西村内閣府特命担当大臣・「選択する未来2.0」翁座長共同記者会見要旨 令和3年6月4日

(令和3年6月4日(金) 18:58~19:49  於:中央合同庁舎8号館1階S101・103会見室)

1.発言要旨

(翁座長)それではただいまから、「選択する未来2.0」の報告につきまして、私の方から初めに少し御説明させていただきたいと思います。
 まず、私どもは去年の7月に中間報告を出しております。御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、元々、「選択する未来」では、2015年に少子化の流れを変える、付加価値・生産性向上を経済の最重要課題として挙げる、そして、各地域が稼げる豊かな地域に転換して、東京一極集中をだんだん減少させていくとことが大きな課題として掲げられておりました。これを検証いたしましたところ、2020年までをジャンプスタートと考えておりましたが、必ずしもそれが実現できていないということで、中間報告で指摘させていただきました。
 ただ、その頃は7月で、緊急事態宣言の第1回目が終わったところであり、私ども、3月から議論を始めておりましたので、ちょうど新型コロナウイルス感染症の危機の第1回目の波を乗り越えたという時期でございまして、そして、この時点で、内閣府でアンケートを取りまして、ワーク・ライフ・バランスについての考え方・働き方についての考え方やデジタル化の必要性といったことについて多くの意識の改革があるということを確認できました。
 その意味で、この危機を社会変革の契機と捉えて、日本社会を10年分前進する変革を一気に進める。そして、今こそが選択の時であり、こういった機会はもうないと考えて、危機感を持って変革を進めていくべきだというように提言いたしました。
 そして、特にここ数年の取組として大事なこととして、教育の改革、それから少子化について、特に男性育休も最近動きが出てきておりますが、企業や社会の仕組みや慣行を変えて、年功序列を変えて、若い人たちも活躍できるようにしていくといったことが非常に重要であるということや、デジタル化の遅れが非常に明らかになりましたので、これを一気に推進していくこと。それから、今、厳しい状況にある企業も多いわけですが、特に人的投資をはじめとして無形資産への投資を拡大していくことの重要性。それから、コロナで大きな問題が出そうな時期でしたので、インクルーシブな、包摂的な支援で格差の拡大を防止していくといったことの重要性について指摘させていただきました。
 私たちとしては、人々の生活や働き方、それから経済、そして地域活性化、いずれも様々な提案をさせていただいたのですが、そのキーワードは多様性であると指摘させていただきました。多様性を尊重するというよりは、多様性にこそ価値があるということだと、私どもは指摘しております。多様性があるということがイノベーションを生みますし、多様性があることで、いわゆるレジリエンス、変化への対応力、しなやかな強靱性といったものが高まるということで、今まで硬直的であった制度や慣行を変えて、多様な生き方や働き方を尊重するといった社会にしていく必要があるということを指摘いたしました。
 その後、加速した改革もありますが、新型感染症の拡大がずっと続いており、これによる影響がどうかということを確認しようといたしました。
大きく2つ書いておりますが、まず失業など雇用状況が悪化しているということ。それから、最も深刻に受け止めております少子化の懸念でございます。特に女子の非正規雇用労働者の数が減少しているということで、シングルマザーをはじめとする格差の拡大が懸念されているということで、対応が急がれると書いております。
 一方で、デジタル庁が新設されることになりましたし、また、リモートワークも徐々に進んでおります。そして、地方への人や企業への関心の高まりといった新しい動きも見られているということを指摘しております。
 少子化については、2021年に80万人を下回る見込みということになっております。中位予測から大きく外れ、70万人台になる、80万人を切るというのはずっと先と考えられていましたが、非常に深刻な現状として受け止めなければいけないと思っております。
 それから、若年層についても、完全失業率は少し高い状況で推移しております。それから雇用者数の状況を見ますと、やはり非正規雇用、特に女性の非正規雇用が大きな影響を受けているということが見て取れるわけでございます。
 一方で地方への関心は高まっているということでございますが、最新の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、東京圏の在住者の33.2%が地方の移住の関心がございます。20代は40%となります。それから23区ですと、約5割の方が地方への関心を持っているということになっており、非常に地方移住への関心が高まっているということが言えると思います。
