食品ワーキング・グループ(第3回)

日時

平成27年3月20日(金)14:56~16:05

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
阿久澤座長、唯根委員
【参考人】
日本動脈硬化学会 寺本民生名誉会員
【事務局】
黒木事務局長、井内審議官、大貫参事官

議事次第

  1. 開会
  2. トランス脂肪酸に関するヒアリング(寺本 民生 先生(日本動脈硬化学会 前理事長、消費者委員会臨時委員))
  3. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○大貫参事官 定刻より早いですけれども、御予定の皆様がお集まりになっておりますので、開始させていただきます。

本日は、皆様、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。ただいまから「消費者委員会食品ワーキング・グループ」第3回会合を開催いたします。

本日は所用により、夏目委員が御欠席となっております。

議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしております資料でございますが、配付資料一覧のとおりでございます。資料1という2枚紙と、資料2、スライドの印刷資料が大量にございます。不足がございましたらば、事務局にお申しつけいただければと思います。

本日も多くの傍聴の方にお越しいただいておりますので、御発言の際はマイクに近づいて御発言いただければ幸いでございます。

それでは、阿久澤座長に議事進行をお願いいたします。

○阿久澤座長 本日の会議は、公開で行います。議事録につきましても、後日公開することといたします。

それでは、本日の議題に入ります。

食品ワーキング・グループでは、これまでに2回、トランス脂肪酸をテーマとした会議を開催してきました。

第1回は昨年4月22日に開催し、トランス脂肪酸に関する問題提起をいただいた趣旨について、御説明をいただきました。

第1回会議のまとめとしては、食品安全委員会の食品安全評価の結果を出発点として、トランス脂肪酸をめぐる現状の確認を行うことになりました。

第2回は昨年7月1日に開催し、食事調査といった疫学調査にお詳しい東京大学の佐々木先生より、日本人におけるトランス脂肪酸摂取量の実態と健康影響の推測について、御説明をいただきました。

佐々木先生によると、トランス脂肪酸の摂取量がわかるような疫学調査は数が少なく、正確な摂取量についての統計データはないとのことでした。

ワーキングでは佐々木先生から、ある論文の推定値が示され、このデータは食品安全委員会の評価書に示される推定値と同様にWHOの目標であるエネルギー比1%未満の数字でしたが、その推定値に基づけば、同じレベルを摂取したときには飽和脂肪酸よりトランス脂肪酸のほうが心筋梗塞に対し悪影響を及ぼすものの、日本の現状においては、トランス脂肪酸より飽和脂肪酸のほうが心筋梗塞に対し、悪影響を及ぼす可能性が相対的に大きいと説明がされました。

結論として、佐々木先生は、心筋梗塞への影響を考える上ではトランス脂肪酸のみを議論のテーマとして取り上げるのではなく、さまざまな要因を視野に入れ、相対的な議論をすることが必要である。あわせて今後について、トランス脂肪酸について何も対策をとらなくてよいのではなく、過剰摂取しないよう注意すべきものであるとの御意見を述べられました。

そして、本日第3回となりますが、日本動脈硬化学会の寺本名誉会員に参考人として御出席いただいております。日本動脈硬化学会は平成25年4月16日に内閣総理大臣と消費者庁長官宛てに栄養成分表示に関する見解並びに要望を出されました。本日は、その要望を出された背景を含め、トランス脂肪酸についてヒアリングを行います。

最初に事務局から寺本先生の御紹介をお願いいたします。

○大貫参事官 寺本先生は、医師、医学博士号を取得された後、東京大学医学部附属病院第一内科に入局されまして、シカゴ大学へ留学、東京大学第一内科医局長を経て、帝京大学医学部学部長、日本内科学会理事長、日本動脈硬化学会の理事長、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会委員を務められ、現在、帝京大学臨床研究センターのセンター長でいらっしゃいます。また、消費者委員会の臨時委員として特定保健用食品の審議に御尽力いただいているところでございます。

座長からの御紹介にもございましたとおり、寺本先生は、平成25年の4月16日に日本動脈硬化学会の理事長として、内閣総理大臣及び消費者庁長官宛てに、栄養成分表示に関する見解並びに要望書を提出されております。

○阿久澤座長 それでは、寺本先生からの御説明をお願いいたします。大変恐縮ですが、40分程度ということで、よろしくお願いいたします。

≪2.トランス脂肪酸に関するヒアリング(寺本民生先生(日本動脈硬化学会前理事長、消費者委員会臨時委員))≫

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 阿久澤座長、御紹介ありがとうございます。

きょう私がこの場に来ているというのは、今、御紹介がありましたように2年前の4月にこういった要望書を出したということで、その背景を御説明するようにということだろうと思います。

(資料2 1ページ)
このトランス脂肪酸に関しましては、大分多くの知見がそろっておりますけれども、実際にそれは実社会でどうするべきかという、また別の問題がございますので、そういったことも含めながら考えていくことが必要ではないかと思います。

(資料2 2ページ)
要するに、私どもがなぜトランス脂肪酸をこんなに問題視するのかというところが原点になるわけでありまして、先ほど御紹介がございましたように、佐々木先生もおっしゃるようにトランス脂肪酸は、言ってみれば飽和脂肪酸などと比較すると大分影響力が少ない。よく動脈硬化とかそういったものに対する影響に関しての強さというもの、それは量的な問題でそういうことがないのではないかというわけでありますけれども、しかしながら、世の中はどんどん変わっているということを我々は知らなくてはいけないのではないかということで、動脈硬化学会はこういった要望書を出したということだろうと思います。

(資料2 3ページ)
そもそも、いろいろな食事とかそういったものが動脈硬化、何といっても心血管病が世界でも大きな死因の一つになっているわけでありますけれども、そういったものが関係するということを調べるという仕事は非常に息の長い仕事でございます。
これも有名なフラミンガム研究でありますけれども、これは1948年に始まって、現在まだ続いているという非常に息の長い仕事であります。彼らもこのフラミンガム研究の目的である脳、心血管病というものの原因が何であるかということを調べていくうちに、原因がどうも1つではなくて、いろいろなものを重なっていくのだということがわかったのは何と12年後のことでありまして、それくらいの時間をかけてようやくわかっていく。リスクファクターということで、高血圧、喫煙、糖尿病、高コレステロール血症が非常に関係しているらしいということで、こういったものに対して治療、介入していくことが必要だろうということを提言しているわけであります。

