教育・保育施設等における事故情報の収集及び活用に関する建議

2014年11月4日
消費者委員会

教育・保育施設等における事故情報の収集及び活用に関する建議

安全が守られていると信じて我が子を託している幼稚園や保育所等の教育・保育施設等(注)において、子どもが亡くなったり、重篤な怪我を負ったりするような痛ましい事故が跡を絶たない。

こうした事故による被害の拡大防止や再発防止を図るためには、過去に起きた事故の情報を関係者の間で共有し、活かしていくことが重要であり、国では、消費者安全法により、事故情報を消費者庁に集約するための通知制度を設けているが、実態としては、事故情報は政府全体として把握されておらず、情報共有が図られていない。

当委員会では、平成23年度に、消費者事故の拡大及び再発の防止を図る観点から、内閣府特命担当大臣(消費者)、文部科学大臣及び厚生労働大臣等に対して、「消費者安全行政の抜本的強化に向けた対応策についての建議」(平成23年7月22日)を行っている。この建議では、「消費者安全法における重大事故等の通知義務については、関係省庁によって十分に遵守されていたとは言い難いし、消費者庁も個別に遵守を督励していなかったとみられる。また、一部の公共施設や商業施設等、事故の発生場所によっては、必ずしも関係省庁から消費者庁に通知される仕組みとなっていないものもみられ、重大事故等の通知に遅れや漏れが生じている。」と指摘し、こうした状況を抜本的に改善するため、消費者庁及び関係省庁においては、「消費者安全法に係る通知義務が励行されるよう督励するほか、消費者庁と関係省庁間で通知の遅滞等が生じた各事例に関して、定期的な協議の場を設けて改善を図ること」等を求めたところである。

しかし、今回、当委員会が調査審議を行った結果、教育・保育施設等における事故情報の収集及び活用は、依然として不十分であることが判明した。

当委員会は、今回の調査審議の結果を踏まえ、消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者、少子化対策)、文部科学大臣及び厚生労働大臣に対して、次のとおり建議する。

また、この建議への対応について、各大臣に対して、平成27年5月までにその実施状況の報告を求める。

(注)本建議において対象とする「教育・保育施設等」は、以下の施設及び事業であり、子ども・子育て支援新制度 に移行しない施設及び事業も含まれる。

(1)認定こども園
(2)幼稚園
(3)保育所
(4)放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)
(5)放課後子供教室
(6)子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)
(7)地域型保育事業
(8)認可外保育施設
(9)ベビーシッター事業
(注1)子ども・子育て支援新制度とは、平成24年8月に成立した「子ども・子育て支援法」、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」、「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づく制度のことをいう。

1.事故情報の収集

(建議事項1)

教育・保育施設等において消費者事故等が発生した場合、政府全体として事故の発生状況を的確に把握し、被害の拡大防止と再発の防止を図るため、消費者庁並びに内閣府、文部科学省及び厚生労働省は密接に連携し、次の措置を講ずること。

  • (1)内閣府、文部科学省及び厚生労働省(以下「関係府省」という。)は、子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」という。)の施行に向けて、関係府省において平成26年9月から開催されている教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会(以下「事故再発防止策検討会」という。)において、事故情報収集の仕組みを検討するに当たっては、消費者庁の協力を得て、消費者安全法第12条の規定に基づく通知制度を含めて検討すること。
  • (2)厚生労働省は、事故情報を収集する仕組みのないベビーシッター事業や、十分に事業の実態を把握できていない小規模な認可外保育施設についても、事故情報を適切に収集する仕組みを構築すること。
  • (3)消費者庁は、消費者安全法第12条の規定に基づく事故情報の通知制度について、関係府省に対し、消費者庁へ通知する教育・保育施設等における事故情報の範囲や通知方法を継続的に周知し、必要に応じて通知を督励すること。