 それから、人口についても、やはり地方都市が増えており、2020年は東京が減っている。それから地価につきましても、札幌とか福岡、仙台といった都市の地価上昇が見られるということで、こういった都市について少し関心が高まり、人の流れに変化が見られているということが分かります。
 私どもは、長い間議論をしてまいりましたが、中間報告でも、特に人への投資が大事であることを指摘していました。SDGsなど様々なことも議論してきましたが、グリーンとかデジタル化についてはかなり様々な政策も実現してきているということで、本報告では、やはり人々が安心して豊かに生きられる未来を選択するには、社会全体として人に対して大胆な投資をしていく、そして、きめ細かい支援を行っていく必要があるということを、私どもの提言としております。
 これから、まさに多様性を重視して、多様な人たちがそれぞれ能力とやりがいを高めながら活躍する場を選択できるようにする。それから、今、苦しい立場にある方、厳しい立場にある方にも、しっかりとしたセーフティネットを構築し直して、学び直しの仕組みを入れて、人々を社会全体で支えるということが大事だということを提言しています。
 特に私どもが強調したいことは、若者がより自信と安心を持てる社会にしていくということ。この若者というのは、常に新しい時代を創っていく存在であるので、若者が思い切り力を発揮できる社会にしていく必要があるということ。それから、女性も今まで潜在的な力を発揮できなかった方たちが多くいます。この女性の能力を一層発揮しやすい社会にしていく。働きやすい、子育てや家庭と両立しやすいといった社会にしていく。そういったことが本当に重要であると思っております。
 この少子化の問題については、中間報告では様々なことを指摘いたしました。男性育休や保育の充実といったことも提言しておりますが、何においても若い人たちが自信を持って安心を持って希望を持てる社会にしていくということにしなければ、希望出生率1.8以上という実現には届かないので、まず若い人たちを最大限支援していくということが非常に重要であり、少子化の流れを変えるための大前提と考えております。
特に、これから行うべきHOWの部分について、緑の字で様々なことを書いておりますが、大きく3層からなる人への投資、人への直接支援を提言しております。
 まず、1つ目、これは人材が活躍できるように、素晴らしい人材が次々と出てくるように、特に今回の危機を経験して課題設定・解決力、それから創造性といったことが教育の上でますます大事になってきていますので、これを重視した学びと、こうした人材が活躍できる人材活用システムを見直していく。こういったことを通じて経済を活性化していくことが大事だということ。
 2つ目、多くの人々に関係するところであるが、人生100年時代で様々な人生の選択ができるようになっていく必要があります。転職や起業を行いやすい仕組みを構築していく、様々な人生の選択を試みることができる制度・社会を作っていくことが大事だということ。
それから、3つ目、特に今厳しい状況に置かれている方々に対して、個別最適化されたセーフティネットを拡充し、安心を確保していくことが大事だということ。
 まず、初等中等教育の個別最適化は、中間報告でも特に強調したことですが、やはり非常に重要であるということを指摘しております。それから、教育制度の抜本見直しについては、もっと実務家などが教員として教えられるような仕組みに抜本見直しをしていく必要があるということを提言しております。
 それからデジタル教育の徹底。私どもの会議には、東京大学の松尾豊教授も参加していらっしゃいますが、これは強調してもし過ぎることはないということで、とにかく中等教育や高等教育を通じて、全てにおいてデジタル教育を徹底していくということ。
 それから、大学入試の抜本見直しにつきましては、これからお示ししますが、STEAM人材を育てていくためには、入試の前に文系・理系と分けるということも含めて見直して、もっと考え方を柔軟にした入試の見直しも進めていく必要がある。
 それから、何においても、新卒一括採用から複線的・多様な通年採用にしていくこと。新卒一括採用が、やはり年功序列を作っている元になっているようにも考えられますので、こういったことから抜け出すためにも、様々な人たちが中途採用で入ってきたり、通年で採用できるといった仕組みに企業が変わっていくことが大事である。それから、政府が率先して、まさに省庁から年功序列を見直すことが大事だということも言っております。