(資料2 4ページ)
ちょうどその当時、1958年から始まった「Seven countries study」というものがございまして、これは世界中の7カ国のデータを集めまして、実際のコレステロールの値と死亡率の関係、そして、そのコレステロールの値と飽和脂肪酸の関係ということを出そうということでこの「Seven countries study」が行われたわけですが、見事な関係、要するに動物性脂肪摂取の多い国ほどコレステロールの値が高くて、実際の心筋梗塞の発症も高いということを見つけられて、このKeys(キーズ)という方が言ってみれば今、話題になっている例えばコレステロールの摂取量とか飽和脂肪酸の摂取量とかといったものと血清脂質との関係がどういう関係にあるかという計算式を出したということであります。それくらい非常に食事の中の飽和脂肪酸は関係するのだということを示したのがこの試験であります。これも非常に息の長い試験でありまして、これは実際に発表されたのは1980年代ですから、これもかなり長いこと行っております。

(資料2 5ページ)
飽和脂肪酸というのは非常によくとられる、先ほどもございましたけれども、摂取量としては非常にポピュラーなもので、トランス脂肪酸などに比べると何十倍というぐらい多い量になるわけでありますが、皆さんが食べられるいわゆる動物性脂肪ということになります。
こういったものがどうもコレステロールを上げていて、それが心筋梗塞に関係するのだということを疫学的に示したわけです。ですから、こういったものに対して我々はこれから注目しなければいけないのではないかということをこの中でも言っているわけであります。

(資料2 6ページ)
私はいつも申し上げるのですけれども、実際に例えば疫学のデータなどが出てまいりまして、それを説明するときにサイエンティフィック、科学的な説明がないというのはなかなかまともに信じられないというところがございます。そういった意味でいうと、この飽和脂肪酸とかコレステロールの摂取というのは非常にサイエンティフィックに研究がなされておりまして、これはその中の代表的なものを示しておりますけれども、例えば動物に飽和脂肪酸を食べさせる、もしくはコレステロールの多いものを食べさせるということをすると血中の悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを下げる効果を持っているLDL受容体というものの合成を抑えてしまう。したがって、血中のLDLが上がってくるのだということを実験レベルで示したわけです。
最後の5番目に至っては、人間でもそういったことが実際に食べた飽和脂肪酸であるとか食べたコレステロールとか、そういったものが実際のLDL受容体に影響を与えて血中のLDLを上げてくるのだということがわかってきたということで、疫学と実際の科学的なデータとが相まって、これはある程度正しいというのが我々の頭の中に入ってくるわけであります。食べるという行動は非常に重要であることがおわかりいただけるのではないかと思います。

(資料2 7ページ)
そのようなことでアメリカでやったことは何かというと、1960年になってリスクファクターがわかりましたので、それでは国民の血管を守ろうということで始まった調査がこれでございまして、実際に国民に対してコレステロールの多いものであるとか飽和脂肪酸の多いものであるとか、塩分の多いものであるとかたばこを吸うとか、そういったことをやめなさいというキャンペーンをしました。これは見事な成功をおさめまして、このように1990年までほぼ直線的にコレステロール値は低下しているということで、これは大成功であります。

申しわけございません。私は一番新しいデータを出していないのですけれども、実は最近さらに下がっております。アメリカはここまではほぼ飽和脂肪酸、コレステロールの摂取ということで話を進めていたのですけれども、1990年ぐらいから考え出したのがトランス脂肪酸であります。

(資料2 8ページ)
つい最近出たエビデンスは、最近下がってきたのはどうもトランス脂肪酸の摂取量が減ったためであろうということを彼らは推測しているわけであります。実際にこういうことが起こってまいりますと、それがインパクトとして何になるかというと、現実にはこの冠動脈疾患です。心筋梗塞だとか狭心症であるとか、そういったもので亡くなる方が1970年代から1990年代にかけて何と50%減少しているということで、この当時1970年ぐらいというのは、まだまだそんなにお薬がポピュラーでない、特にコレステロール治療薬に関しては全くほとんどないという時代でありますけれども、それでも生活習慣の改善をすることでこれだけの効果がある。脳卒中に至っては60%ぐらい減少しているということで、これはもう今、言われているお薬などよりもずっとパワフルなことが生活習慣の改善というものから得られるということがアメリカで示された。私は、これはもう見習うべき疫学データではなかろうかと思っております。

(資料2 9ページ)
一方、我が国はどのようなことが起こっているかというと、私も生まれたのが1947年なのですけれども、このころは本当に貧困で、基本的に日本の食事というのは脂分がほとんどない、全体のカロリーの中の7%ぐらいですね。こちらをごらんになるとおわかりのとおりで、実際のトータルの摂取カロリー数はそんなに大きく変わっていないのです。しかしながら、この当時は80数%がいわゆる糖質である。脂肪は7%である。ところが、高度成長期にあわせた形で脂肪の摂取量はどんどんふえていっているというわけであります。ついに1990年には25.3%、この当時、脂肪の摂取量はトータルカロリーの20から25%にしましょうというのが厚労省のお勧めであったわけですけれども、平均値が25.3ということは、かなりの方がそれを超えている状態になっていったということがあるわけであります。

(資料2 10ページ)
このようなことが実際に起こってくると日本で何が起こるかというと、このようにコレステロール値自身はアメリカとはちょうど鏡面像のようにして上がってまいりまして、この当時の日本はある意味でいうとアメリカに追いつけ追い越せという世界でありますから、そういった意味でいうと、確かに1990年に追いついたということであります。
しかしながら、1990年にコレステロールの値が追いついても、では実際に心筋梗塞だとか、そういったものがアメリカと同じになったかというと、そのようなことはあり得ないわけで、先ほど申しましたように、心筋梗塞とか脳卒中であるとかといったことが起こるためには10数年、20年、それぐらいかからないと起こらないわけですから、こういう状態になって同じようになるのはこれからさらに20年とか30年とかたたないと起こってこない、これが動脈硬化の一番大きな問題点なので、ここだけで判断するわけにはいかないというのが私どもの考えておる点です。

