第1回 野口英世アフリカ賞受賞者(医療活動部門)ミリアム・ウェレ博士 来日インタビュー2011年10月7日

10月7日(金),野口英世アフリカ賞担当室より,第1回野口英世アフリカ賞受賞者のミリアム・ウェレ博士にインタビューを行いました。概要は以下のとおりです。

1 今回の訪日の目的は何ですか?
 今回来日した目的は2つあります。1つ目は,京都で10月2日から4日まで開催された,尾身幸次 元財務大臣が中心となって行っている,STS(The Science and Technology in Society)フォーラムに招待され,これに出席するためでした。STSフォーラムでは,感染症について講演しました。2つ目は,3月11日東日本大震災が発生してから,福島を訪問したいと考えていましたが,今回のSTSフォーラムによる招待はちょうど良い機会と考え,福島行きを決めました。
 今回の福島訪問では,以前2008年第1回野口英世アフリカ賞受賞時と同様に,福島の方々より心温かいおもてなしを頂き,本当に福島を訪問して良かったと思っています。立谷秀清 相馬市長との懇談や,相馬市立中村第一小学校での講演では,東日本大震災及びそれに続く原子力災害等についてアフリカの人々がどのように考えているのか,それから日本との「絆」の大切さなどについて説明しました。更に,東日本大震災の被災者の方々が暮らしている仮設住宅を訪問し,現在の状況等について伺い,話をしました。

2 野口英世アフリカ賞を受賞してから何か変化はありましたか?
 野口英世は,米国,ラテンアメリカ,ヨーロッパ等,アフリカ以外でも活動しましたが,野口英世「アフリカ」賞と,日本政府がアフリカを対象にした顕彰を創設したことは非常に嬉しかったです。自分(ウェレ博士)が,野口英世アフリカ賞を受賞したことは,(受賞の対象となる)一部のアフリカ人だけでなく,全てのアフリカ人を励ますことになり,アフリカ人にとって非常に名誉なことです。アフリカの全てのリーダーが集結するTICAD(アフリカ開発会議;Tokyo International Conference on African Development)はアフリカを豊かにし,励ましています。世界には,「Hopeless Africa」(希望の無いアフリカ)と言う人もいますが,TICAD4のパンフレットに「Towards a Vibrant Africa」(元気なアフリカを目指して)と書かれていたことはその旨(アフリカを励ますこと)を表しています。また野口英世アフリカ賞の良いところは,1億円という副賞(賞金)があることで,この賞金によってコミュニティで働く保健師の養成,職業訓練や医療サーヴィスの提供,一般的なヘルスケアへのアクセス等が改善しました。
 以前のAIDS孤児は,何をしたら良いか分からず,自信を失い怯えて暮らしていました。AIDS孤児の中には,性的虐待を受けたり,売春に従事するものもいましたが,(野口英世アフリカ賞の1億円により)幼稚園等で様々なケアをAIDS孤児に施すことにより,AIDS孤児達は自信を取り戻すことができました。喜ばしい限りです。
 自分(ウェレ博士)は,コミュニティ・レベルでこのような運動を続け,発展させたいと思っています。

3 最近,日本発祥の母子手帳に御関心が高いと聞きましたが,どのような取り組みをされていますか?
 国連のMDGs(ミレニアム目標)達成について,アフリカは大きな問題を抱えています。特に我々にとって,妊婦と乳幼児は,我々の日常の中にいるので,まず母子保健が大切と考えます。その点MDGs達成率で,アフリカは目標4(乳幼児死亡率の削減) および 目標5(妊産婦の健康の改善)等,母子保健分野で最低です。残念なことです。
 このような困難な状況をアフリカが抱える中,2009年に長崎大学でアフリカの保健事情について講演した後,講演会に参加した大阪大学の中村安秀教授より,母子手帳について詳しく聞くことができました。中村先生もちょうどアフリカで母子手帳に関心のある人を探していました。母子手帳は,母子保健の向上にとって非常に大切なものだと思いました。母子手帳は,インド,インドネシア,カンボジア,タイ,バングラデシュ,ベトナム等の一部で利用されており,アジアで普及しているので,アフリカでも普及できるのではないかと考えています。2010年3月,ケニア,ウガンダ,タンザニア,ブルンジ,マラウイの代表が集まり母子手帳の会議を実施し,2010年12月の第7回国際母子手帳会議の時(於;バングラデシュ)に,2012年ケニアでの第8回国際母子手帳会議の開催を提案しました。これはアフリカで初の試みです。MDGsの目標5(妊産婦の健康の改善)の達成率を向上させることは難しいですが,達成率向上にも繋がるのではないかと考えています。その機会に,来年は第1回野口英世アフリカ賞から4周年でもあるので,4周年記念行事も併せてできる良い機会ではなかいかと考えています。