第252回 消費者委員会本会議 議事録

日時

2017年8月1日(火)14:00~15:47

場所

消費者委員会会議室

出席者

  • 【委員】
    河上委員長、池本委員長代理、阿久澤委員、大森委員、蟹瀬委員、鹿野委員、中原委員、樋口委員
  • 【説明者】
    法政大学経済学部 菅教授
    消費者庁 佐藤取引対策課長
    消費者庁 取引対策課担当者
    国土交通省 井崎土地・建設産業局不動産市場整備課長
    国土交通省 佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長
    国土交通省 土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室担当者
  • 【事務局】
    黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官、友行企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 消費者行政における執行力の充実について
  3. 特定商取引法施行令の一部改正について
  4. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○河上委員長 どうもお待たせいたしました。

皆様、お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。ただいまから「消費者委員会第252回本会議」を開催いたします。

本日は長田委員、増田委員が御欠席となります。

それでは、配付資料の確認をお願いいたします。

○丸山参事官 お手元の議事次第下部のほうに配付資料一覧を記載しております。資料1-1から資料2-5となっております。参考資料も一部ついているということになっております。

もし不足がございましたら、事務局までお申し出いただきますよう、よろしくお願いいたします。


≪2.消費者行政における執行力の充実について≫

○河上委員長 本日、最初の議題ですけれども、「消費者行政における執行力の充実について」というテーマでございます。

我が国の消費者行政における執行業務につきましては、特定商取引法を初めとして、景品表示法、健康増進法、食品表示法、消費者安全法等に基づくもの、様々にございまして、いずれの執行業務も重要ではございますけれども、当委員会といたしましては、地方消費者行政における特定商取引法を中心とした執行力を高めるための方策について注目いたしまして、調査を実施してきたわけでございます。

本日は、まず本件についての調査を開始した背景や、当委員会の問題意識等について、中原委員から御説明をいただきたいと思います。

中原委員、よろしくお願いいたします。

○中原委員 それでは、担当委員としまして、私から本件に係る問題意識や調査の背景等について御説明いたします。

近年、社会経済の構造変化に伴って、消費者被害は複雑化・多様化しており、消費生活相談件数は依然として高水準で推移しています。

中でも、特定商取引に関する法律、以下「特商法」と申し上げますが、この特商法関連の苦情や相談は、消費者から寄せられる苦情・相談の総件数の約半数を占めており、その件数もここ数年の間、横ばいとなっています。

消費者被害の削減・防止のためには、消費者に対する注意喚起や消費者啓発により消費者自身が被害を未然防止できる力を持つことや、消費者安全確保地域協議会等の取組により被害に遭うリスクの高い消費者を地域で見守ることが重要であり、国及び地方公共団体において取り組んでいるところです。しかし、違法な事業活動を繰り返す悪質事業者による消費者被害を防止し、取引の公正さを確保するためには、法制度の整備と適切な執行権限の行使、すなわち、制度面と執行面との両面により対応することが必要です。

制度面においては、直近10年間で3度の法改正を行っており、その中で、悪質事業者への対応措置が様々な形で盛り込まれましたが、現状では、特商法関連の苦情・相談件数を大きく減少させるには至っておりません。

他方、執行面においては、ここ数年、行政処分の件数が減少しております。

その背景には、事業者の手口が複雑化・巧妙化していること、被害者の高齢化等により、違反認定のための証拠確保が困難になっていること、行政処分に対する訴訟リスクの高まりを視野に入れた対応も必要となっていることなどから、執行業務の困難さが増していることがあると見られます。

特商法の執行業務については、国、すなわち消費者庁長官や各地方経済産業局長だけでなく、都道府県知事にもその権限が付与されています。都道府県における執行については一定の成果を上げているものの、執行業務を担う消費者行政担当職員数は近年減少傾向にあり、国のみならず都道府県においても執行力充実の必要性は高いと言えます。

消費者行政における執行業務については、先ほど委員長からも発言がありましたとおり、特商法のほかにも様々なものがあり、いずれの執行業務も重要ですが、当委員会は、以上の状況を踏まえ、ここでは、地方消費者行政における特商法の執行力を高めるための方策に着目し、調査を実施してまいりました。

調査においては、事務局による有識者へのヒアリングのほか、担当委員を中心として、関係行政機関や都道府県へのヒアリングを行いました。ヒアリングを行わなかった都道府県についてはアンケート調査を実施し、全都道府県の実態把握を行いました。

これらのヒアリングやアンケートについては、執行事務の適切な遂行に支障が生じないようにとの配慮から、これまで非公開で実施してまいりました。

これまでに行った調査・審議結果を踏まえ、論点整理を行いましたので、この後事務局より御説明させていただきます。

○友行企画官 それでは、引き続きまして事務局から御説明させていただきます。

資料は資料1-2と、適宜資料1-1を御参照いただけますでしょうか。

まず、資料1-2に沿いまして御説明させていただきます。ヒアリング等の結果を踏まえまして、課題を大きく3つに整理しております。一つ目が、執行体制の充実に係ることでございます。二つ目が、手口が複雑化・巧妙化するなどの悪質事業者への対応でございます。三つ目が、国と都道府県の連携と役割分担をどうしていくかということでございます。お手元の論点整理案は、それぞれの課題への対応策、課題解決策となり得るものを挙げております。

最初の「1 執行体制に係る課題への対応」ということでございますが、地方の行政職員の数を大きく増やすことが難しいという中で、それでは、今いる職員が執行に向けて十分に動いていくためには、どのような方策がとれるか。

そういった観点から、(1)としまして、執行ノウハウの整備や共有が大事ではないか。整備・共有していくべき論点としては、法令解釈に係ることですとか、調査手続、訴訟リスクへの対応、特商法の適用対象外の事案への他法令による処分の可能性などが考えられると整理しております。次のところでは、警察関係者等の専門性を有する非常勤職員との関与の拡大ということでございます。(3)といたしましては、行政だけではなく、官民連携による執行体制の充実、専門人材との連携という点でございます。具体的には、弁護士等との連携の有用性ですとか、弁護士に限らず様々な専門人材との積極的な連携、適格消費者団体との情報に係る連携などでございます。

二つ目といたしまして、執行業務が難しくなっているということに対応した「2 悪質事業者への対応」ということでございます。

一番大事なこととしては、最初に消費生活センターの役割の重要性が高まっているのではないかということでございまして、法執行を念頭に置いた相談対応ですとかPIO-NETの入力の際の工夫、消費生活センターと執行部門との情報連携の仕組みの構築などが重要なのではないかということでございます。(2)といたしまして、執行ネットの充実を挙げておりますが、これは消費者庁や経済産業局、都道府県が、特商法の執行状況の情報共有を図るためのネットワークでございまして、こういったネットワークを充実させていくことが重要ではないかということ。それから、(3)としまして、関連先への資料提供の要求をもっと活用していくこと、(4)消費者からの情報収集をもう少し啓発していくこと、(5)警察との連携などでございます。

三つ目といたしまして「3 国と都道府県の連携及び役割分担」と整理しておりますが、特商法につきましては、その執行は国のほか都道府県が行うこととされておりまして、どちらの主体が執行を行うかについては、都道府県の場合は、当該都道府県の区域内に係る事例について執行をすることとされておりまして、2以上の都道府県の区域にわたる事案であって特に必要と認めるとき、または都道府県から要請があったときは、国が執行をすることを妨げないと定められております。

また、一つの都道府県で行政処分を受けた事業者が、場所を変えて近隣の都道府県で同一の悪質事業を行った事例があることから、国が執行をするのか、都道府県が執行をするのかといったことや、近隣都道府県との連携が重要であるということから、この3に掲げてありますように、近隣都道県との連携や被害が広域に及ぶ事案の対応、それから、都道府県の立入検査等への支援、国と地方の両方が処分に入れるということで、処分権限の考え方の周知ということを論点として掲げております。

一番下の※印のところでございますが、これは大きく3つに整理した課題に直接対応することではございませんけれども、重要な論点として適切なタイミングでの行政処分の実行、これは行政指導なのか行政処分なのかといった論点や悪質事業者に対する制度的対応ということで、今般28年度特商法の改正で制度的な対応がされました法人の作り替えといったことについてのことでございます。職員の専門性の充実ということにつきましては、特商法の執行につきましては、通常の行政事務とは性質が異なる。こうした執行業務の特殊性、専門性を踏まえて、執行業務に係る職員の位置づけを明確にしたり、対外的にもその職権を明示する等の工夫などが必要なのではないかといったことを踏まえた論点整理としております。

論点整理につきましては、以上でございます。

○河上委員長 どうもありがとうございました。

というわけで、今回本会議で初めてこの問題が顔を出すことになりますけれども、委員会の中では、基本的に執行の問題ですから、情報が外に出てしまいますと手の内をさらすようなこともございますので、非公開でずっと調査をしてきたところでございます。ただ、消費者被害救済のための法執行については、これからの大問題でございまして、諸外国においても既に様々な手法が展開されているところでございますが、本日は特に興味深いイギリスにおける消費者法の執行体制や権限、手法等について、法政大学の菅富美枝教授から御説明を頂戴して、我が国の消費者行政における執行力の充実の参考にしたいと考えているところでございます。