また、関係府省は、教育・保育施設等において消費者事故等が発生した場合には、同条の規定に基づき、事故情報が漏れなく消費者庁に通知されるようにすること。

そのため、関係府省は、通知の対象となる消費者事故等が発生した場合の事故情報の通知に関して、地方公共団体の教育・保育施設等担当部局から所管府省を経て消費者庁へ通知する方法を含めて検討するとともに、地方公共団体を通じて、教育・保育施設等に対して事故情報の報告について協力を求めること。

(理由)

建議事項1(1)について
  • 事故再発防止策検討会では、重大事故の情報の集約の在り方や、収集した情報の分析・フィードバックの在り方等について検討を進めており、同検討会では消費者安全法に基づく事故情報の通知ルートを検討の視点の一つとして位置付けている。
  • 消費者安全法では、「消費者事故等」とは、「事業者」がその事業のために提供する施設・役務において、「消費者」による使用等に伴い生じた事故で消費者の生命又は身体について一定程度の被害が発生したもの等と規定している。これを教育・保育現場に当てはめれば、教育・保育施設等を運営し、役務を提供する者は「事業者」となり、また、役務の提供を受ける子どもは「消費者」となる。
    関係府省は、教育・保育施設等で発生した子どもの事故が、教育・保育サービスという、消費者に向けたサービスにおいて発生した事故でもあり、消費者安全法で規定する消費者事故等に該当する可能性があることを改めて認識し、法執行を徹底すべきである。
  • 消費者庁は、「事故情報を一元的に収集し、消費者行政の司令塔として注意喚起を図っていく」という、消費者庁が発足する大きな契機となった重要な責務を果たすために、事故情報収集の取組を確実に実施することが求められており、新制度においても、消費者安全法に基づく事故情報収集の仕組みも含めて検討がなされるよう、事故再発防止策検討会における検討に協力すべきである。
建議事項1(2)について
  • 厚生労働省は、保育する乳幼児が5人以下の、児童福祉法で地方公共団体への届出の対象外となっている小規模な認可外保育施設やベビーシッター事業について、事業の実態を十分に把握しておらず、事故情報が適切に収集されていない。また、ベビーシッター事業については事故情報の収集やフィードバックの対象としていない。
  • 一方で、認可外保育施設は認可保育所と比べて死亡事故発生率が高い現状にあり、またインターネットのマッチングサイトを利用した、自称ベビーシッターによる幼児の死体遺棄事件が平成26年3月に発生しているなど、地方公共団体への届出が必要のない施設・事業等においても事故が発生している。
  • 厚生労働省においては、新制度に移行しない小規模施設やベビーシッター事業についても、事業者の地方公共団体への届出制を含め、事故報告の対象とすることや、再発防止に向けた事故情報の共有化を図るべきである。
建議事項1(3)について
  • 文部科学省及び厚生労働省は、消費者庁と連名で、消費者安全法の施行(平成21年9月1日)に合わせて、地方公共団体に事故情報の通知について依頼しているものの、情報提供は低調である。
  • このうち、文部科学省所管施設においては、平成24年6月に消費者庁との連名で地方公共団体への再周知が行われたこともあったが、幼稚園事故において文部科学省に通知された事故情報は平成25年度までに1件しか確認することができず、改善が図られていない状況である。
  • 厚生労働省は、上記の消費者庁との連名の通知において、社会福祉施設等の利用に係る消費者事故等を把握した場合は、地方公共団体から直接消費者庁あて通知することとしており、併せて厚生労働省にも通知することを依頼するものとなっている。しかし、教育・保育施設等に関し、地方公共団体から消費者庁への、消費者安全法に基づく重大事故等の通知は平成25年度までに2件しか確認することができず、消費者庁における保育施設等の事故情報の把握は不十分である。
  • 他方で、厚生労働省は、所管する施設・事業のうち、保育所及び認可外保育施設、放課後児童クラブ及びファミリー・サポート・センター事業について、事故情報の通知制度を設け、地方公共団体から厚生労働省への事故情報の報告を依頼している。しかし、当該通知では消費者安全法に触れていないこともあり、厚生労働省には地方公共団体が把握した事故の情報が集約されているが、地方公共団体から消費者庁に情報提供がなされていない状況である。
  • 消費者庁においては、消費者安全法を地方公共団体へ周知するための説明会等を開催し、消費者安全法に基づく事故情報の通知を依頼しているものの、このような取組は消費者行政部門への周知にとどまり、地方公共団体内部において、福祉部門や教育委員会等への周知がなされていない可能性がある。消費者委員会においても複数の地方公共団体の教育施設・児童福祉部門へヒアリングを実施したが、消費者安全法に基づく通知義務を認識している地方公共団体は僅かであった。
  • このように、教育・保育施設等の分野において、消費者安全法に基づく事故情報の通知制度は実態としてほぼ形骸化している。この背景には、両省及び地方公共団体において、「事故情報を消費者庁に一元化し、政府全体で事故の再発防止を図っていく」という消費者安全法の意義が、十分に理解されていないことが挙げられる。
  • また、当委員会が、教育・保育施設等や関係団体、地方公共団体、有識者へヒアリングした結果、消費者安全法に基づく通知制度や、厚生労働省が地方公共団体に通知で示している「治療に要する期間が30日以上」という報告基準について、施設から所管地方公共団体に届出をすべきか判断に迷うことがあるとの意見があった。また、情報を受け取った地方公共団体においても、所管府省へ報告するかどうかの判断に差異が見られた。
  • 事故情報の共有による被害の拡大防止や再発防止の対策を講ずるためには、その前提として、適切に情報が集約されることが必要である。したがって、消費者庁は、消費者安全法に基づく消費者事故等の情報の通知制度の実効性が確保されるよう、関係府省、都道府県及び市町村に対して、当該制度の意義及び消費者庁に通知すべき消費者事故等の範囲について継続的に周知することが必要である。
  • 以上を踏まえ、消費者庁及び関係府省は、上記建議事項1に基づく措置を講ずべきである。