 それから、ソーシャルブリッジ型の能力開発・就業支援が大事ということを言っております。
 就職しても転職をしたり、起業できる、それから独立できる。それから、今までの方たちはずっと1つの企業に勤め続けていましたが、40歳代前ぐらいに棚卸しをして、人生どう生きていくかということを考えるチャンスを持ってもらって、そして、大企業に埋もれてしまわず、兼業したり副業したりといったことができるようにしていくということが必要ではないかと考えています。そこにセーフティネットが張ってありますので、例えば、失業やそれに近い状況になってしまったり、働きながらでも新しいことをやりたいという人であっても、求職者支援制度などのセーフティネットを通じて次の仕事に行けるというような仕組みにしていく。こういったソーシャルブリッジ型の社会を創っていくということが大事だということを言っております。
 あとは、リカレント教育の重要性を指摘しているほか、理工系人材の育成強化、デジタル化が速い状況の中で学び直しを強力に推進していくこと。それから副業・兼業や起業を通して、大企業の人材の流動性を向上していくこと。フリーランスなどの柔軟な働き方に合った労働法制整備。それから、これも非常に大事ですが、男女が家庭生活と両立できる就業環境整備。これは、少子化を考えても、女性の活躍を考えても、極めて重要なことだと思っております。
 それから、地域間で比較可能なジェンダーギャップ指数を作成して公表していくということも提言しております。
 それから、今、厳しい立場にいらっしゃる方々に対しては、しっかりとしたセーフティネットを構築していく。特に、求職者支援制度や生活困窮者自立支援制度のソーシャルブリッジ機能を強化していくということで、新しい仕事に就けて自立できるような支援を行っていくということの重要性や、学び直しの機会をどんな人にでも提供していくということ。それから、デジタルを活用してリアルタイムに、シングルマザーなど、困っている方たちに支援できるような制度を作っていくこと。住宅支援や生活保護も使いやすい制度にしていく。
 そして、こうしたことの財源については、将来世代の責任を果たして格差を是正するために、どういう財源が良いかということもしっかり検討していくことが必要だと指摘しております。
 先ほど御説明しましたが、課題設定・解決力や創造性があって、リベラルアーツとともに理系の素養を持つ人たちを育てていくといった教育の仕組みにすることが非常に重要である。そして、異能や異才の人たちも力を発揮できるように個別最適化を図る。こういった教育の制度をしっかりと構築していく。教育制度と学び直し、生涯をかけてこういった人材を育てていく仕組み・社会を作っていくということが大事だということを言っております。
 教員の制度が課題だと申し上げましたが、日本のOECD諸国の中でのICT活用指導力は大変に低い状況でございます。やはりデジタル教育と言っても、こういった状況でございますので、実務家などを教員として活用していくことが大事だと思います。
 リカレント教育につきましては、これでご覧いただきますとおりニーズに合っていない、効果が出ていない、それから柔軟性に乏しいといったOECDの中でも厳しい評価になっております。こういったことを徹底的に見直して強化していく必要があると思います。
 それから若者は、今の状況ですので安定を求める人たちもいますが、実は副業を求めている人たちが20代・30代にこんなにいらっしゃる。7割ぐらいの方が関心を持っているということです。副業できない企業が多くありますが、できるようにして活躍できる場を作っていくことは非常に大事だと思っております。
 それから女性に関しては、文系・理系を全部合わせたものですが、高等教育の経済リターンの男女格差が大変大きいという状況になっております。こういった状況ですので女性がなかなか活躍できない。こういったリターンを上げていくということが必要だと思っております。
 これは地域間で比較可能なジェンダーギャップ指数の指標例ということで、各県で競い合う形で、例えば、企業の管理職に占める女性の割合や、4年制大学進学率の男女比率、女性議員がどのぐらいいるか、待機児童がどのぐらいいない状況になっているかということを示しています。例えば、この中では鳥取県などが非常に良いパフォーマンスですが、女性の活躍とか働きやすさ、暮らしやすさの見える化をしていくということも非常に重要だと思っております。
 それから、「第2のセーフティネット」が大事です。緑の所で生活困窮者自立支援制度や求職者支援制度、この第2の部分が非常に薄いということです。2020年になってここが充実できていますが、やはり生活保護と、正規社員の方々の雇用保険が圧倒的に大きいので、第2の部分を厚くしていくことによって、失業になっても労働移動ができる、また、新しいチャレンジができるといった社会にしていくことが大事だと思います。そして、正規雇用から正規雇用になる方は多いですが、特に非正規雇用から正規雇用にある方は少ないので、非正規雇用の労働者の方を正規雇用にしていくということも非常に重要だと思っております。