菅教授におかれましては、お忙しいところ御出席を頂きまして、誠にありがとうございます。

大変恐縮ですけれども、15分程度でまず御説明をお願いできますでしょうか。

○法政大学経済学部菅教授 御紹介にあずかりました法政大学教授の菅でございます。発言の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。

それでは、まずお手元の資料から始めさせていただきますけれども、15分という短い時間でございますので、要点をかいつまんでお話しさせていただければと思います。

私が今日御紹介させていただきたいのは、イギリスの中でも取引基準局という行政機関です。地方自治体に形式的には所属するところなのですけれども、長い歴史を持つところでございます。もともとは取引の公正を図るために、例えば商品の重さや大きさ、あるいは容積といったものをごまかして取引が行われないように、それを監視する役目を果たしていたのが歴史的な始まりと言われますけれども、1968年頃から取引の場面における詐欺などの事案に対して非常に真摯に対応して、1968年からまさに消費者被害を専門に扱い、そして、執行体制というものを確立してきた、そういった重要な機関になります。ですから、こちらを紹介させていただきたいと思っております。

お手元のレジュメのところの「1 はじめに-本報告の基本的姿勢」というところで、要点を書かせていただきましたけれども、今、申し上げましたように「取引基準局」と私が訳をつけておりますが、もとはTrading Standardsということで、本当に文字通り取引の基準という名前の部署になります。こちらの機関の一番の特徴としましては、まずは刑事責任を追及ということで、「・」の一つ目になりますけれども、不公正な取引を行う事業者の刑事責任を非常に厳格に執行していくといった、それが第1の機能として置かれております。その際に、どういった権限を具体的に持つのかということに関して申し上げますと、捜索ですとか差し押さえといった、後々の刑事裁判で証拠、あるいは、証言となる、つまり起訴の準備を十分に行えるものをすべて集める権限を持っております。そういった部署になります。これがまず第1の機能です。

それと同時に、2点目になりますけれども、これは実際には公式には取引基準局の権限の範囲内には入らないことなのですが、実質的に消費者の通報などを受けて事業者側の言い分を聞いたり調査を進める上で、結果的には事業者と消費者の間の折衝のようなものを実質的に促進する機能も、これは幸いな偶然の結果として持ち合わせております。民事の問題ですよということになると通常は形式的には介入できないということになるのですけれども、事業者の調査を行い消費者から被害の状況を聞く中で、結局事業者と消費者の両方を立ち会わせて調査を行うといった場面もございますことから、実際には民事的な機能も促進する。そうした機能を偶然的に持っているということにもなります。

そういったわけで、先ほど申し上げましたけれども、伝統的にはイギリスにおける消費者被害救済、そして抑止法制として、非常に中心的な執行主体となってきました。

この取引基準局といいますのは、最初に申し上げましたように、もともと沿革的には地方自治体で発展してきたものでございまして、また、形式的にも地方自治体に所属する一つの部署という位置づけになってございます。ですから、非常に、地方行政の中におけるそれぞれの地域管轄といったものも意識した中での消費者法の執行にはなってございます。ただ、地域を越えて、つまり、各取引基準局の管轄を越えて悪質な事業が展開されるということは、もちろんイギリスでも問題になっておりますので、各地方自治体における取引基準局の情報ネットワークであるとか、調査を共同で行うであるとか、あるいは、もっと大きくNational Trading Standards Boardということで、全国的な取引基準局のコーディネートを行う部署もございます。そういった形で、全国的に悪質な事業を展開する業者に対しても対応するような動きになっております。

「・」の四つ目になりますけれども、もう一つ新しい権限として、2002年の事業法になりますけれども、この中では、一人の消費者の被害というだけではなくて、その消費者を集合として、集合体としての消費者の利益といったものの侵害が非常に大規模に大がかりに行われているというときには、行政執行をする権限も、この取引基準局に与えられることになりました。具体的には、差止め請求を裁判所に対して行うことができますので、以後、こういった事業を繰り返さないようにといった差止めであるとか、こういった訪問販売あるいは電話勧誘はしてはならないといった差止め請求であるとか、あるいは同業の営業主体、事業主体には一定期間はなれないといった、差止めに関する請求を行うことができます。

あるいは、少しソフトなものになりますけれども、そこに「引き受け」と、これはUndertakingという英語の訳で当てさせていただきましたが、こちらは差止めよりは少しソフトなものになりまして、どういう面でソフトかと申しますと、事業者がこういった調査の対象となっているということを受けて、事業者のほうの態度変更を迫るというものです。ですから、半強制的ながらも、自主的に、今後はこういうことをしませんとか、こういう点に以後気をつけますということで、再発防止に向けて、責任の所在であるとか法的責任を認めるかどうかを脇に置いて、今後の対応策を事業者側から引き出す。これが引受けというものになります。実際にはこの引受けというものを非常に活用しているような実態がございます。

「・」の最後のところになりますけれども、先ほど少し民事的な権限を本来形式的には持っていないのですがというお話をしたと思うのですが、実は、刑事的な執行の権限を規定した2008年の、後で正式名称が出てまいりますけれども、不公正な取引行為からの消費者の保護に関する規則という刑事規則がございますが、その2008年の規則を2014年の10月から改正、そして、施行しております。何が大きく変わったかと申し上げますと、具体的には、悪質な取引行為によって契約締結という結果が導き出されてしまったときに、その契約自体の効果を失わせるような、いわゆる民事的な救済の条文が入りました。具体的には撤回権であるとか代金減額請求権であるとか、損害賠償請求権という形で、2の(1)概要というところで書かせていただきました「●」の三つ目のところに、具体的な原語とともに書かせていただいておりますが、悪質な取引行為、取引勧誘によって契約が行われてしまった場合には契約を撤回できる、あるいは代金の減額請求ができる、損害賠償の請求ができるという形で、そういったものも法改正として入ってきております。

こういったわけで昨今のイギリス消費者法の動きを見ていますと、刑事法と民事法を連携させて、連関させて消費者被害に対応しようとしていること、それから、集団としての消費者の利益を守っていこう、市場のゆがみを正そうという方向性がみえます。

もう一つ、私としては大事な点だと思うのですが、それと同時に、一人一人の「脆弱な消費者」に対してきちんと向き合うということ、そして、寄り添うということ。そういったマクロの視点とミクロの視点を兼ね備えた執行が行われていると、私は分析致しております。ですから、こういった視点、三つの線を引かせていただきましたけれども、この3点がイギリスの現在の消費者法の一番の特徴ではないかと思います。特に最後に申し上げた脆弱な消費者一人一人に寄り添うことができるというのは、これは中央政府だけではできないことで、これは歴史的にも地方行政の中で培われてきたノウハウなどが取引基準官一人一人に生かされておりますので、まさにその活躍の賜物と見ております。

ついでに申し上げますと、成年後見というものが日本にはございますが、イギリスには似たようなものがあるといえばあるのですが、大きく違いますのは、判断の非常に不十分な状況で契約をしてしまった場合に、イギリス法では後見命令と言いますけれども、成年後見の命令を受けているだけで契約を取り消すことができる、いわゆる行為能力制限という制度を歴史的に持っておりません。持っていないのですけれども、消費者被害というものが非常に厳格に抑止されているのは、これは結局、消費者被害抑制あるいは救済法制が取引基準局を中心に行われてきたこととの関連において、そのような制限行為能力制度を持たずに来ることが実現可能だったと考えております。

今のところで大体「1 はじめに-本報告書の基本姿勢」のところをお話しさせていただきました。少し時間が押していると思いますので、レジュメの2ページ目に行っていただきたいのですけれども、(2)イギリス消費者法の執行体制ということで、「モデルの提示」と書かせていただいたところがございます。このピラミッドのところを御覧いただければと思いますが、ここにたくさんの言葉がありますけれども、このピラミッドで何を私が示そうとしているかと申しますと、まず、ピラミッドの頂点の部分が刑事罰(懲役、罰金)ということで、隣に矢印がございますけれども、この矢印が上に向かうと、つまり、ピラミッドの頂点に向かうと、制裁力が強いという図になってございます。逆に矢印が下のほうに向かい、ピラミッドの裾野のほうになっていくと、これは制裁力が弱いという意味合いで書かせていただいております。

つまり、下のほうのものを見ていただくと、説得、例えば金銭の返還の自発的な、やや強制的に強い言葉を使うかもしれないけれども、結果的に事業者側から自発的に救済に向けて努力をさせるといった説得、あるいは二度と同じようなことを繰り返さないようにといった遵法教育、こういったものが、取引基準官が日常的に消費者被害について通報を受けたときにとる一番の対応ということになります。