2.事故情報の分析及び活用

(建議事項2)

集約した教育・保育施設等における消費者事故等の情報について、その情報が被害の拡大防止及び再発防止に向けて確実に活用されるよう、消費者庁及び関係府省は、密接な連携により、次の措置を講ずること。

  • (1)関係府省は、新制度の実施に向けて、教育・保育施設等において事故の被害の拡大防止及び再発防止に役立つ情報のフィードバックを行うため、事故情報に関する教育・保育施設等の現場のニーズを的確に把握することができるよう、所管府省だけではなく、施設等の運営主体又は運営主体の団体や、地方公共団体の教育・保育担当部局等を交えた検討を行うとともに、新制度の実施以後も検討を継続的に行い、改善を図っていくこと。
  • (2)関係府省は、教育・保育施設等で発生した事故から得られた再発防止のための知識や注意喚起などの情報について、新制度に移行しないものも含め、すべての教育・保育施設等にフィードバックすること。
    また、消費者庁は、教育・保育施設等において発生する事故は、家庭においても起こり得るものであることに鑑み、子育て世帯にも情報を届けるよう取り組むこと。
  • (3)消費者庁は、関係府省における(1)の検討状況や(2)の実施状況を適切に把握し、フィードバックの取組に資するよう、事故情報を提供すること。また、教育・保育施設等に向けた事故情報のフィードバックのための資料作成などに「事故情報データバンク」などが活用できることを関係府省の協力を得て地方公共団体に周知すること。
    また、メール配信登録者に直接情報を届けることが可能な「子ども安全メールfrom消費者庁」について保育従事者や子育て世帯に登録を促すなど、プッシュ型の配信方法の一層の活用を推進すること。
  • (4)関係府省は、事故再発防止策検討会で検討している事故情報のデータベース化にあたっては、消費者庁の「事故情報データバンク」や独立行政法人日本スポーツ振興センターの「学校事故事例検索データベース」など、既存のデータベースとの整合を図り、その活用を含めて検討すること。
  • (5)関係府省及び消費者庁は、教育・保育施設等における消費者事故等の検証については、個々の事故の検証を行うことと、被害の拡大防止や再発防止のための知見を得ることの二つの要請があることを踏まえ、前者の要請に対しては、検証の公正性を確保する必要があること、後者の要請に対しては全国で発生する事故を地域や施設等の種別に関わらず横断的に分析することが有効であることに鑑み、それぞれの目的を達成するために適切な検証体制の構築に向けた検討を行うこと。
(注2)事故情報データバンクは、生命・身体に係る消費生活上の事故情報を関係機関から一元的に集約して提供するシステムであり、事故の再発・拡大の防止に資する環境整備の一環として、消費者庁と(独)国民生活センターが連携して、関係機関の協力を得て実施する事業。(関係機関:消費者庁、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、独立行政法人国民生活センター、消費生活センター、日本司法支援センター、独立行政法人製品評価技術基盤機構、独立行政法人日本スポーツ振興センター)