 これが最後のページになりますが、私ども懇談会としては、多様な人材の育成と活躍を社会全体で支援するということが大事だと思います。今まで人材と言うと、厚生労働省や文部科学省、経済産業省などが、ばらばらで取り組んでいた部分があると思いますが、こういったことを政府全体として、人材をどうやって育成して活躍できるかということを考えていただきたいと思っております。
 厳しい立場の方には十分な支援をすると同時に、未来を見据えた思い切った制度改革を追求する。そして、若者の活躍を幅広く支援するとともに、いくつになっても学び直し・やり直しができるシステムを構築していく。技術革新、産業構造転換、これからグリーン化などが次々と起こりますから、学び直しを可能にして対応できるようにしていくことが大事だと思います。そして、希望のある未来を選択するということです。
 日本にとって一番大事なのは、変革の力を生み出すことができる「人」でございます。人材でございます。したがって、男女・世代・地域の区別を越えて、多様な人材の能力・発想を引き出して未来につなげる。そして、人々が安心と自信を持ち、幸せと豊かさを感じられる未来を選択していくということが大事だと思っております。
 懇談会としては、政府に対して、今申し上げたような政策の実現を要望したいと思います。また、今後の改革の進捗過程をベンチマークで確認してフォローアップしていくとともに、データを活用した政策の検証・EBPMの実現も是非大臣を通じてお願いしたいと思っております。
 また、中間報告でも提言いたしました全体像を再掲しております。創造力を持ち合わせた多様な人材が次々とイノベーションを起こせる、自由かつ柔軟性に富んだ変化を取り入れて、失敗への許容力が高い社会を創っていく。そして、個人が自由度の高い働き方や暮らしができ、ワーク・ライフ・バランスを実現して豊かさを感じられる。デジタルリカレントをみんなが享受できる。性別にかかわらず人への投資を行う。そして、十分にインクルーシブな社会を作っていく。地域社会やコミュニティーにおいて必要な人との交流やつながり、支え合いの環境を大切にする。そして、グローバルにもしっかりと役割を果たしていくということを考えております。
 ベンチマークとしては、デジタル化の広範な利活用、付加価値生産性の拡大、労働市場の柔軟性・流動性、若者や女性の活躍、所得向上、そして、貧困の解消といったことに向けてベンチマークを設定して政府として政策を実現していただきたいと考えております。
以上で私の説明を終わらせていただきます。
(西村大臣)翁座長、ありがとうございました。1年以上前からこの「選択する未来2.0」の議論を進めていただき、昨年夏に中間報告をまとめていただいて、その後、提言した内容をいくつかもう実現してきています。さらに、今、翁座長からお話がありましたように、デジタルやグリーンという部分は、菅政権になりかなり前進いたしましたので、中間報告以降は、私が申し上げた3つのニューディールの1つである「ヒューマン・ニューディール」、人材への投資の部分に特に焦点を当てて議論していただきました。
 報告書の最後のページに掲載されていますが、見ていただくと分かるとおり、若干政権に批判的な方も含めて様々な観点から地域あるいは歴史、雇用、それから人材、気候変動も一部ありました。それから私が大学の教養課程の最初の授業で教わった村上陽一郎先生、かなりお年を召されましたが現役でポストコロナというものをにらんで議論をされておりますし、異能のお一人だと思いますが松岡正剛さん。また、今年に入っても、酒井教授は、著書「雇用のセーフティネット」で様々な賞を取られておられます。それから、若手の学者で川口大司先生、あるいは経団連、あるいは格差の問題について阿部彩先生など、非常に多彩な人材、ゲストスピーカーからお話を聞いて取りまとめていただきました。
 この間、緊急事態宣言が何度かありましたので、全て出席しているというわけではないですが、私も、議事録も全部読んだ上で、翁座長と様々な議論をさせていただいて、このような報告をまとめていただきました。本当に感謝を申し上げたいと思います。
 今、御指摘のあった点、多様な人材を社会全体で育てていくというところは、私も共有しております。頂いた内容を、しっかり受け止めて、来週以降に本文が示される予定になっている骨太方針を今月中には取りまとめますので、その中にしっかりと位置付け、盛り込んで、対応していきたいと考えております。