もしこれでは少しソフト過ぎるということになると、そのピラミッドの少し上に上がりますが、警告文の提示というものを行います。この警告文というのも、大体A4で10枚ぐらいの割と厚みのあるものでございますけれども、それを事業者に1ページ1ページ丁寧に説明をして、そして、納得をさせるといったようなことを行います。大抵のケースはこの辺りで悪質な事業者は反省をして、二度としないといったことが多いので、つまり、解決できる場合が多いので、ピラミッド的には数も多いということで、少し裾野の部分が広いような、そういった図にしてございます。

それでも態度を改めないような事業者、あるいは似たような被害が非常に多いということになってくると、引受けという先ほど申し上げました行政的な執行ということが必要になってくる場合がございます。それが、今、ピラミッドの下から御説明申し上げておりますけれども、引受けという部分になります。この引受けという部分からずっと上のほうに行きますと、三つセットで書いてございますが、被害消費者への賠償(リファンド、契約解除)あるいは内部コンプライアンス体制の充実化、違法行為や救済に関する情報提供と、いろいろと書いてございます。さらにその上の執行命令、差止め命令、この辺りになりますと、取引基準局だけではなくて、中央の消費者被害抑制機関であるCMAと言われますけれども、Competition and Markets Authorityというところになりますが、そちらのほうも管轄になります。ですから、この辺りになりますと中央と地方の執行管轄が重なる部分になります。

そして、さらにピラミッドの上に上っていきますと、民事上の損害賠償ということで、これはまた今のいずれとも違うルートでございまして、結局は消費者がみずから民事裁判を起こさなければいけないということですので、このピラミッドの中に入れていいのかどうか若干迷ったところではございますけれども、そういったものもございます。

そして、さらに上のほうに上がっていきますと、いよいよ制裁力の強い場面ということで、刑事裁判が絡んできます。一番頂点になりますと、先ほど申し上げましたような刑事罰ということで懲役刑が科されたり、あるいは罰金刑も科される。それと同時に、刑事被害者への賠償ということで、賠償といいますと民事の感じがするのですけれども、イギリスの場合には、刑事裁判の手続において刑事罰を科すときに、同時に刑事被害者への賠償を裁判官が命令で、これは裁量にはなりますけれども、行うことができます。そして、その真ん中に、少し話を飛ばしたところではございますが、営業ライセンスの剥奪ということで、これは主に金融の分野における消費者被害に対応してきた内容なのですけれども、営業ライセンスを剥奪したり、あるいは先ほど申し上げましたように、同じような事業を繰り返すことができないように、事業の事業主体として営業主にはなれないといった命令を差止めで個別に出したりということも、この辺りではできるということになります。

ただ、いつもそういったことをするわけではなく、できればピラミッドの下のほうのソフトな手法を使って、なるべくそこで解決をしていきたい。だけれども、今回はこれではソフト過ぎる、これでは事業者の対応が適正にならないというときには、非常に勇気を持って、強い上のほうのハードな手法も使うということで、それを表現しましたのが右側の言葉になります。執行体制モデルとしては、制裁・抑止型の、ピラミッドの頂点だけをメーンにするモデルもあるかもしれませんし、逆にピラミッドの下のほうのコンプライアンスモデルという、ソフトなものだけをメーンの手法とする体制もあるかもしれませんが、イギリスの場合は、どちらにも偏らない、どちらも使うということで、その下の「応答的規制モデル」という表現がございますけれども、これは学問的に使われている言葉で、私の造語ではございません。「制裁」と「コンプライアンス」を、動的に、行きつ戻りつしながら、事業者のそのときの対応対応に応じて、両方を見据えながら執行の具体的なやり方を探っていくということを行っております。ですから、取引基準官としては、画一的なやり方というものではなくて、その事業者、そして、その被害の性質に対応した極めてフレキシブルなものを独自に判断する、その時に判断するという極めて鋭い観察眼、そして交渉能力といったものも求められるといったことになっております。

時間は大丈夫でしょうか。一旦打ち切ったほうがよろしいでしょうか。

○河上委員長 大丈夫です。

○法政大学経済学部菅教授 済みません。それではもう少しお付き合いいただきたいのですが、次のところで、同じところの「ピラミッド型につなぐ」の下の少し字が小さくなったところでございます。結局、取引基準局の視点というのはどういうものかといいますと、一番最初のお話にさせていただいたように、もともとはWeight and Measuresが原語になりますけれども、重さと計測ということで、とにかく取引を公正にしたい、取引が公正であることを監督する。そういった機関がこの取引基準官の源であり、そして、それが取引基準官のあるべき姿ということになっていますので、いつも完全に消費者だけの側に立っている存在ではございません。

つまり、悪質な事業者もなぜ悪質なのか、そこに書いておりますが、本当に違法なことをしようと思って違法になっているのか、あるいは今回は少しやってしまったといった感じの非行の程度、それでも重大ですけれども、そういった悪質な事業者なのか。あるいは、消費者法がどうなっているのか、事業者として何をしなければいけないかを全く知らずに、結果的に違法なことをしている事業者なのか、あるいは何度も頑張ろうとしているのだけれども、それがうまくいかない、下手なので違法なことをしている事業者なのかを探っていきます。なぜ悪質なことになっているのか、その背景にも踏み込んだ調査を行っています。

つまり、消費者被害を回復させよう、あるいは悪質な事業者を抑制しよう、そして、厳格な刑事責任を問おうというのはもちろんそうなのですが、まだそこまで悪質でない事業者に対して、最初から制裁という態度で臨むのではなく、良好な関係を築きながら、よりよい実践をやっていきたいという事業者に対しては、積極的にアドバイスを送るといったこともやっています。ですから、教育といったもの、そして啓発といったものにも非常に力が入れられております。

まとめますと、先ほどもピラミッドで御説明させていただきましたけれども、教育や説得によってコンプライアンスを引き出すというのが、日常的な取引基準官のやり方、在り方ではあるのですが、時には警告文の提示を行う、金銭の返還の強い促しも行う。そして、非常に悪質な事業者だと確信した場合には、ちゅうちょすることなく刑事責任を追及していくということで、私も何度も同行調査をさせていただいておりますけれども、本当にこれは悪質ではないかと取引基準官が訪問前から思った際には防弾チョッキを持っていったり手錠を持っていったりというような、非常に緊迫した場面にも同行させていただいております。そういった場面でも、結局、最初は少し刃向かうような反抗的な態度をしていた事業者も、後に説得に応じたときには、防弾チョッキも手錠も見せずに、そのまま教育ということで終わる、警告文まででとどまって終わったといったようなこともございます。

それでは、とりあえずこちらで話を終わらせていただきます。

○河上委員長 どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの説明の内容について御質問、御意見のある方は発言をお願いいたします。

鹿野委員、お願いいたします。

○鹿野委員 鹿野です。

貴重なお話、ありがとうございました。

1つお聞きしたいのですが、脆弱な消費者に対する対処の仕方ということについてです。この点については、脆弱な消費者に対して、その脆弱性につけ込んだ悪質な商法という問題が日本にもありまして、それにどのように対処するのかということが日本でも重要な課題であると思います。一方で、御存じのとおり消費者契約法の改正の論議の中でも、この問題が議論されてきましたし、他方、民事的なルールだけではなく、行政的な対応ということも求められるのであろうと思います。

先ほどのお話では、イギリスでは、消費者の集団的な利益保護ないし市場の公正さを保つという視点と共に、個々の脆弱な消費者に寄り添うということも同時に行われていて、それが特徴的であり重要だという御指摘がありました。そこで、具体的にイギリスにおいてこの点がどのように扱われているのかについて御紹介いただければと思います。お願いします。

○法政大学経済学部菅教授 御質問ありがとうございます。

実際には、私が同行調査をさせていただいたり、あるいは電話で取引基準官が応対しているところを見聞きさせていただきますと、ほとんどの被害者が、残念ながら、いわゆる脆弱な消費者ということで、御高齢の方で認知症を発症なさっている方、あるいは知的障害をお持ちの方です。御本人からの被害に対する申告があったというよりは、御家族あるいは周りの方、近隣の方も含めて、何かおかしいことが起きているというのが通報として入り、そこから調査が始まるということが非常に多くございます。ほとんどがそうだと言えるぐらいに、非常に多いかなと思っております。

そういったときに、一番難しいのは、後々の刑事裁判に使えるような証拠、証言といったものを収集するために調査に伺うわけですけれども、なかなか取引基準局側が欲しいと思っているような証拠、証言に対して記憶が曖昧であったりして、これは証言として後では使えないのではないかといったようなケースも多くございます。そういったときには、結局取引基準官は、刑事裁判にする前に、先ほど申し上げたようなピラミッドの中の、特に警告文といったものをよく使いますけれども、警告文や引受けといったことを用いまして、正式な裁判に行かなくても、実質的に消費者の被害を回復できるように幾らか返しなさいといったことを強く事業者に迫ったりいたします。ですから、非常に脆弱な消費者の御自宅を訪問しながら、御本人のストレスにもならないようにしながら、だけれども、事業者に対しては強い態度を示しながら、実質上、被害回復が図られているといったことが非常に日常的に行われているということになります。

