しい場合が多いのではないのかと思います。
デジタルサービス法がこの点についてどう規律をしているのかを見ると、デジタルサービス法は、検索エンジンにも適用されます。つまり、オンラインマーケットプレイスだけではなくて、検索エンジンといったプラットフォームにも適用されますが、明示的に検索エンジンに言及している規定が少ないので、この点についてはやや議論がされているところではあります。
適用されるということを前提として申し上げると、基本的に一定の条件のもとで責任を免れるということ、この原則が適用されるわけで、それがどのようなことなのかというと、第三者であるユーザーが行った違法行為に対しては、それについて実際に知っていた場合のみに責任を負うということになります。
そうすると、実際に知っていたということの主張立証が難しい場合が多いかと思われますので、やはり責任を負わせるのは難しいかと思います。この点については、また持ち帰って更に検討をしていきたいと思っております。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
そういう詐欺的な広告が、長期間にわたって存続するということになると被害が拡大するので、そこに何らかの違法な事業をやっているという情報が寄せられて、その広告が早期かつ適切、的確に削除されるという仕組みが必要だと思っているところです。
○ドイツ消費者問題諮問委員会委員長、オスナブリュック大学法学部クリストフ・ブッシュ教授 おっしゃるとおりだと考えています。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
ほかによろしいでしょうか。当初12時までと予定しておきながら、1時間も時間を超過してしまいましたが、とても貴重かつ有益な意見交換であったと思っております。
ブッシュ教授、中田教授におかれましては、大変貴重な御講演をいただき、また、質疑応答に対応していただきまして、どうもありがとうございます。
また、カライスコス教授におかれましては、丁寧で的確な通訳をしていただいて、本当にありがとうございました。消費者委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。皆さま、誠にありがとうございました。
《3. 閉会》
○鹿野委員長 それでは、以上をもちまして、本日の意見交換会は終了したいと思います。
お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。
(以上)