 実はこの骨太方針に向けて、中心的な根っこになる人材の投資というところも議論していただいた会議は、「選択する未来2.0」と、あと2つあります。
 一つは、「企業組織の変革に関する研究会」。これは冨山和彦会長や、ドワンゴの夏野剛CEOに出席いただいています。まさに企業をどう変えていくのか、組織をどう変えていくのか。コーポレートガバナンス・コードや、今日の報告の中に入っている若者や女性をどう登用しているのかについて、企業組織の観点から議論を進めていただいた研究会でございます。これも論点をまとめていただいております。
 そして、もう一つの「若者円卓会議」では、取りまとめ役は東京大学の柳川範之教授にお願いしましたが、その他は20代・30代の人だけに入っていただいて、基本的に若い人の視点から、今日お話があったところの例えば理系の女性をもっと増やしていく、どうすれば増えるのかといったところも含めて、来週取りまとめの報告を提示できる予定になっております。
 この3つの検討会を重ねてきておりまして、それぞれの報告を頂いて、一部スタートアップや成長戦略に関わる部分は成長戦略実行会議に既に盛り込んでおりますが、それぞれのエッセンスや方向性をしっかりと骨太方針に反映させていければと考えております。
 いずれにしても、報告をまとめることが一定の目的ということではなく、これを実現することが私どもの仕事でありますので、しっかりと取り組んでいきたいと思いますし、またフォローアップもしていただければと思います。
 「選択する未来2.0」の報告について、翁座長の御説明と重なる部分は少し省きながら、私なりにポイントとなる点を少し申し上げます。
 一つは、経済全体の成長率について。生産性が伸びていないということです。安倍政権になって、先ほどのお話にあった「選択する未来」委員会がまとめた2014年の報告以降も、生産性の伸びは1%程度でありますから、生産性の水準は現在もそれほど高くはないという状況であります。
 報告書に記載されていますが、生産性の伸びは、実は、日本は2012年から2019年の各国の平均の中で高い位置にあって、アベノミクスの下で非常に高い生産性の伸びを維持してきました。しかし、生産性の水準で見ると、欧米の国に比べて日本は低い位置であります。このことをグラフにすると、米英独仏平均とOECD平均が日本より高い位置にあり、過去の平均からすると、それぞれ今後も1%ぐらいずつは伸びていきます。日本の生産性を、これから10年経たないうちに、OECD平均に追い付き、そして世界のトップになることを目指す。三村会長に座長をお願いしていた1.0に当たる「選択する未来」委員会の時は、2020年代にジャンプスタートをして追い付くということを目指した。まさに、今、生産性は諸外国に比べて高い伸びとなっており、これを2%上回る伸びで続ければ実現できる。2%は難しいじゃないかと言われますが、過去30年間の平均を取ると、全く無理な数字ではないです。バブルの崩壊や、アベノミクスがあったり、様々なことがあった中で可能なところでありますので、これを実現するということで進めていきたいと思います。
 次に、成長戦略会議の方で対応しましたが、ベンチャーキャピタル、スタートアップに対する投資額がアメリカに比べて桁違いに少ないとか、ユニコーン企業が中国に比べても、ヨーロッパに比べても格段に少ないといったイノベーションの課題があり、そのための人材育成が必要だということです。
 次に、先ほども御説明がありましたが、東京から移住する20代が約40%というお話。また、札仙広福、特に福岡と札幌の地価上昇率が非常に高く、東京23区は地価が下がって、周辺の千葉や川崎で上がっているという状況であります。
 次に、少子化の関係で言うと、やはりコロナの影響で「新たな出会いが減った」という人が3割ぐらいいるという状況であります。今日発表しました「第3回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」で紹介されております。これも大事な点でありまして、今後の大きな課題だと思っています。
 次に、先ほども御説明がありましたが、やはりコロナを機に、昨年から本年にかけて、女性そして非正規雇用の方が、非常に厳しい雇用状況にあります。44歳以下の若者の失業率については、2020年は全体としては年平均で2.8%と先進国で最も低い数字に抑えていますが、やはり若者や女性にしわ寄せが寄っているという状況であります。