(資料2 11ページ)
そのようなことで、ただ日本では何が起こったかというと、このあたりでは盛んに動物性脂肪を摂取する、お魚の世界から動物性脂肪に移っていった時代であります。
先ほどのお話にございました佐々木先生が最もインパクトのある脂質として挙げているのが、例えば、この中の点線で囲んだところです。これが非常に動脈硬化に関連するものですよということで、この2015年からの日本人の食事摂取基準の中で大きく取り上げたものであります。
これはエビデンスがきちんとしているということと、実際に量もわかってきているということで、こういった食事を抑えていくということで、そこに出てくるのが、最初に飽和脂肪酸が出てくる。そして、n-3系の脂肪酸、すなわちどちらかというとお魚の脂肪でありますし、n-6系の脂肪酸、これはリノール酸であるとかといったものですね。そういったものがここに入ってくる。これらに関しての食事摂取基準をきちんと決める。ほかに関しては、まだ十分エビデンスがないのですよということで、今回の食事摂取基準に入れているわけでありますが、ここに話題のトランス脂肪酸が入ってくるというわけであります。
ですから、言ってみれば、現実的な問題としてまだトランス脂肪酸が我々の現代社会において、そんなに大きな問題になっているかというとそうではなくて、これは将来かなり大きな問題になってくるだろうということを考える必要があるだろうということを私は言いたいわけであります。

(資料2 12ページ)
実際にトランス脂肪酸が問題になったのは何かというと、これもよく御存じの方が多いと思うのですけれども、トランス脂肪酸、要するに不飽和脂肪酸というのは基本的にかたい油ではなくて水のようにさらさらのものが不飽和脂肪酸なわけでありますが、その不飽和脂肪酸をできるだけ摂取するほうがいいだろうということで我々も摂取することをお勧めしていたわけですけれども、それを摂取するときに固形になっているということが商品としてもやりやすいということで、その不飽和脂肪酸を固形にするというところで、このトランス脂肪酸の一部においては、この硬化油というものをつくっていったわけであります。この硬化油がかなりトランス脂肪酸、我々の食事に関係するものとしても硬化油というものがかなり影響しているということになるわけであります。

(資料2 13ページ)
こういったようにして生まれているわけでありますが、実際には、例えば天然植物にはほとんど含まれなくて、水素添加をして硬化するマーガリン、ショートニングなどの副産物として発生するのだと。後ほどお示ししますけれども、実際にこの当時から悪玉のコレステロールを上げて善玉のコレステロールを下げるということがあるので、科学的に考えるとトランス脂肪酸がいいわけはないということになるわけで、実際にこの当時マーガリンを用いたいろいろな試験が行われましたが、マーガリンを用いた試験はことごとく失敗したということで、不飽和脂肪酸が本当にいいのだろうかという議論になったわけですけれども、その犯人がどうもトランス脂肪酸ではなかろうかというのが今、推測されているところであります。

(資料2 14ページ)
これが現代社会の中では実際にはまだ問題になっていないと申しましたけれども、しかしながら、我々の世界の中でだんだんとふえているというのはどういうことかというと、これは食品安全委員会のほうから出されているものだと思いますが、トランス脂肪酸の含有量というのは、よく見ていただきますと、例えばファストフード類です。フレンチフライであるとかチキンナゲットであるとか、そういったものというのはかなり含まれていることがわかりますし、比較的当たり前になっているビスケットであるとかケーキとかクラッカー、ポップコーン、こういったものにもかなり含まれているということがわかってきたわけです。
これは確かに我々の世代にとってみると、そう多くはとっていない。しかしながら、これからの子供たちはかなりこれを摂取するというのは身の回りを見れば大体わかるわけで、そこがこれからの問題になってくるというわけであります。

(資料2 15ページ)
アメリカではここをかなり解明したいということで、トランス脂肪酸の科学的な研究が盛んに行われたわけであります。そういったものの集大成が、これは非常に有名な「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」というアメリカの医学科学誌です。それに2006年の段階に、これはまとめの論文でありますけれども、トランス脂肪酸にはこれだけ問題があるのだということを出したわけです。その中には、確かに悪玉のコレステロールに対しての影響もあるのだけれども、それより以上に炎症であるとか動脈硬化に直接関係するような物質としても関係するのだということを作用機序として説明しているわけです。ですから、そういった意味でいうと、アメリカではこのトランス脂肪酸をほぼゼロにしろというぐらいの強い語調になっているのは、こういった科学的な裏づけがあるということになるわけであります。

(資料2 16ページ)
現実に、これは実際のことではなくて、例えばシス型というのは普通のいわゆる不飽和脂肪酸なわけでありますが、シス型をトランス型に全部変えるということをすると実際にどれくらいの影響があるかということを今までのデータの中から抽出して調べていくと、例えばLDLなどに関しては有意差を持って上がっていくということがわかっている。そして、HDLに関しては下がっている。したがって、トータルコレステロール/HDL、これが動脈硬化指数とよく言われていますけれども、動脈硬化指数が飛躍的に上がっていくということがわかっておりますので、彼らは逆にトランス脂肪酸をシス型の脂肪酸に置きかえることによって、こういったことが予防できるのではないかということを考えているわけであります。

(資料2 17ページ)
現実に、トランス脂肪酸摂取という実際の量と心臓血管病に対する影響を調べて、これはメタ解析ですので小さい試験が幾つもあっても1つずつではなかなか言えないわけですけれども、それらを全て合わせていくとかなりきれいなことがわかってきて、実際にトランス脂肪酸を摂取すると、あらゆる動脈硬化性の疾患がふえてくるということがわかってまいりました。これは食事のときに一番重要なことはこの多因子調整というのが非常に重要でありまして、それと一緒に食べるものとか、そういうことが好きな人たちというのはどういうグループに属するのかとかいろいろな問題があると思うのですけれども、そういった調整をしてみても、トランス脂肪酸の影響がこれだけあらわれてくるということがわかってきたわけであります。そういった意味でいうと、このトランス脂肪酸というのは非常に心血管病という観点から見ると、かなり強い因子であるということがわかってくるというわけであります。

(資料2 18ページ)
そこで、アメリカではこのトランス脂肪酸をもしシス型に置きかえていった場合には、どれくらい心血管イベントが抑制できるかということを推定しています。これはどういうことかというと、先ほどのLDLに対する効果、HDLに対する効果、そういったものを今までのいわゆる疫学調査の中に当てはめていって推定するということをするわけでありますが、そうすると見事に有意に下がってくるわけで、実際にはこれは20%ぐらいの心血管病が予防できるということを示したわけで、実はこれは、例えば今いろいろなところで使われているスタチンというコレステロールを下げるお薬でありますけれども、そういったものを使うとどれくらい心筋梗塞、脳梗塞が予防できるかというと大体30%ぐらいです。
そういった意味でいうと、食事の中のトランス脂肪酸をシス型に変えるだけでこれだけの効果があるということは非常に重要な意味を持ってくるということで、インパクトが相当大きいということであります。
このようなことがアメリカ、2006年の段階でこれが発表されているということは、既にそれまでに相当多くのデータが集積されていたということになるわけでありますけれども、我が国はなかなかそういったところの疫学データがないのは残念なのですが、そういったことがアメリカではなされておりました。