○鹿野委員 ありがとうございました。

○河上委員長 池本委員長代理、お願いいたします。

○池本委員長代理 大変貴重な御報告ありがとうございます。

事前に掲載された論文等も拝見しまして、特に私どもがこれまで日本で見てきたのは、消費生活センターという個別案件の相談を受け、助言したり、あっせんをするという民事の側面で消費者に寄り添う機関はありましたけれども、事業者の違法行為を排除するという点については、従来、必ずしも十分でなかった。そうはいっても、10年ほど前から特定商取引法による執行強化ということが呼びかけられて、自治体によってはある程度頑張ってやっているところもあるけれども、非常に自治体間の格差がある。

今回もいろいろヒアリングをしてみると、自治体職員がいろいろな部署を2~3年ごとに回ってきて、法執行担当者というものが、必ずしも専門性が理解されていない、位置づけられていない。したがって、またノウハウも伝授されないので、やっていないところは相変わらずやっていない状態。これをどうしたらいいかと悩んでいた中で、今回紹介されたイギリスの仕組みの中で、特に担当者が非常に専門性を持って、しかも、地域社会でも評価されて旺盛に活動しているということに、非常に興味関心を覚えた次第です。

そこでお伺いしたいのですが、この取引基準局の担当官というものがどのくらいの年数というのですか。特に専門性というのが、資格の面で位置づけられているのか、それとも、その部署である程度の経験年数をもって社会的に評価されているということなのか。それから、自治体によって、それの配置の人数や目安とか、そういうようなことは何か特徴があるのかどうかという辺りについて、この取引基準局の担当者の役割なり専門性なりということについて、少し補充していただけると有り難いのです。

○法政大学経済学部菅教授 御質問ありがとうございます。

取引基準官という職業が非常に専門性の高い職業としてみなされております。ですから、警察官と同じように、やはり取引基準官という職がある形になっておりまして、独自の研修制度もございますし、地方自治体に所属はいたしますけれども、例えば何か配置換えによって全く違う部署に行くことは余りございません。私が親しくしていただいている、いつも調査に訪れている取引基準局は幾つかございますけれども、その中で一番長い方は40年間、1976年からなさっているということで、先ほど、1968年から特に、取引基準官は消費者被害の抑制について専門性を増してきたというお話をさせていただいたと思うのですが、その頃からずっと消費者、取引基準局の移り変わり、社会の移り変わりを見てきた方もいらっしゃいます。

また、非常にネットワークといいますか、情報共有、そして、お互いの切磋琢磨ということも行っておりますので、各地方自治体、つまり、各地域がベースではありますけれども、地域を基盤としながらも情報の共有、ノウハウの共有といったものに非常に力を入れていらっしゃいまして、私も1年に1回大きく行われる研修会、二日間のシンポジウムでしたけれども、そういったものにも参加させていただいたことがございます。

また、リクルートなどに関してなのですけれども、一つの地方自治体の取引基準局にずっといらっしゃるという方もいれば、私もインターネットで検索をすると出てまいりましたけれども、一般の公募といった形で取引基準官を別の地域が呼ぶということもございます。その時には、今までの慣れ親しんだ地域から新しい地域に行くということになりますけれども、それだけ専門性が高い職と言えるかと思います。

○河上委員長 よろしいですか。

大森委員、お願いいたします。

○大森委員 ありがとうございました。

私も池本委員長代理と同じ質問だったのですけれども、日本では、地方では行政職員が異動して専門性がなかなか高められないというところと、お金の問題もありまして、なかなか予算もない。こちらは地方で運営していて国はネットワークを機能させるような援助ということでしたけれども、財政的なものは全部地方で賄っているのでしょうか。

○法政大学経済学部菅教授 御質問ありがとうございます。

少し予算のお話になりますけれども、日本円にレートの換算をうまくできなかったもので、そのままポンドで申し上げますが、例えば2016年度の報告書、これが最新のものだと思うのですが、1億2,400万ポンドが、地方に配分されている取引基準局の予算と上げられております。1億2,400万ポンドということになります。

ただ、この予算は実際には直接国から地方の取引基準局に使ってくださいといって分けられるものではなく、一旦は各地方自治体に全部行きます。その後、地方自治体の裁量で、うちは取引基準局にこれだけ出すといった形をしますので、正直なところ、取引基準局は大体192、最近の数としてあると思うのですけれども、その地域によって、あるいはその地域におけるニーズあるいは人口密度などによって、非常に大きな取引基準局もあれば、2人、3人という小さな取引基準局もあるといった具合になっております。でも、基本的には地方自治体が国から地方自治体の仕事を、取引基準局だけではなく、例えばごみの収集であるとか、そういったものも行う予算としてもらっている。その中で取引基準局に裁量で予算が配分されているといったことになります。

ただ、もう一つは、先ほど申し上げたように、National Trading Standardsというものは、これは決して「国家の」という意味ではありませんで、Nationalというのは、「国内全国の」という意味でございますので、これは国の機関ではなく取引基準局の、ただ地方管轄を越えたネットワーキングというものになります。そちらには、これも国からの予算で1,480万ポンドが2016年度の予算としては支給されていることになっています。実は2017年の7月5日のイギリス議会のところで、スコットランド独立党から、消費者被害に対応するための取引基準局に対する国家予算が削減されていることについて、疑問を呈するような場面があったのですが、国はNational Trading Standardsのほうに、先ほど申し上げましたように、1億5,000万ポンド近くを支出しているので、十分とは言えないかもしれないけれども、国としては努力をしているといった応答をいたしております。

ただ、正直申し上げると、現場の取引基準官としては、非常に不十分になってきている。1976年ごろには、取引基準局の任務に対して国も力を入れていて、非常に地方自治体に回ってくる予算の40%ぐらいが取引基準局に回ってきたのに、今は地方自治体に回ってくる予算自体も少ないために、結果として取引基準局に回ってくる予算も少なく、例えば私がよくお世話になっているオックスフォードシャーの取引基準局では、最初に調査を始めたころには50人ほどいらっしゃいましたが、今は30人ほどに減っておりまして、毎年行くたびに何となく人数が減ってきたなというのが、目で見ても分かるようになってきております。

○河上委員長 ほかにはいかがでしょうか。

樋口委員、お願いいたします。

○樋口委員 貴重なお話ありがとうございます。ぜひ、日本でもこういう制度を考えなければいけないのではないかという全体の感触を持ちました。

今、数字のお話が出たので、もう少し具体的なイメージを頂ければと思うのですが、例えば全国でどのくらい取引基準官がおられるのでしょうか。あるいは50人とか30人というのはかなりの人数なのですが、そのオックスフォードシャーの場合に、例えば役割分担とか、あるいは地域分担とか、何かそういう形で組織が存在するのかどうか、お分かりの範囲で、あるいは事例的なことでも結構なのですが、イメージを教えていただければ有り難いのですが。

○法政大学経済学部菅教授 ありがとうございます。

先ほども申し上げましたけれども、地方自治体によって多いところ、つまり取引基準局の環境、状況、あるいは住民にとって非常に有利なところと不利な地域が残念ながら生じて、格差が生じておりまして、非常に少ないところでは2.5人しかいないところもあるそうです。逆に多いところでは67.5人。つまり、これは恐らくパートタイムなども入って0.5という数字が出るのだと思いますが、平均して67.5人というところもあり、かなりの差が生じていることになります。

私がよくお邪魔しているオックスフォードシャーの場合には、50人いた取引基準局の方々が今は30人ぐらいになっておりまして、しかも、その中で、いわゆる消費者被害の専門官といいますか、イギリスではむしろConsumer Crime、つまり消費者犯罪という言い方をしますけれども、そちらの専門官ということになってきますと、非常に人数が下がってしまいます。オックスフォードシャーの場合には4人ということになってしまいますし、先ほど申し上げた一番恵まれている取引基準局でも67.5人のスタッフのうち、いわゆる資格を持った取引基準官、その刑事的な執行権限も持っている方々は46人ということになって、それ以外のスタッフの方は、いわゆる組織の運営のためのスタッフであったりということになるかと思います。ですから、全体としての人数は、なかなか出てきた資料がないのですけれども、192の取引基準局はそういった状況になります。

○樋口委員 ありがとうございます。

○河上委員長 中原委員、お願いいたします。

○中原委員 貴重な御報告をありがとうございました。御紹介いただきました取引基準局につきましては、特に刑事責任追及の中心的な役割を果たしているというところが非常に特徴的な点だと思います。日本の制度では、刑事責任については警察が担当することになりますので、捜索等の非常に強い権限を持っておりますけれども、必ずしも消費者保護の専門の機関が担当しているわけではない。他方で、行政処分につきましては行政機関が担当していますけれども、特に執行について必ずしもノウハウが十分ではなくて、警察との人事交流等によってノウハウを得ているということがございますが、制度上は刑事責任追及は警察であり、行政処分は行政機関という形で、はっきりと区別がされています。もちろんイギリスとは背景になっている法制度が違うわけですけれども、イギリスの御研究の立場から見て、日本の制度において執行力を充実させるために御意見がございましたら、頂戴できますでしょうか。

