令和元年度 国際平和協力公開シンポジウム

令和2年2月21日(金)東京都港区の国際文化会館において、国際平和協力公開シンポジウムを開催しました。今回は、「アジア・中東地域の平和と安定を実現するために~支援とローカルオーナーシップの狭間で」をテーマに、エルベ・ラドスース前国連平和維持活動局長及びハナア・シンガー在スリランカ国連常駐調整官を基調講演者としてお招きし、約90名の参加者と共に、平和と安定のために真に必要とされる支援の在り方を考察すべく議論しました。

国際平和協力公開シンポジウムの様子

 まず、岩井文男事務局長が、開会挨拶において、近年の中東・アジア地域における紛争が、いわゆる国家間でなく、民族紛争や地域紛争などへ変化し、また国内紛争の国際化など複雑化・長期化する傾向にあることや、生活の困窮に対する人々の不満に起因するデモが武力衝突へと変容していくことのある現状を述べ、国際社会に求められている支援は何か?また、国際社会は紛争国の国民のニーズにどの程度応えられているのか?そもそもローカルオーナーシップとは、現地政府なのか、草の根レベルなのか、といった疑問を会場に投げかけ、シンポジウムの幕を開けました。

岩井文男事務局長

 その後、ラドスース氏が、この20年間の国連PKOにとって最も重要なポイントは文民の保護であるが、PKO活動の最終目標は現地政府による統治の確立であることを念頭に置き、段階的に統治機能を現地へ移行していく必要がある、と述べました。
 またローカルオーナーシップに加えて、紛争回避や紛争解決における地域オーナーシップの重要性、中東とアジアにおいての地域内での紛争管理のメカニズムの必要性、そういった地域機構と国連との協力体制の有効性を説かれました。

エルベ・ラドスース前国連平和維持活動局長

講演中のエルベ・ラドスース氏

 次に、シンガー氏が紛争後のスリランカ政府などによる和解と平和構築への動きや国連による支援について体系的にお話しされ、また、人権の尊重と文民の保護を最重要事項として挙げ、平和構築プロセスへの若者の参加を促すことが、スリランカの安定の鍵となること、そして、平和は動く目標であり、如何なる危機的状況の中でも、忍耐強く柔軟に平和への道を模索し続ければ、必ず平和は達成可能だと力説されました。さらに、持続可能な平和構築には、現地の平和構築の意思に代替できるものは絶対にない、と力強く締めくくられました。

ハナア・シンガー在スリランカ国連常駐調整官

講演中のハナア・シンガー氏

 お二人の講演の後、コメンテーターの明石康氏が、人々が平和を選択しなければ、平和は達成できない、国際社会は、紛争当事者らの平和構築への「励まし」を惜しむことなく、辛抱強く効果的に行う必要がある、と述べられました。そして、持続可能な平和構築のために国際機関ができることは沢山あるが、結局は現地主導による活動、つまりローカルオーナーシップ、ナショナルオーナーシップによって実現するしかない、とコメントしていただきました。

左からエルベ・ラドスース前国連平和維持活動局長、ハナア・シンガー在スリランカ国連常駐調整官、明石康氏

 その後、青山学院大学 福島安紀子教授の進行のもと、パネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションでは、国際社会からの支援とローカルオーナーシップのバランス、女性・平和・安全保障やジェンダー主流化、平和活動と開発支援の連携、紛争後間もない不安定な時期のローカルオーナーシップ、和平仲介や調停の成功の鍵などについての議論が交わされました。最後に、質疑応答セッションでは、参加者からの質問や意見ひとつひとつにラドスース氏、シンガー氏共々、丁寧に応えられました。

左から福島安紀子氏、岩井文男事務局長

 最後に、会場からは自然に拍手が沸き起こるなど、参加者からの持続可能な平和への熱意が感じられることができました。そして、今回のシンポジウムにおける議論が、参加された皆様一人一人のお考えにとってご参考になることを願い、盛会裏にシンポジウムを終了しました。