(理由)

建議事項2(1)について
  • 消費者庁においては、消費者安全法の趣旨や制度に基づき、収集した情報について、定期的な公表や必要に応じた注意喚起を行っているが、前述のとおり、教育・保育施設等の分野に係る事故情報についての収集が不十分であるため、平成22年度から25年度までの間に定期公表された同分野に関する重大事故等は合計で5件にとどまっている。
  • 厚生労働省においては、各種保育施設等に関する重大事故等について地方公共団体から情報が集約されているものの、事故防止対策の徹底の依頼とともに、事故の発生状況等に関する情報を所管課の任意の方法で公表している状況である。
    その公表方法について、保育所及び認可外保育施設では、前年に地方公共団体から報告のあった死亡・重篤な事故について、「保育施設における事故報告集計」としてとりまとめ、毎年1月に記者発表するとともに、ウェブサイトに掲載している。また、同集計は都道府県等にも発出されており、管内の市町村・保育所及び認可外保育施設等への周知を求めている。
    他方、放課後児童クラブについては、保育所及び認可外保育施設と同様に地方公共団体から報告のあった死亡・重篤な事故を取りまとめており、平成25年の1年間に発生した事故の報告集計については、地方公共団体の主管課長会議の配布資料としてウェブサイトにも掲載されているが、情報を必要とする施設等に向けて分かりやすく情報提供がされているとは言えない状況である。
    ファミリー・サポート・センター事業については、事故の発生数が少ないという背景があるものの、平成23年に過去5年分の事故報告集計をウェブサイトで公表し、また、同集計は都道府県等にも発出されており、管内の市町村への周知を求めている。なお、それ以後は、公表されていない。
  • 当委員会が、教育・保育施設等や関係団体、地方公共団体、有識者へヒアリングした結果、所管府省による事故情報のフィードバックに関して、次のような問題点が指摘された。
    • 厚生労働省が公表する年1回程度の公表では、情報の速報性に欠けるため迅速な再発防止につながりにくい。また、事故の件数など統計的な報告が中心となり、具体例が分からないことから、再発防止の観点から現場で活用しづらい。
    • 行政から事故等の注意喚起があっても、既にマスコミ等で耳にした情報であり、内容も「注意してください」といった抽象的なものにとどまり、その原因や対処方法など、具体的な再発防止策に触れていない。
    • 例えば、1つの保育所しか運営していない事業者は、複数の保育所を運営する事業者と比べて、他の保育所で発生した事故情報を入手する機会がないために、行政からの情報提供が頼りであるが、現在は情報提供がほとんどされていない。
  • 上記のような指摘に対応するため、関係府省は、施設等の運営主体又は運営主体の団体や、地方公共団体の教育・保育担当部局等を交えた検討を行い、事故情報に関する教育・保育施設等の現場のニーズを的確に把握することが必要である。
建議事項2(2)について
  • 保育所等で起こった事故は幼稚園でも起こる可能性があり、その逆もまたあると考えられる。
    また、保育所等での事故は集団保育特有の原因により発生する場合もあるが、家庭やベビーシッター等でも起こり得るものである。
    このため、事故情報や再発防止のための知識は、事故が起きた施設と同種の施設だけにフィードバックするのではなく、新制度に移行しないものも含めたすべての教育・保育施設等及び子育て世帯にも情報を届けることが必要である。
建議事項2(3)について
  • 消費者庁では、重大事故等の定期公表や注意喚起以外にも、消費者事故全般の収集・公表の機能を持つ「事故情報データバンク」や、消費者庁に集約される事故情報を基にした、子どもの事故予防の豆知識などを配信するメールマガジンである「子ども安全メールfrom消費者庁」など、複数の情報発信手段を運用しており、その中には、実際に教育・保育等の現場で十分に活用できる情報も含まれている。
  • しかし、当委員会が、教育・保育施設等や関係団体、地方公共団体、有識者へヒアリングした結果、上記サービスを認識している者はなく、十分に活用されていないことが明らかとなった。これまでの一般消費者への周知を継続するとともに、関係省庁や地方公共団体と連携し、教育・保育等の関係者へ積極的に周知するなど、活用を図るべきである。