○法政大学経済学部菅教授 ありがとうございます。

最初に申し上げたように、取引基準局というところは刑事的な執行と、そして、新しい権限として行政的執行と、非公式的な形で民事的な執行と、全てを行っているというお話をさせていただいたかと思います。これもまた地方自治体によって違うということにはなるのですけれども、元警察官であるとか現職の警察官が出向という形で取引基準課の中の、特に消費者被害犯罪抑止課のところに取引基準官として、警察官として警察手帳も持ちながら、同時にその職場で執行をするといったような、そういった人的な有利な点もあるかと思います。

ただ、そんな中、インタビューという形でお話をお聞きしたところ、これは今になってようやく達成したことで、例えば15年前の状況はどうだったかといえば、警察の方は民事の話は民事でやってほしい、消費者の問題は民事の問題であるという考え方をしていたそうです。それが今は、先ほど申し上げたように消費者被害という言い方はイギリスではしないで、全部それはCrimeだ、犯罪だという見方が一般的で、それが確立しております。

といいますのは、実際に組織犯罪が後ろに隠れていることも多いですし、いわゆる悪質な事業者で、脆弱な立場の消費者を食い物にしていると言われて非難をされる方々も、実は大きな目で見ると組織犯罪の中で彼ら自身も非常に脆弱な立場にあって、そういった生活環境の脆弱なところにつけ込まれて手足として悪質な事業者に使われているといったこともございます。取引基準官のシンポジウムに参加したときには、Slavery、奴隷というセッションがありまして、初めは何のことかと思ったのですけれども、結局そういった形で嫌々ながら悪質な事業に手を染めてしまう方々もいらっしゃいますので、これはまさに消費者被害という民事の話ではなくて、消費者犯罪だという見方が、この15年の間に確立したということがございます。

同じようなことを日本の場合にも考えてみますと、全く同じとは言えないとは思いますけれども、消費者被害というものが、背後には犯罪が控えている、あるいは消費者被害はどんなに小さなものであってもそれ自体が犯罪だと見るような視点を持ってみてもよいのではないかという気が個人的にはいたしております。

○河上委員長 蟹瀬委員、お願いいたします。

○蟹瀬委員 蟹瀬です。

大変ためになるお話ありがとうございます。

Trading Standardsで働いていらっしゃる方の社会的な地位なのですけれども、先ほど警察官と同じですとおっしゃいましたね。日本でも警察官ですとか消防署員などというのは、かなり厳しいテストがあって、そして、その職に就くということになっているのですが、イギリスもそういう歴史があってこういう職に就いていらっしゃる方が多いのか、あるいは日本の中で、例えばこの警察官とか消防署員みたいに、同じような形で独自にTrading Standardsの職員になっていくというか、そういうことができるのかどうか。どう思っていらっしゃるのか。その辺り、お話を頂ければと思います。

○法政大学経済学部菅教授 もしかしたら御質問の意味を取り違っているかもしれないのですが、取引基準官になる試験とか、そういうことでしょうか。

○蟹瀬委員 はい。

○法政大学経済学部菅教授 例えば消防署員と同じかとか警察官と同じかということは分かりませんけれども、言えることは、取引基準官になるというのは一つの大きなやりがいのある仕事ということで社会的にも評価されておりますし、イギリスはまだ国王制の国ですけれども、勲章の対象になったりということで、非常に名誉のある職業だと理解されています。

研修所のようなところがございますので、そこでいわゆる座学の勉強をしながら、取引基準官として少しずつまたステップアップをしていったり、非常に優秀な取引基準官になると、地方自治体全部を任されるような、地方自治体としてもトップのところにまで上がっていくような方もいらっしゃる。もともとの背景にどういう方がいらっしゃるのか、統計もありませんので余り分かりませんけれども、私が知り得る限りでは、警察官からなられたり、元警察官が警察官としてのリタイア後になられたりという方もいらっしゃれば、非常に若い方で、大学の頃から消費者問題に非常に関心のある方が、研修も受けながらまずは研修生という形で入って、現場訓練と座学を受けながら取引基準官として資格のある立場、専門性のある立場になっていくと、そのように私は見ております。

○蟹瀬委員 その場合にテストなどはあるのですか。

○法政大学経済学部菅教授 いわゆる教養の試験といったようなものは余り分からないです。

○蟹瀬委員 イギリスは、例えばタクシーの運転手さんは大変厳しいテストを受けてタクシーの運転手さんになりますね。いわゆるキャブのね。ああいうステータス的なものとして、こういうテストを受けて、全部受かればこれになれるのですということではなく、研修を受ければ、ある意味でなれるということなのですか。

○法政大学経済学部菅教授 逆に言うと、研修を積んで、現場の経験を積まないとなれないということだと思います。

○蟹瀬委員 ということは、日本の中でもこういう職業を、一つのきちんとした職業として確立できる可能性があるということですね。

○法政大学経済学部菅教授 もちろんあるとは思いますけれども、それは必ずしも最初の入口の、いわゆるペーパー試験でそれが測れるかというものではないと思います。非常にイギリスの場面には実地の訓練が重要視されていますし、同僚からの評価というものも非常に重視されている社会ですので、なかなか日本の文化に置き換えるのは、私は今すぐにはできないところでございます。

○河上委員長 池本委員長代理、お願いいたします。

○池本委員長代理 池本でございます。

今のやりとりに関連しての質問になるのですが、取引基準官となるために、研修所での研修という言葉と、シンポジウムが開かれ参加されたという言葉があったと思うのです。日本では、2~3年ごとに他部署から回ってくるところで、春頃に初任者研修というものがあり、秋頃に少し経験を積んだ人が具体的なケーススタディー的なことをやるというのがあると聞いているのですが、研修所でというのはどのくらいの期間やるのか。あと、シンポジウムはどのくらいのボリュームでやるものなのか。お分かりであればお願いします。

○法政大学経済学部菅教授 これは必要なときに、非常に頻繁にやっていると申し上げることができるかなと思います。私は取引基準局に1年に2回か3回は伺っておりますけれども、行くたびに必ずどなたか外部から、例えば弁護士さんであるとか、いろいろな方をお招きして講習会というものを独自にやっている場に居合わせます。ですから、毎日朝の7時半ぐらいから勤務されて午後の4時頃まで皆さん、詰めていらっしゃいますけれども、その1時間あるいは2時間の間に、例えば今日は刑事裁判に使えるような証言の取り方をするための講座を行いますということになると、そういった調書の取り方の訓練を受けてみたり、そういったことは非常に日常的にやっているかなと思います。ですから、年に何回というのではなくて、日常的なケースマネジメントから、小さな規模のコンファレンスまで、広い意味で研修というものは非常に頻繁にやっているといえると思います。

それとは別に、見習いとして入った取引基準官たちに、こういったことが今の問題ですよといったことや、最近ですと、2015年の10月に消費者権利法が制定されましたので、そういった新法の解釈ですとか理解といったものを、また別の研修所で行うということもありますけれども、その場合には、結局普段の職場を離れて時間を割いて出かけて行かなければいけませんので、それはそんなに頻繁ではないと思います。

また、全国的なシンポジウムも、毎月というものではなくて、大きなものが年に1回と、あと、半年に一度、イギリスを4カ所か5カ所に分けた少し広域の集まりでシンポジウムをしたりということもありますけれども、むしろ取引基準局内あるいは地方自治体内で、専門家も招きながら非常に日常的に必要なものを頻繁に研修しているのが実態かと思います。

○河上委員長 大森委員、お願いいたします。

○大森委員 時間を超過しているのに、ごめんなさい。

先生が投稿された「消費者法ニュース」の原稿を読ませていただいて、判断力の低下した消費者に対する不招請勧誘、地域の方々の協力体制の素晴らしさにびっくりしてしまったのですけれども、日本でも地域の見守りだとか、そういう協力員が必要になってくるわけですが、これは国民性の違いなのか、そういう方々も研修されているのか、先生はどう考えられますか。どうすればそういう地域の見守り体制がうまくいくのかどうか、日本に取り入れるとしたら、どうすべきかというようなところを教えていただけたらと思います。

○法政大学経済学部菅教授 日本ももちろん、地域によって文化ですとか様子が違うとは思うのですけれども、私が伺ったところによりますと、ある地域といいますか、日本でも幾つかの都市では、地域の安全確保といった視点でネットワークが起こりつつあるといったことを最近お聞きする機会がございます。そういったところでは、本当に行政の内部でもいろいろな課が連携したり、警察とも連携したり、民生委員の方とも連携したりといったようなことで、地域全体で、消費者問題もそうなのですが、全体的に、例えば荒廃住居の問題なども含めて安全な環境作りという点で、ネットワーキングが広がっている地域が複数あるということで、大変喜ばしいし、私もうれしいことだと感じております。