(資料2 19ページ)
日本というのは非常に疫学的に激しい潮流の中にいると、私はいつも申し上げるのですけれども、これはどういうことかというと、日本が戦後高度成長を来して、まさしく今は円熟期だろうと思うのですが、その間に起こった大きな変化、例えば血圧の下がり方、塩分のとり方、実際にはコレステロールの変化であったりとか、動物性脂肪のとり方であるとか、そういったことを見ると、ちょっとほかの国にはないぐらいの非常に激しい流れの中にあるのだということで、言ってみれば、生活習慣を変えるということがどれだけインパクトを与えるのかというのは日本から見てとれるのかと思っております。

(資料2 20ページ)
ここで動脈硬化のことを申し上げておきますと、これは冠状動脈でありますけれども、完全に正常ではないのですがほぼ正常な冠動脈というのはこのような形で、どこにも膨らんでいる場所がないということです。

(資料2 21ページ)
しかしながら、実際にはそこにはこういうコレステロールがたまってきて、心筋梗塞、この方は起こして亡くなったわけでありますけれども、この内腔というところに血液の塊ができて、この人は一瞬のうちに心筋梗塞で亡くなったというケースであります。
ただ、問題になることは、こういう状態ができてここに血栓ができるまでの間は、この方は非常に元気なのです。本当に普通に生活をしているわけです。ある瞬間に、こういった血栓ができて心筋梗塞を起こして亡くなる。したがって、そういうものを我々は心血管イベントという言葉を使いますけれども、まさしくイベントです。事件が起こるということであります。
だけれども、この脂質コアがそう単純に一朝一夕でできるわけではないというのはおわかりのとおりでありまして、先ほど来ずっと申し上げている何十年もかけてこういうことが起こっているということを我々は知るべきです。

(資料2 22ページ)
一体、どれくらいの時間なのだということでありますけれども、例えばコレステロールが生まれつき高い患者さん、これは家族性高コレステロール血症という病気で、FHと我々は言っておりますが、そういった患者さんです。
それでは、そういった患者さんがずっと高い状態でいたときに何歳ぐらいで心筋梗塞を起こすのかを見た、国立循環器病研究センターの斯波先生のデータをお借りしたデータでありますけれども、男性でいうと30歳から40歳ぐらいが最も冠動脈疾患が多いということがわかります。女性は50歳、60歳、すなわち閉経後以降にふえてくるということがわかる。平均すると46歳とか59歳とかになりますけれども、問題になるのは例えば30歳代に最も心筋梗塞の発症率が高いということであります。
ということはどういうことかというと、この方たちは子供のときからコレステロールが高い。そうすると、大体30年ぐらいかけて先ほど言ったようなコレステロールの蓄積が起こって、そして最終的に血栓が詰まるという事件が起こるのだということで、実際の動脈硬化が起こるのにそれぐらいの時間は最低かかるということをこの遺伝子性疾患から我々は見てとれると私は思っております。
よく私はいつも申し上げるのですけれども、生涯リスクという言葉を使いますが、生涯リスクとしてはこの人たちは異常に高いので、30歳ぐらいで心筋梗塞を起こしてしまうというわけであります。

(資料2 23ページ)
何遍も言って申しわけないのですけれども、動脈硬化が完成するには何十年もかかるのだということを必ずここにもう一回銘記しておかなければならないし、逆に言うと、我々は予防するためには何十年も前に予測しなければいけないということでもあるのだということを御理解いただきたいと思います。これはもう我々動脈硬化学会がずっと申し上げているところで、我々のガイドラインも決して治療ではなくて、動脈硬化性疾患予防ガイドラインという名前をつけておりまして、予防という言葉が非常に重要だということで、そのためにはこういった何十年もかけて予防するということであります。

(資料2 24ページ)
我々がこれから非常に問題視しなければいけないことは何かというと、我が国はまれにみる少子高齢化の中であります。この言い方が悪いのですけれども、いろいろな新聞でも言われているのでいいかと思いますが、我々が高齢化してまいりますと、誰に面倒を見てもらうのだといったら子供に面倒を見てもらうわけでありまして、子供の健康というのがこれからの我が国の一番大きな重要なテーマになるべきであろうと私は思っております。
そういった意味でいうと、我が国こそがこういったことを示して、この子供たちの健康をいかにして守っていくかということをするべきだと。

(資料2 25ページ)
国民健康・栄養調査のデータを時々私はまとめているのです。申しわけございませんが、これは大分前のデータを出しておりますけれども、我が国の40歳男性のBMI、肥満度、このような調子で上がっていくのです。脂肪の摂取量も先ほど言ったように異常な勢いで上がっていって、確かにBMIと非常に相関しているように見えます。
しかしながら、ここでよく見ていただきたいのは、お米の摂取量がどんどん減っている。ということは、食形態が変わっているというわけです。ですから、食形態が欧米化していって、結局日本の古来の食事が失われている。それが直線的なBMIの上昇につながっているのだろうと。これはあくまでもデータなので、ここには科学的な推測は余りするべきではないのですけれども、我々の推測であります。だけれども、実際にはこのお米の摂取量を見るとこのような調子ですから、これはもう食形態が変わっていることは間違いないと思います。

(資料2 26ページ)
こういう食形態が変わったということであらわれたのが、これはもうよく御存じのとおりでありますけれども「26ショック」、これはNHKか何かで出ていたのではないかと思いますが、そのような言葉がある。
これは2年前の暮れに出たのですけれども、「3.30クライシス」という言葉が言われました。沖縄は御存じのとおり長寿県であります。ずっと長寿、なぜあんなに長寿なのだろうということを我々はずっと研究させてもらいました。牛乳がいいのではないかとか豚を食べるからいいのではないかとか、いろいろな理由を考えたのですけれども、本当にそうだったのかどうなのか今は余りわかってはいないのです。

(資料2 27ページ)
しかしながら、長寿であるこの県がどうなったかというと、平成に入ってから一気に男性の平均寿命が26位に落っこちてきてしまう。ということは、この前に起こってきたことがここに影響を与えているということであります。このときはまだ女性はトップだった。しかしながら、つい2年前「3.30クライシス」というのは、女性が3位になって男性は何と30位になったというわけです。そうすると、男性は既に日本の平均よりもさらに低いところに平均寿命がなってしまったというところに問題があって、御存じのとおり沖縄はアメリカ軍がいっぱいいるところですから食事もそうなっているし、同時に、沖縄は肥満度の最も高い県になったというわけです。
ですから、こういった結果が出てくるまでにこれだけの時間がかかるのだということを御理解いただきたいと思います。

