消費者基本計画の改定素案(平成26年5月)等に対する意見

2014年5月27日
消費者委員会

消費者基本計画の改定素案(平成26年5月)等に対する意見

当委員会は、消費者基本計画(以下、「計画」という。)の検証・評価及び見直しに係る関係省庁等の作業に先立つ本年2月25日に「消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画の見直しに向けての意見」を取りまとめ、本意見の内容を可能な限り改定計画に反映することを求めてきた。

その後、消費者庁をはじめとする関係省庁等では、当委員会の意見も踏まえつつ、計画の検証・評価及び見直し作業を行い、この結果取りまとめられた計画の改定素案が本年5月9日よりパブリックコメントにかけられた。

当委員会としては、この5月に計3回にわたって本会議を開催し、各施策の実施状況や成果、今後の課題等について、関係省庁等からのヒアリングを実施したところであるが、本ヒアリングの結果やその他の意見表明等の内容を踏まえ、計画の改定素案等に対して下記の通り意見を述べる。関係省庁等におかれては、計画の改定原案の取りまとめに向けて、下記の各項目について検討の上、必要なものについては計画の改定原案等に反映されたい。あわせて、本年2月25日付け当委員会意見に盛り込んだ各項目についても再度検討を行い、同様の対応をとられたい。

当委員会としては、本意見の計画への反映状況やその後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや取組が不十分と考えられるもの等については、新計画の策定に向けた検討の中で重点的に取り上げていくとともに、必要に応じて建議等を行っていくこととする。

1.改定計画全般に関する事項

平成24年8月に消費者基本法が改正され、政府が講じた消費者政策の実施状況についての年次報告として平成25年より消費者白書が作成され、消費者を取り巻く社会経済状況の変化や消費者被害の傾向等について分析されている。計画の見直しは、社会経済状況の変化に対応した消費者政策を政府全体として推進するために行うものであることから、見直し内容については、消費者白書で検討された問題を十分に反映することが必要であると考えられる。消費者白書で指摘されている高齢化、インターネット取引の増加、国際化といった社会状況の変化に伴う消費者問題に迅速かつ的確に対応するため、必要な施策については新計画の策定を待たずに現行計画の見直しに反映されたい。

また、本年度は現行計画の最終年度に当たることから、今回の計画の検証・評価及び見直しに当たっては、(ⅰ)計画に基づくこれまでの取組を総括的に検証・評価し、各施策の達成状況やその効果等を可能な限り明らかにすること、(ⅱ)残された課題について今後の取組方針を明確化し、その確実な実施を促すこと、(ⅲ)新計画の策定に向けて、今後の消費者政策上の重点課題を明らかにすることが必要である。このような観点から、以下の事項について再度検討を行い、必要なものについては修正・追加等を行われたい。

(1)各施策の総括的な検証・評価の拡充

各施策の実施状況等が記載されている「施策別整理表」については、その内容について施策ごとにバラつきが見られ、各施策の達成状況や効果、課題等についての検証・評価が必ずしも十分でないものが見受けられる。現行計画中の各施策の成果と課題を総括的に明らかにすることは、新計画の策定に向けた検討に際して不可欠のプロセスであることを踏まえ、不十分なものについては記載内容を拡充し、十分説明を尽くされたい。

(2)重点施策の実施工程の具体化等

重点施策の実施工程については、本年度が現行計画の最終年度であることを踏まえ、本年度中における実施予定や目標とする成果等をより具体的かつ詳細に記載し、各施策の確実な履行を担保する内容とされたい。

2.個別施策に関する事項

(1)リコール情報の周知・徹底(重点施策1、施策番号7関係)

〔1〕引き続き事業者団体との協力体制を拡大するとともに、販売事業者向けに作成したガイドブックによる取組の効果を検証し、リコール情報の周知・徹底、リコール製品の回収向上に向けた必要な対策を講じられたい。また、これまでの取組状況や今後の取組強化の方針等について具体的に明記されたい。(経済産業省)

〔2〕リコール情報サイトを通じた消費者への情報発信をさらに強化するとともに、リコール情報に関する消費者教育・啓発をさらに拡充していく旨を明記されたい。(消費者庁)

(2)冷凍食品への農薬混入問題への対応(施策番号3、29関係)

○ 先般の冷凍食品への農薬混入事案への事業者及び行政の対応について十分な検証・評価を行い、再発防止や被害拡大防止等のために必要な対策を講じる旨を明記されたい。(消費者庁、食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省)

(3)いわゆる健康食品の表示等(重点施策6、施策番号76、76-2、77関係)

〔1〕消費者庁が策定した「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法の留意事項」(平成25年12月)について周知徹底に努めるとともに、それに基づく取組の効果を検証し、所要の措置を講じる旨を明記されたい。(消費者庁)