そういうお話を伺っている限り、イギリス人の国民性と日本人の国民性が違うとは思わず、むしろ被害の様子を聞いても、非常に似ているなということが多いです。脆弱な消費者で被害に遭われた方々は、皆さん、事業者の気を悪くしたくなかったとおっしゃる方が多いですし、訪問調査に訪れても、被害は受けていません、とてもいい方でしたとおっしゃる方が多いので、近所からの通報というものが非常に重要になってきます。

そういったことを考えますと、何か資格のある方が見守りをしてくださるということも大事なのですけれども、本当に普通にお隣近所、御近所の方で、高齢者の方がお一人で住んでいらっしゃることを知っていらっしゃる方が、どうも最近見なれない車が長い時間頻繁にお宅の前に止まっているなというときに情報提供してくださるという形があれば、これはイギリスであっても日本であっても可能ではないかと思っております。

○大森委員 ありがとうございます。

○河上委員長 実は私も色々と聞きたいことがあるのですが二つだけお願いします。一つは、刑事的な活動もやるということなのですけれども、例えば民事の訴訟のときに、取引基準官が集めた証拠を民事訴訟の時にも使えるとか、そういう証拠の共有みたいなものはあり得るのですか。行政処分でもいいですけれども。

○法政大学経済学部菅教授 実際にそれを一度弁護士さんにお尋ねしたことがあるのですけれども、ちょっと反応に困っていらっしゃるような感じでしたので、恐らく刑事の証拠を民事の証拠に使うということは、一般的には少なくとも公式的にはやっていないのだろうと思います。行政的にその処分が下ったということが、民事の訴訟の際に立証責任の緩和という点で有利に働くことはあるようなのですが、証拠そのものを民事のところで再利用できるといったことはないのではないかと思っております。

○河上委員長 あと、ちょうど日本で言うと労働基準監督官が、あれは司法警察職員でありながら労働関係に介入していけるような立場を持った職員ですね。今、話を聞きながら、労働基準監督官との近さみたいなものを感じたのですけれども、これはかなり違うのですか。受けたイメージは間違いでしょうか。

○法政大学経済学部菅教授 済みません。労働基準監督官の方々のお仕事を私が理解出来ていないので、なかなかお返事がしにくいのですが、先ほどの先生の御質問に少し付け加えさせていただきますと、イギリスの場合には刑事上の賠償命令というものがございますので、刑事的な責任を追及されて、それが確定した事業者に対して、新たに消費者が民事裁判を起こす必要性がそもそも余りないのではないかと思います。なので、そういった証拠を再利用するといった発想は、私が質問したときに現地の弁護士さんがきょとんとなさったのは、多分そういったことは刑事裁判に持っていくときに、懲役何年ぐらいを求刑してもらいたいというのと同時に、幾らぐらいの賠償金を命じて欲しいということをやるからではないかと思います。しかも、財産の没収というのは、特別な専門官がいるぐらい、非常に厳格に執拗に執行していきます。隠し財産、マネーロンダリングとして全部追及していきますので、かなりそこで悪徳の違法利益を吐き出させるということもしています。

○河上委員長 附帯私訴のようなこともあるのですか。

○法政大学経済学部菅教授 附帯私訴という発想になるのかどうか、ちょっと分かりませんけれども。

○河上委員長 それはないのですね。

○法政大学経済学部菅教授 刑事上の賠償命令というものになります。それは必ず裁判官が考えなければいけないということになっています。

○河上委員長 ありがとうございました。

時間ですので、この辺りにしたいと思います。

イギリスにおける消費者法の執行体制につきましては、各地方公共団体の取引基準局、これが主体になって、刑事的な権限をも有した行政職員が警察官や弁護士と連携しながら執行業務を行っているということでして、非常に注目すべき制度であると思いました。

消費者被害の削減のためには、法制度の制定・改廃や、適切な執行権限の行使によって対応するということが重要であります。今回、当委員会が調査・審議の対象としました特定商取引法は、昨年改正されまして、悪質な事業者に対する対応措置が様々な形で盛り込まれております。施行後、国及び地方公共団体において、改正法に基づき、着実に法を運用していくことが求められるわけでありまして、当委員会としては、これまでの調査・審議の結果を、今日のお話で参考になることがたくさんございましたので、そういうものも取り入れた上で何らかの形でまとめていくということを検討しております。

菅教授におかれましては、暑い中、しかも、大変お忙しいところを審議に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。

○法政大学経済学部菅教授 ありがとうございました。

(法政大学経済学部菅教授退席)

(消費者庁、国土交通省着席)

≪3.特定商取引法施行令の一部改正について≫

○河上委員長 それでは、次の議題に移りたいと思います。

次の議題は「特定商取引法施行令の一部改正について」であります。

この問題につきましては、不動産特定共同事業法の改正に伴うものとして、資料2-1にありますとおり、本年の7月31日に、内閣総理大臣から特定商取引法における適用除外に関する政令の改正についての諮問がございました。本日はこれらの諮問事項について、消費者庁、国土交通省からヒアリングを行い、審議を行った上で、委員会としての判断を示すことにしたいと思います。

消費者庁、国土交通省におかれましては、お忙しいところ御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。

施行令改正の概要について、大変短くて恐縮ですが、合わせて15分程度で説明をお願いいたします。

○消費者庁佐藤取引対策課長 それでは、まず最初に私から御説明をさせていただきます。

お手元の資料2-2を御覧いただければと思いますけれども、不動産特定共同事業法の改正に伴います特商法の適用除外に関する諮問でございます。この紙にも書いてありますように、不動産特定共同事業については、不動産特定共同事業法に基づきまして、従来から特商法の適用除外という扱いになっておったわけですけれども、今般、所管の国交省さんのほうでこの法律を改正されまして、新たに小規模不動産特定共同事業法という制度を創設されたということでございます。

この小規模不動産特定共同事業についても、従来の不動産特定共同事業者と同様に特商法の適用除外とさせていただくことが適当なのではないかと考えておりまして、その旨、委員会にお諮りするものでございます。

そう考える理由はこちらに書いてあるとおりでございまして、従来から同様のメルクマールに則して判断し、この不動産特定共同事業という法律において適切な消費者保護が図られるのではないかと考えるということが、結論においてはポイントでございます。

時間も限られておりますので、もしよろしければ、国交省さんからこの制度改正の内容について御説明をいただければと思います。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 国交省の不動産投資室長でございます。

若干アピールといいますか、補足させていただきますと、この事業でございますけれども、小規模不動産、空き家などを主に地方部等で再生いたしまして、地方創生を推進するという目標に高い評価を国会でも頂いて、制度改正をお認めいただいたものでございます。

なお、投資家保護措置につきましては、訪問販売や過量販売という条件なく、クーリング・オフが無条件に適用可能ということで、強力な投資家保護措置を講じておるのではないかと考えてございます。

なお、法制定より20年以上たちますけれども、刑事事件になったような案件もないという状況でございます。

以上を踏まえまして、本日、御議論、御意見をいただけると大変有り難いと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

○河上委員長 どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容につきまして、御質問、御意見のある方は発言をお願いいたします。 いかがでしょうか。

大森委員、お願いいたします。

○大森委員 クラウドファンディングのことなのですけれども、一般の人からお金を集めて事業をした場合、安全に確実に使われているのかどうか、私が投資家であったらいつも見たいなと思うわけですけれども、その状況はホームページで公表するとか、そういうルールはないのでしょうか。

○国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室担当者 制度は詳しくは今後省令等で定めていくのですが、投資家に対しては、ホームページ等を通じた情報提供を義務付けてまいる予定でして、また、所管省庁に対しては、事業報告書等を通じて事業の状況を報告させて、それを見るということを予定しております。

○河上委員長 よろしいですか。

ほかにはいかがでしょうか。

池本委員長代理、お願いいたします。

○池本委員長代理 池本でございます。

今回の小規模不動産特定共同事業というものが、パブコメで付されているものによると、1人の出資額が100万円で、事業者の資本金が1,000万。その意味では、出資しやすい小規模な金額になり、しかも、事業主体も比較的参入しやすい額になっていく。それが地方における不動産活用というニーズからだということも一方では理解できるのですが、他方で言うと、悪質な業者も参入しやすくなる。あるいは、高齢者など余り実情がよく分からない人も誘いやすい金額になってしまうということがあります。

そこで、気掛かりなのが、条文の制度としては、行政権限などがちゃんと手当てされており、登録制があり、業務に対する監督権限があるのですが、例えば消費生活センターなどにそういう苦情が寄せられたりとかということが国交省の担当部署等の間でどのような形で情報連携をし、どうそれが執行につながることになるのか。その辺りの連携体制についてお伺いしたいと思います。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 国交省でございます。