(資料2 28ページ)
実はこの1970年代というのは、日本にファストフードが入って、一気に日本の生活というのは食生活から何からいろいろなものが変わっていった時代であります。

(資料2 29ページ)
そういった意味でいうと、先ほど申し上げたとおりで、日本というのは、疫学的にかなり急速に激しい流れの中にあるのだということを理解しておかないと、気づいたときにはもう遅いというのが私どもの考えていることであります。

(資料2 30ページ)
しかしながら今、私は非常に国の政策としてすごく評価しているのが何かというと、平成20年から始まりました特定健診であります。私は健康寿命を延伸するためには、社会学的な対策が必要であろうと思います。アメリカが行ったように食事の中でこのようなものに注意しなさいとかというのは社会学的対策をしているということは重要だと思います。しかしながら、アメリカは今、肥満との闘いで非常に苦しんでいることも事実であります。
病気が起こった後の治療というのは我々医者にとっても楽なのですけれども、しかしながら、予防医学というのはなかなか大変です。患者さんに幾ら説明してみても、なかなかそこは実際のデータにあらわれてきにくいところです。したがって、こういうことをするときに何が重要かというと、社会システムとしてこれをやることが、例えば先ほどの子供たちの健康を守って我々の国家が健全な国家になるのだということを目指した社会システムというのが私は必要なのではないかと思います。

(資料2 31ページ)
平成20年から始まった特定健診というのは、御存じのとおりメタボ健診と言われている。メタボ健診というのは基本的にはそこから生まれてくる、例えば脂質異常であるとか糖尿病であるとか、高血圧であるとか、それは肥満が原因で起こってくることが多いのだということがわかってきた。そうすると、ではそういったものに対して肥満を中心とした疾患群の状態像、そういうものに対して危険な人たちを抽出して、その人たちに対して積極的な支援をするということをしながら患者さんの生活習慣を改善していくということが、実際に患者さんたちの健康を守るのではないかということで始まったのが特定健診で、私はこれはもう冠たる社会システムで、恐らく世界に誇るべき社会システムではなかろうかと思っています。
この津下先生というのが、ちょうど平成20年から25年というのはワンタームだったので、25年が終わった時点でこのデータをまとめましょうということで、こういったことを厚労科研の中でやっておりました。

(資料2 32ページ)
そのデータをちょっといただいたわけでありますけれども、非常にすばらしいのは、最初に考えたとおりであって、積極的支援をして1年たったときに体重はそんなに減らなくても大丈夫だよ、ある程度維持してちょっと減るぐらいで大丈夫だという言い方を我々はしていたのですが、実際に1%から3%減少するというだけで血圧、収縮期も拡張期もトリグリセライドも血糖も下がります。そして、HDLコレステロールも上がってくるということで、彼女が言っているのは3%リダクションというのが非常に一つのキーになるのだということを言っているわけです。

(資料2 33ページ)
こういったいわゆる生活習慣の中で何がポイントなのかということを示すことによって、住民はそれに対して反応していく。その結果、これは本当かどうかわかりませんけれども、私どもが非常に驚いたことでありましたが、平成24年度の国民健康・栄養調査の結果を見たときには、そこに集まった委員の先生方みんながびっくりされたデータがこれであります。
今、糖尿病というのは世界で最もふえている疾患であると言われていて、うなぎ登りにふえているという表現をされております。ところが、この平成24年というのは、我が国ではこの国民健康・栄養調査は5年ごとに大体ある疾患とかある状態にフォーカスを当てて調査をするとなっておりますけれども、平成24年はちょうど糖尿病にフォーカスを当てた年だったのですが、そうすると確実な糖尿病は確かに上がってはいるのですが、しかし、今までの上がり幅から比べると少しとまりかげんである。しかも「糖尿病の可能性を否定できない者」、これがメタボの人たちだと思うのですけれども、この人たちがここで明らかに減ってきているということで、トータルとして我々が考えている糖尿病に関連するような患者さんたちの数としては減ってきたということ。先進国では考えられないデータであります。
こういったことが起こってきたということは、これは平成24年度のデータであるということで、平成20年から始まった特定健診です。これが私は重要な社会システムとして効いたのではないかと考えております。
ただ問題は、これは平成24年だけがぺこんとへこんでいるのだとそういうことになってしまいますけれども、今度は平成29年が次の調査になりますが、これがこれとそれほど変わらないとかもしくはこれより下がっているということがあればもうほぼ間違いなかろうと思いますけれども、また戻るかもしれませんので、そこはちょっと注意してウオッチしていかなければいけないかと思っております。

(資料2 34ページ)
このようなことで、社会システムとしていわゆる特定健診というものを入れ込んで、そうするとそこには国がつくってくれたシステムがあって、そこにはそれを実際にやらなければいけない会社なり自治体があって、そして、それに対して医療者がどういう知識を与えるのかということがあって初めて予防医学が成り立つわけですから、そういったことをしていくということが、恐らく我が国の健康寿命延伸には非常に重要なのではないかということを、私はこのデータから学んだわけであります。

(資料2 35ページ)
社会システムというのは、例えば1,000円たばこにするというのはよく言われますね。1,000円たばこというのも私は一つの社会システムだと思うのです。こういったことをすれば確かにたばこの売り上げは落ちるわけでしょうから、吸う人も少なくなってくるだろうと言われています。
それから、欧米でやられているポテトチップスに税金をかけるというものです。こういったこともそれはそれなりに意味がある。抑える上で有効なシステムなのかもしれない。これはヨーロッパとアメリカでは盛んにそういうことを言っています。そうしないと彼らの肥満を抑制するのはもう無理だと言っているのです。

この前もたしか中東のある国が、体重が1キロ減ると1グラムの金をあげるとか、そういうことをやる。これはある意味でいうと、そちらは報酬ですね。これは逆であめとむちのあめのほうでありますけれども、そういったことで社会システムをつくっていくということはいいのですが、ただ我が国の特定健診が教えてくれたことは、知識を共有するということは重要で、その中で知的食育をしていただくことがすごく重要である。それから、知的な体育をするということが重要である。
もう一つは、我々の子供たちを非常に大切にしようということであれば、世代間でその知恵を継承していくということが必要だということで、日本の疫学では、今までわかっていることはお魚がいいことはわかっているのです。ですから、お魚というのを子供たちにきちんととってもらうシステムもきちんとつくっておかなければいけないのだろうと思っております。
その一つに、私はトランス脂肪酸の表示ということが重要なのではないか。今、私の患者さんでもかなりトランス脂肪酸のことは御存じの方はいらっしゃいます。アメリカに行くとわかるのだけれども、日本では余りわからないのですねというのがもう今の感覚になっているわけです。

