国際平和に貢献する日本人のエッセイ

【氏名】
小向 絵理(こむかい えり)さん

【現職】
JICA 国際協力専門員(平和構築)

【略歴】
JICA国際協力専門員(平和構築)。
ウプサラ大学大学院平和・紛争学部修士課程修了。紛争後のルワンダ等において人道緊急支援に従事。1998年からJICAの平和構築業務に携わり2008年より現職。地雷・不発弾対策を含むJICAの平和構築の協力にかかる業務を実施。2000年・2001年にはJICA企画調査員として「対人地雷対策・除隊兵士自立支援」分野で活動。著作は『平和構築に向けた絆‐カンボジア地雷対策センターの改革・成長と南南協力の軌跡‐』等。

 

 カンボジアの紛争と聞くと一昔前の「歴史」と感じるだろうか。1991年にパリ和平合意が締結され、翌年から国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が展開した。日本の自衛隊が初めて国連の枠組みでPKOに参加したことでも知られる。UNTACには、停戦監視要員16名とカンボジア派遣施設大隊1200名の自衛官の他、文民警察要員75名、選挙要員41名が日本から派遣された。成功裏に国民議会選挙が実施され、新憲法が公布されたことをもって、UNTACは1993年9月に平和維持活動を終了し撤収した。

 しかし平和維持活動の終了後も、特に地雷は長く紛争の負の遺産としてカンボジアの人々の生活を脅かした。ピーク時の1996年には地雷や不発弾による被災者は4,320人を記録している。単純計算で毎日11人以上が被災していることとなる。この問題に対応しているのがカンボジア地雷対策センター(CMAC)である。CMACは当初UNTACの一部局として発足した。UNTAC撤退時、未だ地雷・不発弾はカンボジアの平和と復興を妨げる大きな障害として残っていたため、CMACはUNTACから独立し、カンボジア政府の組織として活動を継続した。



 

UNTAC下の地雷除去研修ユニット除去員とUNTAC要員
(「CMAC年次報告書1993.11-1994.10」より抜粋)
 

カンボジアに埋設されていた地雷・不発弾
 

 日本政府・JICA(国際協力機構)は、CMACに対して1990年代後半から、地雷の探査や除去に必要な機材の供与、CMAC職員の育成や情報システム構築のための日本人専門家の派遣、運営資金の拠出を組み合わせた包括的な協力を実施し、CMACの組織全体の能力向上を支援してきた。それらの貢献もあり、CMACの活動効率は飛躍的に向上した。私が最初にCMACと仕事をした2000年当時、CMACの年間除去面積は約800ヘクタールだったが、2008年には3倍以上の約2,800ヘクタールまで拡大している。
 


日本が供与した機材と使用方法についてJICA調査団に
説明するCMAC職員(著者は右から5人目)
 

 そんな2008年、コロンビア政府から日本政府に対して地雷対策の協力要請があった。今やCMACは、カンボジア国内だけではなく国際的にも貢献できるのではないか。そういう思いでJICAが繋ぎ、支援する形で、CMACとコロンビアの地雷対策機関の南南協力が開始した。この試みは大成功で、当時のコロンビアの副大統領からカンボジア政府宛てに謝意を伝える書簡も発出されている。コロンビアとの南南協力の後も、ラオス、アンゴラ、イラク、そしてコロンビアから再度協力要請があり、今日までにCMACがJICAの支援のもと実施した南南協力により、上記4か国の地雷・不発弾対策に従事する職員500人以上が能力向上の機会を得た。

     

コロンビアの地雷原を視察するJICA/CMAC調査団(著者は中央)
 

 2021年11月15日、第19回対人地雷禁止条約締約国会合のサイドイベントにおいて、外務省軍縮代表部の小笠原特命全権大使の議長のもと、CMACのプムロ副長官、コロンビア大統領府平和高等弁務官事務所マルタ調整官、CMACに派遣されている林JICA専門家と共に登壇し、JICAが促進してきた地雷・不発弾対策分野の実施機関の能力開発、南南協力の重要性と有効性について発信する機会を得た。新型コロナ感染症拡大の影響で、ハーグに関係者が参集することは叶わなかったが、ジュネーブ、ハーグ、東京、プノンペン、ボゴタと時差を超えてオンラインで繋ぎ、それぞれの立場から地雷分野の南南協力の有効性について意見を出し合い、地雷の脅威のない平和で安全な世界に向けてどのように貢献できるか活発な議論が展開された。

 
 

第19回対人地雷禁止条約締約国会合のサイドイベント(オンライン)の様子(著者は右上)
 
 

 カンボジアのパリ和平合意後の平和維持活動を行ったUNTAC。そのUNTACの一部として誕生し、UNTAC撤退後も地雷・不発弾対策活動を行ってきたCMAC。日本はUNTACに対して大きな人的貢献をし、CMACに対しては能力開発のための息の長い支援を実施してきた。これは日本が平和維持から平和構築、更にはその先の持続的な開発を一貫して現場の課題に寄り添いながら支援してきたということでもある。カンボジアは2025年に地雷インパクトフリー(地雷が人々の生活や経済活動に影響を与えない状態)の達成を目指している。パリ和平合意から30年以上経て、紛争の負の遺産を克服し、そしてUNTAC時代から蓄積された地雷・不発弾対策の知見を他の紛争国にて役立てるために、CMACは更に飛躍しようとしている。日本が自衛隊の派遣など平和維持の段階から総力を挙げて支援したカンボジアが、今や他国の平和構築に貢献する、これこそ日本が掲げる積極的平和主義の協力モデルと言えるだろう。そのプロセスに併走できたことを誇りに思っている。

 

(参考)

20年以上に亘るJICAの地雷対策分野の協力と、その結果成長したと共に、他の地雷・不発弾汚染国を対象に実施している南南協力について紹介するショートビデオ(英語)を2021年に作成しています。ご関心ある方はアクセスしてください!

Mine Action for Peace: Rise of CMAC as Major Partner of South-South Cooperation and JICA's Role(YouTube)

 

注:本稿で記された見解は、筆者個人のものであり、必ずしも国連の見解を示すものではありません。

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