 次に、ジニ係数については、再配分後に良くなってきている。最近も横ばい程度で若干良くなっている。ジニ係数は高ければ高いほど格差拡大を示しますが、去年1年間について少し試算してみたところ、実は格差の拡大は見られておりません。月収28万円程度の第1分位から、最も高い月収100万程度の第5分位の5つの区分に分けて、それぞれの所得の変化を見ると、それぞれ黄色の特別収入が非常に大きいです。昨年のお一人10万円の特別定額給付金がかなり効果を持っていまして、最も低い所得の層では大きなウェートを示しています。所得が高いとウェートは低くなりますが、やはり効いています。それから、緑色の世帯主の配偶者の収入について、同一労働同一賃金が昨年から大企業でスタートしましたので、これがそれぞれの層で効いてきています。それから、社会保障給付も当然あるわけです。また、所得が高くなってきますと、世帯主の賞与・ボーナスとかの臨時収入が落ちたとか、残業が減ったという定期収入の減少がありますが、全体で見れば、それぞれの所得階層で、所得は全てプラスの方向に働いております。平均の実収入で前年比4%増という部分ですが、それなりに高くなっています。簡易な計算でジニ係数を出してみますと、2019年が0.224、2020年は0.217ということで、特別定額給付金をはじめとして様々な施策が効果を持ってきたものと思っておりまして、マクロで見ると大きな所得格差は見られないと言えると思います。
 ただ、先ほどの報告にもありましたし、データにもありますとおり、やはり女性や非正規雇用の方々に、どうしてもしわ寄せが寄っていますので、厳しい状態にある方にはしっかりと目配りをして、支援策を講じていかなければいけないということであります。
 次に、生活保護世帯の数が全世帯で見ると、前年同月比で若干の上昇傾向にあるということでありますし、高齢者世帯はそうでもないですが、むしろ母子世帯が上がってきていて、その他の世帯も上がってきています。これはしっかりと目配りをして、対応しなければいけないということであります。
 先ほど御説明がありましたリカレント教育を年代別・様々な人材ごとに少し整理してみますと、最も厳しい状況にある非正規の方や就職氷河期、引きこもりの方なども含めて、社会で活躍できるように、あるいは、自分の能力を発揮できるように、さらに良い待遇になるようにということで、まさにキャリアアップの仕組みで、デジタルが得意な方もいると思いますので、それを更に伸ばしていく。それから、先ほどからお話にある「第2のセーフティネット」と呼ばれる求職者支援制度。働いていても訓練が受けられて、かつ10万円の給付もある。あるいは資格を取る。また、高等職業訓練促進給付金。こういったことで、まさに雇用保険に入っていなくとも、訓練を受けながら給付も受けられる仕組みを拡充し、こうした方々が正規雇用に移っていくことも大事であります。
 それから、正規社員の方々も、先ほど翁座長から御説明ありましたように、兼業・副業を行ったり、様々な訓練を受ける中で、あるいは40歳の棚卸しをやる中で、より実務的なプログラミングや人事・労務、語学を学んでいく。1つの会社だけで通用するというよりは、市場全体・社会全体で通用するようなスキルを磨いてもらって、高度人材を目指していく。あるいは、40歳のところで棚卸しをやる中で,独立していく、あるいは地方の別の企業での活躍といったことを含めてやっていく。これは、大学での教育などで、40歳以降、更に訓練を受けるということも考えられます。
高度人材を増やしていくという過程では、博士号持つ方を増やしていこう。経営人材も、MBAなどを国内外で取得して、国際的にも通用する人材を育てていこう。20代・30代でそういった様々な経験を活かしてもらって、40歳以後で起業していく。様々な他の企業に移っていく。あるいは、研究者として道を究めていく。様々なキャリアのルート、それぞれのニーズに応じたリカレント教育を整備していくこと。これは専門学校が担う部分もあるでしょう。あるいは大学が担う部分もある。大学院が担う部分もある。こういった仕組みをしっかりと作っていくということが大事だと思っています。
 次に、先ほど御説明がありましたが、就職した後、様々転職したり、学び直しがあったり、留学したり、起業したり、独立したり、様々なルートで複線化する中で、自分自身をキャリアアップしていく。万が一の時は、雇用保険のセーフティネットがある。あるいは、雇用保険に入っていない方々でも、休職者支援制度などが「第2のセーフティネット」。最後は、生活保護があるわけですが、そうなる前に様々なチャンスがある。リカレント教育や兼業・副業といったことの中で、多様な人材が年功序列を打破しながら、何度でも挑戦し、そしてキャリアアップできる柔軟な労働市場を作っていこうということであります。これを「ソーシャルブリッジ型」と呼んでいるわけです。