苦情の共有につきましては、御指摘を踏まえましてPIO-NETを使って私どもとしても把握していく。あるいは、消費生活センターに対しても説明会等をきちんと開催していくということで、連携して投資家保護を図ってまいりたいと考えてございます。

○河上委員長 よろしいですか。

今度、電子的な方法でもって契約ができるようにしようかというお話ですけれども、特商法並みの保護ということになると、一つ大きな手段がクーリング・オフですが、具体的にクーリング・オフはどういう形で起算点を考えていく御理解なのですか。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 正式には省令等で規定していくということでございますけれども、類似の立法例が保険業法等にございますので、そちらの規定に倣いまして、投資家のほうに書面が到達したときに起算点が開始されるということにつきましてきちんと規定する、明確化するということで行ってまいりたいと考えてございます。

○河上委員長 具体的に電子的に書面が到達するというのは、どういうことを指すのですか。メールか何かを送ることになるのですか。

○国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室担当者 類似の法律などでも、電子的な書面の交付というのは、電子メールの送付ですとか、ファイルをダウンロードさせる方法ですとか、そのデータが記録されたCD-ROM等を渡す方法が認められているところでございます。保険業法などの例ですと、クーリング・オフの起算点というのは、書面に記載すべき事項が記載されたファイルが、投資者等が使用する電子計算機に備えられたファイルに記録されたときと条文上明確にしてございますので、そういった例を参考にすることを考えております。

○河上委員長 そうしますと、契約をすることになったときに、相手からのクーリング・オフができますということを書いた書面がダウンロードされて顧客のパソコンの中に入ったということ、それはどうやって確認するのですか。ダウンロードしなければいつまでも到達しないのでしょうか。

○国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室担当者 具体的な確認の方法は、実務において工夫されるところではないかと思いますけれども、法令上の解除が、クーリング・オフが認められるかの要件としましては、顧客が使用する電子計算機に記録がされた日から一定期間以内かどうかということでございます。

○河上委員長 ほかにも類例があるとおっしゃっていましたけれども、実はクーリング・オフ規定が電子的な取引の中で使われる例としては、今回のものはかなり早い段階のもので、形の上で相当しっかりとしたものになる必要があるのではないかと思うのです。ほかの類例のためのモデルにもなる可能性があるので、一体どの段階でこれを顧客が書面を手に入れてクーリング・オフ権を行使できるようになったかをはっきりと客観的に示す、必要があるのではないかと思われますが、その辺りの詰めはある程度なさっていると考えてよろしいですか。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 省令はこれから制定作業に入るものでございますけれども、保険業法や金融商品取引法等で既に類例がございますので、そこから遠く離れた規定ぶり等にはならないだろうなと私どもとしては考えておりますので、御意見を踏まえて検討してまいりたいと考えております。

○河上委員長 これまでは、書類を相手に示して情報開示をするというための交付の手続として色々言われていたことだろうと思うのですけれども、クーリング・オフのための前提としての通知というものに関しては比較的新しいことなので、そこは区別して考えていかないといけないと思います。

池本委員長代理、お願いいたします。

○池本委員長代理 今の質疑に関連して、特に消費生活センターへ真っ先に相談が入ったときに的確に助言ができるようにするためには、例えば特定商取引法などでは、紙の書面交付義務を前提に、これまで大半のクーリング・オフ制度はそうだったのですが、幾つかある電子データでの交付という場合に、何を起算日にするか、起算点にするかという辺りはきちんと明確にし、なおかつ、それを相談の現場に周知していただきたいと思います。

もう1点、小規模不動産特定共同事業の主体の中に悪質業者が参入しないように気をつけていただく必要があるということに関連して質問したいと思うのですが、これは登録の要件のところで見ますと、宅地建物取引業者であることが前提にあるかと思います。ただ、最近宅建業の資格を持つ者が、宅地でない原野商法の二次被害のようなトラブルを起こしたりという、宅建業の資格があるのだから安心だとは必ずしもならない、十分な監督が必ずしも出来ていないのではないかというトラブルが見受けられるところがあります。その意味では、今回この小規模不動産特定共同事業の登録を受け、あるいはその後の事業活動を見ていくという中で、宅建業者に対する監督ということとの兼ね合いでは、何か手がかりがあるのか、あるいはどういう視点でその辺りは臨んでいかれるのかという点について、教えていただければと思います。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 宅建業サイドとの連携でございますけれども、国交省におきましても、はっきり申しまして、私どもの隣の課で同じ局で対応している状況でございますし、都道府県におきましては、実質的に一人の同じ者がやっているということで、まさに十分連携して行ってまいりたいと考えてございます。

1番目の御指摘の点でございますけれども、委員長の御指摘の点でございますが、保険業法のクーリング・オフ、あるいは投資顧問契約のクーリング・オフというところに電子的方法による到達の確認について規定がございますので、こちらも参考にしながら、今後検討を深めていきたいと考えてございます。

以上です。

○河上委員長 鹿野委員、お願いいたします。

○鹿野委員 御説明ありがとうございました。

改めての消費者庁に対する質問ないしお願いです。この法律だけではないのでしょうが、特商法については、ほかの法律によって消費者の保護が十分に図られているときには適用除外になるということになっていて、具体的には今回この不動産特定共同事業法の改正による適用除外について検討することになっているのですけれども、その他にも既に適用除外になっているいろいろな法律があります。その法律で消費者がどのように保護されるのかについて、全部詳しくということではないのですが、主なところについては、消費者庁のホームページで簡単に、例えば一覧表で見られるとか、そういう周知の仕方はされているのでしょうか。

消費者においては、恐らく、自分のトラブルに関係するところについて、消費者庁のホームページをまず見ようということは割とよくある行動パターンではないかと思うのです。けれども、ほかの法律についてどこで探せばいいのかを調べること。例えば今回で言うと国土交通省のサイトを見るということは、可能ではあるけれども、なかなか難しいのではないかと思うのです。そこで、消費者庁のホームページとか、その他の方法で適切に消費者にそのような情報提供がなされているということが必要だと思いますけれども、現状どうされているのかということと、将来的な方向性についてお伺いしたいと思います。

○消費者庁佐藤取引対策課長 御質問ありがとうございます。

私どもも特商法及び関連の規定については、できるだけ分かりやすい形で広報をするように日々努めているところでございまして、以前も御紹介申し上げたかもしれませんけれども、私どものほうで「特定商取引法ガイド」というホームページのワンセクションを設けまして、特商法全体の説明とか、できるだけ分かりやすい、できるだけ役人的でないような説明に努めているところではあります。

その中で、適用除外に関するセクションもあるのです。そこでは具体的にどういうような法律に基づくどういう制度が適用除外になっているかが書いてありまして、御質問の趣旨からすれば、例えばそこから各省の当該制度に関するところにリンクが張れないのかとか、そういうようなことかとも思うのです。そこは全体として、本丸ももっと分かりやすくしなければいかぬという要望も非常に強い中で、我々が限られたリソースというのは、要するに人手とお金と両方あるのです。どこまで対応できるか、現実的な問題もあるのですけれども、非常に貴重な御指摘だと思います。実は「特定商取引法ガイド」についても、多言語対応と視覚が不自由な方のための音声で閲覧ができるようにするための手当てを、昨年度特別に予算を頂いてやったということもあります。これもまた予算の問題なども色々あるのですけれども、今後機会を捉えて、そういう適用除外についてもできるだけ分かりやすい広報も前向きに検討していきたいと思います。

○鹿野委員 お願いいたします。

○河上委員長 クラウドファンディングを使うことになったときに、みんなから集めたお金は、ある一定の額まで達するかどうかということで条件にしてあるのでしょうけれども、この集めたお金の保全措置のようなものは、何か仕掛けを考えておられるのでしょうか。

○国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室担当者 事業者が集めたお金の分別管理につきましては、まず法律で分別管理の義務がかかっておりまして、その具体的な方法は省令で定めているところでございます。現在は預金などの名義を変えて、別預金で貯金する形で分別管理することとなっているのですが、そこも御指摘を踏まえて検討したいと考えております。

○河上委員長 民事信託とか、考えていないわけですね。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 制度的には特別目的会社という別会社を立ち上げて、完全な倒産隔離を図るというスキームも御用意してございますので、そちらも使われるかなと考えてございます。

○河上委員長 それは今からさらにスキームを立ち上げるわけですね。もう出来上がっているのですか。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 もう出来上がっています。

○河上委員長 もう1つですけれども、不動産特定共同事業というものは、特に宅建関係の方を中心にやっていくわけですね。そういう人は、いわば利益の分配の話はどちらかといえば素人です。そう考えていくと、なかなか事業そのものをコントロール出来ているのかが心配ですし、中にはうまくそうした事業が運営出来ていない場合も出てくる可能性があるだろうと思うのですが、そういうものをモニターしていくことについて、例えば国交省の担当部署では、最初の入口ではもちろんチェックするのでしょうけれども、その後もモニターしていくということは考えておられますか。