〔2〕健康被害情報の収集・解析の手法についての研究を進め、実効性の向上を図るとともに、医師・薬剤師等に対しては、診療、調剤等を行うに当たり、健康食品に関する情報を消費者に対して積極的に提供することを働きかけるとともに、事業者に対しては、消費者の病態や飲用薬剤に対する健康食品の関与成分の影響に関する情報を、消費者に対して積極的に提供することを働きかけるよう、必要な措置を講じる旨を明記されたい。(厚生労働省、消費者庁)

〔3〕いわゆる健康食品等の機能性表示の在り方について、既存の制度との関係整理、適切な科学的手法による機能性の評価、正しい情報提供及び十分な消費者理解を確保した上で、慎重に検討を進めることを明確化されたい。また、保健機能食品を含む健康食品の特性や、それらの適切な利用方法についての消費者啓発をできる限り効果的に行う旨を明記されたい。(消費者庁、厚生労働省、農林水産省)

(4)消費者教育(重点施策7、施策番号87、87-2、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、175関係)

〔1〕「消費者教育の推進に関する基本的な方針」(平成25年6月28日閣議決定)の「今後検討すべき課題」について、本年3月の第6回消費者教育推進会議で明確化された課題ごとの優先度やスケジュールに基づき、具体的な検討をさらに進める旨を明記されたい。

〔2〕地方公共団体において「消費者教育推進計画」の策定や「消費者教育推進地域協議会」の設置が進んでいる状況等を踏まえ、地方の消費者行政部局と教育現場(大学を含む)等の間での連携・協働が実効的に行われるよう、消費者庁と文部科学省が連携して地方への働きかけを行う旨を明記されたい。

(5)消費者被害救済制度(重点施策8、施策番号110、127、128関係)

○ 消費者裁判手続特例法の円滑かつ速やかな施行に向け、特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等については、消費者被害救済の実効性を確保する見地から、特定適格消費者団体には、適正な業務の遂行に相応する適格消費者団体が適切に認定され、また、その業務の適正が担保されるよう配慮しつつ、所要の指針等の策定を迅速に進められたい。(消費者庁)

(6)地方消費者行政(重点施策10、施策番号121・122関係)

〔1〕今国会に提出された「景品表示法等改正等法案」中の消費者安全法の一部改正措置により設置が可能となる「消費者安全確保地域協議会」については、現在設置が進められている消費者教育推進地域協議会や地域におけるその他の既存の枠組みの有効活用・有機的な連携等を通じて、実効的かつ効率的な運営が確保されるよう、所要の措置を講じる旨を明記されたい。

〔2〕地方における消費者行政の計画的・安定的な取組が可能となるような財政支援の実施に向けて引き続き最大限の努力を行うとともに、地方公共団体における自主財源・人員確保に向けた首長等への働きかけに引き続き努力されたい。

〔3〕地方における取組状況や様々な先進事例の共有化を図るため、各地方公共団体の情報の「見える化」をさらに推進する旨を明記されたい。(以上、消費者庁)

(7)エステ・美容医療(重点施策14、施策番号39、39-2、39-2-2、39-3、153-3、153-3-2関係)

〔1〕「医療広告ガイドライン」改定後の状況について把握し、ガイドライン改定の効果について検証・評価を行うとともに、十分な効果が見られない場合には法規制を含めたさらに必要な措置を検討する旨を明記されたい。

〔2〕「自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等についての指針」策定後の検証・評価結果を明らかにした上で、十分な効果が見られない場合には法規制を含めたさらに必要な措置を検討する旨を明記されたい。(以上、厚生労働省)

(8)詐欺的投資勧誘対策(重点施策16、施策番号41、48、49、51、60、60-2、60-3、62、64、66、101、110関係)

〔1〕特定商取引法の指定権利制の在り方、又はこれと類似の制度整備について検討を行うとともに、違法行為による財産の隠匿・散逸を防止するための制度の導入について、引き続き検討を推進する旨を明記されたい。(消費者庁)

〔2〕詐欺的投資勧誘に用いられる犯行ツールに関する取組の強化を図るため、関連法令の執行強化を図るとともに、事業者等への適切な注意喚起等を行う旨を明記されたい。(警察庁、金融庁、総務省、法務省、経済産業省、国土交通省)

(9)商品先物取引における不招請勧誘規制(施策番号47関係又は新規施策)

○ 商品先物取引における不招請勧誘規制については、当委員会「商品先物取引における不招請勧誘禁止規制に関する意見」(平成25年11月)、「商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和策に対する意見」(平成26年4月)を踏まえて、総合取引所が発足した場合や、既存の商品取引所においても、投資家(消費者)保護のための措置を基本的に維持する旨を明記されたい。(金融庁、経済産業省、農林水産省)

(10)適格機関投資家等特例業務(新規施策)

○ 金融商品取引法の政省令等の整備に当たっては、当委員会「適格機関投資家等特例業務についての提言」(平成26年4月)での指摘事項等を踏まえて、特例業務における投資者の範囲の見直しや、悪質業者の排除等の投資家(消費者)保護のための適切な措置を講じる旨を明記されたい。(金融庁)