 次に、先ほども御紹介がありましたが、学校で指導できる資格である特別免許状や、特別非常勤講師として一時的に教員になれる仕組みもあります。慶應義塾大学名誉教授の竹中先生が、自分はハーバード大学では教えられるが、資格がないから日本の公立中学校では教えられないということをよく言われます。特別免許状授与件数は少しずつ増えていますが、また、特別非常勤講師の件数は実はそれほど増えていないです。だから、もっと社会の実務で活躍している方から、中学生や小学生が聞いて、いろいろ触発される機会を作っていく。単なる知識の詰め込みは、もうスマホもあり、人工知能がやってくれるわけです。先ほど御説明した教育の仕組みの中でも一番下には基礎学力が必要ですが、様々な人の話を聞くチャンスを、実務家の外部人材に免許を与えることで積極的にもっと活用しようということであります。
 そして、博士人材。最初のイノベーションのところに関わってきますが、世界で比較すると、1万人当たりの博士号の取得者が、日本は欧米の国々と比べると非常に低い。韓国と比べても低い。中国は、データがはっきりしないところもありますが、人口が桁違いに多いため低い数字になっています。欧米と比べて圧倒的に低い日本は、自然科学が少ないというだけではなく、人文科学や社会科学も少ない。MBAを取っている人も少ない。国際的に通用する人材、そして、イノベーションを担う人材を是非育てていきたいということです。日本の博士号取得者の伸びは横ばい程度ですが、ポスドクの話も含めて、人材支援の枠組みもできていますので、その中で博士号取得者を増やしていこうということであります。
 次に、大企業における役員の最終歴について、大学院を修了している人は11.5%しかいません。欧米は遥かに多いということであります。
 次に、兼業・副業については、先ほども御説明がありましたが、20代・30代の7割以上関心を持っているということです。
 今朝も申し上げましたが、企業を選ぶ時に、転職する時にも、テレワークがしやすいとか、育児休業がしやすいなど、視点が変わってきています。単に経営が安定しているとか、給料が高いとか、成長するということだけではなく、こういった視点で若い人たちは見始めている。SDGsもあります。テレワークあるいはオンラインで、買い物や教育、医療ができるということも、地方移住の関心が高まった大きな理由であります。
 次に、男女の賃金格差。先ほども御説明がありましたが、高等教育の経済的リターンということで、高等教育を受けたことによる生涯所得の増加分から高等教育の費用を引いた額は、OECDの中で比べても、男女で大きな差があります。男性のレベルはOECDの平均並みでありますが、女性が圧倒的に低い。そもそも高等教育で博士号を取る人が女性は少ないと思いますが、更に受けたとしても、生涯の所得がこれだけ男性と差がある。これを何としても変えなければいけないということだと思います。
 次に、何度も申し上げていますが、M字カーブは解消されてきました。結婚・子育ての時期の女性も、働くチャンスが増えてきたということだと思いますが、非正規雇用が多い状況です。正規雇用比率のL字カーブはほとんど解消されていません。結婚と出産とともに正規雇用率が落ちます。能力がある女性、やる気のある女性が正規で雇われていないというこの実態を、絶対に変えなければいけない。
 次に、1年以内に離職した人がどう変わったかということについて、正規雇用から正規雇用に転職した人の割合は、男性は女性に比べて高い。女性も2020年は上がっていますが、それでも男性に比べると低い。しかも非正規雇用の方が正規雇用になれる割合も、女性は男性に比べて低い。女性が活躍できるようにもっと正規・非正規をなくしていく環境を作って、女性の所得を上げていくことが非常に重要です。
 貧困問題の大きな理由の一つは、女性のパートタイム労働者、非正規雇用の方の割合が高くなっているということであります。
 次に、「第2のセーフティネット」。昨年度予算は充実していましたが、実は、対象のうち利用されている人が非常に少ないということであります。
高等職業訓練促進給付金の方が分かりやすいかもしれません。最大4年間で毎月10万円をもらって資格を取る。働きながらできる。この仕組みで看護師の資格を取った人が、約1,200人います。保育士の資格を取った人が約160人います。美容師とか歯科衛生士、様々な資格を取って、次のステップに行かれている方がたくさんいると思います。他方、対象となるひとり親の方、児童扶養手当の受給対象となる人が実は90万人もいる中、このうち、この仕組みを利用した人は、数年間、年間だいたい約7,000人で0.8%に過ぎません。知られていません。もっと利用してもらいたいと思います。最終的に資格を取った人は2,000人で利用者の更に3分の1か4分の1で、90万人に対して言えば0.2%強です。
 したがって、厳しい家庭の方々はたくさんおられますが、こういった仕組みをもっと充実させていって、活用してもらうことが、何より重要だと思います。