○国土交通省佐藤土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長 最初の入口で、人的な資格要件として、不動産証券化マスターなどきちんと金融的な知識も含めてある者がきちんと業務を行うようにということで規定してございます。なお、当然法律上、それを5年に1回の更新制ということでチェックしていくことはもちろんでございますけれども、毎年の事業報告書等々もございます。あるいは、そちらを踏まえまして、立入検査なども行ってしっかり状況を把握して監督等を行ってまいりたいと考えてございます。

○河上委員長 ほかにはいかがでしょうか。

大体よろしゅうございましょうか。

不動産の特定共同事業法については、新しい制度になるということで、私どもとしては、問題のある事業者がその事業に参入してくることを防ぐために、事業が適切に行われているかについては、やはり継続的な実態把握と監督が大切ではないかと考えたところです。また、小規模不動産特定共同事業の制度を投資家となる方々に周知することだけでなくて、過去の類例を踏まえて、この制度を悪用した投資詐欺等の防止に向けて、消費者に注意喚起をするなど、消費者被害の未然防止に向けて取り組むとともに、適切な監視・監督という観点から、国民生活センターや消費生活センターへの情報提供などの連携をぜひ図っていただければと思います。

当委員会としては、本制度を悪用した消費者被害の発生を未然防止することが非常に重要であると考えていますので、国土交通省及び消費者庁が連携して取り組んでいただければと考えております。

クーリング・オフの問題ですが、先ほど少し御質問させていただきましたが、書面交付というものは必ずしも書面に限らないで電磁的な書類による提供でも可能になるということになりますけれども、こうした制度設計は比較的珍しい、まだ初期の段階のものではないかと思います。書面交付はクーリング・オフの起点となるものでありますので、その交付形態や時期については消費者にとっても非常に重要な情報であろうと思われます。そのため、消費者被害やトラブルの未然防止という観点から、今後この制度の周知に関しては、この制度を所管する国土交通省において、クーリング・オフの起算点を明らかにして、周知を図るということをぜひ徹底願いたいと考えております。

これらの点を踏まえまして、当委員会として、本件答申とは別に、国土交通省に対して小規模不動産特定共同事業に対する意見表明を行いたいと思います。なお、消費者庁におかれましても、国土交通省に対する意見表明とは別に、本件諮問に対する答申の中で一定の留意していただきたいこととして、この国土交通省と連携すべき点について触れることにしたいと思います。

それでは、事務局から答申及び意見表明の素案が出ておりますので、お配りしたいと思います。

(追加資料配付)

○河上委員長 それでは、事務局から簡潔に答申案及び意見表明案の内容を説明願います。

○丸山参事官 お配りしております資料は2種類ございます。一つが答申書案というもの、もう一つは不動産特定共同事業法に基づく小規模不動産特定共同事業に対する意見、こちらも案となっております。

まず最初に前者、答申書案について御説明させていただければと思います。

こちらですけれども、まず柱書きのところの1段落目でございますが、こちらにつきまして、平成29年7月31日付消取引第223号をもって当委員会に諮問のあった下記事項、これにつきましては、いわゆる特商法の適用除外、本件につきましては、小規模不動産特定共同事業者が行う小規模不動産特定共同事業ということでございますけれども、こちらについては、特定商取引法の趣旨に鑑み妥当であり、その旨、答申することになっております。

なお、こちらにつきましては付言が付されておりまして、以下、二つ目のパラでございますけれども、「なお」以下でございますが、こちら、不動産特定共同事業法に基づく小規模不動産特定共同事業制度を悪用した消費者被害の発生を防止するため、消費者庁においては、消費者行政の司令塔としての機能を発揮して、以下の事項について、国土交通省と連携して取り組むことという形でされております。

以下、三つの点について整理してございます。

1.小規模不動産特定共同事業に関し、問題のある事業者が同事業に参入することを防ぐため、国及び都道府県の不動産特定共同事業法を担当する部署は、同共同事業者の登録・更新時はもとより、それ以外の時期についても継続的に運用実態の把握に努めることとしております。

2.小規模不動産特定共同事業の制度について、消費者(投資者)が同制度を十分に理解できるよう周知を図ること。また、こうした投資ファンドの悪用に関する過去の類例を踏まえ、同制度を悪用した投資詐欺等の消費者被害を防止すべく、消費者に対する注意喚起等、適切な対応を行うこと。さらに、消費生活センターに対しても消費者からの相談に対し、適切に助言等の対応ができるよう同制度の周知を行うこととしております。

3.小規模不動産特定共同事業者の行う事業内容について適切に監督を行う観点から、国、都道府県の不動産特定共同事業法の担当部署等は、国民生活センターや消費生活センターと事業者に対する苦情を共有するなどの連携を図ることとなっております。

後者のほう、不動産特定共同事業法に基づく小規模不動産特定共同事業に対する意見の案についても併せて御説明させていただきます。

こちらの柱書きでございますけれども、1パラ目、2パラ目については、先ほど申し上げた諮問への答申のことについて述べてございます。3パラ目でございますけれども、他方で、不動産特定共同事業法に基づく小規模不動産特定共同事業の運用に当たっては、同制度を悪用した消費者被害及び消費者トラブルを防止するために、同法を所管する国土交通省において、関係省庁と連携しつつ、下記の事項について取り組みを行うことを求めるということを言っています。記以下につきましては、諮問への答申案についてさきに説明させていただきましたが、1から3の事項について記しているものでございます。

説明は以上です。

○河上委員長 どうもありがとうございます。

それでは、答申案及び意見表明案について、それぞれの内容が重なる部分があることを踏まえまして、二つ合わせて検討を行いたいと思います。御意見のある方は、簡潔に御発言をお願いいたします。なお、御発言に当たっては、消費者庁に対する答申案への意見なのか、それとも、国土交通省に対する意見表明案への意見なのか、あるいは双方に対する意見なのかということをあらかじめ明らかにして御発言を頂ければと思います。

いかがでしょうか。

池本委員長代理、お願いいたします。

○池本委員長代理 基本の問題として、これを適用除外にするという結論はもちろん賛成ですが、先ほど来のやり取りがありましたように、これを悪用する例が出るのではないかというのが、幾つかのところから危惧の念が出ておりますので、国土交通省、そして消費者庁が相互に連携して、この点について継続的にウオッチしていただきたいということは特にお願いしたいと思います。

それから、先ほどのやり取りの中で、クーリング・オフの起算日、契約書面が電子データでもよいという運用であることが、特に一般の消費者やあるいは消費生活センターなどにも分かりやすく周知していただく。これは国交省にお願いすることでしょうか。この点も加えてあったほうが有り難いと思います。

○河上委員長 いかがでしょうか。

特に先ほどの国交省にクーリング・オフの件についての周知方をお願いするということについては、よろしいでしょうか。

それでは、それを付け加えるという形をとりたいと思います。

ほかにはいかがでしょうか。

問題が出てこなければ一番いいことなのですけれども、ただ、以前に適格機関投資家等特例業務などで、投資ファンドで活用した事業の中に、これを悪用して、集めるだけ集めてどろんしたという例がたくさんあるわけです。1,000万ぐらいの資本を持った小さな事業者が100万ずつ、みんなから集められるというのは、悪質業者にとって、本当に「手ごろな」商材でして、その意味では、大変危惧するところが大きいものですから、念には念を入れて消費者保護のための対策を打っておきたい。これが老婆心になれば一番いいことではあるのですが、そういうことで御理解頂ければと思います。

よろしいでしょうか。

そうなりますと、先ほどの配付していただいた案に、さらに国交省に対する関係で別途意見表明を行い、消費者被害の防止のための取組について求めていくということで、その際にクーリング・オフに関する、特に起算点の問題が大きいと思いますけれども、その考え方等について明らかにして、消費生活センター等とも情報の共有をぜひ図っていただきたいという形で意見表明をしていきたいと思います。

ひょっとして、新しい案の用意もあったりはしないですね。分かりました。

それでは、そういう形で修正するということで、その修正の表現等は私に一任していただいてよろしゅうございましょうか。

それでは、私のほうで原案を修正した上で答申及び意見表明をしたいと思います。今回検討いただきました小規模不動産特定共同事業に関しましては、この制度を悪用した投資詐欺による被害の発生が懸念されるわけですので、当委員会としても、同制度の運用状況を今後注視していきたいと考えております。

消費者庁、国土交通省におかれましては、お忙しい中、審議に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。

(消費者庁、国土交通省退席)


≪4.閉会≫

○河上委員長 本日の議題は以上になります。

最後に事務局から今後の予定について説明をお願いいたします。

○丸山参事官 次回の本会議につきましては、日程が決まり次第、委員会ホームページを通じてお知らせさせていただきます。

なお、この後委員間打合せを行いますので、委員の皆様におかれましては、委員室までお集まりください。

○河上委員長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

それでは、16時をめどに委員会室にお集まりください。

(以上)