  • また、これらのヒアリングでは、施設や事業毎に情報の入手手段が異なっていることが明らかとなった。具体的には、認可保育所や幼稚園等の比較的大きな施設ではパソコンによる事務処理をしている所が多く、そのような施設では、施設長や事務担当者がインターネットを通じて情報を入手している。他方で、放課後児童クラブや小規模な認可外保育施設、家庭的保育事業など、パソコンを導入していない施設等では、スマートフォンやファクシミリを主な連絡手段としていた。
    また、パソコンを配備している施設でも、業務の実態からみて、施設の職員に日々事故情報の把握を行うように求めるのは困難であり、また個々の保育従事者は、業務の中でパソコンを使用することは通常ない。
  • 以上の実態を踏まえると、「事故情報データバンク」などウェブサイトによる情報提供を行うことには施設側の協力を得られれば相当の効果が認められるが、併せて、「子ども安全メールfrom消費者庁」などのプッシュ型の情報配信を普及させることが効果的である。
建議事項2(4)について
  • 事故再発防止策検討会では、集約した情報の公表、分析・フィードバックのあり方として、「既に集約している情報を中心とするデータベース化」を検討課題としているが、消費者安全法に基づいて消費者庁に通知された事故情報は全て事故情報データバンクに登録される仕組みとなっているため、データベース化の検討に当たっては、事故情報データバンクや学校事故事例検索データベースの活用を含めて検討すべきである。
建議事項2(5)について
  • 厚生労働省においては、平成25年3月に都道府県等に対して、保育所において死亡等の重篤な事故が発生した場合には、保育の実施者である市町村において再発防止のための必要な検証が行われるよう管内市町村への周知を求める通知を発出している。しかし、検証結果の報告を求めてはおらず、当委員会が行った地方公共団体へのヒアリングでは、死亡事故が起きても検証がされないケースがあることが明らかになった。
  • 文部科学省においては、事故検証に関する統一的なルールはなく、対応は施設を所管する地方公共団体に任されている状況である。
  • 当委員会が、教育・保育施設等や関係団体、地方公共団体、有識者へヒアリングした結果、死亡事故等の重大事故が発生した場合は、個々の事故事案について発生原因を特定し、被害者家族等へ情報開示することの必要性と、同種の事故事例の分析を行い、再発防止のための注意点を明らかにしたうえで、全国的に情報を共有することの必要性の、2点の要請があることが判明した。
    前者の要請に関しては、現在、個々の事故の検証に市町村が取り組んでいる例があるが、さらに、検証を受ける教育・保育施設等から一定の距離を保って公正に検証を行うために、例えば、第三者委員会を市町村又は都道府県が設置することが考えられる。
    後者の要請については、大規模な人的、物的体制を整えて専門性の高い事故分析を行う必要があることに鑑み、国が主導して取り組む仕組みが考えられるが、その検討にあたっては、消費者安全調査委員会 の役割や同委員会との関係性を考慮すべきである。
  • 子どもの安心・安全が守られるべき教育・保育施設等で、子どもが死亡するような事故を防止することは喫緊の課題であることから、検証は施設の種別を問わず実施すべきであり、上記2点の要請に応えるために適切な検証体制の構築に向けた検討を行う必要がある。
  • 以上を踏まえ、消費者庁及び関係府省は、上記建議事項2に基づく措置を講ずべきである。
(注3)消費者安全調査委員会は、消費者安全法に基づき、生命又は身体の被害に係る消費者事故等の原因及びその事故による被害発生の原因を究明し、同種又は類似の事故等の再発・拡大防止や被害の軽減のため講ずべき施策又は措置について勧告又は意見具申することを任務としている。調査委員会の調査対象とし得る事故等は、運輸安全委員会が調査対象とする事故等を除く生命又は身体の被害に係る消費者事故等である。ここには、食品、製品、施設、役務といった広い範囲の消費者に身近な消費生活上の事故等が含まれる。