(資料2 36ページ)
それはなかなか問題なわけで、例えばこれは古くて申しわけないのですけれども、かなり多くの国がトランス脂肪酸に関してのいわゆる表示というものをしましょうと言っているわけでありますが、もう大分変わっているところもあるようですけれども、いずれにしましても韓国であるとか台湾であるとか、中国もそうですが、そういったところもしているということで、ここら辺はもうトランス脂肪酸が大体義務になっているということです。

(資料2 37ページ)
日本でももちろんそういうものを表示することがいいのではないかということはずっと言ってきているわけですけれども、実際には義務化されていないので、記載されていない食品がかなり多いことは多いわけで、食育食育と言ってみても、それではどうやって食育すればいいのだと、食育がなかなかできないということが起こってくるということを私は危惧しているわけであります。

(資料2 38ページ)
現状では、確かにエネルギー、たんぱく、脂質、炭水化物、ナトリウム、こういったところはある。ところが、例えば我々は脂質に注目しているわけでありまして、脂質の中でも不飽和脂肪酸の中の多価不飽和脂肪酸というのはいい方向に働くではないか。だけれども、飽和脂肪酸は悪い方向に働くではないか。これを1つにしていいのだろうかというのが我々の思っていることです。ですから、これをきちんといいもの悪いものと分けていくということが必要なのではないかと考えている。
そういったことを社会システムの中で表示ということをすることによって、教育が非常にしやすくなるということがございますし、実際に何が起こってきたかというと今、アメリカでもそうなのですけれども、日本でも起こっていると聞いておりますが、実際に食事の中のトランス脂肪酸の含有量は減っているということがわかった。ですから、そういう社会システムをつくっていくとそれぞれ皆さんが努力されてそういうことをしていくわけですから、それが次の世代を守る上で非常に重要なのではないかということを考えているわけでございます。
これが、我々動脈硬化学会がどうしてもあのとき消費者庁に、阿南長官と安倍首相にもそういうことを申し上げたいということで要望書を出した理由でございます。

以上でございます。どうも御清聴ありがとうございました。

○阿久澤座長 わかりやすい説明でありがとうございました。

これからヒアリングに対して御意見、御質問ということになるのですが、2人ということもありますので、まず私のほうから、本当にわかりやすくいろいろとシステマティックに順序立てて説明いただきましてありがとうございました。

心疾患の原因は1つではなく多因子であるということで、既に飽和脂肪酸とか、コレステロールと心筋梗塞との関係はわかっている。また、日米における1990年以降の総コレステロール値低下と上昇をグラフでお示しいただきまして、その要因のところにどうもトランス脂肪酸が影響するだろうということについて、アメリカと日本とでは逆の現象があるということを御説明いただきました。

さらに、具体的にトランス脂肪酸の心血管病への影響につきまして、動脈硬化ですね。実際の冠動脈内の写真をお示しいただきまして、血管内のプラーク、それについては何十年もかかってのできごとだということで、それを防ぐには何十年もかかる予防が必要だという御説明をいただきまして、非常に理解、納得いたしました。

このことから、予防医学というものが非常に重要だということであり、トランス脂肪酸の摂取量をふやさないための社会システムとしての観点になろうかと思いますが、表示などは、消費者みずからが気をつけるための手段ということになるかと思います。また、トランス脂肪酸は摂取量をふやさないことが重要であるということからリスクとされるトランス脂肪酸が油脂を加工、生成する工程で生成されることを考えますと、食品製造の段階で既に農林水産省が取り組んでいるような事業者がトランス脂肪酸を低減させるという取り組み、そういったことも社会システムの一環として役立つと考えられるものかをお聞きしたいです。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 それは、例えば先ほど来申し上げたようにアメリカであれだけのことが言われて、トランス脂肪酸というのはかなり動脈硬化に関係するらしいということが言われて、それをできるだけ減らそう、表示義務にしましょうということになってくると、どうしてもそれを減らしましょうという努力は誰でもするわけで、消費者も減らそうとするかもしれないけれども、できればそういうものの少ない食品をつくろうという動きにはなるわけで、それは社会全体でやるべきことだろうと思うのです。そのことによって、そのことが減ってきたので、アメリカではさらにコレステロールの値が下がってきたのではないかというのが、この前、論文として発表されたところだと思います。

○阿久澤座長 アメリカでは確かに2013年ですか。FDAでトランス脂肪酸はGRASに当たらない、すなわち安全ということは認められないということで全面的な禁止の方針を出したということであります。そういう意味では、日本でもそれほどきつくはないですけれども、先ほど聞いた、事業者において食品の素材となるようなものについてのトランス脂肪酸をできるだけ減らすということは、ある意味重要だということになろうかと思います。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 私が一番危惧しているのは、確かに佐々木先生たちが発表されたように、どうも日本の食事の中に含まれているトランス脂肪酸の量というのはアメリカの10分の1ぐらいではなかろうか、大体そのような感じで言われているのですけれども、それは全体像でおっしゃっているというか日本全体での話で、例えば私たちとかさらに高齢の方たちも含まれた形で話があるわけですから、子供たちというのをもう少し考えていく。子供たちが一体どれくらいとっているのかということが重要で、何十年というスパンで考えたときに、年をとったからもういいというわけではないですけれども、子供にフォーカスしておかないと予防医学というのは、そうなる。

子供にそういうことをするということがまさしく食育なのですけれども、その食育というのは知識が必要なのです。知識のためにはどうしてもデータが必要なわけです。ですから、こういったものに何が含まれているからこれは多くしようよ、減らそうよと、そのようなことを言わないとそれは納得もされないし、お話を教えるほうだってそれはできないですね。

ですから、そういった意味でそういったものの含有量がわかるというのは私は当然いいことだと思います。それが義務になるのがどうかという問題は別として、したほうがいいのは決まっている。これは皆さん、恐らくそんなに違和感はないのだろうと思うのですけれども、義務にしたときにどういう社会的問題が起こるかということを我々は次に考えるべきことだと思うのですが、皆さんが一致して考えなければいけないことは、できる限りトランス脂肪酸に関してはゼロに近いほうがいいという考え方を共有するべきではないかと私は思います。