(11)クラウドファンディング(新規施策)

○ 金融商品取引法の政省令等の整備に当たっては、当委員会「クラウドファンディングに係る制度整備に関する意見」(平成26年2月)での指摘事項等を踏まえて、参入規制や勧誘規制等の投資家(消費者)保護のための適切な措置を講じる旨を明記されたい。(金融庁)

(12)電気通信事業における販売勧誘方法の改善(重点施策18、施策番号160、161、164関係)

○ 総務省「ICTサービス安心・安全研究会」における検討や当委員会「電気通信事業者の販売勧誘方法の改善に関する提言」(平成24年12月)を踏まえ、電気通信事業法における消費者保護ルールを見直し、所要の規定を設ける等の制度的な措置を講じる旨を明記されたい。(総務省)

(13)インターネットによる財産被害対策(施策番号45、153、153-2・171関係)

○ インターネットにおけるクレジットカード取引に係る消費者トラブルが増加していることを踏まえ、クレジットカードに係る決済代行登録制度の見直しや、関係法令の改正も含めた制度的対応について今後検討する旨を明記されたい(本件については、当委員会としても建議等のとりまとめに向けて、検討を深めていくこととする)。(経済産業省、消費者庁)

(14)個人情報保護(施策番号166、177関係)

〔1〕パーソナルデータの利活用に関する制度見直しに当たっては、これまで当委員会が申し入れてきた、(1)保護されるべき個人情報の範囲について慎重な検討が必要であること、(2)匿名化について検討を深めること、(3)消費者から同意を得る際には消費者へ分かりやすく表示することが重要であること、(4)自己に関する情報の開示・訂正・消去を求める権利が十分に保障されることも重要であること等の指摘事項を十分踏まえた内容とする旨を明確化されたい。また、今後の検討の結果、制度が複雑になる場合は、消費者に十分周知し、意見を聴くこととされたい。

〔2〕個人情報保護法に係る消費者庁及び消費者委員会の権限を第三者機関に移管するに当たっては、消費者保護の観点から消費者庁及び消費者委員会が十分に関与できるよう制度設計を行う旨を明確化されたい。(以上、内閣官房、消費者庁)

(15)景品表示法に基づく表示の適正化(重点施策19、施策番号80、103、124関係)

○ 景品表示法への課徴金制度の導入については、当委員会の本会議・景品表示法における不当表示に係る課徴金制度等に関する専門調査会の合同会議のとりまとめを踏まえた答申を十分に尊重した上で法制化に向けた検討を進められたい。(消費者庁)

3.今後の課題

(1)新計画の策定に向けた検討の本格化

現行計画の計画期間は平成26年度末までとなっており、消費者行政を切れ目なく推進するためには、平成27年3月末までに新計画を策定することが必要である。新計画の策定に当たっては、高齢化や情報化、国際化等がさらに加速する中で必要となる消費者政策の具体策について検討するとともに、現政権が進める経済成長戦略や規制改革と消費者利益の擁護・増進を車の両輪として進めていくための計画のあり方について、十分議論することが必要と考えられる。

消費者庁及び消費者委員会の発足後2回目となる新計画を充実した内容とし、中長期的に消費者政策を強力に推進していくためにも、今回の計画の検証・評価結果や消費者白書の内容等を踏まえつつ、新計画の策定に向けた検討を本格的に開始し、基本的な考え方や具体的な進め方についてできるだけ速やかに明らかにされたい。

(2)計画を起点とするPDCAサイクル1の再構築

消費者庁及び消費者委員会の発足後はじめて策定された現行計画の推進により、消費者政策の拡充や消費者行政の体制整備の面で大きな進展が図られたが、総務省が公表した「消費者取引に関する政策評価の結果に基づく勧告」(平成26年4月)においても指摘されている通り、消費者政策に関する政府全体の目標や施策体系が不明確である、政策の効果を検証・評価するための指標や手法等が確立していない等の課題も明らかになった。

計画の推進を通じて消費者政策のさらなる充実・強化等を実現するためにも、新計画の策定に当たっては、明確な政策目標の設定、個別施策の具体化・体系化、実施工程の明確化、効果的な検証・評価方法の確立、検証・評価結果を踏まえた取組の改善等の諸課題について十分に検討を行われたい。

また、現行計画の計画期間は5年間となっており、毎年の検証・評価及び見直しの中で部分的な修正・追加等を重ねていく方式を採用しているが、社会経済状況が急速に変化する中で中長期的に実効性のある消費者政策を推進していくためには、計画期間を短期化することや、消費者白書における消費者被害の発生状況等についての分析結果等を踏まえて、一定期間経過後に計画を大幅に見直すことなどについても検討されるべきである。

以上


1計画(Plan)、実行(Do)、検証・評価(Check)、改善(Act)の4段階を繰り返すことによって、事業の継続的な改善を図ること。