建議の概要

  1. 事故情報の収集
    (i)子ども・子育て支援新制度の施行に向けて事故情報収集の仕組みを検討するに当たっては、消費者安全法に基づく通知制度を含めて検討すること。
    (ii)事故情報を収集する仕組みのないベビーシッター事業や、十分に事業の実態を把握できていない小規模な認可外保育施設についても、事故情報を適切に収集する仕組みを構築すること。
    (iii)消費者安全法に基づく事故情報の通知制度について、通知する教育・保育施設等における事故情報の範囲や通知方法を継続的に周知し、必要に応じて通知を督励すること。また、事故情報の通知に関して、地方公共団体の教育・保育施設担当部局から所管府省を経て消費者庁へ通知する方法を含めて検討すること。
  2. 事故情報の分析及び活用
    (i)事故情報に関する現場のニーズを的確に把握するため、施設等の運営主体や、地方公共団体等を交えた検討を行うこと。
    (ii)再発防止のための知識や注意喚起などの情報について、すべての教育・保育施設等にフィードバックすること。また、教育・保育施設等において発生する事故は、家庭においても起こり得るものであることに鑑み、子育て世帯にも情報を届けるよう取り組むこと。
    (iii)注意喚起のための資料作成などに「事故情報データバンク 」が活用できることを地方公共団体に周知すること。また、「子ども安全メールfrom消費者庁」について保育従事者や子育て世帯に登録を促すなど、プッシュ型の情報発信を推進すること。
    (iv)子ども・子育て支援新制度の施行に向けて検討されている事故情報のデータベース化にあたっては、消費者庁の「事故情報データバンク」などの、既存のデータベースの活用を含めて検討すること。
    (v)事故の検証については、個々の事故の検証を行うことと、被害の拡大防止や再発防止のための知見を得ることの二つの要請があることを踏まえ、それぞれの目的を達成するために適切な検証体制の構築に向けた検討を行うこと。