○阿久澤座長 唯根委員、何かありますか。

○唯根委員 本当に今、先生がおっしゃっていただいたことを同じように思いました。先生から御提案いただいたこの社会システムの完備ということの中で、ポテトチップスに税金をかけるなどという形もありかなと思うのですが、私たち消費者はトランス脂肪酸が入っているか入っていないか、どのようなものにどれだけ入っているかという、これまで勉強させていただいて、先生の今日の資料にも、要はファストフードなどにたくさん含まれているということを、いろいろ資料を出していただく中で私も知って驚いてしまったのです。私も長年食べてきた結果、近く発症するのではというリスクをすごく抱えているのだという事もわかったのですが、そのために表示は本当にほしいと思いました。とにかく今の段階で、どんな食品に入っているのか入っていないのかが私たちはわからないのが、消費者側とすると一番怖いので、知りたい情報だと思うのです。

事業者側が工業的に生産する中でトランス脂肪酸を減らしていると伺ってはいるのですが、例えば「糖質ゼロ」とかいろいろな商品でゼロを強調して表示するような商品が出ていますね。ああいう形でトランス脂肪酸が入っていないということを事業者がアピールしてくださるのも一つの方法かとは思うのですが、そういう事はお医者様の立場からいかがお考えでしょうか。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 我々動脈硬化学会の中では限りなくゼロにするべきものである、むしろトランス脂肪酸というのはある意味でいうと血管であるとか、そういったものに関していうと、安全の管理の面からいうと毒性物質に近いのではないかという表現になってしまうわけです。

だけれども、先ほども申しましたが、それが現実に可能かどうかということもすごく重要な問題で、例えばパンなどをつくるときに、どうしてもこういうものを入らなければできないものはありますね。そうすると、例えばケーキや何かをつくるときはそうだと思うのですけれども、かなり入る可能性の高いところだと思うのですが、そういったものが今度はなくなってしまうというのもこれまた問題で、食べるものというのは皆さんが楽しく食べるということもすごく重要なファクターなので、私は逆だと思うのです。どれだけ含まれているかということを知って、消費者が賢く食べる。きょうはこれを食べたから次の日はこれを控えておこうという感じで、1週間の中で例えばできるだけ何グラム未満にしようとか、例えば食塩とかああいったものだって、食塩をゼロにするのなどは無理です。だから、そういう意味でいうと、ある程度何グラム以下という表現をしておくということは重要なのではないかと私は思っています。

○唯根委員 お医者さまのお立場で私たち消費者への食育の中でトランス脂肪酸というか飽和脂肪酸も含めての脂質のとり方だとは思うのですが、情報提供の仕方で、お医者様が取り組んでいらっしゃる方法で、特に留意している事や何かアイデアがありますか。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 私どもは、これも実は特定健診をすごく高く評価しているのですけれども、40歳から始まりますね。40歳から始めると40歳というのはちょうど子育ての世代ではあるわけです。彼らにちゃんとした教育をするということが子供たちに対する一つの教育だと。医者として我々がしているのは、例えばコレステロールの高い方たちがいて実際に心筋梗塞を起こしている人たちがいたりすると、あなたの家系ではかなりその可能性が高いのだと。だから、お家の中でできる限りこういった食品をとるようにしなさい。例えば、お魚を週の間に2、3回は食べなさいとか、そういう教育はしていますし、例えば飽和脂肪酸はできる限り摂取を制限する。

要するに、たんぱく質としてはお魚をとってと、そういう形にするべきでしょう。あとは塩分をある程度抑えるべきでしょうというのは、家庭としてそれをやらないと恐らく成り立たない話なのです。

ですから、私たちのところは女性の高脂血症の患者さんはものすごく多いのです。そうするとよくこういう話をすると、でも先生、子供がというわけです。絶対食べたがるのですと。それはおいしいから食べたいわけで、だけれども、おいしいから食べさせていくとこういうことが起こるということをいつも言っておかないと、おいしいものを食べるのは別に悪いとは思わないのですけれども、それは週のうち1回か、私はよく言うのですが1カ月に1回だけパーティーをやったらというのはそういうことで、どこかで楽しまなければいけないのだけれども、基本のベースの世界はそういったものを少し抑え気味の生活をするというのが我々患者さんたちに対してお話をしています。

例えば保健師さんとかその辺の方々が言うべきことは、病気になる前の方々、今度の特定健診の方がそうですね。そういった方々にもそういった食育をしている。そのときに、実際に何かをするとき、何かを指導するときに、何に何が含まれているということがわからなかったらしようがないわけです。

今度も日本動脈硬化学会で提言したのは何かというと、食事の指導の仕方で、非常にざっくり言ってしまうと食塩を少し低減化した日本食にしてくださいということを言っているのです。アメリカでも地中海食にしましょうと盛んに言っているわけです。トータルの形で常に話をしていく。食事というのはかなりそういうことがあって、そういうものに持っていくということがこれからの一つの食事に対する考え方かと思うのです。

○阿久澤座長 どうもありがとうございます。

話題は変わりますが、教えてください。御説明の中でトランス脂肪酸の心血管病の影響につきまして、シス型とトランス型との比較で具体的に示していただきました。また、それとかトランス脂肪酸の作用機序にも関連することなのですが、そこで言われているトランス脂肪酸について、この論文を詳しく読めばいいのですけれども、トランス脂肪酸の種類というのはどうなのでしょうか。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 恐らく、トランス脂肪酸の種類までというとそれはデータとしてないと思います。

○阿久澤座長 私、個人的に気になっているところがありまして、例えばトランス脂肪酸といっても国によっても定義が違いますね。日本の場合にはコーデックスにならって、共役二重結合を有するトランス脂肪酸はトランスに含めないということですが、逆に例えばイギリスとかオーストラリア、ニュージーランド、ブラジルなどは全てこれをトランス脂肪酸と言っている。ある意味、科学用語と共通することかと思いますけれども、それがいいかどうかは別として、さらに、デンマーク、スイス、オーストラリアなどですと工業的に生成したトランス脂肪酸のみをトランス脂肪酸とされています。研究者によってはエライジン酸あるいはバクセン酸以外にも血中脂質組成を悪化させるトランス脂肪酸があるという指摘をされておりますし、一方では、このように工業型のトランス脂肪酸の30から40%がこのエライジン酸だということで、それともう一つのリノエライジン酸が大体工業的につくるとエライジンの約10%程度含まれるということなのですが、そうすると、この2つで大体トランス脂肪酸全体を捕捉できるという人もいるのです。

