国際平和に貢献する日本人のエッセイ


 

【氏名】
窪田 朋子(くぼた ともこ)さん

【現職】
国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)
南コルドファン州事務所長

【略歴】
神奈川県出身。上智大学卒、英ブラッドフォード大学院修了。日本貿易振興会アジア経済研究所で研究
員、アフガニスタン日本大使館で専門調査員、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)で政務官、県事務所長。その後、国連ソマリア支援ミッション(UNSOM)で上級政務官としてモガディシオ勤務。2021年10月より現職。


 一見、普通の貧しい国である。首都ハルツームの商店、カフェ、年代物の車。首都でも道路の舗装は部分的で、廃棄物は散乱している。一方、私の赴任地である南コルドファン州(州都カドゥグリ)はヌバの丘の麓に位置し、比較的緑が多く、家畜がゆったりと行き交い、女性や子供が薪や水を運んでいる。産業は特になく、日中町の茶屋で若者が所在なさげにお茶を飲む。

 アフガニスタン、ソマリアでの国連勤務を経てのスーダン。タリバンやアルシャバブといった過激派イスラム系テロ組織が「共通の敵」、「絶対悪」として語られる中、スーダンの当面の敵は何なのか。

 経済情勢の悪化に端を発した2018年、19年の反政府運動の結果、30年以上政権を握ったバシール大統領は失脚。永く不遇にあった人々にとって、新時代の到来を期待させた。新たな政治体制への移行を目指すスーダンを政治的、技術的に支えるべく、国連安全保障理事会は2020年6月に国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)を設立した。

 南スーダンに隣接する南コルドファン州は、かつてバシール政権に激しく抵抗したスーダン人民解放運動北部(SPLM–N) の拠点である。スーダン政府と和平合意に署名していない武装勢力である彼らの支配地域には、政府の力は及ばない。2021年10月に赴任して以降、私が勤める地域事務所は、事務所立ち上げのほか、政府とSPLM–Nとの和平合意の実現に資する情報収集、政府管轄領と武装勢力管轄領をまたぐ交流の促進を支援し、和平合意への機運を高めることを主たる課題としていた。
 


政府関係者からの情報収集

   しかし、昨年(2021年)1025日の軍による首相及び一部閣僚の拘束によって移行過程は中断され、UNITAMSの最重要課題は、いかに合意に基づいた移行過程を再発進させるかになった。20221月、国連事務総長代理(UNITAMS代表)は多数の政治家、市民社会や抵抗委員会の代表と協議し、スーダン人が考える解決策の聞き取りを行い、対話の準備を進めている。私はカドゥグリで、抵抗委員会、弁護士協会や宗教家から意見を聴取した。
 


地元の宗教家からの意見聴取



 見えてくること。1956年の独立以来、独占されたり、虐げたれたり、強制されたりした積年の恨み、怒り、又はその復讐に対する恐れが、街に、人に染みわたり、政治合意、組織、司法、果ては他人へ信頼がおけない。カドゥグリの牧歌的風景からは、たった10年前に政府軍の空爆で多数の死者がでたことなど想起されない。目に見えない分、謙虚に耳を傾け理解し、事務所本部に周縁の地元民の意見や肌感覚を伝えていくことが、私の重要な任務である。

 また、UNITAMSは地元の大学と連携し、南コルドファン州の紛争評価を行なっている。農民と遊牧者との対立、限られた資源をめぐる争いは、時に暴力を引き起こす。大局的に政治が動く中でも、草の根的支援による生活基盤の安定は必要である。日本の支援が、これまで看過されてきた地域にさらに広がることが望まれ、特にスーダンで最も地雷に汚染されている南コルドファン州での地雷除去は、安全な生活空間を広げる上で重要である。

 

 

地元の大学との連携

地雷汚染地域の視察

 最後に、政治意識の希薄なふわっとした青年期を送った私は、連日デモに参加する若者の情熱を羨ましく思いつつ、その熱い想いをいかに政治に落としていくのか、長期的に見てこの一連の出来事が、彼らの政治活動への継続的な参加につながることを期待したい。
 

注:本稿で記された見解は、筆者個人のものであり、必ずしも国連の見解を示すものではありません。

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