主な成果

  • 【内閣府、文部科学省、厚生労働省】
    1.(i)(iii)
    • 教育・保育施設等における消費者事故等に係る事故情報収集の仕組みについては、事故再発防止策検討会中間取りまとめに基づき、死亡事故等の重大事故が発生した場合における施設・事業者から市町村・都道府県を経ての関係府省への報告ルート等について明確化し、報告を受けた市町村又は都道府県が、第一報を受けた段階で、消費者安全法に基づき確実に消費者庁に報告するよう各地方公共団体に求める通知(「特定教育・保育施設等における事故の報告等について」)を発出(平成27年2月16日)。
    • 幼稚園等における消費者事故等について、漏れなく消費者庁に通知されるよう通知(「消費者事故等の通知について」)を発出し改めて周知(平成27年5月22日)。
  • 【厚生労働省】
    2.(ii)
    • これまで都道府県知事等に対する届出制の対象外であった1日に保育する乳幼児の数が5人以下の認可外保育施設について、都道府県等が把握できるよう児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号)を改正し、平成28年4月1日より、届出義務を課した。
    • 放課後児童クラブについては、「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)における事故の報告等について」において、ファミリー・サポート・センター事業については、「子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)における事故の報告等について」において、関係各部署に対し、消費者安全法に基づく報告を消費者庁に行うよう通知(平成27年3月27日)。
  • 【消費者庁】
    1.(iii)
    • 消費者安全法の規定に基づく消費者事故等の情報の通知制度について、様々な機会を通じて、関係府省に説明。
    • 消費者安全法の事故情報の範囲や通知方法について記載した「消費者事故等の通知の運用マニュアル」を改訂し、教育・保育施設等の事故事例を記載すること等により内容を充実させ、関係府省に対し、地方公共団体等への周知を依頼(平成27年3月27日)。
  • 【内閣府、文部科学省、厚生労働省】
    2.(i)(ii)(iv)(v)
    • 事故再発防止策検討会の中間取りまとめに基づき、子ども・子育て支援新制度ホームページにおいて、事故報告等通知に基づき報告のあった事故のデータベースを平成27年6月より公開。
    • 事故再発防止策検討会においては、中間取りまとめでの検討課題とされた、事故の発生防止(予防)のためのガイドライン、事故発生時の対応マニュアルを含む事故情報の分析・フィードバックの在り方や、事故の再発防止のための事後的な検証の在り方等については、施設等運営主体や地方公共団体からも参画いただき検討した結果を取りまとめた通知(「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時のためのガイドラインについて」「教育・保育施設等における重大事故の再発防止のための事後的な検証について」)を発出(平成28年3月31日)。
  • 【文部科学省】
    • 幼稚園については、「学校事故対応に関する調査研究」有識者会議(平成26年度~平成27年度)においても、学校関係者や地方公共団体に参画いただいて学校事故に関する情報共有の在り方や検証組織の必要性等について検討し、「学校事故対応の指針」をとりまとめ、周知(平成28年3月31日)。
  • 【消費者庁】
    2.(ii)(iii)
    • 教育・保育施設等において発生した事故情報について、「子ども安全メールfrom消費者庁」を活用し、保育園における滑り台の事故及び幼稚園におけるブランコの事故情報を活用し、子育て世帯等に注意喚起情報を送付(平成27年4月2日、5月14日)。
    • 関係府省における教育・保育施設等の重大事故の拡大防止及び再発防止に関する検討状況の把握に努めている。
    • 消費者庁「事故情報データバンクシステム」において、教育・保育施設等の関係者の利用を促進するため「保育施設等の事故情報リスト」を公表(平成27年5月12日)。また、地方公共団体の消費者行政担当課長及び社会福祉施設担当課長宛てに、事故情報データバンクの活用を促す通知を発出(平成27年5月29日)。
    • 「子ども安全メールfrom消費者庁」を毎週配信しているほか、平成29年4月には「消費者庁 子どもを事故から守る!」公式Twitterを立ち上げ、登録者数の拡大に努めている。加えて、「子どもの事故防止ハンドブック」を作成し、各自治体等に約10万部を配布するなど、幅広い情報の普及を継続して行っている。
    • 「子ども安全メールfrom消費者庁」を毎週配信しているほか、平成29年4月には「消費者庁 子どもを事故から守る!」公式Twitterを立ち上げ、登録者数の拡大に努めている。加えて、「子どもの事故防止ハンドブック」を作成し、各自治体等に約10万部を配布するなど、幅広い情報の普及を継続して行っている。
  • 【消費者庁】
    2.(v)
    現在、関係府省において、教育・保育施設等における事故の再発防止のための事後的な検証の在り方の検討が行われており、関係府省に対し、消費者安全調査委員会の仕組み及び活動について説明を行うこと等により協力。