ですから、トランス脂肪酸という場合、このように何かもうちょっと掘り下げてトランス脂肪酸の定義として、何と何と何と特定したほうがいいのか、それとも今の考え方でトランス脂肪酸という枠内で言っていいのかというようなことについて先生のお考えがあったら教えていただきたいと思います。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 私、その辺はよく存じ上げていないのですけれども、まず重要なことはトランス脂肪酸というものが動脈硬化に対してすごくよくはないのだということをまず知ってもらうことが、消費者にとって非常に重要なことだろうと思うのです。

先生がおっしゃるような、研究的になってしまうと思うのですけれども、そういったことは一方でやっていって、その中のこれがいけない、例えば、昔もよく言われていたのですが、多価不飽和脂肪酸の中でも、こういうものはいいけれども、こういうものは余り大してよくないのだというものもあるわけです。ですから、そういったようなものも研究のレベルではこれからするべきだろうとは思いますけれども、現状、私は今、日本でするべきことはもう少し素朴な意味でトランス脂肪酸を捉えておいたほうが、主として工業用の加工されたものと考えていくのが妥当な線かと私は思っています。茫漠な話ですみません。

○阿久澤座長 ありがとうございます。先生の御専門のところからずれた質問を続けて申しわけないですが、例えばイギリスなどでは全てをトランス脂肪酸と言うということで、そうするとそこには逆にいい働き、動脈硬化等に対して予防的な効果もある共役リノール酸等も含まれてしまうということになるのです。そういった私自身の素朴な疑問です。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 先ほどの脂肪全体を捉えても、その中にはいいものもあれば悪いものもあると全く同じようなことで、トランス脂肪酸を全部悪者にしていいのかという問題は確かにないわけではないと思うのですけれども、かなりの量というのがその中を占めているのが実際には悪いほうが多いということが実験的にもわかっているので、そういうことになっているのだろうと思うのですが、私はその知識のほうが重要かなという気がします。

○阿久澤座長 佐々木先生の報告の中にも、全てのトランス脂肪酸の影響を調べていくには、現時点ではまだそれを特定するマーカー等もないしというお話もありましたので、なかなかそれぞれ個々のトランス脂肪酸と心疾患との関係を考えていくのは、ある意味、学問的には興味のあるところですけれども、非現実的なのかなと、先生のお話から感じております。

唯根委員、何かありましたら、どうぞ。

○唯根委員 先生に伺うお話かどうか迷っていたのですけれども、日本のメーカーさんが海外へ輸出している食品に関しては、その国の表示義務に沿って表示をなさっています。国内で売るものについては義務がないということで、表示する、しないは事業者さんの選択になってしまうわけなのですが、今こうやってデータなどを拝見していると、事業者さんと専門家の方々との情報共有というのはどうなっているのでしょうか。どのくらいトランス脂肪酸が食品に含まれているか減らしているかなどの情報交換というものは行われていたりはしないのですか。

○日本動脈硬化学会寺本名誉会員 すごく難しい問題なのですけれども、我々は例えばそういう市民との公開講座とかといったことがございまして、そういうことをするときには必ずこの話はするわけです。私は少なくとも子供の健康を守るために、むしろトランス脂肪酸はかなり子供の問題が含まれているので、子供を守るためにはトランス脂肪酸、こういったものにはこれだけ含まれていると、この図もそうなのですけれども、こういったものでお示ししながらできるだけこういうものを減らしましょうという話はしておりますが、実際には何グラム含まれているかはわからないわけですから、そこで行き詰まっているということはあると思うのです。

ただ、私が今ちょっと気になっていることは、これは恐らく消費者庁もそうだったのだろうと思うのですけれども、義務化するというときにはどうしても今度は国のレベルでいうとレギュレーションも必要になってくるので、レギュレーションのレベルでどこまで対応できるかという問題も考えておかないといけないと思うので、相当システムとしては大きく考えておかないといけないのかと私は思っています。

○唯根委員 ありがとうございました。

○阿久澤座長 では、時間も予定の時間は若干過ぎておりますので、これでよろしいでしょうか。

寺本先生、どうもありがとうございました。

寺本先生のお話から幾つかの点について整理させていただきます。

1点目、動脈硬化の要因と考えられる飽和脂肪酸やコレステロールは治療法が確立しているため、トランス脂肪酸が残されたリスクとして浮かび上がっているということ。

2点目が、先ほども申し上げましたが、動脈硬化が完成するには何十年もかかるため、子供のころから気をつけていく必要があり、予防医学の視点が重要であるということ。

3点目といたしまして、予防医学には社会システムの完備が必要であり、そのシステムの一環として、トランス脂肪酸を飽和脂肪酸、コレステロールとあわせて表示するということがあります。

ポイントは、トランス脂肪酸の含有量が多いものはとらないという消費者への意識づけが重要ということであると思います。

本日は、寺本先生におかれましては、どうもありがとうございました。

トランス脂肪酸に関するヒアリングは本日を最後としまして、これまでのヒアリング内容等に基づき、消費者委員会として確認した事実を報告書として取りまとめたいと考えております。

食品安全委員会の評価書や佐々木先生のお話を総合すると、現時点の日本人のトランス脂肪酸摂取量の平均値はWHOの目標を下回っており、通常の食生活では健康への影響は少ないと考えられます。そのため、トランス脂肪酸は心筋梗塞のリスクの一つではあるものの、トランス脂肪酸のみを議論のテーマとして取り上げるのではなく、さまざまな要因を視野に入れ、相対的な議論が必要となります。

その反面、今後も何も対策をとらなくてよいのではなく、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比については、男女とも年齢が低いほど平均値及び中央値が高い傾向が認められることも、食品安全委員会の評価書に示されています。

さらに、寺本先生からは、動脈硬化が完成するまでには何十年もかかるということからもわかるように、子供のころから気をつけていくことが必要であり、予防医学の視点が極めて重要であること、消費者へトランス脂肪酸のリスクに対する意識づけを行うことが有益であることを御指摘いただきました。

先生方の御指摘を踏まえ、摂取量をふやさないためにはどのような方策があるのか、取りまとめていきたいと考えています。

本日の議事は以上です。

最後に、今後の予定について、事務局から説明をお願いいたします。

○大貫参事官 どうもありがとうございました。

座長から御指摘のありました取りまとめの状況等につきましては、おって消費者委員会のホームページで御案内させていただきます。

○阿久澤座長 本日は、これにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

≪3.閉会≫

以上