第2回野口英世アフリカ賞受賞者の決定 報道発表

平成25年3月13日
内閣府

日本国政府は,第2回野口英世アフリカ賞をピーター・ピオット博士(ベルギー)とアレックス・G・コウティーノ博士(ウガンダ)に授与することを決定した。

医療活動部門
アレックス・G・コウティーノ博士(Alex G. Coutinho)(ウガンダ)

アレックス・G・コウティーニョ博士 1959年ウガンダ生まれ。1983年 ウガンダ・マケレレ大学にてM.D.(医学学位)及び科学修士号取得。2001年Witwatersrand大学(南アフリカ)にて修士号(公衆衛生)取得。前TASO(The AIDS Support Organisation)事務局長。現在、マケレレ大学感染症研究所所長(Infectious Diseases Institute – MAKERERE University)。

 第2回野口英世アフリカ賞(医療活動分野)受賞者のコウティーノ博士は、現在全世界に3千4百万人いると推定されているHIV感染者の7割が住むアフリカにおいて感染者が治療を受ける機会を増やす先駆的な活動を行った。コウティーノ博士は、アフリカで長く活動を続けているHIV感染者支援団体であるTASOと共に現場で活動し、HIV/エイズの予防、治療・ケアの仕組みを構築し、アフリカで広く適用できるモデルとして普及させることで、HIV/エイズに打ちひしがれた患者、患者家族及びコミュニティーに大きな力を与えた。

 コウティーノ博士の普及モデルは、アフリカの最貧困層のニーズに焦点を当て、長い間医療が行き届いていなかった人々に対しHIV/エイズの治療・ケア及び支援を施すことに成功し、アフリカのニーズに応えることのできるモデルとして広く活用された。更にコウティーノ博士はTASOのコミュニティ・モデルを採用し抗レトロウィルス療法がウガンダ中に行きわたるように、そのモデルを拡大して適用した。このモデルは現在世界的に広がり、貧困者でも居住地域で治療を受けられるようになっている。

国立感染症研究所HP (2012年7月, UNAIDS 発表 Fact Sheet よりデータを引用。)より
 

授賞業績:
長年に及ぶHIV/エイズ患者に対する直接かつ真摯な治療

 コウティーノ博士は、30年に及ぶ医師としてのキャリアの中で、活動的かつ思いやり深い医師として知られている。HIV/エイズが忌み嫌われ恐れられていた初期の時代から、自ら何千人ものHIV/エイズ患者の治療に当たってきた。更に、医療従事者の指導に当たるとともに、多くのコミュニティーでケアに当たる人々の養成も行った。南部アフリカでもっとも古くからある職場におけるHIV/エイズ対策プログラムの一つの立ち上げに関わった他、公的機関がHIV/エイズ患者向けのサービスを開始する以前に、いち早く素晴らしい医療施設を設立した。

TASO(The AIDS Support Organisation)での治療・ケアに関する普及モデルの実証

 コウティーノ博士の貢献の中で最も重要なのは、TASOで指揮を執り,治療・ケアの普及モデルを広範に展開し、その効果を実証して見せたことであり、これまで世界中の国々で手本とされている。特にTASOでは抗レトロウィルス療法をコミュニティーベースで実施する等、コミュニティーでの治療・ケアを普及させる草分けとなる活動を展開した。TASOはHIV感染者自身を活動に巻き込み、主体的に関与させるという取り組みを世界に先駆けて実践したリーダーであり、TASOのこの取り組みがHIV感染者のHIV/エイズ対策への積極関与(Greater Involvement of People Living with HIV/エイズ:GIPA)という理念の確立へとつながった。

 コウティーノ博士は、TASOでの活動だけでも百万人を超える人々に対しHIV検査を実施したプログラムを主導。これにより、10万人ものHIV感染者が治療・ケアを受けるようになった。2007年にIDI(マケレレ大学感染症研究所)に移った後も治療・ケアを続け、その後の5年間で、ウガンダ全土で80万人を超える人々がHIV検査を受け、更に6万人ものHIV感染者の治療・ケアが開始された。また、コウティーノ博士の下、IDIは革新的な地域能力開発プログラムを策定し、男性への包皮切除や包括的な母子感染予防対策(PMTCT)等を各地区で普及できるようになってきている。

世界のHIV感染者、新規HIV感染者、AIDSによる死亡者数。国立感染症研究所HP((2012年7月、UNAIDS 発表 Fact Sheet よりデータを引用。)より)

次世代HIV予防ツールの開発支援

 コウティーノ博士は、IPM(抗微生物薬国際パートナーシップ)やIAVI(国際エイズワクチン推進構想)に対し、豊富な知識を提供することにより、次世代HIV予防ツールの開発を支援してきた。IPMでは現在HIV予防を一変させることが期待されているダピビリンを用いたリングの第Ⅲ相試験を実施中である。また、IDIはHIV陽性者と陰性者とのカップルにおける暴露前予防投薬(PrEP)の臨床試験を成功させた医療機関の一つである。

HIV/エイズ管理(コントロール)の方法の開発

 また、コウティーノ博士は、HIV/エイズ管理の方法を開発し、アフリカにおけるHIV予防、治療・ケア等の普及に貢献すると共に、何百万人という人々が質の高い治療・ケアを受けられるようにした。

 具体的には、(1)コミュニティーでのHIV検査、ケア・治療、PMTCT(母子感染予防対策)、医学的包皮切除などのプログラムの大規模展開・普及。控えめに見積もっても、コウティーノ博士の主導してきた各種事業により、ウガンダで100万人以上、アフリカ全土で見れば更に多くの人々が影響を受けている。(2)TASO、IDI、RATN(地域HIV/エイズ研修ネットワーク)等の機関における能力開発プログラムの大規模展開・普及。アフリカ中から集まった医療従事者の研修を行ってきた。過去10年間にコウティーノ博士がTASO及びIDIの責任者を務めていた期間に少なくとも3万人の医療従事者を指導した。(3)研究成果の政策への転換。TASOやIDIにおいて行われた研究を支援すると共に、その研究成果が国の政策あるいは世界的規模で政策に採用されるように導いた。例えば、HIV陽性者における日和見感染症予防としてコトリモキサゾールを使用したり、コミュニティーで行える治療・ケアの導入により、医療施設の混雑を緩和した他、迅速検査アルコリズムの使用、クリプトコッカス髄膜炎の予防、医師以外による医学的包皮切除の実施などである。


コウティーノ博士とマケレレ大学感染症研究所のスタッフ。HIVと結核の重感染の患者の胸部X線を見ている。


ウガンダとコンゴ民主共和国の国境付近の農村で、地域の保健関係者とミーティングに参加するコウティーノ博士。
感染症研究所とTASOは、米政府の支援も受け、カウンセリングや検査のサービスを提供している。


マケレレ大学感染症研究所のHIV診療所にて。このHIV診療所では、一日400人の患者を見ている。アフリカで最も大きい診療所の一つである。


マケレレ大学感染症研究所、ウガンダ・ベイラー・カレッジ、保健省、ウガンダ産科協会等との合同会議で助言をするコウティーノ博士。会議のテーマは、ウガンダにおける妊婦のHIVケアを含む産科ケアの改善について。