 こういうことで、翁座長から報告をいただいたこの報告書をしっかりと受け止めて、私の立場で今申し上げたような視点を大事にしながら、骨太方針の中にしっかりと盛り込んでいければと考えております。

2.質疑応答

(問)今日の報告の中で、所得再分配、格差是正のところで、高所得者への金融課税の強化をはじめ所得に応じた適正な税負担を検討していくべきであるという御提言がありましたが、この金融所得課税については、政府与党で様々な考えの方がいらっしゃると思います。この提言について大臣はどう受け止められているのかということと、こういう金融所得課税について骨太方針に反映していくような可能性はあるのか。それとも、もう少し中長期的に議論していくべき話なのか、この辺りのお考えをお願いします。
(答)まず、先ほど御講演いただいた有識者の方を御紹介しましたが、報告書の45ページに懇談会のメンバー表もございます。社会保障の専門家、あるいは格差、労働生産性などを研究しておられる方々、様々な視点から御議論いただいて、人への投資というものを増やしていく。特に厳しい世帯にある方々、あるいは本来は能力があったり、潜在的な力があるにもかかわらず、なかなか活かせていない方々。やはり日本では最後は人材が全てでありますので、人材への投資を増やしていくべき。これは皆さん共通した認識であります。
 しかし懇談会として、無責任に増やしていけということではなく、財源もしっかり手当てするべきだという御議論もあり、そうした中で今の金融課税のようなお話が盛り込まれています。
 この点については政府与党内で様々な議論がありますので、なかなか短期間で議論を決着させることというのは非常に難しいと思いますが、私個人的には、やはり中長期的に人材への投資を厚くしていく中で、諸外国でも議論されております、富裕層への課税の強化が重要。そうした中でも、特に金融所得課税が総合課税になっていませんので、20%ということでこれまで強化されてきましたが、そういったものも今後の検討課題の一つだという認識しております。
 諸外国の税制なども様々参考にしながら、それこそ「選択する未来」委員会のとき、三村会長の頃に議論した中で、私も当時話題になったフランスのピケティ教授との公開の討論会が新聞社の主催で行われました。そういったこともありましたので、その後も折に触れて、ピケティ教授のあの分厚い本を読み直したりしています。
 いずれにしても、去年1年間で見れば格差は大きくは広がっていませんが、世界全体で見ると格差の課題はあります。日本でもやはりマクロではなくミクロで見ると、格差の課題があります。
 そして人材への投資を増やしていくという中で、中長期的な課題として、私自身は引き続き念頭に置きながら、検討を深めていきたいと考えております。
(問)今回の報告の中で、リカレント教育の必要性や、多層的なセーフティネットも必要ということで、人への投資という側面から様々な提言があったと思います。今、まさに骨太方針は最終的な取りまとめ段階ですが、今年の骨太方針に取り入れて、来年度予算や法改正など、早急に対応しなければいけない部分はどの辺りであると大臣はお考えでしょうか。
(答)人材への投資の部分について、来週には「若者円卓会議」の提言も出てきますので、それも踏まえて、例えば、先ほどの博士号を取得する人をどう増やしていくか。あるいは女性の所得を上げていく中で、例えば理系に進学する女性をどう増やしていくか。それから「第2のセーフティネット」をどう周知して、皆さんに知っていただいて、どう活用してもらうか。様々取り組める課題はあります。
 あるいは、テレワークを機会として、地方移住を進めたいという若者がこれだけいるわけですので、まさに東京一極集中是正を見直す大きなチャンスです。今日も全国知事会の飯泉会長に申し上げましたが、地方の企業が積極的にテレワークを行っていることを情報開示してくれることによって、東京にいる若者の目に届くわけです。就職企業などにも情報提供していきますので、多くの若者が地方に行きたい、移住したいと考えている中で、もちろん転職なしにテレワークを認めてくれる企業もたくさんあると思いますが、是非この機会に一極集中是正を変えていく。そして、地方の活力につなげていく大きなチャンスだと思います。
 そういった面も含めて、ここに指摘されたような様々な施策を、できる限り今回の骨太方針の中に盛り込みながら、もちろん各省との関係もありますし、与党との関係もありますので、100%全てを今回の骨太方針の中に盛り込めるかどうかは、これからまだ議論しなければいけませんが、大事な視点をたくさん頂󠄀いたと思っておりますので、しっかりと受け止めて対応していきたいと考えております。
 ありがとうございました。

(以上)